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弱肉強食 ー君臨する龍 異形の蟲ー  作者: 世の中退屈マン
繁栄都市への道中編
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孔雀龍vs巨大蜻蛉

 



 ーーキュアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!!



 咆哮をあげると即座に飛翔し、それに合わせて巨大蜻蛉も上空へと昇っていく。

 戦闘が始まってからずっとこの調子だ。孔雀龍の攻撃はかすりもせず一方的に敵の攻撃を受け続けている。



 孔雀龍が巨大蜻蛉を追っていた筈が気付けば背後の上空に陣取られ、一定の距離から付かず離れず様子を伺うように付いてくる。

 小一時間、巨大蜻蛉を追い回し敵の速度に自身の速度が及ばない事は孔雀龍も十分に肌で感じて理解していた。



 しかし、それと同時に敵から幾度もの急襲を受けたおかげで他の事にも意識が向くようになっていた。

 それは戦闘における敵の癖のようなものだ。



 例えば、巨大蜻蛉は三、四回ほどの一撃離脱を繰り返した後に強力な突進攻撃を繰り出すという癖がある事に孔雀龍は気付いていた。

 たとえ敵の速度についていけなくとも、ある程度動きに予測がつくなら戦いようはある筈だ。



 すると一撃、雲を切り裂きながら巨大蜻蛉の一撃離脱突進が孔雀龍を襲う。

 当然、これには反応できず攻撃を受けてしまい空中でバランスを崩しかける。

 その隙に巨大蜻蛉は一撃離脱した直後、即座に旋回し追撃する。



 二撃目も同様、体勢を立て直す前に巨大蜻蛉の突進を受け完全にバランスを失う。

 三撃目、これも来る事は分かっているが完全にバランスを崩した状態で対処する事は不可能だ。



 一撃一撃の重さは孔雀龍にとって致命傷からは程遠いものだ。恐らく強力な一撃を直撃させるための布石なのだろう。

 軽い攻撃で体勢を崩させつつ相手を油断させる事が出来れば本命の攻撃が絶大な効果を発揮するに違いない。



 孔雀龍はそれを敵の癖と認識していたが巨大蜻蛉にとってはそれが自らが生まれた際に獲得した本能に由来するものだった。

 そして四撃目、孔雀龍は待ち構える。ここまで体勢を崩したのだから狙いに来てもおかしくない。



 風を切る音と共に孔雀龍へと迫る。

 孔雀龍は全身から力を抜き極力無駄な動きを無くすように努める。

 だが四撃目も一撃離脱で突進直後に通り過ぎるように距離をとられてしまう。



 次だ。孔雀龍は確信する。次にこそ必ず敵は渾身の一撃を繰り出してくる。

 飛行中にバランスを崩され頭から真っ逆さまに落下している孔雀龍は刹那的な早さで眼球を動かし敵の姿を探すがどこにも見当たらない。



 つまりは視界の外。であればーー

 一か八かで孔雀龍は身体の正面を上に向け、上空を見る。

 すると…………いた。



 あの一瞬で孔雀龍の真上に移動し孔雀龍に狙いを定めている。

 そして、巨大蜻蛉が孔雀龍の視界に入った瞬間、巨大蜻蛉は体勢を整え超音速で孔雀龍に向かって急速発進した。



 巨大蜻蛉の持つ(はね)がキイィッと奇っ怪な音を出したのが刹那に聞こえた気がする。

 気付けば孔雀龍は巨大蜻蛉による地上への垂直突進によって急降下する最中だった。



 そして一撃離脱ではない。孔雀龍を地表に叩きつけるまで絶対に逃がさないという強い意志を感じる。確かにこのまま地面に衝突すれば致命傷とまではいかなくとも重い一撃になるのは間違いない。



 だがこれこそ孔雀龍が待ち望んだ状況だった。



 ーーキュアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!!



