007
4月からの大学生活は、提出物とかガイダンスとか結構慌ただしかったが、講義自体は一般教科が中心で、受験に追われた頃に比べれば全然余裕がある。
昼休み。おれは中庭のベンチでリュックからランチバッグとコーヒーの入った水筒を取り出して脇に広げた。今日はサンドイッチだ。薄切りの食パンを6枚、それを縦に半分に切って、スモークサーモンのマリネ、サラミとゆで卵、マッシュポテトの3種類がはさんである。家ではバイトに行く前の葉月が、同じものを食べている頃だろう。
結局のところ、おれは葉月と一緒に叔父さんの家で暮らしている。
昼飯のあと、一緒に住んでもいいと言うと、葉月は感極まって泣き出した。
「泣くようなことかよ」
「だって‥‥」
泣き止んだ葉月に、おれは改めて声を掛けた。
「まあそう言うことで、よろしくな。あずき」
「え?」
呼ばれた葉月がきょとんとした顔でおれを見た。
「どうした? あんたが名前で呼べって言ったんだぞ」
「私、葉月だし。あずきじゃ無いし」
「隠れてぼた餅を食う食い意地のはった女にはあずきのほうがお似合いだろ。口の横にまだあんこ付いてるぞ?」
「こ、これはほくろだし! 気にしてるんだから、直也の馬鹿!」
それを聞いて葉月は、顔を真っ赤にしてカーテンの影に逃げ込んだ。頬をふくらませて、抗議するように無言でこっちを見る。だからそういう怒りの猫アピール止めろ!
葉月は不規則な派遣の仕事を辞め、ドラッグストアでバイトを始めた。
そのバイト代の中から、家賃の代わりに食費に1万5000円を貰っている。リフォームを手伝ってもらうのだからと言ったが、約束は約束だからと譲らなかった。
でも実際、この食費はありがたかった。
親父名義の通帳に月々入る15万円と合わせて、16万5000円がおれ達の生活費なのだが、最初は家賃が無い分余裕とか思っていたが、実際生活してみると一軒家の水道光熱費は意外と掛かることが分かった。
更に家の火災保険と自動車の保険も、ここから引き落とされる姑息なトラップが仕掛けられていたため、油断すると小遣いがなくなるどころか、支払いで月末に苦労する羽目に陥った。おれも長期休みにはバイトしなきゃな。
葉月はバイト以外の時間で、掃除をしたり修理の必要な場所をピックアップしてくれている。おれも講義のカリキュラムを遣り繰りして、土曜日曜の他に、水曜の午後を空けて修理の時間に充てることにした。大がかりなリフォームは夏休みにやることにして、まず必要なのは片付けと掃除だ。
葉月にはこれまで通り2階の個室を使わせるため、当然1階の事務室おれの使える部屋だ。だがこの部屋を使えるようにするのにかなり手こずっている。叔父さんの本とか図面や書類なんかが全部ここに運び込まれていて、今は寝るスペースを作るのがやっとだ。レポートとか課題とかは2階のダイニングテーブルでできるが、機能的に使うにはもう少し何とかしたい。製図板はありがたく使わせてもらおう。