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ブラックストリート  作者: エッグ・ティーマン
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女帝との再会

 2019年 ジャカシティ ジャカ警察署

 「久しぶりだな!」モラントン警部はオフィスに入って来たムンバク達に挨拶する。「お久しぶりです。」と言いながらムンバクは促されるままにソファに座り、ダイムラーとジュディもそれに従う。

 「君がどんな用事で来たかは見当ついてるよ。まあ、まずコーヒーでも淹れさせよう。リンダ君、コーヒーを!」「ただいまお持ちいたしますわ。」近くの席に座っていた女性が立ち上がり、コーヒーマシンのほうに歩いていく。

 「ああ、彼女は刑事だ。にもかかわらず私は彼女にコーヒー淹れと書類の整理しか指示してやれない。」「それは・・・」「いいんだ、ムンバク。彼女は男尊女卑の理論をかざしまくるバート警視と勇敢にもやりあってね・・・ここに来た。」その後モラントンはおどけた顔で言う。「上の連中が面倒だと感じた輩を放り込むこの場所にね。今あそこで寝ているホリー君はデボン警部の不正を告発しようとした勤勉な巡査だ。そうそう、そういえば君達が調べようとしている事件、担当がデボンらしいね。」「ええ・・・あの方よりもあなたのほうが話が分かるかと。」と苦笑してダイムラー。「ああ、ダイムラーさん、正解だよ。あの男が捜査担当になったということは何かしら外部の者に調べられては困る事実があるんだろうな。あの男はそういう事を処理するためにいるようなものだからね。」「これは闇が深いですね・・・」今まで黙って床を見つめていたジュディが口を開く。その口調の暗さに、モラントンも一瞬黙る。「我々の秘書のジュディの姉なんです。マーガレットは。」ダイムラーが咳払いの後に言う。モラントンは頷くと続ける。「そうか・・・だけどお嬢さん、相手はかなり手ごわいぞ。あんたのお姉さんは恐らくプロの殺し屋に殺された。つまり、背後にはその殺し屋を放った巨大な勢力がいるということだね。それもこの街にはいてすてるほど存在するギャング集団とは違う勢力が存在する。捜査に圧力がかけられるほどだ。」ジュディは顔を上げ、力強い口調で声を上げる。「ええ、分かっています。だからこそ私はここに来ました。実行犯だけでなく、それを動かした奴らにも監獄へ行ってもらいます。」モラントンは驚きの顔でムンバクを見つめ、ムンバクは肩をすくめた。

 「私がデボンを問い詰めてもデボンは捜査情報を教えてはくれんだろうよ。まあ、誰が捜査官であっても私に事件のことを教えてくれる奴はおらん。だが、一つだけ方法があるぞ・・・・」


翌日 リムソンシティ 行政特別区 連邦警察本部

 ハリーは深刻な面持ちだ。怠け者の刑事たちも今日ばかりはそわそわしている。

 重大事件が起こったのだ。なんと、署内で他殺体が発見された。それもリムソン市警トップの他殺体だ。ロックウェル署長が殺されていたのだ。

 「今や我々はだれも信用できなくなった。身内に殺人鬼がいるかもしれません。したがって私はアン局長に応援を要請することにしました。引き続きこの場所をお借りしますが、捜査対象はこの街の犯罪組織に加え、あなた方もです。」部屋にわずかなざわめきが走るが、いつものように大声で抗議する声は聞こえない。ハリーが応援を要請する事態になっているということは理解していたのだ。

 「第一発見者は私とベルーナ婦警だ。そうだね、ベルーナ?」それに対してベルーナ巡査が答える。「ええ、私はハリー刑事と共にロックウェル氏のご遺体を発見しました。」「そうだ。ロックウェル氏は私に話があるとおっしゃっていたから、応接室にお通ししたんですよ。しかし私はその時アン局長と電話していた。ロックウェル氏にはしばらく待っていただくことにしたんです。」「その待ち時間にロックウェルさんは殺されたんだな?」とダロス警部。部屋にいる頭の鈍い刑事達も話が見えてきたようだ。「そうです。私がもっと早くついていれば・・・」冷徹そうに見えたハリーの顔に苦悩が浮かぶ。流石の刑事達も見守っている。「あなたのせいではありません・・・私がロックウェル氏をお通しした後に見張っていれば・・・」ベルーナが必死に庇うがハリーは苦悩に歪む顔のまま答える。「いや、私のせいだ・・・・だからこそ、私は犯人を絶対に捕まえる。」そう呟いた後、再びマイクを手に取る。「私はベルーナにお茶の準備をするよう言って、調度お茶が準備された段階で局長との電話が終わりました。そして応接室に向かい・・・死体を発見した。」「私はそのときお茶を持っていきましたが、床には割れたマグカップが転がっていました。そしてお茶がこぼれていた。マグカップはロックウェル氏の手から滑り落ちたように見受けられました。そうですよね、ハリーさん?」「ああ。私はベルーナ以外の刑事にロックウェル氏の対応に関する指示はしていません。つまり、お茶の入ったマグカップは本来部屋の中にあるべきものではないのです。そのような状況とロックウェル氏の遺体に外傷が見あたらないことから、私は犯人はお茶に毒を混ぜてロックウェル氏を毒殺したと考えています。」そう締めくくると、ハリーは次の話に移る。「応援が到着したら、私は事情を知っているかもしれないリムソン市警のラースキン巡査を取り調べたいと思います。」部屋にざわめきが走る。「ああ、ラースキンさんは私の了解なしにバウントさんが釈放していまいました。しかし、ロックウェル氏が警察庁にはたらきかけて釈放させたことが判明しました。ロックウェル氏はきっとこのことを私に告白しようとしていたんでしょう。しかし・・・残念なことにロックウェル氏は殺害されてしまった。この話はラースキン巡査から聞いた・・・・」ハリーの説明は大きなドアの音で遮られる。「ハリー刑事!」ハーマンが駆け込んでくる。「どうしましたか?ハーマンさん?」「ラースキンの姿が消えました!」その後ろからまた別の刑事が駆け込んできた。「大変です!ハンクが死んでいます!」ハリーは驚いた顔でつぶやく。「どういうことだ・・・・」


