表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラックストリート  作者: エッグ・ティーマン
16/26

真犯人

2018年 リムソンシティ 中央区

 異例の顔ぶれだ。

 リムソンシティの黒人ギャング組織のヒットマンがひとりずつバンから下りてきた。

 まず青色のジャージの者が二名。それぞれブルーショッツとブルーライオンズだ。黄色のTシャツとバンダナを身に着けたイエローアサシンズの者。その後ろから姿を現した大男はピンク色のマントを身にまとっている。ピンキーライオンズだ。さらに驚くべきことに、それらのグループと仲の悪いはずのレッドスパロウズの者とシルバーウルフの者も下りてきた。

 彼らは共通の敵に報復するために集まった。まずハイチギャングのレッドスパロウズ・シルバーウルフ・ブルーショッツのリーダーが会合を持った。そして同じタイミングでソマリアギャングのブルーライオンズ・ピンキーライオンズ・イエローアサシンズのリーダーも会合をもった。二つの会合の議題は同じであった。即ち、先日の売人虐殺の犯人についてだった。ハイチギャングの会合ではブルーショッツが他の二つのチームから黒幕として疑われた。しかし黒人売人はブルーショッツの者もソマリアギャングの者も無差別に殺されていた。そこでソマリアギャングとの提携が模索され、親ソマリア派のブルーショッツの仲介でソマリアギャングと会合した。ソマリアギャングの会合では三つのグループのリーダーともチカーノギャングの関与を疑っていた。しかし、レッドスパロウズとシルバーウルフはダスケの仲介でチカーノと和平協定を結んでいたにもかかわらず、これらの組織に属する者も殺されていた。この事実を知り、ソマリアの頭目たちはある勢力の関与を提唱した。即ち、ダニエル率いる売人組織だ。

 このような経緯で例外的に編成されたハイチ・ソマリア系暗殺集団はゆっくりと目に前の倉庫に近づく。


 ダニエルはスチールの上のパソコンで映像を確認している。映像では、躁鬱状態のラースキンがさらなる麻薬を求める様子が映っている。その隣にも似たような映像を映す画面があり、ダニエルは二つの画面を見比べる。「ほうほう、純正よりも多少のアルコール入りの方がよいか・・・」

 後ろではガスマスクのようなものを付けた白衣の作業員が数人がかりで話し合いながら複数の粉を調合していた。近くにガスコンロもあり、毒々しい色の液体が煮え立っている。調合済みのクスリは向かい側のテーブルの作業員に渡される。作業員は受け取ったクスリを注射器に詰め、目の前においてある籠の中のドブネズミに突き刺す。ドブネズミは痙攣し、動かなくなる。作業員は肩をすくめ、クスリとドブネズミの死体を床に置かれてあるバケツに捨てる。

 奥のテーブルではクスリの梱包作業が行われていた。粉上のものは袋に小分け、煙草は小さな箱に詰め、乾燥させたものは穴のあいたビニール袋に詰める。されらは全て設置されてある業務用冷蔵庫にしまわれる。


 倉庫の裏口に回ったヒットマン達に警備員が気付いた。「おい、てめえら・・・」そこで警備員の声を銃声がかき消した。警備員はハチの巣になっていた。レッドスパロウズの殺し屋が戸を蹴り開けて中に入る。続いて全員入室し、慌てる作業員を躊躇なく殺していく。粉が中を舞い、視界を悪くする。その中をソマリア系の殺し屋三人が進み、作業台の上の梱包済みの製品を次々とポケットに突っ込む。別の殺し屋は実験中の麻薬の器具を壊した。また別の者は冷蔵庫を撃ち、故障させた。


 ダニエルはなにが起こったか分からないまま隅のほうで麻薬入りのビールを飲んでいたラースキンをせかし、車に乗り込んだ。ラースキンは「クソったれ!」と狂ったように何回も叫びながら運転席に乗り込み、いきなりブレーキを踏んで歌いだす。

 ストレスと麻薬入りビールで自暴自棄になったラースキンは車をわざと大きくふらつかせながら出て、爆速で走る。通りのバイクを突き飛ばし、複数台の車のクラクションを無視してかすむ世界を走り抜ける。


 ラースキンはアイリーン目指して走っていた。彼女が車ごと俺を抱きとめてくれるだろう。ほら、アイリーンが微笑んでる。いやまてよ、車をこのまま走らせたら彼女を轢いてしまう!急ブレーキをかける。

 

 「おい、危ないぞ!早くアクセルを!」とダニエルは目が座っているラースキンを怒鳴りつけた。しかしラースキンは「無事でよかった・・・アイリーン!」というだけであった。

