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第七話 決着


「な、なんだこれっ!?」


「ちょっと、一体、何が起きてるのよ!?」


「…………」


 突然起きた謎の現象に俺と魔族の少女は困惑する。一方で、サイクロプスは動じず、目の前の状況を冷静に把握しようとしてる。


そんな俺たちを気にも留めず、魔力は吹き荒れるばかり。そして


『ツカエ』


『カチタイナラ、ツカエ』


 再び、謎の声が俺の頭に響いた。吹き荒れていた魔力は収束していき、剣の形にかたどられる。そして、魔力が完全に集まり、俺の目の前に顕現した一振りの剣を俺は呆然と見つめる。


 刀身は、見るものすべてを虜にするほど綺麗な黒色、そして、柄には、精緻に刻まれた竜の装飾。


 触らなくても分かる、この剣にはとてつもない力が宿っている。


「これは…」


『オレノチカラ、ソシテ、オマエノチカラ』


 困惑したままの俺の呟きに、謎の声は返答する。


「これが、俺の力…だ、と…」


 謎の声が告げた内容に思わず聞き返す。これが俺の力?才能のなかった俺に、こんな力、あるはずないのに…


『コノタタカイニカッタラ、オシエテヤル』


「そうかよ…」


 あまりに一方的な物言いに呆れながらも、俺は目の前の剣を見つめる。


(分からないことは多い。あの言葉を信じていいのかも分からない)


「だけど…」


 俺は、今、勝ちたい!何が何でも勝ちたい!泥臭くてもみっともなくてもいい!ただ、勝ちたい!


 自身の胸で燃える、『勝ちたい』、という強い思い。俺は手を伸ばし、剣を握る。


 俺は強大な力が手にあるのを感じながら、切っ先をサイクロプスに向ける。サイクロプスは、少しの間、瞑目した後、自身に強化魔法をかけ、構えをとる。


 緊迫した空気が漂う二人の間を風が吹き抜ける。


「行くぞ!!!!」


「ウォォォォオオオオ!!!!」


 そして、互いに気合の籠った雄たけびを上げ、この戦いにおける最後の勝負へと突入した。



「凄い…」


 私は目の前に広がる光景に思わず、感嘆の声を漏らす。強大な魔力を内包した剣を目で追いきれないスピードで振るう人間の少年、それを時に受け止め、時にいなして、隙あらば反撃するサイクロプス。二人の戦いは、明らかに次元が違った。自分の国で、あの者たちと同等に戦える者は、どれだけいるだろうか。おそらく、両手で数えれるほどしかいないだろう。


「オォォォォオオオオ!!!!」


「ブォォォォオオオオ!!!!」


 両者、雄たけびと共に、さらにスピードを上げてぶつかり合う。ぶつかり合う度に両者の体には傷が増えていくが、両者の攻撃の手は全く緩まない。


「オラッ!!!!」


「グルゥ…!」


 少年が振るった剣が、サイクロプスの胸を大きく切り裂いた。かなり深く切り裂かれたのか、サイクロプスは呻き声を上げながら後退する。


「逃がすかよ!!!!」


 しかし、少年が強化魔法を足にかけて、瞬時に距離を詰める。サイクロプスは咄嗟に腕を交差して防御の姿勢をとる。少年はその腕目掛けて凄まじい速さで剣を振り下ろすが、


「クソがっ…!」


 強靭な腕を浅く切り裂くだけで、致命傷には成りえなかった。そして、サイクロプスはその隙を見逃さず、拳を振りぬく。少年は体と拳の間に剣を挟み、威力を緩和させるも吹き飛ばされる。


「グルゥ!!!!」


 雄たけびを上げ、今度は、サイクロプスが距離を詰め、連続で拳を振りぬく。避けようがないほど圧倒的な密度で迫る拳を、一瞬で態勢を整えた少年は、最小限の動きで避け、避けきれないものは剣でいなしている。


「凄い…」


 再び、私の口から感嘆の声が漏れる。目の前の少年は事も無げにサイクロプスの連撃をしのいでいたが、あれは一朝一夕で出来るものじゃない、と私は確信していた。あの技術の裏にあるのは、想像できない程、積み重ねられてきた努力の日々。私は、自分とそう変わらないであろう少年がそれを為したことに尊敬の念を抱く。その小さな体をボロボロにしながら、目の前の化け物に対して、全く臆さず立ち向かい続ける少年。


「がんばれ…」


 気づけば、私は少年を応援していた。風にかき消える程の小さな声で漏れた声援。どうしてそんなことをしたのか、私自身も分からない。きっと、こんな私を仲間が見たら、どうして人間なんかを応援するのか、と憤慨するだろう。


 でも、それでも、私は声援を送る。少年の『勝利』を願い、大きな声で声援を送る。


「がんばれぇぇぇぇええええ!!!!」



「がんばれぇぇぇぇええええ!!!!」


 声が響いた。声の方を見ることは出来ない。でも、それが「彼女」から自分に送られたものだと分かった。


 どうして声援を送ったのか、魔族が人間に対して好意的なのはいいのか、などと戦闘中にも関わらず、考えてしまう。だが、


「なんか、嬉しいな…」


 心に一番浮かんでくるのは、喜び。これまで、いつも、ハルと比べられて馬鹿にされてきた俺に声援を送る奴なんて、両親やハルぐらいだった。それ以外は、「無能」「叶うはずのない夢を見る馬鹿」などと言われることが当たり前だった。


