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ブラックストリート  作者: エッグ・ティーマン
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再捜査

2019年 リムソンシティ ニューカブキチョー ムサシノクラブ 

 オザキは土下座するチンピラを蹴り飛ばした。「中国人どもに店を明け渡しただと!指つめて責任取ってもらうぜ。」「そ、それだけは・・・」「黙れ!」起き上がったチンピラの顔を蹴るオザキ。チンピラが血を吐いたが気にしない。「お前は仲間が戦っているとき、逃げた。外道だ!」オザキはそう叫ぶと、壁にかけてある日本刀を手に取り、チンピラの指に振り下ろした。絶叫と共に血が飛び散る。「さあ、出ていけ。俺らにはお前のような弱虫は必要ない。破門だ!」オザキはふすまを開けた。二人の大男が現れ、痛みでのたうちまわるチンピラを引きずり出した。


 サトウは廊下まで響くオザキの大声を聞いて、ぶるりと震えた。ボスはかなりお怒りのようだ。

 しばらくすると、オザキのボディガードがふすまを開け、中に向かって顎をしゃくった。


 オザキは平服するサトウに顔を上げるように言う。「はっ!」サトウは顔を上げると緊張感を持った真剣なまなざしでオザキを見つめる。オザキも真剣そうな顔だ。彼は開口一番こう言う。「中国人どもが協定を破って攻撃を仕掛けはじめた。今日も大きな宿屋がひとつやられた。」「奴らをはやく排除せねばなりませんな。」「ああ。この街は中国人出入り禁止だからな。だがな、なんと最近奴らは黒人どもやメキシコ人どもと組んでいる。」「え!」思わすサトウは声を上げてしまう。

 彼らヤクザの宿敵であるチャイナマフィアは非常に排外的だった。(といってもそれはヤクザも同じだが・・)彼らは自分達中国人をトップとするチャイナタウンを支配し、韓国人やベトナム人、インド人やパキスタン人達のグループを取り込んで「アジアギャング」を構想していた。その構想に従わない日本人は目の敵とされたが、中国人たちは基本的にはアジア大陸以外の人種のギャングを嫌っていた。特にサン・ドリル地区の黒人ギャング達とは仲が悪い。普段敵対しているハイチ系とソマリア系、ラキア系はチャイナマフィアが敵の際には休戦して協力するほどだ。「

 そんな中国人たちが仲の悪い黒人たちと協力しているというのは驚きだ。また、黒人たちと仲の悪いはずのチカーノギャングが一枚かんでいるというのも衝撃的だ。

 「奴らは各々何を企んでいるのでしょうかね?」当然浮かび上がる質問をサトウは口にする。「分からんから、お前を呼んだんだ。俺は昔から難解なことが嫌いだからな。」「なるほど。全て壊してしまえばいいのですね?」「そうだ。」とオザキ。「お前には腕のなる仕事だろう?」「ええ。奴らを抹殺します。」

 サトウの率いる「残露会」はオザキが幹部を務める武藤組の傘下団体の中で最も武闘派であり、武藤組の殺し屋部隊だ。


 30分後 ニューカブキチョーのとある宿屋

 「けっ!ジャップどもがよ!」キムは死体を蹴り飛ばしながら、台所に進んでいく。台所にもエプロンを着た多くの従業員の死体がある。台所の奥が店長の部屋だ。店長は椅子に座った状態で頭を撃ち抜かれて死んでいた。キムは店長の死体を椅子から引きずり下ろすとその椅子に座った。「さてと・・・」キムはデスクの上の電話を見る。店長の脳髄がこびりついていることに気づくと舌打ちをし、店長の死体のポケットから取り出したハンカチで拭く。そして番号をプッシュする。「キムだ。今制圧した。死体処理をお願いしたい。」「ああ。」と低い声が聞こえる。


