(97)宿屋の一幕
マードックは貴族の嫡男だ。爵位自体は高くないが、貴族というだけで俺達平民からしたら、敬うべき対象だ。まぁ、公の場じゃなければ砕けた口調で良いと本人からは許可を貰ってはいるが。
「マードックは変わってるね。貴族はこういうことをやらないと思ってたんだけど」
「んー、まぁ、変わっているのは自覚してるよ。こういう事を敬遠する貴族がいるのも事実だし。けど、帝国貴族はこういう雑事はちゃんとこなせるように教育されるものだよ。有事が起きた際には率先して動いて民に姿勢を見せるものだし」
「そうなんだ」
偉そうにふんぞり返ってるだけが貴族じゃないんだなと思い直した。それはともかくフライドチキンの下拵えは済んだので、親父は食材の買い出しに、マードックは自分の仕事に、俺は部屋の掃除に向かう。先に掃除に入っていた妹に声をかける。
「ミン、掃除は何処まで終わった?」
「あそこの部屋はもうやったから一個飛ばしでやっていくつもり」
「分かった。俺はずらして同じ感じでやっていく」
ミンが掃除した部屋の隣を俺は掃除を始める。使っているのは冒険者のペアかな? 土と汗のにおいがする。母さんが布団を既にたたんで洗濯を始めているらしいから、酸っぱい匂いはきつくない。
最初に窓を開けて、換気する。そして土汚れを落としていく。そのまま掃き掃除して雑巾で汚れを拭いていく。掃除し終わった部屋は見られるくらいには綺麗になった。磨かれた様にピカピカとはいかないが、スッキリしたな。
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夜になると泊っている人と常連さんがやってくる。今日は迷宮発見のお祝いメニューだと伝えると、喜んでそれを頼んでくれた。
「う、うめぇ!」
「パリパリ具合が良い」
「ジューシーだな、これ」
お客は美味しそうに食べてくれてる、食べてくれるのは料理人冥利に尽きるというモノだな。
「好評みたいだし、また作るか」
「そうだね」
「私達も食べたい」
母さんとミン用にとっておいたフライドチキンを家族で分け合って食べる事にする。