 孔雀龍は凄まじい速度で落下する中、咆哮と同時に炎の吐息(ブレス)攻撃を巨大蜻蛉に向けて放った。

 放たれた吐息は巨大蜻蛉の背中で激しく振動する(ハネ)と胴体を巻き込み一直線に(ほとばし)る。



 それでも巨大蜻蛉が止まる事はない。怯む様子もなく一切速度を落とさず地面に向かって突っ込んでいく。



 ーーズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



 地面に衝突する直前に巨大蜻蛉は離脱し孔雀龍だけがその勢いのまま地面に叩きつけられた。

 凄まじい衝撃と共に地表が(えぐ)れ土煙が舞い上がる。

 巨大蜻蛉は落下地点付近を漂うように飛行し孔雀龍の様子を伺っている。



 すると直ぐに土煙を吹き飛ばしながら孔雀龍が姿を現した。勢いが衰える様子はなく即座に吐息を放つ。

 巨大蜻蛉も寸前でそれを避け、また雲の上まで昇っていくと、それを追いかけ孔雀龍も数回吐息を放ちながら薄い雲を貫く。



 高所からの落下突進にしろ、零距離(ゼロきょり)吐息にしろお互い決め手になり得る攻撃にはなっていない。



 一見、孔雀龍の目論みは外れたように思えたが、孔雀龍は先程の零距離吐息から巨大蜻蛉の自由自在の高速飛行に(ほころ)びが生じたように感じていた。



 それは巨大蜻蛉の後ろ姿が僅かに傾きぐらついているように見えたからだ。

 凄まじい速度の最中よくは見えなかったが、恐らく零距離吐息が敵の翅に命中したためだろう。



 であれば、巨大蜻蛉の翅を破壊し機能停止にすればこの戦いが自分の勝利に大きく傾くに違いないと確信する。



 更に、巨大蜻蛉側からの攻撃はどこから来るのか読めない高速度突進だが、一撃離脱突進に大したダメージはなく全力突進や高所からの落下突進であっても何十発と直撃させなければ、重傷を負う事はないとこれまで受けた突進攻撃から推測できた。



 そんな風に勝利の算段が整うとほんの刹那の時間、かつての事を思い出した。

 それは数多の強敵たちと(しのぎ)を削り合い、世界を滅ぼしかけた過去。久方のようにも、つい最近の事のようにも思えるあの強烈で鮮烈な時間。



 あの時間と比べれば今起きてる事は些事(さじ)にも等しい。直ぐに過去の思い出に(ひた)るのをやめ、現在の敵に意識を向ける。

 同時に巨大蜻蛉も自身の飛行能力に若干(じゃっかん)の支障が生じ始めている事、そして突進攻撃だけでは敵を仕留めきれそうにない事を実感していた。



 とはいえ、それでも巨大蜻蛉と孔雀龍の飛行能力にまだ雲泥の差がある事には変わりはない。

 後方から何度か放ってくる孔雀龍の吐息(ブレス)も全方位の殆どを視野に収める複眼で容易く回避している。



 そして、巨大蜻蛉には龍の体皮を突き破り血肉を喰らうための強靭な顎が備わっている。

 これを全力突進と共にぶつければ部位によっては致命傷を与える事もできるだろう。



 ただ、それはリスクを伴う行為でもあった。

 そもそも、ただの一撃離脱突進では飛行中の孔雀龍の体勢を崩す事ができ、カウンター攻撃を一切受けないという利点はあるものの、直接有効なダメージ与える事は出来ない。



 頑丈な体皮と高い生命力を持つ龍種に対して有効打となるのは全力突進であり、より深い傷を負わせる事が出来るのは全力突進の推進力と合わせた噛みつき攻撃だ。



 しかし、高所からの落下突進の時のように一撃離脱突進と違い全力突進はカウンター攻撃を受けやすい。



 翅に受けたダメージはまだそこまで深刻なものではないが、これが二度、三度と重なると縦横無尽(じゅうおうむじん)の高速飛行に支障が出てくる可能性が高い。



 もし孔雀龍と同程度までの飛行能力に落ちればやはり形勢は大きく孔雀龍側に傾くだろう。



 それに何度も攻防を交え両者共にお互いの戦い方をある程度把握しているため全力突進をしかければカウンター攻撃を合わせられる可能性はより高くなっている。



 つまりは強靭な顎を共にした全力突進は孔雀龍に対して最も有効な攻撃手段であると同時にカウンター攻撃による翅へのダメージを誘発するリスクの高い諸刃の剣であるという事だ。



 何度も攻防を交えた事で巨大蜻蛉自身もそれを肌で実感してはいた。

 しかしそれでも、自らの身体の奥底から本能が(ささや)く。

 それが一体どうした。喰らえ。喰らい尽くせ。



 どんな事をしてでも。相手がどれ程の強敵でも。死の危険が訪れようとも、死に物狂いで龍を喰らえ。

 それこそが己の存在理由なのだ……と。


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