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ブラックストリート  作者: エッグ・ティーマン
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裏事情

2018年 リムソンシティ郊外 ムンバク探偵事務所

 リムソン市警刑事部長のキャロルは周囲を見回した後、ラースキン巡査の後について事務所に足を踏み入れる。

 迎え入れたムンバクは丁寧な口調で「当事務所をご紹介いただき、ありがとうございます。」とラースキンに言った後、キャロルの方を向いて一礼し、「要件をお聞きしましょう。」と言う。

 キャロルの話を聞いたムンバクはしばらく考えた後、少し身を乗り出して言う。「謎に包まれた仲介屋のミスターKには、我々も興味があり注視しています。キャロル様はラースキン様からアイリーンさんを探す依頼の話はきいていますかな?」キャロルはラースキンを少し睨みながら答える。「ええ。我々がそこまでの捜査を命じていないにも関わらず。」ムンバクはラースキンの苦り切った顔を一瞬眺めてから軽く笑い、続ける。「その依頼に際してもミスターKが大きな鍵を握っている可能性が高いのでね。」「はい。この好色男が全て先ほど白状しましたよ。」とキャロル。

 ラースキンは、ムンバクを紹介するに当たってムンバクと出会うまでの経緯を全て白状した。彼は上層部から捜査停止命令および停職を命じられた後も個人的にアイリーンと会っていたこと、アイリーンがギャングに誘拐されたこと、ギャングのところにアカハネ刑事・ヤクザと乗り込んだこと、ギャングの証言から依頼の仲介人物がミスターKであると知ったこと、強盗オスカーと共にミスターKのアジトへ乗り込んで死体を発見したこと・・・全て白状した。

 ムンバクはさらにまた考えているようだった。「で、ミスターKの捜査は連邦警察が行わない方針であるうえリムソン市警の署長もアンタッチャブル事案と考えているということでしょうな。」と数分後に口を開いて確認する。「ええ、そのようですね。ミスターKには大きな秘密がありそうですが・・・」とキャロル。「ええ。私が今考えているところによると、ミスターKは連邦警察やリムソン市警を動かすほどの力を持っている何者かと関係があった、具体的にはその者の顧客だった可能性が高いですね。」とムンバクが言う。その後彼は、秘書のジュディを呼びつけた。「済まないが、君の妹に電話してくれないか。彼女の力が必要かもしれない。」ジュディは「かしこまりました。」とだけ言うと奥の部屋に行き、電話をかけているようだった。

 

 数十分後、探偵事務所にジュディの姉が姿を現す。キャロルもラースキンも驚く。姿を見せたのはラースキンの同僚であるマーガレット巡査だ。



数時間前 リムソンシティ 中国人街

 リドル保安官は部下二名を引き連れて、約束の場所に向かう。チャイナタウンのはずれにある小さな酒場だ。

 店は閉まっていたが、彼は裏口の警備員に合図して中に入る。中にも警備員がおり、武器を渡すよう求められた。リドルは部下二人に武器を出すよう指示し、自分自身も武器を取り出して渡す。

 別の警備員に案内されて奥の部屋に行った一行を、行方不明とされているチャイナマフィアのボスマナンが迎える。マナンは鋭いまなざしでリドルを見つめると口を開く。「お掛けなさい。」

 「あんたが新しい保安官だね?」「ええ、ウォンさんを通じて私の情報は提供させていただきましたが顔を合わせるのは初めてですな?」とリドルは冷や汗を浮かべながら言う。「あんた・・・バウントの操り人形だろ。」とマナン。あきらかに動揺したリドルに対して、マナンは追い打ちをかけるように続ける。「あんたはどう考えても保安官の器じゃないね。ボナードは卑怯者ではあったが、もう少し威厳のようなものがあったわよ。」リドルは少し気を静めて言う。「実は・・・」彼は頭をフル回転させてあるひとつの考えにたどり着いた。その考えは彼を安心させたようだった。冷や汗が引いていく。冷静そのものの態度で彼は言う。「ええ・・実は前の保安官事務所とは違い、今回の保安官事務所は背後に警察関係者がおります。」「で、私はそいつらの分も賄賂を渡さなければいけないのかい?」と不機嫌そうにマナン。だがリドルには動揺する様子はない。「いいえ。我々はあなたも既に見抜かれたように連邦警察とあなたとのつなぎ役にすぎません。さらに言えば、連邦警察でさえつなぎ役です。あなたは連邦警察にも我々にも賄賂を払う必要はありません。」「何だい?まさかこの地域をつぶそうとしているあの独裁女に払うわけじゃないだろうね。」「市長ではありません。警察関係者ではありますが、ボナードや私、バウントよりもはるかに力を持った者が賄賂と引き換えにあなた方をお守りします。」マナンは何かを察したようだ。「そうか・・・私はジェファソンシティとの繋がりができるわけだね。バウントはクソ爺ではあるけど、使えるじゃないか。」


