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弱肉強食 ー君臨する龍 異形の蟲ー  作者: 世の中退屈マン
暴虐の獅子龍編
20/55

開幕ー獅子龍龍奉儀ー

 


「博士、次に会う時は龍奉儀当日です」


「うむ、健闘を祈る」


 オオトリノがそう返すとイコトはまた暗闇の中へ消えていった。今度こそ本当に立ち去ったのだろう。


「お前たちもいい加減本当の事を教えてくれんかの」


「本当の事?」


「流れてきた死体、それから山羊龍龍奉儀でのことじゃよ」


「なっ……俺たちは嘘なんかついてない!」


「やっぱり、信じてもらえてないようですね」


 オオトリノはため息をつきながら(なだ)める。


「客観的に自分たちが何を言っておるのかよく考えてみんか。蟻が一体どうやって龍を殺せるというのじゃ」


「だから言っただろ!ただの蟻じゃなかった!小さくても人を喰い殺せる蟻で、そんな奴らがうじゃうじゃ湧いてきたんだ!」


「博士、あれは夢でも幻でもなかった。貴方もここから生還できたら山羊龍の龍奉際が行われた森へて行ってみて下さい。僕たちが嘘を言っているかどうかきっと分かってもらえますよ。命の保証は出来ませんが」


「そうか……もうよいわかった」


 拗ねるようにそっぽを向く。

 たが態度とは裏腹にオオトリノは新鮮な気持ちでヲチの言葉を反復していたことに二人は気付かなかった。




 それからどれ程時間が経っただろうか。何度か最低限の食事は与えられたがそれ以外はずっと暗い牢に閉じ込められていたのでセンとヲチは精神をすり減らしぐったりとしている。

 同じ環境にいた筈のオオトリノはそれほど疲れた感じではなかった。

 気付くと牢の前に誰かいる。


「出ろ」


 大柄の身体に奇妙な紋様を描いている男、ラゴ部族だ。男の言う通り、牢を出て階段を上がり外に出る。

 外に出ると空は分厚い雲に覆われ今にも大雨になりそうだ。


 以前通った時は何人かのラゴ部族の男たちの姿があった道には、贄を運ぶ他部族たちを監督する者が数人いるだけで今彼らの姿はほとんどない。


 そんな彼らが確かに緊張しているのを感じる。恐らくはいよいよ今日ということなのだろう。

 獅子龍龍奉際がついに始まるのだ。



 センとヲチたちが連れてこられた祭儀場は、山羊龍龍奉際の祭儀広場のように森の木々を切り倒して大量の贄と獅子龍が収まる空間を作っている。


 地面には広く深い穴がいくつかあいていて、それが贄を捧げるための器の役割を果たしているようだ。

 既に穴には大量の贄が運び込まれていて穴から溢れて山積みにされていた。

 三人は中心にある山積みにされた贄の近くに連れてこられる。


 周りを見渡すと多くの人が集まっている。

 ラゴ部族はもちろん獅子龍連合に所属する多くの他部族が一堂に会していた。

 ラゴ部族以外の部族たちは皆ひどく疲労している様子が伺える。相当過酷な重労働を強いられたのだろう。


 暫くするとラゴ部族の族長ガザンと族長補佐のゴイそしてラゴ部族ではない数人の監督役が集団の前に現れた。

 祭儀場に集う連合集落の者たち、大量に積まれた贄、そして急遽転がり込んだ幸運に目を向けると、ガザンはこの場にいる全ての者に届くよう声を張り上げる。


「ついにこの日がきた!我らラゴ部族の忠誠の証を獅子龍様に示す時が!獅子龍様こそこの最強の龍!それをこの目で見てきた一族である我らラゴ部族こそが最もふさわしい共存者だ!」


(何がふさわしい共存者だ……ほとんどの作業を他部族にやらせてその成果を自分たちの物にしようとしているだけの癖に……)


 ヲチは心の中で反論する。

 ガザンは続ける。


「そんな最強の龍、獅子龍アスカゴウラ様が最も望むのは何か?」


 ガザンの表情が一変する。ぐにゃりと口角が上がり、かっと見開いた眼球が激しく血走る。


「闘争だ!命を懸けた戦いこそが龍の本懐であり本質なのだ!だが嘆かわしいことに世界は龍からそれを奪った。日夜闘争に身を捧げ闘い続けてきた龍にどれだけ勝ち続けても待っているのは破滅などというくだらぬ現実をこの世界は叩きつけたのだ!」


「ほほう……一部頷けるところはあるのう。流石は族長を任されるだけの事はある」


 龍について語るガザンに専門家であるオオトリノは一人で感心している。


「その現実に我らの先祖は強く嘆いた。やがて獅子龍連合龍奉際にはそんな獅子龍様をお慰めするための神聖な儀式が執り行われるようになったのだ……」


 ガザンは一呼吸間をおく。


「戦士たちよ、前へ!」


 ガザンが声を張り上げると他部族たちから剣や槍を持った男たちがぞろぞろと前に出てくる。男たちは皆小刻みに身体を震わせ尋常ではない面持ちだ。


(何だ?一体何が……)


 ただならぬ雰囲気が祭儀場を包み込んでいくのを感じる。


 ガラ!!!ウバ!!!バザ!!!ゾア!!!


