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ブラックストリート  作者: エッグ・ティーマン
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巨大な疑惑

 2018年 リムソンシティ ホーネット地区

 ホーバンは少し驚いた様子でラースキンを見つめる。「まさかオザキ氏とあんたが一緒に行動しているとはね。まあ、お二人ともそこにかけてくだせえ。」とホーバンは目の前のソファを指さす。「知り合いか?」オザキが小声で聞いてきたのでラースキンは小声でリムソン市警幹部に賄賂と風俗を提供しているホーバンを紹介した。オザキは「アカハネから話は聞いているぜ。リムソン市警にたかるハエ野郎だと言っていたな。」とつぶやく。

 「さてと、オザキさん、ご用件を伺いましょうか?」と愛想笑いを浮かべてホーバン。オザキは「用があるのは主にこいつだよ。俺はこいつとの付き合いで来た。」としれっと言う。内心(お前とは友達でもなんでもねえ。)と思ったラースキンであったが、それについては口に出さずに頷いてホーバンに「二つ聞きたいことがあります。一つ、まずアイリーンの行方について知らないか、二つ、連邦警察のバウント副支局長となにか関係があるか。」と問うた。ホーバンは「なるほどな・・・二つとも期待通りの返事にならないかもしれねえが、正直に答えよう。ひとつめの件に関してだが、全く分からない。地下格闘技場における接待嬢の花形であった彼女については俺も戻ってきて欲しいと思っているが、俺の情報網を用いても手がかりはつかめなかった。二つ目に関してだが、バウントのことはよく知らん。つまり、我々とは関わりがない。だが・・・」ホーバンはにやり、として続ける。「あんたらリムソン市警にとって有益な情報を教えてやる。我々の運営資金の一部は保安官事務所が負担してくれている。この情報はマーガレットを通じてロックウェルの耳にも入れているが、マーガレットからしか情報が入ってこないから、ロックウェルは信ぴょう性に疑いを持っている。あんたからも上層部に保安官事務所の話を伝えておいてくれよ。」ラースキンは鋭く指摘する。「なぜパトロンである保安官事務所のことを安易にリムソン市警に伝えようと?」これには以外にもマーガレットが答える。「私が市警の奥深くまで潜れるためよ。」「というと?」と不思議そうにオザキ。マーガレットは妖艶な笑みを演出して言う。「私はいま、ロックウェルの愛人なんです。でも、まだリムソン市警の機密情報は教えてもらえない。」「そういうことか。つまり、そのお嬢さんはあんたのスパイというわけだね、ホーバンさん。」とオザキ。「さすがですね、その通りですよ。ロックウェル達にはもっとマーガレットを信用して欲しい。願わくばマーガレット自身上層部入りして欲しいのですよ。」とホーバンが言う。抜け目のない奴め、とラースキンは思う。こいつは小心者のくせに野心家だ。リムソン市警を操ろうとしている。

 

 同時刻 リムソンシティ 行政特別区 連邦警察リムソン支局

 バネッサ警部の報告をきいてバウント副支局長は「奴らは何か隠しているな。」とつぶやく。バネッサが答える。「ええ。彼らは捜査されては困る事情を抱えているのでしょう。」バウントはにやりと笑い、「ならば余計重点的にゴードン社長について調べてみないとな。」と言う。

 彼らは連続殺人事件の捜査に関して、保安官事務所から申し入れがあったことについて話していた。バネッサは被害者の一人である富豪のゴードン不動産王の捜査を保安官事務所がどの捜査機関よりも先んじて行っていたことを怪しいと睨んでいた。バウントはその情報を聞き、保安官事務所の傷を探ろうとしているのだ。

