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弱肉強食 ー君臨する龍 異形の蟲ー  作者: 世の中退屈マン
繁栄都市への道中編
33/55

弱肉強食の理

 


 ーーゴギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 鶏冠龍はこれまでとは比較にならない程の巨大な咆哮をあげる。

 空気が激しく揺れ、その影響か巨大斑猫の身体も小刻みに震えていた。

 鶏冠龍がこれまでとは大きく異なることに巨大斑猫も感じており、ここからが本番なのだと本能がそう告げていた。


 咆哮が響き渡る中、鶏冠龍の身体は変容していく。真っ白な体毛は褐色に染まっていきやがて全身が褐色の体毛に包まれる。心なしか、毛量が増し毛が逆立って見える。

 頭に生える鶏冠も後方へと伸び、まるでそれ自身が意志を持っているかのようにゆらゆらと揺れていた。


 これこそが朝鳴の鶏冠龍カッショクヤケイの『怒り心頭』状態の姿である。

 常軌を逸した感情を宿さない瞳が血走り憤怒に燃えていた。


 姿が完全に変容すると間髪(かんぱつ)いれず、ボゴオッと鶏冠龍の身体が風船のように膨らむ。

 その挙動のあまりの早さに巨大斑猫は反応が遅れる。


 ーーバアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッ!!!!!!!!!!


 鶏冠龍が爆音波吐息を放つと空気が激しく軋む音と共に巨大な衝撃波が巨大斑猫に襲いかかる。

 衝撃波の規模は『怒り心頭』状態の影響か、先ほどよりさらに大きい。

 巨大斑猫は回避行動をとろうとするが初動が遅れたため躱しきれず、爆音波吐息を身体の一部に受けてしまう。


 爆音波吐息を受けた巨大斑猫は空中を舞い何回転もしながら地面に叩きつけられる。

 すかさず鶏冠龍は巨大斑猫へと爆走し助走からの跳び蹴りを食らわせると、巨大斑猫は地面を跳ねながら吹き飛ばされていく。


 しかし巨大斑猫も吹っ飛ぶ最中で体勢を整え上手く着地し、地面を滑りながら止まる。

 硬い甲殻で受けたためダメージをある程度軽減されはしたが背中の甲殻は凹み鶏冠龍の蹴りの跡がついていた。


 巨大斑猫は前を見据える。太陽を背にゆっくりとしかし確かな怒りをその目に宿しながら鶏冠龍がこちらへ歩いてくる。

 正面からぶつかっても今の鶏冠龍相手では勝機が薄いことは本能でなんとなく理解していた。


 多少、闘い方を工夫しなければならないだろう。


 ーーギャアアアオッッッッッ!!!!!!


 鶏冠龍が強く地面を蹴り爆走する。これも『怒り心頭』状態の影響で更に速度が増していた。

 それでも尚、巨大斑猫の方が速く、巨大斑猫は鶏冠龍の動きを見てから動きだしても十分対処できる。


 巨大斑猫は迎え撃つでもなく、鶏冠龍の突進を迂回するように躱しながら移動する。

 直線的な動きに比べると少しだけ遅く、土煙を過度に撒き散らしていた。


 鶏冠龍は巨大斑猫を追いかけるがその素早さに翻弄(ほんろう)されるばかりで捕らえる気配はない。

 そんな鶏冠龍を挑発するかのように鼻先寸前の距離を何度も通り過ぎ、その度に土煙を巻き上げる。


 いつしか周囲は巨大斑猫の巻き上げた土煙に(おお)われ巨大斑猫がどこにいるのかすら分からなくなってしまっていた。

 しかしそんな目眩ましも鶏冠龍にとっては小細工程度でしかない。

 身体を膨らませ吐息を放つと、身体を回転させながらそれを(むち)のようにしならせ周囲の土煙を吹き飛ばしていく。


 土煙を吹き飛ばした直後、巨大斑猫を探すが姿がどこにも見当たらない。

 逃げた?もう一度周囲を見回すがやはり見当たらない。

 あの高速で移動する走力を以てすればあの僅かな隙の間に逃亡を図る事は容易だろう。


 この姿になった途端、戦況が大きく傾き退散する敵は過去にいくらでもいた。

 そんな考えが頭をよぎると鶏冠龍の苛立ちは更に募る。

 龍の生息領域をこれだけ滅茶苦茶に荒らしておいて。そして愚かにも龍に戦いを挑んでおきながらこんな半端な結末であるなど絶対に許す事はできない。

 どこまでも追いかけ必ず息の根を止めなければこの怒りは収まらない。


 ーーゴギャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!