二日後 リムソンシティ 行政特別区 市役所 カフェテリア

 マーガレットはリムソン市警署長ロックウェルの愛人、風俗嬢、そしてムンバクの使う情報屋でもあったようだ。彼女は今夜ベッドで署長から情報を聞き出す予定だという。

 一方ラースキンはバウントの動向を探るために、バネッサ警部と一対一で会っていた。バネッサの方はオスカーからの賄賂の支払いがないことについてラースキンを詰問するためにやってきていた。ラースキンもオスカーに連絡を取ろうとしたが、どうやら彼を恐れて逃げ出したようだ。連絡がつかないし、情報屋のピンキーマスクも彼は隣町に逃げたようだと話していた。バネッサは溜息をつき、「奴の分はあんたが払いな。」と言う。これで彼女にバウントの捜査に協力してもらうことが睦ましくなる。

 案の定彼女は頼みを聞くと、不機嫌そうに「金さえ払ってくれればねえ。」と言う。彼は溜息をつくと辞し、ニューカブキチョーに向かう。


四時間後 ニューカブキチョー ムサシノクラブ

 オザキはラースキンの金の工面の頼みをきくと舌なめずりする。やはりラースキンを何かに利用するようだ。「会わせたい人がいる。」と言うと、彼はムサシノクラブの事務室に行き、電話をかけているようだ。


 数分後にムサシノクラブの前にSUVがとまる。四台の装甲車と五台のバイクに挟まれている。その車装甲車とバイクから下りてきた人々は皆入れ墨だらけだ。首元から、車輪に竜の頭がついたデザインの金の飾りを下げている。日本最大のヤクザ連合組織「善輪会」の印だ。この組織の支部は武藤会とともにニューカブキチョーを支配している。そしてそのアメリカ支部のリーダーサカモトは、禿げあがった頭に入れ墨を入れている筋肉質の老人だ。彼はキモノを着て、両手にピストルを持ち、腰からは日本刀を下げる。クラブ側からは黒スーツの警備員が二十人程迎えに出た。


 サカモトが入室すると、オザキはラースキンとサカモトを引き合わせた後に退室した。サカモトは単刀直入に切り出した。「あんたは元軍人だよな。」「ええ、そうですが・・・」嫌な予感がした。そしてその次の瞬間予想は的中。サカモトは真顔で「殺しの依頼をしたい。ターゲットはパン・ドク組の新頭目ラ・スジュンだ。依頼を受けるか死かだぞ。」と言ってのけたのだ。彼には殺しの依頼を受けるしか選択肢がない。

 

翌日 ウェストランド 行政特別区

 町は熱狂に包まれている。特に革新共和党所属の議員・市民にとってはそうだ。彼らは偉大なこの国の指導者かつ革新共和党の英雄であるアーノルド大統領を待ちわびていた。ランド州議会の革新共和党党首のバーナードとランド州知事のメアリー、ウェストランド市長のアレクセイはここ数日毎日会食をして計画を立てている。また大統領に取り入りたい富豪たちは、大統領主催のパーティーを楽しみにしていた。彼らはパーティーにあたって政府事業への参入を仮定した計画書や献金を用意させていた。最も熱心な富豪は革新共和党支持者で、政府に好意的な新聞・テレビ・動画配信を行っている「ランド速報」の社長バークレイだ。彼は取材の申し込みをいち早く州政府を通じて大統領府にとりつけた。

 だがもちろんウェストランド内にはアーノルドの反対派もいる。彼らは抗議集会の開催を計画して準備する。保守共和党、全米社会主義革新党、民主主義政治党、立憲民主党など他政党の支持者の他全米キリスト革命軍、アメリカグラス協会、アンチフェミニストの会などの圧力団体の会員達も集会やデモを計画していた。

 ランド州に本部があるアメリカファシズム伝導軍も例外ではない。この極右団体はネオナチのテロ組織「ファシズム革命軍」から離脱したファシスト達で構成され、またネオナチギャングの「ナチス・ナチス・チーア」のメンバーも多数所属している。そのため、危険団体として公安軍警察や連邦警察の監視下にある団体である。その組織のうち最も危険なメンバーとされるリーダーのカート・ニールは、腹心かつボディガードのウェストランド元警察官ボックスマンを呼びつけた。彼はボックスマンに対して二挺の拳銃を渡し、言う。「特注改造品だ。」ボックスマンは無言で受け取ると、それを大きな黒いバッグに入れて部屋を出た。彼が向かったのは階下にあるカフェテリアだ。カフェテリアの隅のテーブルに第二次世界大戦でドイツを支配していた軍事組織「ナチス征服軍」の紋章を付けた人相の悪い二人の大男が食事をしていた。彼らこそギャング組織「ナチス・ナチス・チーア」のメンバーだ。ボックスマンはその二人に近づき、「少し渡したいもんがあるんだが」といって席についた。



四日後 リムソンシティ チャイナタウン

 ラースキンは情報屋のピンキーマスクがリドルから売ってもらったウォンファミリーの許可証を手にウォンファミリーのテリトリーに足を踏み入れた。道端から歩んできたチャイナマフィアに許可証を見せ、彼の案内でウォンの手下が運営する中華風の宿に入る。許可証を持っている者用のVIPルームに入る。

