犯罪同盟
2019年 リムソンシティ 行政特別区 連邦警察支局
ラースキンの前にハーマンが座っていた。「何故、あんなことをしたんだ?」とハーマン刑事。ラースキンは黙っている。ハーマンは苦笑した。「俺に対しても、しゃべらないか・・・・」
外からは、ハリーが見ている。「口が堅いな。知り合いをぶつければどうにかなると考えたんだが・・」「ええ。」と部下が答える。「リムソン市警の警官か・・・」とつぶやき、ハリー刑事は深く考え込む。
別の部屋では、とある男が監察官聴取を受けていた。「発砲する必要性はあってのでしょうか?」とブルー監察官。男は面倒臭そうなをして答えた。「ありましたとも。あの・・ラースキンだっけ?奴がホーバンを殺そうとしていた。薔薇鉄皮隊の情報を握っている可能性がある人物を殺そうとしていたんですよ!阻止しなければいけませんでした。」「しかし、結果はどうです?あなたはラースキンではなく、その大事な証人を殺してしまいましたよ。」「あれは・・・クソ!ラースキンの奴、多分ホーバンを使って護身しやがった!」「そうだとしても、あなたの判断は早急すぎましたよ。ラースキンを説得する道もあったのですから。」「しかしでしすよ、監察官・・・」男の抗議の声は、監察官のデスクの上に電話の音でかき消された。監察官は「失礼」と言って受話器をとる。「はい、もしもし・・・え?なんですって!?いやいや、待って下さい。はい・・・・はい・・・承知しました。」ブルーは受話器を置くと男に向かって不機嫌そうに言う。「あなたの取り調べは終了です。」
四日後 リムソンシティ サン・ドリル地区
「取引ねえ・・・ブツを見せてもらおうか。」ラークは二人の覆面を付けた自称「武器商人」に言う。男の一人が頷き、もう一人が手を上げる。トラックがバックしてきた。コンテナの扉が開いて、中からもう二人男が出てきた。その後ろにはなんと小型の戦車のようなものが見える。「どうだ?買うか?」ラークは気を落ち着かせると唾を飲み込み、言う。「ボスと話してくる。」
イエローアサシンズのボスはラークの話を聞くと「ふむふむ・・・」と頷いていたが、最後にはこう言う。「買い取れ。」
覆面の男は「大金になるだろうから、金は分割払いでいいぞ。あんたらの取引で得た金の三割をこちらにくれ。」と言った。ラークは言う。「いいだろう。商品をもらおうか。」「ああ、どうぞ。」
ラークはボスが選んだ精鋭たちが戦車に乗り込む様子を満足気に眺める。そして、やる気に満ちた後輩たちを振り返り、指示を出す。「バイクに乗り込め!ハイチ人どもをつぶすぞ!」
レッドスパロウズの連中は広場で毎日集会を開く。集会といっても堅苦しいものではなく、集まって思い思いに過ごすだけだ。頑丈そうな鉄製の台の上では腕相撲大会が繰り広げられており、はやし立てる者、応援するもの、罵声を浴びせる者、そして賭けをする者がいる。その後ろでは数人の男が麻薬入り煙草を吸いながら、雑談していた。「なあ、殺しの仲間を募集してるんだ。」「おいおい、あんたともあろう者があんな爺相手に怖がるとはな。」「馬鹿め!俺様が怖がるだと!?ふざけるんじゃねぞ!今回の依頼は慎重にやる必要があるんだ。仲間には見張りをしてもらうぜ。殺しは俺がやる。」また、別の場所では小さなテーブルを引っ張り出してきてポーカーを行う連中がいる。「あんた、また騙したね!」「何度言ったら分かるんだよ。俺は公正に試合を行うことをモットーにしてるんだ。」また近くの平屋のベランダでは、二人の若い女が封筒を片手に持ちながらにらみ合っている。「売上がどちらが多いかしら。勝負よ!」「私よ。あんたより私の方が魅力的よ。」「あら、笑わせるじゃない、ホテルまで行ったことがないくせに。」「あらあら、あんたはホテルまで・・・なんて贅沢!私はね、組織の経費を削減するためにカーセックスで済ませているというのに・・」「いい?カーセックスで済むってことはあんたの獲得した客はそれだけ貧乏で下品なのよ・・・ねえ、ちょっと待って!あれ何!?」唐突に一人の女が叫び、道路を指さす。「なによ、あんたはいつも下らない・・・!!!」もう一人の女も絶句する。
「やあ、レッドスパロウズの皆さん!」ラークは大声でスピーカーにがなり立てた。「ごきげんよう!」バックミラーを確認する。戦車が砲台をレッドスパロウズの広場の方に向けるのが見えた。
「なんだありゃ・・・」「おいおい、あれ、イエローアサシンズの連中じゃねえか?」広場に動揺が走る。「マズいぞ!逃げろ!」酒瓶を投げ捨てながら一人の男が叫んだ。
戦車が弾を発射したのが見えた。そして悲鳴。レッドスパロウズはかなりのダメージを受けたはずだ。広場には血だまりが広がる。「サン・ドリル地区は我々のものだな。」と後ろの席からボスの嬉しそうな声。ラークは頷き、言う。「次もつぶしますか。」「おう、じゃんじゃんやれ。」