 そんな俺に送られた、邪気など一切感じさせない純粋な応援に、不覚にも泣きそうになってしまった。しかし、今は戦いの最中。目の前の強敵に勝つ、それだけに集中しろ。


 自身にそう言い聞かせた俺は、振るわれる拳を()()()から受け止める。


「!?」


 攻撃を受け止められたサイクロプスが驚愕で目を見開く。今まで、いなすなり避けるなりで攻撃を凌いでいた俺が、真正面から攻撃を受け止めたのだから、驚きもするだろう。だが、俺には関係ない。


「オラァァァァアアアア!!!!」


 雄叫びと共に剣を全力で振るう。剣を振るう度に鮮血が舞い、サイクロプスの体には傷が増えていく。


「グルゥ…ウォォォォオオオオ!!!!」


 サイクロプスは浅くはない傷に呻くも、負けじと攻撃を繰り出す。しかし、


(遅い…)


 俺の目に映るのは、()()()()と迫ってくる拳。俺はそれを皮一枚のところで躱し、その腹を深く切り裂く。


「グルゥォォォォ…!」


 カウンターを受けたサイクロプスは態勢を崩すも、すぐに立て直し、距離をとる。


 俺はそれを黙って見つめながら、先ほどから感じる謎の力を確認する。


(サイクロプスの攻撃を真正面から防いだり、攻撃を遅く感じたりと、一体、この力は何なんだ?)


(まさか、これもあの『声』の力?)


 俺が一人、思考の海に潜っていると


『アァ?オレガソンナチカラヲモッテルワケナイダロウガァ』


 先ほどよりも乱暴な口調になった『声』が話しかけてきた。


「じゃあ、これは何だって言うんだ?」


『イズレワカル。ソレマデハムシシロ』


「そうかよ…」


 分かってはいたが、やはり『声』は教えてくれなかった。俺はすぐに思考を戦いに戻し、剣を構える。


 目の前のサイクロプスは、満身創痍。体のいたるところの傷から血が流れ、立つことすら難しい状態のはず。しかし、


「…ゥウォォォォオオオオ!!!!」


 大地を踏みしめ、吠える。そして、右拳に魔力が集め、構えをとりながら、こちらを見つめる。


「右拳の集中強化…なるほど、これで決着をつけよう、ってか」


 サイクロプスは、この一撃、自身の全てをつぎ込んだ一撃で決着をつけようとしているのだ。それを感じ取った俺は、剣を上段に構える。そして、残りの魔力をかき集め、剣を強化。


 互いに向いあう俺たち、そして、


「「ッ!!!!」」


 同時に地面を蹴り、疾走する。凄まじい速さでぶつかり合う剣と拳。ぶつかり合った衝撃で辺りに突風が舞う。


「ウオォォォォオオオオ!!!!」


「グルォォォォオオオオ!!!!」


 俺たちは互いに残りの力を振り絞り押し込む。拮抗する剣と拳。しかし、


「グッ…!」


 次第に、俺の剣が押され始める。


「クソッ!負けてたまるかよ…!」


 気力で押し返すも、すぐに戻される。このままじゃ負ける、そう思ったときだった。



「先に行って、待ってるから」



 「アイツ」の声が聞こえた。精霊王の『加護』を有し、王国騎士団に特別入団したにも関わらず、こんな才能のない俺の願いを聞き、待っている、と言ってくれた、俺にとって最高の親友(ライバル)


 瞬間、俺の全身から力が湧き上がる。俺は、押し込まれていた剣を押し戻し、逆に押し込む。


「グゥゥ…!!!!」


 サイクロプスはなんとか持ちこたえようとするが、徐々に押し込まれていく。


「俺は!こんなところで負けるわけにはいかないんだよ!!!!」


「…ウォォォォオオオオ!!!!」


 互いに、自身の全てを相手をぶつける。剣は砕け始め、拳は徐々に傷が増えていくが、それでも力を決して緩めない。自身の誇りのため、友との約束のために、俺たちはぶつかり合う。


 そして、遂に…


「俺の!勝ちだぁああああ!!!!」


 俺の剣が拳を切り裂き、そのままサイクロプスの胸を袈裟切りにする。


 胸を切り裂かれたサイクロプスはその場に仰向けで倒れこむ。俺は、サイクロプスに止めを刺すために剣を突き立てると、こちらを見上げるサイクロプスと目が合う。


『感謝する』


 瞳から伝えられる感謝の意。


「礼を言うのは俺の方だ。お前のおかげで、俺は一歩前に進めたよ」


 そう伝えると、サイクロプスは笑みを浮かべながら目を閉じる。殺せ、というのだろう。


「ありがとう、気高き強者よ」


 俺は、サイクロプスの心臓を貫き、止めを刺した。心臓を貫かれたサイクロプスは最後まで笑みを浮かべたまま、光の粒子になっていった。


「ふぅーーーー」


 俺が、勝利の余韻に浸っていると、


『ヨウ、タタカイハオワッタミテェダナ』


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