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弱肉強食 ー君臨する龍 異形の蟲ー  作者: 世の中退屈マン
繁栄都市への道中編
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孔雀龍vs巨大蜻蛉 Ⅲ

 



 その瞬間、巨大蜻蛉は顎を剥き出しにして蜻蛉返りで孔雀龍に襲いかかり、一撃離脱突進で孔雀龍の片翼を顎で切り裂くようにして攻撃する。



 孔雀龍は敵の攻撃手段の変化に気付きながらもそれを受ける事しかできない。

 続けてニ撃、三撃目とやってくる。孔雀龍は完全に体勢を崩し隙だらけの状態だ。

 直ぐに孔雀龍は気付く。このリズムは間違いない。



 即座に敵の姿を探す。正面、右、左、そして上を見ようとした瞬間、背後から凄まじい衝撃がやって来た。

 巨大蜻蛉は孔雀龍に衝突すると同時に自身の顎を突き刺し地面に向かって垂直に突っ込んでいく。



 孔雀龍は骨にまで響く衝撃を受けながら激しく()け反り、吐息(ブレス)でカウンター攻撃を試みるものの、敵の翅どころか胸や胴体に(かす)りもしない全く見当違いの方向に放ってしまう。



 ーードガアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!



 地面に叩きつけられた孔雀龍は、地面を砕き地中にまで沈み込んでしまう。

 起き上がろうとしたところを更に追撃され、胴体から長く伸びる比較的細い首に全力突進が直撃する。



 ーーグギャゴ、ゴア、ゴアガア、ガアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!



 孔雀龍は地中に沈み込んだまま巨大蜻蛉に押し潰されるようにして地中を引きずられていく。

 突進の勢いが弱まると即座に巨大蜻蛉は離脱しまた上空へと飛んでいく。

 全力突進の直撃を受けた首の箇所からは赤黒い血が噴き出していた。



 これ程の傷を負ってもまだ龍にとっては致命傷には至らないが、あと少し傷が深く広ければどうなっていたかは分からない。

 瞬時に孔雀龍は体勢を変え、更なる追撃を警戒し吐息(ブレス)の構えをとる。



 ーークォオオオンッ



 空を切る音と共に巨大蜻蛉が姿を現した。

 孔雀龍は敵の姿を認識する暇もなく(ほとん)ど反射で吐息(ブレス)を放つ。

 巨大蜻蛉は全身に吐息(ブレス)()びながらもその凄まじい速度で再び孔雀龍の喉元に突進する。



 ーーゴギャッ、ギュアッ、ゴアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!



 孔雀龍の喉には巨大蜻蛉の顎が食い込み、その状態のまま押し込まれるようにして地面を引きずられる。

 それでも孔雀龍は決して怯む様子はない。



 敵の顎が喉に突き刺さろうとも放った吐息(ブレス)を止める事なく敵に向けて炎の息吹(いぶき)を浴びせ続ける。

 その状態のまま数km程の距離の所で巨大蜻蛉が離脱しまた上空へと昇っていった。



 今の攻撃もあと少し深ければ致命傷だった。

 吐息(ブレス)の直撃が敵の翅の動きを抑制する役割を果たし突進の勢いが弱まらなければ確実に危ない一撃になっていただろう。



 首からどくどくと流れる血を気にも留めず孔雀龍は上空を見上げる。

 更なる追撃に身構えるが暫く経ってもそれはやって来ない。



 重い一撃を喰らったのは孔雀龍だけではない。

 背中に吐息(ブレス)の直撃を受けた巨大蜻蛉も自身の圧倒的な強みである自由自在の高速飛行に決して小さくない支障をきたしていた。



 全身の中で比較的に耐久性の低い部位である翅は孔雀龍の吐息(ブレス)の直撃を受けた事で機能の低下は避けられず、全快時と比べると約八割ほどの性能まで落ちていた。

 このまま休む事なく翅を使い続ければ、状態は更に悪化するだろう。



 ーーゴウッ、ブアッ!ギョワッ!



