(71)サザナミが動く(その1)
俺達は冬場は宿には泊まらずに街が用意してくれた野宿用のスペースに泊まっていると見せかけてテント内から迷宮内にワープして迷宮の部屋で夜を明かしていた。もちろん、カモフラ用の暖房のマキも用意している。用が終わったら二束三文で売り飛ばす予定だが。
そんなわけで、迷宮の自室でダラダラと本を読んでいたり、適当な依頼でそこそこの金を稼いでだらだらしていたりすると、ワカバこんなことを言ってきた。
「サザナミさん、太ってません?」
そんなまさか、こんなにダルダルでぶよぶよとした丁度良い触り心地のクッションが太っているなんて。まぁ、最近動いてるところとか見た事ないけど。
「太ってないよ。質量が多くなったから体積が大きくなっただけぇ」
「そうなんです?」
「クッションの体積減ると寄りかかれなくなるんだよ」
「そうだよ、こんなにダラダラしてるだけなのに」
「そうそう」
「それが原因だと思いますけどね」
何とワカバは至福のダラダラを止めろというのか? 何て非人道的なんだ! 人じゃねぇけど。
「つっても、サザナミはあっちじゃ凍って役に立てんだろ」
「なら迷宮中で運動させるべきです。人間のような肉体を手に入れているなら健康のためにも運動するべきです」
つっても今は、冒険者ギルドと手紙でやり取りしている最中なんだよな。
「人を殺すのはマズいしなコクヨウ、ワカバ、サザナミと一緒に今、丁度来た冒険者を死なない程度に嬲ってきなよ」
「良いんですか、冒険者ギルドと提携を組む予定なのでしょう?」
「俺らもただ倒されるだけじゃなくて奥に進めば大変な事態もあるって事を分からせないといけない。その分、報酬は用意してやるがね。それと手紙も届けておいてくれ」
俺は三人を見送って入って来た冒険者達をサザナミ達の方へ誘導する。
❖ ❖ ❖
サザナミ達の部屋に三人の冒険者がやって来た。
「どんな感じ?」
「相手は中堅位の冒険者パーティーだな。タンク役とアタッカー役、サポート役の三人がいるね」
「勝てそう?」
「問題ないし、殺されそうなら俺が手助けに入るから心配ないよ」
「じゃあ、私も見てる」
場面は戻ってサザナミ達のいる部屋。サザナミとコクヨウだけが立っていて。ワカバは壁を隔てた別の部屋で待機している。
「お前らは、人間?」
「いや、擬態系の魔物だな」
対面している二人は人型を解いて、液状になったり獣の姿になっている。そんなこんなで戦闘が始まった。
「うおらぁ!」
アタッカー役の男がコクヨウに向かって剣を振る。液状のサザナミは自分では手に負えないから獣のコクヨウを抑えてその間にサザナミをどうにかしようという考えなのだろう。
しかし、コクヨウの筋力は剣士の力量では抑えきれない。前足でけり飛ばす事で簡単に弾き飛ばされてしまう。防具がはじけ飛んだ事で女性だと分かった。
「ぐっうぁ!」
タンク役の人間も警戒をサザナミとコクヨウの両方に注ぐ。サザナミは何をしてくるのか分からない不気味さはあるが、コクヨウの素早い動きを見て目で追いきれないからなるべく後ろの、サポート役を守れるように広い範囲を警戒する。
「溜まった、行くよ!」
サポート役は杖を掲げて、杖の先から暴風の塊を形成しコクヨウに向かって射出しようとするが、サザナミがしがみ付いてそれを阻止する。前方に作った囮に隠れ幾つもある地下に埋め込んだ排水路と側溝から自在に体を出せるので、それで後ろを取ったのだ。
サザナミはサポート役を一瞬で掴んで包み込み自分の体の中に入れる。それを助けるためにタンク役がシールドバッシュでサポート役を吹き飛ばしてサザナミの拘束から外してやる。サポート役は衝撃と窒息仕掛けた衝撃でせき込むと同時に暫く動けなさそうだった。
「うらぁっ!」
最初に吹き飛ばした剣士が起き上がってコクヨウを切りつけるが、トカゲの様な革に阻まれて弾かれる。
ウネウネしていたサザナミは弾き飛ばされた部分を再結集して復活する。
「気持ちわりぃ」
タンク役は警戒と同時にサポート役が目を付けられない様に注意を引く。サザナミのようなタイプの魔物は体のどこかに核があり、それを破壊すれば行動は止まる。したがって体積が大きいとそれを削っていかなかければ核を破壊できない。魔法使いがいれば一気に弾き飛ばせるが、無力化されたばかりである。
「持久戦か」
タンク役は覚悟を決めて立ち向かう。