 「ここだな。」サトウは隣でタブレットを確認する部下に声をかける。「ええ。この店です。窓に血が飛び散っています。」「クソ!奴ら、やりやがったな!」サトウは拳銃を抜いた。秘書もタブレットを車に放り込むと、拳銃を取り出す。その後ろから続々と拳銃を持ったヤクザが現れる。「行くぞ!」「おう!」サトウは店の窓を蹴り上げた。


「ついに来たか・・・」キムは笑うと、部下から特注の拳銃を受け取った。黒覆面の「同盟者」たちがくれたものだ。


 次々と倒れる中国人達。「ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」拳銃を連射しながらサトウは大笑いする。中国人どもを墓場に送ってやる。だがその時、隣の部下がいきなり倒れた。血を流す。「うっ!」「くそっ!」周りの部下が次々と倒れ、血しぶきが上がる。「なんだ・・・」ものすごい速度で大量の弾が飛んでくる。「あれか・・・」一人の男が立っていた。見たこともない巨大なライフルを両手で抱えて乱射している。サトウは壊れた椅子の破片を顔の前に掲げながら進んで・・

いきなり倒れる。サトウの顔を弾丸が複数発貫いていた。即死だった。


 店に到着したバンから、作業服を着た覆面軍団が下りてくる。その後ろからバイクに乗ったメキシコ人が入ってくる。彼らはライフル片手に店に入った。


 同時刻 近くの道路

「うわ!なんだこれは!」バン四台で店に向かっていた残露会後発部隊は正面から向かってくる物をみて、慌ててUターンしようとする。だがその後ろに小型ミサイルが直撃。一台のバンが吹き飛び、二台のバンが横転した。一台のバンの運転手はアクセルを思いっきり踏んだ。


 「はっは~!やっちまえ!」戦車の上に乗ったラークは大はしゃぎする。隣に立つ部下は狙いの付け方が上手い。残り一つのバンも倒してやる。


ムサシノクラブ

 街の惨状を眺めてオザキは呆然とした。銃声がニューカブキチョーのあちこちから聞こえてくる。火の手が多く上がる、遠くのほうから爆発音が聞こえた。

 そのさなか、ムサシノクラブの駐車場に一台のバンが停まる。中から五人の覆面をした人物が下りてくる。「何者だ!」クラブの用心棒たちが銃を突き付ける。「怪しい者じゃない。あんたがたのボスに会わせてくれ。ニューカブキチョーが崩壊してもいいんなら話は別だがね。」


 オザキは黒覆面達にまんまと騙されたことを後悔した。彼らがスーツケースを開けるとともに催涙ガスが顔を直撃した。

 そして今彼は黒覆面達から銃を突き付けられている。「我々のビジネスに協力してくれ。」覆面の一人が言う。「クソ!お前らは何者だ!」すると黒覆面の一人が言う。「我々はいずれアメリカを支配する者だ。」


二日前  ジェファソンシティ 首都警察本部

 ダスケは口を開く。「確かにカテリーナは俺の縄張りで殺されたよ。」「つまり、あんたが殺害命令を出したということだな?」との警官の問いをダスケは無視して続きを話す。「遺体は今頃処理されているだろうな。証拠探しは大変だぞ。」「あんたの供述が証拠になる。」「検事はそれで納得するかわからねえぞ。」「ふん、どうせ買収済みなんだろ?」「よく分かってるな。」「いいから続きを話せ。」「俺は今事実をきちんと述べたぞ。帰らせてもらおう。」「いや、待つんだ。」立ち上がったダスケを二人の警官が挟んで座らせる。「用事があるんだがな。」「あんたが話さないつもりならこちらから質問する。」「早くやれ!」ダスケはイライラを募らせる。「あんたはカテリーナの調査対象じゃない。なぜ彼女を殺す必要があったんだ?」「殺したのは俺の手下だが・・・まあいい、その手下の動機を推量するに・・・あいつは恐らく薔薇鉄皮隊から依頼を受けた。」「つまり、あんたが依頼を受けた。」「勝手に解釈しろ、あくまでも解釈にしかならねけどよ。」「続きを。」「はいよ・・ったくファットごときに怯えやがって、お前らいつも俺に手出ししねくせに・・・まあいい。で、恐らく俺の手下は薔薇鉄皮隊の幹部を通じて薔薇鉄皮隊と連絡を取っていたんだ。」「あんた側にとってのメリットは?」「奴らはビィレグを排除してくれる。大量の麻薬を運んでくれる。最強の傭兵軍団を飼っている。理想の同盟相手だ。」「ほう。」「どうした?物足りなそうだな。」とにやにやし始めるダスケ。担当刑事が警戒感を募らせて部下と顔を見合わせる。「物足りねえのも分かる。つまり俺の手下はその連絡係の幹部しか面識がない。薔薇鉄皮隊の狙いも分からねえ。薔薇鉄皮隊とはパートナーだが、深い仲じゃないってわけだ。」そう言って立ち上がる。「そろそろ帰っていいよな。」刑事たちはしばらく部屋の隅で話し合っていたが、しばらくすると担当刑事が振り向いて言う。「今日のところはな。また呼ぶかもしれないが・・・」