 「まあよい。この件に関しては私の雇った探偵が送り込んだスパイが調べてくれるだろう。」とバウント。彼の頭には先日雇った大物探偵であるダイムラーの顔があった。


 バネッサは会議室に戻ると、捜査員が報告した情報を整理する。

 まず被害者の一人目は不動産王ゴードンだ。彼に関しては保安官事務所との繋がりが気になるが、今分かっている時点の情報では女遊びが趣味だったらしい。殺された日もとあるバーで女をあさるために外出したという。彼の死体を発見したバーの経営者は裏口から銃声のようなものが聞こえ、駆け付けたところ死体を発見したと語る。二人目の被害者である犯罪仲介人ミスターKについてはあまりにも情報が少ないが、多数の情報屋の情報から判断すると裏社会で大きな影響力を持つ犯罪仲介業者だという。また一緒に殺されていた者たちの身元は判明している。彼らは各地で指名手配されているプロの強盗だという。今回手を組んで強盗を行ったらしく、ミスターKのところで利益の山分けを計画していた可能性が高い。(実を言うと、強盗についてはオスカーが情報提供した。彼自身山分けのために強盗のプランナーであるミスターKを訪れて死体を発見した。だがバネッサは隣のアパートの管理人を買収して彼を第一発見者に仕立て上げた。)そしてホームレス街で見つかった元強盗のホーク。ホームレス仲間によると、逮捕から狂い始めた人生を元に戻そうとしたが失敗した、と語っていたらしい。また彼が収監されていた刑務所の刑務官の話によると、プリズンギャングのメンバーに奴隷のようにこき使われていたという。その苦しい生活の中で彼は反省し、出所時には涙さえ流したらしい。

 バネッサは煙草の煙を吐きながら(会議室は禁煙エリアであったが、バネッサはおかまいなしであった。)、イラついたようにつぶやいた。「つまり進展はない、と。」


四日後 リムソンシティ 行政特別区 バーネット刑務所

 ラースキンは、緊張しながら刑務官に案内されて面会室に入る。そこには既に面会相手が待っていた。「何の用だ。」といきなり問うスキンヘッドの中華系の男性。顔を入れ墨が覆う。耳には金のイヤリングをつける。彼は脱税の容疑で逮捕された中国の外資企業の支社長だ。チャイナタウンに拠点をかまえており、チャイナマフィアの支援を受けていた。ラースキンは、睨みつける相手の視線をものともせずに「マナンに俺を繋げてくれ。」と言う。マナンはチャイナタウンにおける最高権力者の女性だ。彼女は表向き中国人の弁護士であったが、裏では多数のチャイナマフィアのファミリーをまとめあげてその盟主として頂点に君臨している。ラースキンは彼女からバウントの情報を得ようとしていた。だが、面会した囚人は言う。「俺やチャイナマフィアにとって何のメリットがある?」ラースキンは息を吸うと言う。「ヤクザどもから手を引かせる。」おおきな賭けだ。ラースキンはオザキと取引しようとしていた。オザキの黒人街侵略に協力する見返りにチャイナタウンを諦めさせようと思ったのだ。ラースキンがそのことも加えて言うと、しばし囚人は考え込む。「確実にヤクザを説得できる保証はないだろう。」「いや、確実に・・・」「いいか、あんたがいくら約束しようと確実ではない!」刑務官が警戒して銃に手をかけるほどの大声をあげる囚人。

 ラースキンは少し落ち込み、「邪魔して申し訳ない。」と言って席を立つ。だが立ち去ろうとするラースキンの背中にいきなり声をかける囚人。「だが、別のことをしてもらおうか。」と囚人。「それと引き換えにあんたをチャイナマフィアの連中に紹介しておくよ。」「何をやればいい?」ときいたラースキンに対して支社長は笑って答える。「イタリア人から俺の所有する店の権利書を取り返してほしい。」

 

 二週間後 ジェファソンシティ 行政特別区 ホワイトキャッスル

 ジェファソンシティの名物のひとつである通称「ホワイトキャッスル」にはアメリカ共和国の最高権力者が住んでいる。すなわちアメリカ共和国大統領の公邸である。

 アーノルド大統領はホワイトキャッスルの面会室に通された客を出迎えた。「わざわざすまないね、ファット長官。」

 彼が招いていたのはアメリカ共和国政府の司法長官であるファットだ。全ての長官級の高官の中で最もアーノルドの信用が厚いといわれている。彼は元検察官の男で、その後ランド州知事、上院議員、下院議員、ジェファソンシティ市長を経てアーノルド政権の政務監査局長となった。その後アーノルド政権発足三か月後に病死したイリアナ司法長官にかわって彼が司法長官も兼任することとなった。アーノルドは彼のまっすぐな性格を信用していた。彼なら厳正かつ冷静な仕事が求められる司法長官の仕事に向いていると考えた。