 孔雀龍は口から血を吐く。

 自分の受けたダメージが思いの外重い事に段々と苛つきを感じていた。

 その苛つきをバネに地面を蹴り上げ翼を羽ばたかせて空へと舞い上がっていく。



 巨大蜻蛉も自身の翅が機能低下している事は飛び心地などの自身の感覚から実感はしていた。



 正確にどの程度の機能低下かは定かではないが、雑に見積もってもあと三発程の吐息(ブレス)の直撃を受ければ、飛行機能は全快状態の半分程度にまで低下するだろうという予測が感覚で分かる。



 とはいえ、巨大蜻蛉はこのままどこかに逃げ回復のために身体を休めるという事も出来た筈だった。



 性能が落ちたと言ってもまだまだ孔雀龍の飛行能力では遠く及ばない。

 せめて全快状態から半分ほどの性能まで落ちなければ孔雀龍は飛行能力において巨大蜻蛉と対等に戦う事は出来ず、巨大蜻蛉がその気になれば孔雀龍から逃げる事はいとも容易い事だろう。



 どんな肉食動物でも狩りの最中に深い傷を負えば生存本能に従い戦略的撤退の判断を下すのが常識だ。

 それは暗黒時代における龍種も例外ではない。



 しかし、巨大蜻蛉は顎を剥き出しにした全力突進時に自身の口内に入った孔雀龍の体皮の一部や血液を味わった。

 味わってしまったのだ。

 巨大蜻蛉の口からは大量の唾液が(あふ)れてくる。その直後。



 ーーキュガアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!



 それを極上の(えさ)として認識した巨大蜻蛉は生まれて初めて龍種のような(とどろ)く咆哮を上げた。

 それは狂喜に満ちた絶叫のようだった。



 巨大蜻蛉の遺伝子に深く刻まれた何かが生存本能すら凌駕(りょうが)し、戦況や戦略すら無視してそれを(むさぼ)るべく闘争本能が全開となる。



 ーーキュアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!



 巨大蜻蛉の咆哮に呼応するように孔雀龍も咆哮を上げ、巨大蜻蛉と対峙すると、暫くの間、両者は睨み合う。

 孔雀龍は致命傷さえ負わなければまだまだ長時間の戦闘が可能だ。



 対して巨大蜻蛉は最大の強みである自由自在の高速飛行に陰りが見え始めており長期戦になれば孔雀龍に追いつかれてしまう可能性が高いため、そうなる前に決着をつけなければならない。



 ーーバァアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!



 孔雀龍が近距離から吐息(ブレス)を放つと同時に巨大蜻蛉は身体を横に回転させながらひらりと(かわ)す。

 そのまま孔雀龍の横を通り過ぎ周囲を一周すると上空へと昇っていく。



 孔雀龍も後を追う。後を追いながら敵の様子に違和感を感じていた。

 飛行速度は落ちるどころかむしろ速くなっている。

 先程の咆哮からだろうか、敵の発する圧が増したような、そんな気がしていた。



 巨大蜻蛉は急速に上へと旋回し孔雀龍の背後へと回ると、孔雀龍はその動きを(とら)えられず敵の姿を見失う。

 とはいえ、敵がどの方位から仕掛けて来るのかある程度の予測は立つ。

 少なくとも正面からはやって来ない。毎回必ず死角となる角度から急襲される。



 ならば、と孔雀龍は身体を反転させ間髪(かんぱつ)いれず吐息(ブレス)を放つ。

 既に突進へと動き出していた巨大蜻蛉は咄嗟(とっさ)に回避行動を取るものの、完璧には回避しきれず片方の翅に吐息(ブレス)(かす)めてしまう。



 それでも即座に体勢を立て直すと孔雀龍に一撃を加え、その際に孔雀龍の身体に顎を突き立てその勢いのまま離脱していく。

 突進を受けた孔雀龍の翼には引っ掻き傷のような傷痕が出来ていた。



 続け様にニ撃、三撃と追撃され、孔雀龍は空中でバランスを崩してしまう。

 来ると分かっていてもやはりそう簡単に高速突進の連打から逃れる事は出来ない。



 突進を受ける度に鋭利な顎が孔雀龍の身体を傷つけ、その度に鮮やかな数枚の羽毛が舞い落ちる。

 両翼で受けているため殆ど大した傷にはなっていないが頭部や首などであればどうなるかは分からない。



 次の一撃に全力突進を警戒するが、突進攻撃を受けた直後で身体の自由が利かない。

 垂直落下の全力突進を警戒して上空に意識を向けるが、四撃目も一撃離脱突進で更に体勢を狂わされ、その際に首の根元に攻撃を受け肉を噛み千切られる。



 長期戦を望めず、闘争本能によって危機感や警戒心が消失した巨大蜻蛉は以前よりも攻撃的だ。



 この戦いは寸分の狂いでどちらにも転び得る危うい均衡の上に立っていた。

 そして五撃目。もう孔雀龍は見なくても分かっている。

 背後の上空から感じる圧倒的な圧が孔雀龍を捉えていた。

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