 パトカーに乗ったダスケは横に座った刑事に言う。「そういえば・・・俺の手下は独自にパートナーのことをよく調べていたな。あの仲介役の幹部が教えてくれなかったことも知っているかもしれない。」後部座席でダスケを挟んでいた刑事二人が身じろぎする。助手席の刑事が少し緊張して言う。「その情報、貰えるか?」「ああ。ただし、俺を牢屋に送ろうとする試みを諦めてくれればな。」


三日後 リムソンシティ郊外 ムンバク探偵事務所

 ジュディは深刻な顔で考え込む。「ロックウェルが、彼女を見張れと?」「ええ、そう言っていました。」とラースキン。ムンバクが言う。「我々も彼女から情報を得ていることをロックウェルは知っているはずですがねえ・・・」とムンバク。「その上で彼は私たちも利用したし・・・」「我々も彼を利用した。」と言いながらダイムラーが入って来た。

 彼らは今、ラースキンがロックウェル署長から「マーガレットを見張れ」と言い渡されたことについて話しあっていた。ラースキンは嫌々ながらロックウェルからの命令を果たすためにムンバク達の元を訪れ、マーガレットの動向を聞こうとしたのだった。ムンバクが鋭く反応し、ラースキンはロックウェルの命令であることを明かしたのだ。

 ジュディが話を続けた。「ホーバンが殺されて以来、彼女は裏稼業が回せてるのかしら?連絡してみるわ。」ジュディが言い、携帯電話を取り出す。「そうだな、それが良さそうです。」とダイムラーが賛成し、一同はジュディを見守る。「ああ、もしもし、久しぶりね。」どうやらマーガレットが電話に出たようだ。ジュディは慎重に本題に近づけていく。「ホーバンが死んだわね。」「ええ、奴はろくでなしだったけど少し・・・寂しいわ。」とマーガレット。「今裏稼業のほうはどうなってる?」「サイラスの店で面接を受けたの。」「手ごたえは?」「まあまあね。ところで何の用かしら?」「実はね、ラースキンがロックウェルにあなたの事を調べて欲しいって・・・」「あら!浮気を疑ってるのかしらね。私、もともとあの爺さん好きじゃないけど。」「で、ラースキンのために情報を寄越してくれない?あとロックウェルに調査される心当たりある?」マーガレットは張り切った声で言う。「動向報告だけど、ラースキンのために新情報よ!」彼女にしては珍しく声が上ずっている。ラースキンは耳を澄ます。ジュディは興味津々で先を促した。「アイリーンは多分生きているわ。」「何!?」ラースキンは思わず叫んだ。「多分聞いて驚くと思うけど彼女は・・・きゃっ!」いきなりマーガレットが悲鳴を上げた。「ごめん、後でかけなお・・うっ!痛い!」「マーガレット!?どうしたのよ!」ジュディが慌てる。ムンバクが眉をひそめた。「っく・・・・」「マーガレット!?ねえ・・・」すると衣擦れのような音の後に電話の向こうからいきなり低い男の声が聞こえた。「お前、何者か知らないがこの件には関わるな。危険だぞ。深追いしすぎた女の末路を今見たろ?俺が殺した。じゃあな。」電話は一方的に切られる。ジュディが泣き崩れ、ダイムラーがその肩に手を乗せた。