二日前 ジェファソンシティ ホワイトキャッスル
トム大統領はニュースを見ていた。画面にはラキア王国の革命軍の要塞と石油王バルロズの「城」が爆破され、銃を持った集団が逃げ惑う人々を射殺する映像が映っている。
リポーターが言う。「ラキア王国で大きな情勢変動があったようです。左翼の武装組織である革命軍の本拠地と、彼らの支援者の代表とされるバルロズ氏邸宅が極右の武装団体に攻撃を受けました。高性能の爆弾を使った模様です。また、このテロ事件によってバルロズ氏は死亡しました。国連のカート事務局長によりますと、現地に駐留していた多国籍軍が爆弾を解析したということです、爆弾は全てアメリカ軍で使用されている物とみられており、入手経路などについて調査中だということです。この件について、新赤ロシアのジャルコフ議長はアメリカに責任があると主張しました。現在、ホワイトキャッスルはこの事件について、コメントを発表していません。」
トムは目をこすってテレビを消す。溜息をつくと、目の前の机にある電話の受話器をとる。電話の相手はホワイトキャッスルの報道官であるマルサスだ。「おやようございます、大統領。」「おはようございます。ニュースは見ましたか?」「ええ、カートは余計なことをしてくれましたね。」「ええ。ですが、アメリカ製の武器が使用されていた点については気になりますね。」「ええ・・しかし今は国際社会がロシアの味方になる前に記者会見を・・・」「そうだね。早速アメリカ政府が関与していないことを強調する記者会見を設定して下さい。私も行きます。」「は、はい、分かりました。では失礼いたします。」トムはマルサスが電話をきるのを待ってから、別の人物に電話をかけた。「おはようございます、大統領。」「おはようございます、クラウディア安保議長。」「どのようなご用件でしょうか?」「ハーベイ国防長官にも伝えて欲しいのですが、ラキア王国のテロに使われた武器について、我々のほうでも調べるべきだと思いまして・・・」しかしクラウディアは冷たい口調で拒否する。「申し訳ありませんが、我々にはそのような時間はとれそうにありません。」「では、ファット司法長官にでも・・・」「いえ、承知いたしました。我々のほうで会議を開きます。大統領も出席なさいますか?」「出られるか分かりませんから、バース副大頭領をよこします。」
電話をきったトムは汗をぬぐう。やはり政権幹部の制御は大変だ。
リムソンシティ 行政特別区 リムソン市警
「望みは何です?」署長室に入るなり、ラースキンはロックウェル署長に問う。
ロックウェルは恐らくは警察庁内の自分のコネを利用してラースキンを連邦警察から救い出した。だが、ロックウェルは自分の利益にならないようなことを決してやらない男だ。ラースキンを救い出した見返りに何か要求されるに違いなかった。
ロックウェルは数分黙っていたが、突然口を開く。「マーガレット巡査を見張れ。」「はい?」ラースキンは困惑する。ロックウェルの愛人のマーガレットは美人の婦警だが、裏の顔は高級娼婦だった。ロックウェルは彼女を通じて上級国民の情報を収集していた。例えばリムソン市の最高判事が浮気をしていることや、故アーノルド大統領の弟はダスケから金を受け取っていることなどを突き止めていた。
ロックウェルはラースキンを睨むと、「詳しい事情はお前には関係ない。彼女を調べろ。」と言い、椅子に座ると事務作業に戻ってしまう。
ラースキンはカフェテリアに人が少ないことを確認すると、コーヒーマシンに向かう。
「あら、大変だったわね。でも解放されてよかったわね。」その背中に厭味ったらしい口調の声がかかる。「ご無沙汰していました、バネッサ警部。」バネッサは連邦警察の特別警部で、バウント副支局長の「犬」だ。バウントは彼女を自分の手足のように使って汚れ仕事の遂行をしているらしい。本部から来たハリー特別警視を警戒するバウントは、彼女をリムソン市警の建物に避難させたのだ。
「あんた、大変ね。アイリーンのことを突き止めようとしたらホーバンが撃たれ、さらにはあんたが逮捕されるとはね・・・」「ええ・・しかしもっと穏当な手段でいくべきでしたよ・・」ラースキンは溜息をつきながら答える。アイリーンのこととなると、自分は理性を失ってしまうようだ。
しかし、バネッサはなぜか笑顔を浮かべている。「アイリーンについて、個人捜査するしかないわね。」「へ?」唖然とするラースキン。そして怪しい笑みを浮かべるバネッサ。「バウントの下で働いたおかげで私、人脈が広いんだ。もしかしたらアイリーンについての真相も・・・」「でも、ムンバクのような者でも分かっていないことを・・・・」「あんた・・・」いきなりバネッサの口調が変わる。「やるの?やらないの?」立ち上がったバネッサは完全にラースキンを睨んでいる。「ああ・・・やりますよ。」バネッサの迫力に押され、ラースキンは頷いてしまった。彼女になんらかの企みがあろうと思いながらも。