 ダニエルの車は傷だらけで、しかも道路の真ん中で急停車した。後続のトラックが迫ってきて・・・車を突き飛ばした。車は回転しながら近くを走っていたバイクを横転させ、時計屋のショウウィンドウに突っ込んだ。




三日後 リムソンシティ 行政特別区 連邦警察署

 バネッサは警棒を取り出して目の前の容疑者を殴りつける。「吐きな!!あんたが不動産王ゴードンと口論しているところは目撃されているんだ!そして酒場でゴードンを殺したいだって!いい加減にしなさいよ。」容疑者の太った男はそれでも「俺はやってないよ!奴が俺に用心棒の対価を正当に払ってないから奴を攻めただけだ!何回言えば分かる?」と抵抗する。「じゃあ、ミスターKとの繋がり、そしてホームレス街にいたことについてはどうなんだい!?」「俺がカタギもんでねえことは確かだ、ミスターKの仲間だったことも確かだ、ホームレス街を拠点としているフリーランスのヤクの売人がいてよ、そいつからヤクを買っていたことも確かだ、少年期の猫虐待も認める、だが殺しはやってねえぜ。」男は半泣きになりながらも否認を続ける。

 隣の部屋ではダロス警部がやぶれかけの服とズボンを身に着け、無精ひげで顔が覆われている細身で眼光が鋭い男がまくし立てるのを聞いている。「おいおい、てめえ、口の利き方に気を付けろよ。ギャンブル中毒とかヤク中とかごちゃごちゃうるせえんだよ!たしかにそうだがな。だけどそれがどうしたってんだよ!ええ。てっめえのしったこっちゃねえよ。」「で、確認だけど盗みは認めるんだな?」と薄笑いを浮かべてダロス。「ああよ、あいつら金持ちははほとんど、いや全員がけちの詐欺師だ。そして盗品に関してホークと殴り合ったのも確かだ。もちろんクズ野郎のミスターKにも金をかりていたがね。やろう、ただでさえ金がない俺からたっぷり搾り取ろうってんだからクズ野郎だろ?」「ふん、ギャンブルしたいがためにコソ泥して闇金かりて・・・なかなか落ちぶれてんな、爺さんよ。」と言ってダロスは顔を真っ赤にする容疑者に唾を吐きかけた。


 連続殺人事件の合同捜査本部は反社会に関わりのある容疑者を片っ端から連行していた。三人の被害者の特性上反社会に関わりのある者が犯人である可能性が高かった。

 無論犯罪組織の構成員も連行された。ただし、これらの者に関しては犯人は含まれていない可能性が高かったからだ。各組織が下級の構成員を突き出したからだ。犯人が犯罪組織の中にいるとしてもその人物はボスに守られている可能性が高かった。さらに、各組織のつぶし合いも絡んできた。例えばチャイナマフィアとヤクザはダニエルとバウントが仲介した和平決議の結果得た人質をそのまま突き出したのだ。


 ある取調室では二人の警官が中国人クラブ経営者兼ウォンの次男であるチャムを取り調べていた。「お、俺はやってねえよ。確かに親父の付き添いでゴードン不動産王と会ったことはあるぜ。だけど他の奴らは知らん。元強盗など俺の専門外だし、俺らは犯罪仲介人を信用してねえんだ。」父親の威厳は彼に受け継がれていなかった。彼は二人の警官を前にして怖気づいていた。早口に慌てたように自分の無罪を主張するだけだ。「ヤクザの連中に嵌められたんだ。俺らのビジネスを邪魔しようと連中はゴードンを殺した!」「ほかの二人の殺人について説明できないだろうがよ!」との警官の指摘に動揺した様子でチャムは「そ、それは・・・ああ、そうだ!カモフラージュにちげえねえ。適当にホームレスと犯罪仲介人を殺したんだよ。ゴードン以外に人間は。だ、誰でもよかったにちがいねえ、なあ、そうだろう、刑事さんよ。」

 隣の部屋では婦警がヤクザ街の半ぐれの頭目であるキトウとにらみ合っていた。「だからよ、俺はやってねえよ。」「でもあなたはヤクザ街でもっとも残酷な殺し屋集団のリーダーなんでしょ?」「証拠はあるんかい。ゴラアア、ふざけんじゃねえよ。」「一つ忠告しておくわ。」キトウに銃を向けながら婦警は言う。「あなたの取り調べ中の態度は我々が起訴する人物を選ぶ際の選考基準になるわよ。」「クソったれがよ!!」


