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一週間後、両親は仲良く手を繋いで上海へと旅立っていった。
春彼岸の連休初日の朝、家具や荷物を積め込んだラパンを運転して、おれは叔父さんの家へ向かう。電気や上下水道のライフラインを確認をするためでもある。
車に関しては親父名義だが好きに使っていいと言われた。セコい入学祝いだと文句も言ったが行動範囲が広がるのはうれしい。
カーナビを使うまでもなく茅ノ原団地に到着する。ここに来るのは初めてだ。
森を背負った高台の団地、その一番奥にある狭い敷地にその家は建っていた。延べ面積30坪強の住宅兼アトリエ、ただしガレージ込み。やっぱり小さいな、というのが最初の印象だ。
でも意外とデザインは悪くない。キュービックな外観はすっきりまとまっていて、シルバーの縦ストライプの外壁と対照的な濃いブルーの屋根とバルコニー、マホガニーを思わせる木質の玄関ドアがいいアクセントになっている。年寄りにしてはモダンなセンスだ。
当然、いいことばかりじゃない。築10年、住まなくなって約1年。調べれば色々問題が出てくるだろう。更に敷地の狭さはどうしようもなく、乗り入れて車の向きを変えるには、一度ガレージのシャッターを開けて、頭を突っ込んで切り返しをする必要がある。
何より一番の問題は、この家の建っている団地だ。
団地は12年ほど前に分譲を開始したが、見込んでいた大手企業の工場誘致に失敗したため15区画ほど造成したところで計画は頓挫。さらに学区の見直しが重なって若い人が住まなくなり、現在は建てた10軒のうち半分が空き家、5区画が更地のままになっている。
当然周辺も開発が止まり、バス停のあるスーパーまで車で40分、コンビニに至っては1時間という必要以上に閑静な住宅地だ。今では『枯れ野原』団地、家は気の迷いで建てた『迷い家』と揶揄されている。そういう場所だからなおさら車は必需品だ。
ガレージのシャッターを開けると、ごく普通の白い軽トラがあった。まあ、設計で現場を回るなら軽トラは基本だよなって感じだ。ホームセンターで資材を買ってくるにも重宝するだろう。まあ通学にはラパンもあるし普段は特に支障はない。