 やはり彼の仕事は期待通りのものだった。彼はアーノルド大統領との間だけの秘密である、ある捜査に対して結果を出した。「ケリー副大統領はやはりビィルヘルム・ドロゼンバーグの両名と繋がりがありました。三人はビィルヘルムの所有するロイヤルワシントンカフェにて密会していました。これは検察院に連絡してよろしいでしょう。」どのような高い地位にあろうとも忖度抜きで徹底究明するのがファットである。今回アーノルドは大物ギャングであるダスケも加入する投資クラブ「ドラゴンクラブ」の捜査を進めるにつれて、このクラブのメンバーであるビィルヘルムやドロゼンバーグ元副大統領と現副大統領のケリー女史との関係を疑うようになる。このような政権の大物の疑惑の究明にファットほど役に立つ人材はいない。ファットはしり込みする警察長官を叱咤激励し(司法省の下に警察庁があった)、捜査を進めさせたのだ。

 だがアーノルドは申し訳なさそうな顔でファットを振り返り、言う。「お手柄だよ。検察院長に手紙を出しておく。(アメリカ共和国の制度では検察院という検察組織は政府からも、議会からも、裁判所からも独立した権力であった。犯罪容疑者の起訴は彼らの判断で行われるため、行政組織は犯罪容疑について検察院の情報を送り、検察の判断にゆだねなければならない。)すまないがね、もうひとつ捜査してほしいことがあるんだよ。」そう言ってアーノルドは省庁に関わらず全ての捜査機関が加盟する「大統領府捜査調整委員会」の大規模収賄疑惑の捜査を命じたのだった。


8日前 リムソンシティ モンロー地区

 リムソンシティの中心近くのこの一帯はシチリア系イタリアンマフィア「モトリオールファミリー」の支配下にある。彼らは主に不動産・土地の売買に携わるとともにチカーノギャングの麻薬・金融ビジネスを横取りしようと狙っていた。

 高級マンションの一室でくつろぐモトリオールファミリーのアンダーボスの一人であるベルディも今秘書の会計係から土地の売買で得た金の収支報告書を見て満足している。彼がワインをついで飲もうとした時だ。横の壁の内線電話が鳴る。手を伸ばしてとると、マンションの警備部長からだ。「お会いしたいという方が見えておりますが。」「アポなしの訪問客か。断れ。」「ええ・・・しかしながらリムソン市警のハーマン刑事と武藤会のオザキ若頭がついてきているんですが・・・」ベルディは一瞬驚いた様子をみせるが、すぐに冷静な顔に戻って次のように命じた。「武器を預かった上で通せ。」


 ラースキンはハーマン、オザキとともに警備員四人に囲まれながらベルディの部屋に入室した。この部屋はおそらく最も見晴らしのよい部屋だろう。入り口の向かい側には大きな窓があり、綺麗な夜景が見えた。外にあるプールからもこの夜景を望むことができるだろう。その窓を背景に金色に輝く髪をオールバックに固め、サングラスをかけた初老のイタリア人が回転いすに座っていた。彼は無表情のまま三人に目の前のソファを示す。

 ベルディが黙ったままであったので、ラースキンが口を開く。「どうも、リムソン市警のラースキン巡査です。実はある人物から依頼を受けてあなたのところにお願いをしにやってまいりました。」ベルディは怪訝そうな顔で聞き返す。「で、そのお願いとやらは何だ?」「あなたの債務者の中国人からとある権利書を取り返してほしいと・・・・」

 詳しい事情を聞いた後にベルディは言う。「なるほど・・・ところで諸君はホーネット地区にある地下格闘技場を知っているかい?」「ええ、存じ上げていますよ。」とハーマン。「そうか。今ね、私の他の債務者が借金地獄に苦しんでいてね。彼は脳筋野郎だよ。で、俺は今からそいつに電話する。そいつとのデスマッチに勝ったら権利書を渡してやろう。どうかね?」ラースキンは厄介事はご免だったので、「いや、権利書はいい・・・」と言いかけたもののハーマンが、「受けて立つ。こいつの力は強いぞ。」と言った。ベルディは大喜びで、「ではまた闘技場で会おう、今からむかえよ。」とだけ言うと、すぐに電話機に向かった。ラースキンはまたデスマッチをすることになる。

 

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