 ロックウェルはホーバンを伴ってバウントの部屋に入る。バウントが作り笑いで出迎える。「まあ、お座り下さい。」

 「ロックウェルさん、まさかその方面にも人脈があったとはね。」皮肉めいた口調でバウントが言うと、ロックウェルは「なになに、大したことではありませんよ。連邦警察支局さんの方が得意分野ではありませんかね?」と皮肉で応戦する。だがそのピリピリした空気を打ち破るようにバウントとホーバンが挨拶を交わす。「ホーバンさん、すみませんな。わざわざお越しいただいて。ところで連続殺人事件に関する情報を持ってきていただいたとか・・・」「ええ、といっても参考になるかさえ分からない話なんですが・・・」「構いませんよ。まずはお話しください。」「ええ、では・・・」

 「実はね、私の周りに気になる人物がいるんですよ。」「ほうほう。」「それは裏社会で有名な情報屋であるピンキーマスクなんですな。」「ピンキーマスク?」「ええ。彼ね、カーナックと言う人物、それから二人の強盗ロンドとホークの情報について何か知らないか、と聞いてきたんですよ。その人物に関する情報を仕入れたいとね。その他私がオーナーとなっている複数のバーやクラブの客にも訪ねて回っていた。数か月前からね。」「何ですと!」「カーナック。K・・・・」とロックウェルがつぶやく。「ピンキーマスクの依頼人は分かりますか?」「ところが分からねえんですよ。依頼人から教えるな、と言われているとか言ってましたがね。」「よし、令状をとるぞ。」



五日後 リムソンシティ 行政特別区 リムソン総合病院

 ラースキンは目を開けた。二人の看護師がレントゲン写真を撮って解析していた。「複雑骨折は治りかけているようね。」「ええ。気になるのは多く検出された違法薬物だけど・・・」「ああ、患者様が起きたわ!」「まあ、先生をお呼びしますわ。」

 白衣を着たオールバックの銀髪の医者が到着した。「やあ、起きたかね?状況はダニエルから聞いている。大変だったね。私、グラントが君の体の状態を説明しよう。」グラント配下の事を説明してくれた。まずラースキンの下半身の複雑骨折があったがオペで治りかけていること、上半身は強い打撲の状態であって背骨にひびが入っていたこと、顔にガラス片が刺さっていたが全て除去してもう少しで皮膚が元通りになること、そして最後に体中の複数の血液から多くの種類の高濃度の違法薬物とアルコールが検出されたこと、それが脳機能の低下を引き起こしていることを述べた。

 「やあ、おかげで回復したよ。」と声がして、片手に包帯を巻いたダニエルが入室した。「おいおい、小僧、お前さんの運転のおかげで俺は腕を折ったぞ。」と不機嫌そうなダニエル。だが、そのダニエルにグラントは厳しい口調で追及する。「ダニエル、お前この青年に違法薬物を使用させたな?」「ああ。私の実験の意味合いもあったが、こいつはいま鬱状態でね。たまにはハイにさせてやらねえと・・・な?」グラントは冷笑した。「相変わらずだね、君は・・・まあ、君の裏ビジネスについては私は何も知らんし、何も聞かなかった。だけど、その裏ビジネスの結果生じたことの尻ぬぐいに私を使うのはやめてくれないか?」「おいおい、冷たいな。あんたは俺の同期で、医学生時代は苦楽をともに・・・」「昔は関係ないよ。ともかく私はもう疲れたよ。それからこの青年に違法薬物はしようさせないほうがいいね。」ぶっきらぼうに言うとグラントは出て言ってしまった。

「さてと、ラースキン君・・・君は当分この病院にいて貰おう。謹慎処分だ。私の運転手も、私のボディガードも任せられん。安心しろ。新しい薬物は随時届けてやるから。」そう言ってダニエルは出て行った。

 ラースキンは自分の惨めな姿を見下ろした。体中と顔に包帯が巻いてあり、節々が痛い。両腕に点滴がついていた。別れた妻子がこれを見たらなんという反応をするだろう。そして、こうなったいきさつを知ったら何という反応をするだろう。きっと鼻で笑い、軽蔑されるだろう。妻の言葉を想像する。[ふん、アル中の次はヤク中ね。あんたは警察官になって変わるといったけど相変わらずね。]全くその通りだ。アイリーンに会えないストレスを殺しや麻薬というろくでもないもので紛らわしている。妻子に暴力をふるっていた頃よりも落ちぶれているじゃないか!全く自分が嫌になる。いっそ致死量の薬物をダニエルに注射してもらおうか。いや、ダメだ。奴は俺が死ぬことを許してくれないだろう。奴にとって俺は実験体だ。奴の開発した麻薬の「効能」を確かめるためのモルモットにすぎない。「くそったれ!!」と叫ぶ。

