第三話 誓い
教会から走り去った俺は、そのまま森の中を駆け抜ける。そして、ハルと二人で訓練をしてきた神殿に着いた。中に入った俺は、中心で仰向けに寝転がる。
「クソッ……!どうしてだよ……!」
分かっていた、俺には才能がないことを。無属性の強化魔法しか使えない俺が、ハルに及ぶほどの才能がないことを。
でも!その分、努力はしてきた!ハルとの訓練が終わった後も、家の庭で素振りをした!体力をつけるために、ランニングも欠かさずやってきた!強化魔法もうまく使いこなし、ハルの魔法に並ぶほどの力まで伸ばした!
……なのに、
「なんで、俺には、『加護』がないんだよ……」
「なぁ、神様。なんで、アンタは俺を見放したんだよ……」
悔しさから、涙が再び溢れる。『加護』を与えない神、腫れ物を見るかのような神官、憐れむような視線を向けてきた王国騎士、嘲笑する町の人間。それら、すべてに対して怒りが湧いてくる。
しかし、何より許せなくて、最も怒りが湧くのは、
「俺自身だよ……」
どうして、俺はここにいる!どうして、俺はハルのライバルとして、隣に立てない!
その答えはただ一つ、
「俺が弱いから……!」
俺がもっと強かったら、今、俺はここにいなかったはずだ。
そして、俺は立ち上がる。茜色に染まり始めた空に向かって、声を上げる。
「俺は、絶対に諦めない!」
「何をしてでも、俺は強くなる!誰よりも強くなる!」
「そして、いつか『勇者』になる!」
そう叫んだ瞬間、
『ミツケタ』
空から、声が聞こえた。そして、
「なんだ!?」
突如、俺を中心とした巨大な光を放つ魔方陣が、足元に現れた。
(まずい!ここから離れないと!)
危険を察知した俺は、動こうとする。しかし、
「なっ!足が動かない!?」
見えない何かに縛られているのか、足が全く動かない。そこで強化魔法で足を強化し、強引に離脱しようとしたが、
「魔法が使えない!?」
何度使おうとしても失敗。魔法を展開しようとするたびに、魔力が霧散するのだ。
「クソッ!このままじゃ!」
なんとかして逃れようとするも、俺は次第に強くなる光に飲み込まれていく。
「うわぁーーーーーー!!!」
あまりの眩しさに目を開けられないでいると、謎の魔法が体を襲った。あまりの衝撃に耐えきれなかった俺は、そのまま、気絶した。
◆
その頃、ハルは……
「……よしっ、今日はこの辺りで終わろうかな」
庭での訓練を終え、用意していたタオルで汗を拭う。
「明日には出発だから、急いで準備しないと」
明日、ベレン達、王国騎士はこの町を出る予定であり、特別入団をするために、ハルも出立の準備をしなければならなかった。
「……町を出る前に、もう一回、レンと話したかったな」
ハルの口から零れたのは、唯一のライバル、レンともう一度、会いたいという願望。もちろん、会えないことは分かっている。彼は、自身に先に進んでくれ、と言った。なら、自分は彼のためにも、一足先に世界を見に行く必要がある。
ハルは、今もきっと、二人の思い出の場所で訓練をしているだろう、レンのことを思い、なぜか誇らしくなる。周りは、彼のことを無能やらなんやらと言っているが、ハルからしたら、彼こそ『勇者』にふさわしい人物だ。
「もちろん、負けるつもりはないけどね……!」
一人、自分の意志を示したハルは、準備のために家の中に戻っていった。
◆
「なぁ、シルフィード、お前はどう思う?」
「サラマンダー、どう思う、とは?」
「ウチの主人のライバル様のことだよ」
「あぁ、正直に言っていいですか?」
「ん、頼む」
「化け物、あんなのがこの時代に存在するとは思ってもいなかったですよ」
「だよな……」
ハルの『加護』、サラマンダーとシルフィードは、レンに対する警戒を示していた。
「……まさか、アイツと同じ、ってことはないよな」
「その可能性は否定しきれません。何せ、あの時と全く同じ状況ですから」
「また、アレを見ないといけないのか……」
「そうだとすると、苦しいですね……」
「とりあえず、ウチの主人には、早く俺たちと『契約』してもらわないとな」
「そうですね、まずは私たちの力を十分に引き出せるようになってもらわないと困ります」
そんな呟きを残した二体の精霊は、ハルの中で、静かに休みについた。