 彼はロココ様式の椅子に腰かけ、宿の女が焚くお香の匂いを嗅ぎながらこっそりと持ち出した業務用タブレットで殺しの対象の情報を確認する。韓国ギャングの「ラ・スジュン」はチャイナマフィアの警備員的役割を担うストリートギャング「パン・ドク組」の新しいリーダーだ。(ちなみに彼の前任者は不動産会社ビルへのカチコミの際に警察に抵抗した証券会社を裏から操っていた疑惑で連邦警察支局管理下の拘置所に入れられていた。)少年時代に強盗と性的暴行,麻薬所持での逮捕歴がある男で、現在は複数の殺人事件への関与が疑われている。無論リムソン市警の監視対象リストにも入っている。

 彼の住むマンションはウォンファミリーのテリトリー内にあり、恐らくチャイナマフィアからの指示はウォンを通じて受けていると思われる。

マンションは目と鼻の先にあり、宿から二つの建物を挟んで隣だ。彼はそこの八階の半分を居住場所としているという。角度を考慮すれば、この部屋から狙い撃ちできる。特殊なアサルトライフルを設置し、スコープを覗く。対象者の姿は見えないが、パン・ドク組の連中がベランダでピストル片手に雑談している。部屋の中にも、複数の組員が見える。そして数時間後に、遂にベランダにターゲットらしき人物が現れた。

 スコープで確認すると、やはり彼だ。椅子を運ばせて腰かけ、ワインをつがせて飲んでいるようだ。「小者ギャングはそれらしくしてりゃいいんだよ。カッコつけんな。」とつぶやくと、ラースキンはライフルで標準を合わせて対象の脳を撃ち抜いた。血しぶきが上がった。


三週間前 ジェファソンシティ 行政特別区 警察庁

 警察長官ハウスラーは外務省事務次長と数分間にらみ合う。「フランス当局から我々のところには情報が来ておりませんが。」とハウスラーは同じ主張を繰り返す。「本当ですね?」と外務省側もしつこく確認する。「ええ。先ほどから申し上げているようにですね、我々警察の把握している事件で関連のものはありません。」「でしたら・・・これは後程文書も送付させていただきますが・・・緊急にフランス人諜報員の捜査本部を設置して欲しいのですよ。」わざとらしい溜息をつくハウスラー。「まだ事件が起こったか、確定していない案件には割ける人材がないんですよ。」そしてまた両者は静かににらみ合う。その沈黙を卓上電話の音が破った。ハウスラーは電話機をとる。すると、彼が最も嫌っている上司の声がする。「君のところに外務省関係者がいないかね?」と問う声は司法長官ファットの声にちがいない。内心で舌打ちをしながらハウスラーは素っ気なく「来ていますよ。」

と事実だけを答えた。ファットは「今外務省事務室から申し入れがあった。警察内部に緊急の捜査本部を設置して、フランス政府の公安関係者であるブリアンの失踪に関する捜査本部を設置して欲しいそうだ。この要請に基づき、私は捜査本部の設置を命じる。捜査本部はメディアは公表せず秘密裡に動かすように。」と言うと、返事の隙を与えずに電話を切る。ハウスラーは舌打ちをして外務省事務次長を振り返り、「今上司命令がありました。あなたがたの要請通り捜査本部を設置します。」とぶっきらぼうに告げる。


 

四週間後 リムソンシティ 行政特別区 リムソン市警

 ラースキンはバネッサから送られて来た複数の写真を見た。そして驚くことになる。

 写真は恐らく面会室の隠しカメラで撮ったもので、バウント支局長と複数の人物が会っている様子だ。また盗聴器の音声データによると、それらの人物はバウントよりも立場が高いようだ。バウントはそれらの人物に対して丁寧な口調で話すのだが、相手は尊大な口調で話しているのだ。音声データのうち、ラースキンが最も驚いたのは以下の会話だ。


謎の高官「バウント君、久しぶりだね。」

バウント「ご無沙汰しておりました、猊下。」

高官「ところで、集金はうまくいっているかね?」

バウント「ええ、順調です。猊下もご存じの通りこの街にはいい金ずるがたくさんおりましてね。」

高官「はっはっは!そして金ずるが成長しているようだね。」

バウント「ええ、仰る通りですとも、猊下。保安官事務所の乗っ取りに成功しましてね、奴らとつるんでいる中国人どもから金を巻き上げていますよ。」

高官「ふむ・・・やはりお前をここに送り込んで正解だったな。」

バウント「身に余るお言葉、光栄です。」

高官「ところで連続殺人の捜査だが、うまく立ち回れそうかい?」

バウント「今のところ問題はありません。」

高官「ああ、それはよかった。なにせ我々は盟友ビィルヘルムの機嫌を損ねたくないんでね。しばらくは彼に配慮してやる必要がある。いつか切り捨てるかもしれんが、今はまだそのときじゃない。」

バウント「承知しました。」

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