リムソン市警 中央区
「俺らに何の用だよ?先生?」とメキシコ人は問う。
ダニエル医師は今、リムソンシティの中央を縄張りとするチカーノギャング「フレアスグループ」の幹部かつ「リムソン信託銀行」頭取の男に会っていた。「実はな・・・・同盟を結びたい。」「ほう・・・しかし、なぜだ?我々の間の関係はお前さんが売人どもを仕切り始めた時から悪かったぞ。ずっとな」「ああ、それは分かってるとも。だがね、今俺とあんたは手を組まなければ対処できないほどの脅威にさらされている。」「ああ・・・黒人どものことだろう?イエローアサシンズが戦車でサン・ドリル地区を統一しようとしてるな。そして、あんたは奴らと確執があるね。」「ニュースで見たか?」「いいや。」そう言ってメキシコ人は立ち上がり、応接室の扉を開けた。「本人たちから聞いたよ。」応接室から、イエローアサシンズのボスとピンキーライオンズのボスが姿を現す。「お。おい・・・」ダニエルは動揺し、彼の後ろに控えていた二人のボディガードが身構える。「あんたたちは敵同士だろ?」と震え声でダニエル。しかし、頭取の男は動じることもなく言う。「別に俺たちは必ずしも敵同士でなくてもいいんだよ。あんたも含めた我々が手を組めばダスケにだって対抗できる。大きな麻薬ビジネスネットワークを作ろうではないか。」「あんたら・・・何を企んでいる?」「今いっただろう、大きな麻薬ビジネスネットワークを作るんだよ。」「で、ネットワークの中心には誰がいる?」「黒き男だ。」黙っていたイエローアサシンズのリーダーが初めて口を開く。「何者かは分からないが、利用価値はあるだろう。」とメキシコ人頭取。「そいつに会おう。」とダニエルは答えた。
インディペンデントシティ バスクタワー
ラキア王国出身の石油王バスクが寄付をして作られたビル「バスクタワー」は現在ビィルヘルムグループが所有権を持つ。しかし、実質的にビル経営を行っているのは大物ギャングであるダスケだ。
今、正面玄関で首都警察の警察隊とダスケの手下がにらみ合っている。「ダスケ様は今忙しい。また今度いらしてください。」ビルの警備隊長が進み出て、警官達に言う。すると、警官達の間から一人のがっしりした体格の初老の男が進み出てくる。警察庁のバッジを付けている。「警察庁組織犯罪捜査部のバークレイです。この捜査は任意なのでダスケ氏には拒否権があります。しかし、司法省のファット長官直々の命令で行っている捜査です。ご協力いただかないと我々よりもやる気に満ち溢れた司法省、そして外務省の職員がやってきますが・・・・」
「ああ、協力しよう。何も出てこないと思うがな。」と野太い声がして、ダスケが歩いてくる。四人のボディガードを連れてエレベーターを降りたところのようだ。「パトカーはどこだね?早く乗せてくれ。」バークレイが警戒しながら歩み寄り、「ご協力に感謝します。」と言ってパトカーまでダスケを案内する。
ボディガードと引き離され、今ダスケは一人で五人の警官と向かい合っている。こいつらは首都警察の者たちじゃない。連邦警察の者たちだ。奴らはダスケの仇敵である連邦警察組織犯罪対策局長アンの手下で、ダスケを検察官送致に持っていこうと奮闘するだろう。
「あなたは薔薇鉄皮隊を知っていますか?」「話には聞いたことがある。フランスの秘密結社だろう?それがどうした?俺には関係ないぜ。」しかし、一人の婦警が身を乗り出して言う。「フランス当局に提供いただいた情報では、彼らはあなたと同盟関係にあるとか」ダスケは鼻で笑い、言葉を返す。「馬鹿な!実態も分からん怪しい結社とは同盟を結ばんよ。いつ裏切られるか、分かったもんじゃねえ。」すると、「ダスケさんよ、本題に入るぜ。」と部屋の隅にいた警官が進み出てきて問う。「フランス外務省諜報部のカテリーナというエージェントを知ってるんじゃねえか?」「知らないね。だいたい俺はフランス人じゃない。」「おかしいなあ、ダスケさんよ、カテリーナはあんたの縄張りに潜入した直後行方が分からなくなっている。薔薇鉄皮隊とあんたの繋がりを暴こうとしてたはずだ。」「死者に文句は言いたくねえが、そのエージェントは捜査が下手くそだよ。さっきも言ったが、俺は薔薇鉄皮隊について名前しか知らねえ。分かったかい?」「分かりませんよ。さあ、真実を話してしまいなさい。」と刑事。ダスケは詰め寄る刑事達を睨み、「分かった分かった、話してやろう。」と言うと渋々口を開く。