四日後 ジャカシティ 行政特別区 ジャカ保安官事務所

 「あんたくらいしかいないな、警官で信用できる奴は。」とジャカ保安官マルコが笑って言うが、モラントンはきっぱりと言った。「私はジャカの警察官です。私はジャカ警察署長にも、そしてあなたにも仕えません。私は市民のためにはたらきます。あなた方のスパイになる気はありませんよ。」「フハハハハ・・・・」大笑いした保安官はコーヒーを一口すすると続けた。「君はおもしろいよ。そして、君の仲間たちもね。」そう言って保安官が指し示した先のソファにはムンバク、ダイムラー、ジュディが座っていた。

 「この事件か・・・」保安官は二人の助手に新聞を見せる。「痛ましい刺殺事件ですね。しかしこれが?」「私の・・・姉が殺された事件なんです。」とジュディ。保安官助手二人は驚きの表情で顔を見合わせる。「それはその・・・知らぬこととは言え、失礼いたしました。」しかしジュディは「大丈夫です。」と言っただけでムンバクに言う。「保安官さんに説明を。」ムンバクは進み出て言う。「今回の事件はリムソンシティからの観光客が殺害された事件ではありません。」


 殺されたマーガレットさんはリムソン市警の婦警兼リムソンシティの風俗嬢、そして我々と連携している私立探偵です。そうです。彼女は調査もしくは捜査としてここを訪れていたのです。さて、ここで問題になるのがその調査対象ですが、恐らくとある女性の失踪事件に関するものだった筈です。行方不明になった女性も風俗嬢です。リムソンシティで開かれていた地下格闘技場で接待係をしていたアイリーンという女性です。彼女はある日地元のギャングに誘拐されたまま行方不明になってしまいました。ギャング達はとある犯罪仲介人の名前を挙げましたが、残念ながらその人物は怨恨殺人によって亡くなってしまいました。しかしそれが本当に怨恨殺人だったかも不明です。逮捕した容疑者が歯に隠していた毒薬を飲んで自殺してしまったため、真相は分からないのです。そうです、この事件は複雑なのです。もしかしたら犯罪仲介人の雇い主が口封じのために犯罪仲介人を殺したのかもしれません。他にも二名殺されている者がいましたが、これは怨恨殺人のストーリーをつくるためだったかもしれません。殺された二名も、犯罪仲介人も過去に容疑者を裏切った人物で、容疑者と被害者三名は組んで強盗をしていました。犯人も自殺した容疑者なのか定かではありません。罪を認めて自殺したので地元の当局では被疑者死亡で送検しましたが。ここでさらにモラントン警部からジャカシティ警察がその事件を隠ぺいしようとしているとの情報が届きました。恐らくアイリーン誘拐事件及びリムソンシティの連続怨恨殺人事件の背後には、大きな陰謀が進行していると思われます。


 「ほう、面白くなってきましたな。」と保安官。「警察連中が何か隠しているとなったら、我々の出番ですよ。早速捜査本部をたてましょう。」



翌日 ジェファソンシティ ホワイトキャッスル

 ヘスリー大統領は司法省政治監査室から送られて来た報告書を見る。そして眉をひそめた。「やはりか・・・」

 報告書には複数の軍幹部による外国への武器輸出の疑惑が書かれていた。彼らは海外の残留している元米軍たちと結託して武器を送っているという証言が複数の筋からあったという。その幹部達に対する疑惑の調査はファット司法長官が直接司法省政治監査室と警察庁組織犯罪取締局政治部、連邦警察組織犯罪取締局を組織して行う予定だとのことだった。

