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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ハイスペ幼なじみの料理が何故かまずい

作者: 紫鶴

 うちのクラスの人気者はハイスペックな男である。

 なんでも、成績優秀で?人当たりも良く?運動神経抜群な上に読モとかいうスーパースターだ。男女ともに愛されて、先生からの信頼も厚い。人が良いので何かと誰かの手助けをしているようなそいつだが、彼にも弱点があった。



「ひーくん、美味しい?」

「いや、くそまずい」



 その人気者、なぜか知らないが料理がてんでだめだった。

 見た目も匂いも完璧なカレーライスのはずなのになぜかまずい。あれえ?と首を傾げているその人物は、自身も一口食べてみてもう一度首を傾げた。



「美味しいと思うけど……」

「何でだよ!!」



 そういう彼に思わずそう叫んだ。俺にはカレーライスの味は全くしない。というか、なんか苦い。カレーライスが苦いって何?市販のルー使ってるのにどこからこの苦みが出てるの!?

 うええっと舌を出しながらその苦みを少しでも中和させるために水を飲む。そんな俺にんー?とそいつは困った表情を浮かべた。



「今日の御飯はどんな味?」

「苦い。凄く苦い」

「ええー? ただのカレーライスだよ?」

「分かってるわ!」



 俺だってカレーライスが苦いなんて言いたくない。でも事実だ。スプーンで一口分すくって口に運ぶ。噛めば噛むほど苦みが広がるのでできるだけ噛まないように飲み込む技術を覚えた。

 この人気者、俺の幼なじみでお隣さんの蓮見陸である。両親が共働きの俺をよく夕飯に誘ってくれる。昔はおばさんの料理を食べていたが、大きくなってこの男が作るようになった。その初めて彼の料理を食べた衝撃と言えば今でも鮮明に覚えている。


 初心者でも簡単、カレーライスだった。味見してくれる?と言われてそれを食べた時になんだこの甘さは!と咳き込んでしまった。だから砂糖でも入れたのか!?と言ったのに彼は首を振って入れてないと言う。いやいや、砂糖を大量に入れてなければこの甘さは出ないだろうと思いひとまずその大量のカレーは俺が食べると言って、その日は俺が代わりのものを作った。お世話になっている手前、面と向かってまずいとはその時は言えなかった。

 その日から、何かと彼の料理は甘かったり苦かったり、酸っぱかったりと兎に角刺激的な味だった。味見してないのか!と言ってさせても今のように首を傾げるだけで分かっていないようだった。俺の舌がおかしくなったのだろうかとも思ったが、そうでもないようで陸の料理限定でそういう味になるみたいだった。だから、恐らくこのスーパースター陸の料理の腕前が悪いのだろうと結論づけた。ついでに味音痴だという事も。

 だから、彼の将来のためにも遠慮せずに正直に伝えたのだが彼はええ?ととても不思議そうな顔をしていた。



「おかしいなぁ?」

「本当にね……」



 今の彼と同じような表情で同じようなことをいっていた。俺もそう思うが事実だ。最後の一口までお腹に詰めてごくごくと水を飲む。凄く、苦かった……。

 野菜も生煮えなんてものはなかったし、味さえどうにかしてくれれば美味しい美味しいカレーライスのはずだった。ご馳走様でしたと手を合わせてそう言う。

 今日もこのまずいカレーは全て俺の胃袋に入りそうだ。こんなまずいものをお世話になっているおばさん達に食べさせるわけにはいかない。ひとまず、二人分ぐらいの量を作れといっているので食材はまだ余っているはずだ。もう一人前は明日俺の朝ご飯にしよう。残りで同じくカレーライスを作ろうと席を立つとひょこひょこと陸が後ろをついてくる。俺よりも背が高くて、いっつも後ろから抱きついて頭の上に顎をのせてくる。うーん、背の高い奴の特権。俺は背が低い方なのでこんなことは出来ないのだ。



「そういえばひーくん」

「なんだよ」



 食材を切る工程はすでに陸がしているので俺は残りのものを炒めて鍋に水と一緒にぶち込むだけだ。なんでこんな簡単な作業であの苦みが出るんだろうか。本当に不思議だ。

 そんなことを思いながら、陸の声に反応しているとするすると俺の手の甲を軽く撫でる。包丁を持っていないとはいえ邪魔なのだが……。

 軽く顔を上げて睨みつけるように彼を見る。すると陸は予想外の事を口にした。



「学校で今日女の子に告白されてなかった?」

「え? なんの話……?」



 スーパースター陸だったら分かるが、俺に告白?そんな女子いたか?全く記憶になくて今日の出来事を振り返る。やはりそんな甘酸っぱい青春の一ページみたいな出来事は起こってない。