 ムンバクとラースキンは別室に移り、深刻な表情で話し合う。「相手はかなり危険です。私の想像を超えている。」そう言うムンバクの顔は青ざめていた。


翌日 インディペンデントシティ ホテル「カントリーパリス」

 今ホテルの食堂は貸し切り状態だ。ここで陸軍副総長と共和国軍統括司令官とペンタゴンの政務長官、そして警察長官・警察副長官が長机を囲んで会食している。

 「なかなかヘスリーは手ごわいですな。」と苦々しい顔で共和国軍統括司令官ジャック。「ええ。」とハウスラー警察長官が賛成する。「ペンタゴン内で調査を命じるとは・・・予想外でしたね。」「ああ。まあ国防長官は私のコントロール化にあるから大丈夫だが・・・・」とペンタゴン政務長官バリー。「心配なのはこの後ヘスリーが国防長官の報告書に納得いかずにファットを介入させることですよ。」「それだけは防がなければなりませんな。ラキアの事件と我々の関係が明るみに出ては困る。」とハウスラー。「そうだな、それだけは防ぎたいが・・・・軍のほうで対処してもらえるかな?」「ええ、どのような手段を用いてでも必ず。」と陸軍副総長エミリアが恐ろしいまでの真顔で答える。彼女は既に携帯を取り出してマリク中佐に連絡を取り始めていた。


四日前 リムソンシティ 行政特別区 リムソン市警

 キャロル刑事部長は資料室の管理人ペギーにお礼を言うとラースキンとバネッサと共に足を踏み入れた。

 ペギーは管理人の仕事を立派に果たしていた。案件は時系列準に事件種別ごとに分かれて並んでいる。

 「で、手伝ってほしいこととはなんです?」とバネッサは不機嫌そうに聞く。キャロルはその声のトーンを無視して言う。「お忘れでないでしょうけど、マイクによる連続殺人事件を覚えているかしら?」「ええ、数十年前からつながる怨恨が絡む事件でしたね。」「そう、それよ。その事件の洗いなおしがしたいの。」とキャロル。「今更?」半ばラースキンは呆れて言う。「ええ。というか薔薇鉄仮面隊関連の捜査で中断されたけど、本来は連邦警察支局で捜査が続行されている筈でしょ?バネッサ警部?」「え、まあ。」と不意をつかれたようにバネッサ。「バネッサ警部には、私の許可のもと連続殺人事件の捜査をしてもらいましょう。」バネッサは面倒くさそうに溜息をついた後「承知いたしました」といったが、ラースキンは口調と裏腹に彼女の顔に笑みが浮かんでいることに気づいた。この女はまたなにか企んでいる。


 刑事部長室

 キャロルは机の上に資料を広げた。「バネッサ警部、あなたが連続殺人事件の捜査本部長でしょ。」キャロルはバネッサに仕切らせるつもりらしい。バネッサは嬉々として資料の内の一つを指さす。「マイクによると、この放火事件の犯人は二人の強盗と一人の犯罪仲介人です。」「ええ。」ラースキンは資料を読みながら答える。連続殺人事件の犯人であるマイクは元々強盗で、数十年前組んだ強盗二人組と犯罪仲介人に裏切られた。また、同じく強盗だった恋人を彼らに殺された。その恨みから、彼は三人の元犯罪者をこの世から消した。そして自分も自らの手でこの世と別れを告げた。

 しかしこの事件についてはまだ分からないことが多くあった。まず、マイクはどうやって三人を見つけ出したのか。特に強盗二人については。一人はホームレス街で沢山いるホークレスの中に溶け込んでいた。対照的にもう一人は司法取引によって新しい人物となって生まれ変わっていた。探すのは大変だった筈だ。