 「どうかしたのかしら?」と声がした。聞き覚えのある懐かしい声だ。「アイリーン!」看護服を着たアイリーンが入室する。「久しぶりね。」ラースキンは自分でも惨めだと思ったが、泣いてしまった。元軍人の警官はかよわい女性の前で赤ん坊のように泣いてしまった。アイリーンは明るく微笑むとラースキンを抱き寄せた。ラースキンは幸福感に包まれ、しばらく泣いていた。

 十分後、グラント医師は涙の跡をつけてほほ笑みながら寝るラースキンの姿を見出した。先ほど点滴を変えさせにやった看護師が励ましたのだろうか。



三日前 リムソンシティ ダック地区 バー「ウルフガン」

 バネッサは二人の部下を連れて入店した。部下はバネッサをいやらしい目つきで見る客たちに対してライフルを見せつけて牽制する。彼らの体格と彼らの危険な目つき、そして悪徳警官としての一行のオーラを感じ取った客達は肩をすくめて目をそらす。

 情報屋のピンキーマスクは堂々としていた。多くの猛者たちと情報を巡って戦ってきた裏社会の情報屋としての力のようなものが感じられた。バネッサはさっそく席につくと、いきなりピンキーマスクの前に財布を投げ出す。「あなたの別の依頼人に関わる質問よ。その依頼人から口止め料をもらっているかもしれないけど、こっちはその倍の額を出せるわ。では、質問に答えて頂戴ね。」「ああ。分かった。何が知りたい?」とピンキーマスク。こういったやり取りは慣れているのだろう。「あなたに元強盗のロンドとホーク、そしてカーナックと言う人物について調べて欲しいと依頼をしたのは誰かしら?」ピンキーマスクは何やら考えているようだが、ピンクの覆面の下の表情はうかがえない。そしていきなり体を激しく揺らす。「フハハハハハハハハハハハ・・・・・」笑いだした。その狂気的な笑い声は激しさを増す「はっはっはははははははは!!!!」さすがのバネッサも驚いている。立ち上がってピストルを取り出した。二人の部下も臨戦態勢に入る。「はっはっは、遂にこの時がきたか!」そう叫ぶとピンキーマスクは腰からピストルを取り出し、自分の頭に当てた。バネッサは息をのんだ。二人の部下が飛び掛かる。テーブルが倒れる。銃声が響く。

 「お前さん、署に来てもらおうか!」片腕から血を流しながら一人の部下が自殺に失敗したピンキーマスクを取り押さえてつぶやく。


 バネッサは緊張しながら取り調べを開始した。「死刑でいいぜ!死刑にしてくれ!!」と騒ぐピンキーマスクは手錠で固く椅子に固定されていた。「さあ、残念かもしれないけどあんたの隠していた素顔を見せてもらうわ。」バネッサは暴れるピンキーマスクを警棒で押さえつけながら目で戸口にいる巡査に合図する。巡査は近づいてくると、ピンキーマスクの覆面を引っ張った。「キャッ!」「ウオッ!」バネッサと巡査は思わずのけぞった。そして固まる。ピンキーマスクの素顔はとても酷い状態であった。まず全体的にただれていた。鼻や唇は原型をとどめず、片目はつぶれていた。髪の毛は抜け落ちており、その代わり皮が剥け、でこぼこした頭皮があらわになっていた。眉毛もなく、本来眉毛がある位置には赤黒いこぶがついている、そのこぶから黄色い膿がにじみ出ていた。