 「記者会見の準備をしないと・・・」とつぶやいた大統領は電話をとり、補佐官と報道官をホワイトキャッスルの会議室に呼び出す。


 その頃ホワイトキャッスルの郵便管理室に大型の封筒が届いた。差出人は国防長官だった。


 会議室に届けられた「緊急」の書類を読んだヘスリーは「ほう」とつぶやいて補佐官に書類を回した。補佐官はそれを受け取り、しばらく見ると「ふん。逃げるつもりでしょうかね?」と問う。ヘスリーはしばらく考えてから「分かりませんな。私はペンタゴンが組織的に関与しているような気がしていますが・・・まあ、私は捜査のプロではありませんしな。ファット長官に任せましょう。」と言う。その時、会議室の備え付けの電話がなる。ヘスリーが立ち上がり、それを取った。「今会議中ですが・・・ファット長官からですか!ええ、繋いでください。」

 ファットによると、ホワイトキャッスルに届いたものと同じものが司法省にも届いたようだ。それはペンタゴン上層部が陸海空の全ての軍に対して行った「内部監査」の調査結果であった。そこには海外への武器の横流しが大規模に行われていること、そこに軍上層部が関与していること、関係者全員のリストと彼らを降格・除籍処分にすることが書かれていた。ヘスリーは捜査の裁量権を全てファットにゆだねる旨を伝えて電話を切り、また別の人物に電話をかけた。「おはようございます、大統領。私が送りました書類は届いておりますかね?」「ええ、来ています。それとあなたの辞表も。」「そうです。私は関与していませんが、軍隊についてはきちんと監督しておくべきでしたよ。私の監督責任であなたの政権に大きなダメージを与えてしまいました。政権の崩壊を防ぐためにも辞任させていただきたいのです。できれば来月に。」ヘスリー大統領は数秒の沈黙の後、言う。「分かりました。あなたの辞表を受理しますよ、フロイト長官。ええ、レビンスキーさんの辞任も受理しますとも。」


5日前 リムソンシティから50km ランド州道

 「あんた、どこに連れて行くつもりだ?」とラースキンはパトカーを運転する警察官に尋ねた。警官は黙って運転を続ける。ラースキンは言う。「おいおい・・・あんた、連邦警察の警官達のふりした偽警官だろ?どうやって連邦警察支局に侵入したんだ?」「俺は本物の警官だ。安心しろ。」と答えて運転を続けるのはウェストランドに勤務していた警官の殺し屋ボックスマンだ。彼はとある理由で連邦警察支局に侵入してロックウェルとハンクを消した。ボックスマンの主人の意図は口封じだが、彼にも全貌は分からない。主人はボックスマンのような信頼できる部下にさえ自分の活動目的などを話さない。

 今回の件に関してもボックスマンとしては納得できていない。外部の組織から雇い、捕まってしまった殺し屋ハンクと告発を試みているロックウェルは証人になり得るから殺すのは当然だ。そして、本来ならばロックウェルと同じように告発を試みているラースキンも殺すべきだ。しかし、主人からと突然ラースキンを連邦警察本部から救い出すように命令が下る。そして行先にある主人の知り合いの小屋にかくまってもらうように言ったのだ。その「知り合い」は主人よりも地位が高いようで、主人に命じられてその人物を警護したこともある。


三時間後 トルーマン州 コロンブス山

 「着いたぞ。下りろ。」とボックスマンに促されてラースキンは外に下りた。ボックスマンの動きを観察する。素手で反撃できるチャンス、または彼の武器を奪うチャンスはあるだろうか。

 目の前には大きいログハウスが立っていた。山の岩々を除去してならした別荘用の土地に建てられたその建物のベランダからは大自然の風景が望める。ボックスマンはベランダに立っている黒スーツの男に声をかける。「連れてきたとあんたの主人に伝えてくれ。」黒スーツの男は頷くと中に引っ込んだ。

 数分後、扉が開いて先ほどの黒スーツの男が姿を現す。「はるばるご苦労。あんたの仕事は終わったそうだが?ゆっくりしていくか?」「すまねえが、いくつか小さな仕事があるんだ。俺は帰る。」と言ったボックスマンはパトカーに乗り込んだ。

 「さてと・・・ご主人様がお待ちです。」と不気味なほど丁寧な口調で黒スーツの男はラースキンを屋内に招き入れる。「早く殺せよ。」とラースキン。しかし、男は驚きを顔に浮かべる。「ご主人様はあなたを気にかけてくれています、殺そうとなさるはずなどありませんよ。」ラースキンは肩をすくめて黒スーツの男の後に着いていく。黒スーツの男は短い廊下を進み、突き当りにある重厚なドアを開けた。居間のような光景が広がっている。「では、積もる話もおありでしょうから・・・」と言って男はラースキンを半ば部屋に押し込むと退室する。

 「久しぶりね。」と声が聞こえて窓辺にある揺り椅子に座っていた女性が立ち上がって振り返る。「!!!!!」ラースキンは唖然とする。その女性こそ、長い間ラースキンが探していたアイリーンだったのだ。

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