 おこっていないのだが、陸は唇を尖らせて不満げな顔をしていた。ああ、これはすねている。長年幼なじみをやっている俺にはすぐに分かった。疑いを晴らしたいが、身に覚えがないので言い訳のしようがない。だから陸の次の言葉を待っていると小さな声でこういった。



「ほら、手紙貰ってたじゃん……?」

「手紙……、ああ、あれ!」



 陸にそう言われて放課後、彼を待っていた時に渡された手紙を思い出した。顔を真っ赤にしながら俺に可愛らしい便せんを渡していた女の子を思い出す。一つ年下の、入学して数ヶ月の子達だろう。



「違う違う。あれは陸の手紙!」



 俺が彼の幼なじみで仲が良いということは学校で周知の事実なので、前まではよくある事だった。しかし、俺を伝書鳩にする女子があまりにも多いので流石にめんどくさくなって本人に直接渡してと突っ返すことにしたのだ。そもそも、直接本人に渡す事が出来ないような度胸のない子がうちの何でも出来るスーパースター陸と付き合おうなんておこがましい。仮に付き合えたとしても、絶対に女子の嫉妬で虐めに遭うのが目に見えるしね。これは善意だ。とはいえほとんどが、面倒だからと言う理由に尽きるが……。

 だからか当初、女子の顰蹙を買って、モテない男のひがみだのなんだの言われた。こういう事は昔も何度も起こったことなので気にしていなかったが、ある時を境にピタリと止んで誰も俺に陸の手紙を渡すことはなくなった。誰がやったのか知らないがとっても助かる。

 しかし、最近入学したての子はそういう事情を知らないので俺に渡してきたのだろう。一応丁寧に教えてあげたけど、泣かれて付き添いの子には睨まれて前と似たような事を言われたのである。はは、女子って怖いね。



「え……? そ、そうなの? じゃあ、あの子とは何もない?」

「何もないというか、そもそも陸に用事があって……」

「何もなかったんだよね? 可愛かったとか、そういうのも!」



 陸が身を乗り出してそう聞いてくる。何を言ってるのだろうか。あの状況でこの子可愛いな、なんて思えるはずがない。大部分の男子からはとても哀れみの目を向けられるほどぶっちぎりで女子の怖い場面に出くわしている俺にはそんな余裕はない。

 恐らく、陸を好きにならない異性が現れない限り付き合うのも無理だ。



「な訳あるか。拒否したら泣かれたし、睨まれたしで面倒だった。女子って怖すぎ」

「そっかぁ!」

「そうそう。俺はスパダリ幼なじみの陸がいればいーの」



 料理だけはどうにかして欲しいけど。でも人間だもの、弱点の一つや二つある方が良いだろう。なんだっけ?ギャップ?

 俺がそう言うと陸はとても嬉しそうな声を出した。



「あ、そうだ! お菓子に挑戦してみてゼリー作ったんだけど食べる?」

「食べる。これ作った後で」

「うん! 待ってる!」



 ぶんぶん尻尾を振って喜んでいる犬みたいに陸は幸せそうな表情で俺から離れる。キッチンにまでご機嫌な鼻歌が聞こえてきた。

 陸もある意味可哀想だ。彼の周りには未だにまともな女の子が現れず、恐らく高校生の今は付き合える女の子が出来ないだろう。お互い、大学生になったら頑張ろうな。

 そうして、普通のカレーライスを作った後に陸お手製のブドウゼリーが俺の目の前に置かれる。

 お菓子である。そういえば、手作りのお菓子は食べたことないなと思い、もしかしたら、普通に美味しいのかもしれないと期待する。ブドウが入っている綺麗なゼリーは、お菓子作り初心者が作ったとは思えない出来映えだ。流石ハイスペ。形は完璧である。ぷるぷるつやつやで美味しそうだ。

 一口すくって口に入れる。



「くっそ甘っ!!」

「あれえ?」



 どうやら俺の、ハイスペ幼なじみの料理はお菓子でもまずいらしい……。


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