 「ふん、ひでえ顔だろ?俺がこうなった理由が、俺があの三人のクズを始末した理由さ。」と言って観念したピンキーマスクは語り始めた。


 俺の本名はマイクだ。この際それはどうでもよいだろうがな。俺はよ、もともとの職業は情報屋じぇねえ。強盗だ。そう、ロンドとホークと同じだ。だが悔しいことに強盗としては奴らの方が上だ。当時・・・つってもかなり昔になるがね・・・俺はアマチュア強盗だった。俺のガールフレンドといっしょにケチケチシノギを削っていたよ。警備員がいない個人商店を襲ってな、飯を食う金を稼いでいたんだぜ。俺らカップルはどうにか食いつないでいたんだ。だがアマチュア強盗だけでは食っていけない。おまけに全国を逃げながら強盗していたから家もねえ。安いボロモーテル泊まりだ。だから俺らのようなクズでも受け入れてもらえるこの街にやってきた。そして副業を始めたよ。俺ら二人は免許があったからリムソンデイリーキャブでバイトを始めた。だがあの可愛いキティが、俺のガールフレンドが、客に暴行された。しかもその客はいわゆる「お得意さん」だった。社長の友人である上院議員の息子だったんだよ。だから会社側はその案件を調べようとしなかった。あのくそ社長が労働組合のギャングどもにびびって挙句のはてにはビィルヘルムに会社を売って逃亡したと知ったときにはせいせいしたものだぜ。ともかく俺らは会社から逃げ出した。だけど受け入れ先はいっぱいあったんだ。カーナックと知り合ったからな。ミスターKと言われていた奴さ。奴はその頃から裏社会の仕事を仲介していた。俺たちは沢山の仕事を行った。ミスター・マイルズ(あんたらは知らんかもしれんな。ダニエルが操ったクーデターで死んだ冷酷なナイトクラブ経営者だよ。ダニエルが奴の手下を操るのは簡単だった。奴の手下は皆不満がたまっていて操りやすかったからだよ。)のもとで麻薬の運び屋をやった。調査会社のカートソンのもとで調査任務もやった。その他借金取り、ポルノ映画セットの警備、お前のような悪徳警官の依頼で賞金稼ぎもやっていたぜ。これらは全部カーナックが仲介してくれたのさ。で、ある時奴は非常においしい任務を持ってきた。強盗任務だ。俺らの強盗としての才能に磨きをかけるチャンスだと言ってな、プロの強盗と引き合わせてくれた。俺らはバカだったな・・・あの時の二人の様子に気づくべきだった。奴らは残忍なプロの強盗だった。ホークとロンドだよ。俺らはメキシコ人の運び屋が運転するトラックを待ち伏せて襲い、麻薬を強奪した。その事件で運転手は死んだがたぶん報道はされていないだろう。カーナックの知り合いの死体処理業者がうまく片付けてくれたようだからな。俺らはその時興奮していた。大バカ者さ!けちけち稼いでいた俺らが遂に大量の麻薬を手に入れた!マイルズに売りつけて大儲けできるぞ!そのことで頭がいっぱいだったのさ。だからカーナックと二人の強盗の裏切りに対応できなかった。アジトで山分けの相談をしようとした時、いきなりカーナックが俺を撃ってきやがった!キモイ笑みを浮かべながらな。そして最悪なのはキティがレイプされたことだ。あの豚どもはキティの上にのしかかった。顔を撃たれた俺は激痛で気絶しそうになっていて、何もできなかった!ゴミがキティの上で暴れているのをただ見ながら意識を失う事しかできなかったのさ。で、俺が目を覚ますと周りが暑かった。何と奴らはアジトに火を放ったんだ。俺は逃げ出した。恥ずかしいことにその時俺はキティの事を考えず逃げ出した。俺が最後に見たのは奴らが「これで安心だ。」と高笑いしながら車に乗り込む様子だ。俺は復讐を誓った。だが奴らを見ながら俺はまた気絶してしまったのさ。全身にやけどを負っていたし、銃弾が沢山顔にあったからな。顔をぐちゃぐちゃにされたのさ。で、起きるとキティの事を思い出した。それまで忘れていたなんて、最低な男だろう、笑ってくれ。唾を吐きかけてくれ。火事は収まっていた。で、焼け跡に行ってみるとキティの死体を発見したのさ。俺は号泣したよ。俺と苦楽を分かち合った女が、俺が無力なばっかりに無残な焼け焦げ死体として横たわっていた。せめてもの償いはキティをレイプした豚どもに制裁を下すことだ。俺は奴らを見つけ出すために情報収集した。奴らは名前を変えたり、正体をかくしたりしていたが、長い年月をかけて俺はやっと見つけ出した。カーナックとロンドとホーク。この三人を始末した。俺が、そしてキティが味わったのと同等の苦痛を味わわせてやったよ。さて、あんたらがあの三人の男がどんだけゲスいか分かってくれたら俺は満足さ。


 話し終わると、彼は強く歯をかんだ。小さな「ごりっ」と言う音がして、数秒後彼は痙攣した。顔色が青ざめていく。バネッサは彼の口を開いた。入れ歯が取れていた、そしてその間から紫色の粉が唾に溶けて喉の奥に流れていく。なんらかの毒薬だろう。バーで自殺を防がれることも想定していたらしい。

 こうして連続殺人事件の犯人もまた死体となったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