 ラースキンは放火事件に関わるボランティア一覧表を見た。彼らは放火事件の際に巻き込まれた一般市民や近くをねぐらとしていたホームレスの救出活動に携わった。しかしラースキンはその中ににつかわしくない名前を発見したのだった。「これ・・・」ラースキンはある人物を指さす。バネッサとキャロルが顔を近づけて見て、その後顔を見合わせた。「これは・・・・」

 ラースキンが発見したのはマイルズ・ブースの名前だ。彼はダニエルに操られた手下がクーデターを起こすまではリムソンシティの売人のリーダーだった男だ。ナイトクラブやカジノ、モーテルやレストランも経営していたらしい。そしてマイクをかつて運び屋として雇っていた人物でもある。「奴は生きているのかしら?」とキャロル、バネッサが即座に答える。「ダニエルに敗れた後は街を去ったようです。その後の行方は分かりません。」溜息をもらすラースキン。だが、バネッサは続けて答えた。「リドル保安官なら知っているかもしれません。署内の噂だと、リドルは巡査時代に奴から賄賂を受け取ったようですから。」


 二時間後 リムソンシティ 行政特別区 市役所内保安官支局

 保安官は不思議そうな顔でバネッサに聞いた。「珍しいメンバーを連れてきているな。どうした?」それに対してバネッサは慎重に答える。「もしナイトクラブ経営者マイルズ・ブースについて知っていることがあれば教えていただけませんか?」「マイルズについて?まあいいが・・・座り給え。遠慮するな。」


 知っていると思うが、奴はダニエルが力を持つ以前はギャング・マフィアに属さない麻薬売人どもをまとめていた。つまり、今のダニエルのような立ち位置だな。若いころから素行が荒く、窃盗や暴行などでの逮捕も経験している。しかし経営に関してはかなりの凄腕だ。私もその頃は奴のSPとなり果てた警官の一人に過ぎなかったから詳しいことは分からない。だが、三回目の逮捕後にマルイーズ刑務所で出会ったギャング組織幹部であるルイス・バカッティオに見込まれたことが恐らく彼がチンピラから組織犯罪の世界に入った契機だろう。バカッティオは弁護士を通じて奴の組織を動かし、マイルズの保釈金を用意した。名義上弁護士の弟が保釈金を払ったことになっているがな。その後マイルズはバカッティオから偽造パスポートを受け取ってフランスに行った。何?なぜフランスに行ったかだって?分からんな。だが奴はフランスから返った直後にナイトクラブを開いて成功している。恐らくバカッティオはフランスにコネがあった。そのコネとの関わりの中で違法ナイトクラブ経営に必要なノウハウを手に入れたんだろう。


「フランス?」とラースキン。「薔薇鉄皮隊?」とキャロル。


三週間前 場所不明 とあるログハウス

 ここには多くの別荘が並ぶ。皆木造の重厚なつくりだ。

 ボックスマン刑事はそのうちの一つのベランダにいた。ベランダに出された机の上にはピストル二挺を置き、いつでも撃てるようにしてある。背後にある外壁にはライフルをたてかけてあった。そして愛用のサバイバルナイフは腰に差してある。しかしボックスマンはプロの殺し屋だ。殺し屋という本業がバレないように隠している。つまり、揺り椅子に腰かけて紅茶を飲みながら新聞を読んでいるふりをしたのである。はたから見れば優雅な休暇を過ごす紳士だ。

 その様子を二階の窓から見下ろす人物がいた。彼女は紅茶を持って入って来た老人に不満をぶちまけた。「そろそろ退屈なんだけど。兄から連絡きてないわよね。」「ええ。お兄様は今、恐らく計画の最終段階に入ったのでしょう。ニュースをご覧になっていれば分かるはずです。」「ええ。でもそろそろ外に出たいわね。」そう答えた女性は、地下格闘技場の男達を虜にし、その後ギャングに誘拐されて行方不明となっていた風俗嬢アイリーンだった。

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