 怒りが(たかぶ)り咆哮をあげる。

 その直後だった。


 ーーガギャッ!?


 巨大斑猫が上空から降り立ち鶏冠龍の背中にのしかかった。

 巨大斑猫が(はね)を持ち飛翔能力があることを鶏冠龍は見て知っていた筈なのに頭からそれが忘却していた。これも『怒り心頭』状態における理性、判断能力の低下によるものだろう。


 ーーガシュッ


 背中から鶏冠龍にしがみつき首に顎を突き刺す。


 ーーキャアアアアアッ!!!!!


 鶏冠龍は叫び声をあげ振りほどこうと身体を振り回すが三対の脚でしっかりとしがみつく巨大斑猫はびくともしない。

 更にいくら『怒り心頭』状態とはいえこの状況では吐息も蹴りも命中させることができない。


 ーーガシュッ、ザシュッ


 突き刺した顎を引き抜き容赦なく更に二度、三度と鶏冠龍の太い首に突き刺すとそこから血が()き出し巨大斑猫の顔にかかる。

 鶏冠龍は近くの山に背中から突っ込むが、巨大斑猫を引き剥がすことはできない。


 それどころか巨大斑猫の外殻(がいかく)は龍種の体皮と同様非常に硬く山を壁にして突進しても傷一つつける事もできない。

 それを砕く事ができるとすれば鶏冠龍の持つ牙か強靭な脚から放たれる蹴りくらいだろう。


 とはいえ、突進以外に取れる手段はない。片翼を巻き込んでしがみつかれているため翼を広げて飛ぶこともままならない。


 ーーグオオオオオオオエェッ!!!!!!!!!!


 我武者羅(がむしゃら)に周囲に突進を繰り返す。地震でも嵐でもない。一体の龍の怒りによって山々は砕かれ削られ歪に変容していく。

 そんな最中でも巨大斑猫は何度も何度も鶏冠龍の首に強靭な顎を突き刺していた。


 血反吐を吐きながら褐色の体毛を赤く染め何度も転がり暴れ狂う。腹部の傷とはわけが違う。首をもがれてしまえばいくら龍種といえど絶命は(まぬが)れない。


 ーーゴギャアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!


 上空に向けて爆音波吐息を放つ。

 最早何の意味もない行為だ。徐々に追いつめられているにも関わらずこの状況を打破できずにいる苛立ちと焦りそして『怒り心頭』状態における理性の低下が理に(かな)わない行動を誘発する。


 ーーゴボッ!!!


 そうしてついに巨大斑猫の顎は鶏冠龍の首を貫通した。

 直後、暴れ狂っていた鶏冠龍の動きが完全に停止する。大災害が過ぎ去ったことで世界は突如として静寂に包まれる。


 ーーゴバッ!!!ガバッ!!!!!


 鶏冠龍は口から大量の血を吐くと、よたよたと数歩前に進んでからその場に崩れ落ちた。

『怒り心頭』状態もおさまり褐色の体毛は色が抜け落ちていくように白に戻っていく。


 意識はまだある。しかし『怒り心頭』状態の代償で解けた直後は身体を動かせない。

 見上げると巨大斑猫がこちらを覗き込むようにして見下ろしている。

 何を考えているのか分からない漆黒の瞳はじっと鶏冠龍を(とら)えていた。


 ゆっくりと顔を近づけお互いの息遣いが聞こえる距離にまでくる。

 勝利の余韻を楽しんでいるのだろうか、しかし相変わらず感情は読めない。

 無表情な巨大斑猫の口からどろり、と唾液がこぼれ落ちた瞬間だった。


 ーーガブッ、グシャ!


 巨大斑猫は鶏冠龍の顔面にかぶりつく。

 完全に息の根を止める一撃だ。


 ーーギョアッ、ビャッ


 鶏冠龍の生々しい断末魔(だんまつま)があがる。

 それでも一切の容赦なく巨大斑猫は鶏冠龍の顔面に顎を突き刺し喰い千切っていく。

 もう鶏冠龍の身体はピクリとも動かない。決着はついた。


 朝鳴きの鶏冠龍カッショクヤケイは死んだ。斑猫のような姿をした怪物に、蟲のような化け物との闘いに敗北した。

 連なる山々はその姿を大きく歪ませハオヤキ村は跡形も無くなった。

 巨大斑猫の貪り喰らう音だけが静まり返った荒れ地に残っていた。

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