 ガラ!!!ウバ!!!バザ!!!ゾア!!!


 ガラ!!!ウバ!!!バザ!!!ゾア!!!


 リズムに合わせるように片足で地面を蹴りながらラゴ部族たちから意味不明な掛け声のようなものが上がり始める。

 他部族も続いて同じ掛け声を上げていき、異様な熱狂が伝わってくる。

 槍を持ったガザンが槍の柄と片足を強く地面に叩きつけ


「ガバラ!!!」


 と掛け声を上げた瞬間、その儀式の幕が開いた。


 ガザンは槍を持ちながら驚くべき速さで他部族の男たちに迫っていく。


「う、うあああああああっ!!!」


「う……う……うおおおおおおおっ!!!」


「ふぅーっ、ひぃーっ、ふぅーっ」


 他部族の男たちは悲鳴のような大声を上げながらガザンに向けて剣や槍を振り上げながら向かっていく。


「くく……はあっ!」


 他部族の男たち二人が武器を振り下ろす前にガザンの槍が男の喉元を貫き血飛沫が上がる。

 そのまま槍を片腕で横に振り刺された男の横にいたもう一人の男を凪払うと、男は体勢を崩し勢いよく地を転がり倒れる。


 ガザンそれを追ってはゆっくりと男へと近づいていく。

 凪払われた際に剣を落とした男は何とか体勢を戻して落とした剣を拾いに行くが、そこをガザンの足で空中に蹴り上げられ直ぐ地面に叩きつけられる。


 痛みにもがく男を足で踏みつけ仰向けにさせると恐怖に顔を歪める男を笑って見下ろしながら槍で喉元を突き刺した。

 直後、ラゴ部族たちから歓声が上がる。


「おい……おい、おい。何だよこれ……こいつら一体何やってんだ……」


 センは目の前の状況が受け入れられず戸惑う事しか出来ない。


「どうかしてる……」


 ヲチも強い不快感を(あらわ)にする。


 ガザンは次々に戦士と呼ばれて出てきた他部族の者たちを槍で突き刺し、素手で殴り飛ばし、とても愉快そうに彼らの命を奪っている。

 ガザンへ向かっていく男たちの顔は皆絶望の表情で引きつっていた。

 その光景を傍観しながらヲチはイコトの言葉を思い出していた。


 ーー醜悪な儀式の後、龍奉儀が始まる。


「これが……イコト(かれ)が言っていた醜悪な儀式ですか……」


「うむ……じゃがラゴ部族(やつら)にとっては神聖な儀式ということらしい」


 人が人を殺している。

 獅子龍を慰めるだとか昔から行われてきたとかいうそんな理由で。


「どう見てもラゴ部族(やつら)が楽しむためにやっておるようにしか見えんがのう」


 オオトリノは淡々と言う。下らない余興には興味がないといった態度だ。


「ひいぃ!降参します!もう戦えません!どうか……どうか……」


 最後に残った男が涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら助けをこう。

 よく見るとその男はセンやヲチたち三人に食事を運んできていた男だった。


(あいつは……)


「立て。儀式の最中だぞ」


 ガザンは一切聞く耳を持たない。それどころか熱狂を白けさせるような行為に腸が煮えくり返るような様子だ。


「どこの部族だ! こんな腰抜けをよこしたのは!」


 鬼のような剣幕で周囲に怒鳴り散らす。その姿は人というよりもはや猛獣だ。


「申し訳ありません。こやつも始まる前は闘志を漲らせておったのですが……」


 出てきたのはガザンと比べると子供のような老人だった。状況からガザンを怒らせた男と同じ部族の者なのだろう。色が抜けた髪は無造作に垂れており、ガザンを見上げる表情はひどく怯えている。


「この失態どう責任をとるつもりだ?」


「それは……その……」


 ガザンは苛立ち老人の顔を蹴飛ばすと、老人は一瞬宙に浮き地面を転がる。


「どうか……ご容赦を……」


 男は頭を地に伏しぶるぶると震えている。


「おい!もういいだろ!こんなことして何になるって言うんだ!」


 センは数人のラゴ部族と共に傍観しているゴイに叫ぶ。


「獅子龍様に捧げる神聖な儀式だと言った筈だ」


「一方的過ぎる! これが獅子龍の望む戦いだって? 山羊龍カプリコーンとの闘いはもっと過酷で対等だった筈だ!」


「小人ごときが! 獅子龍様のお気持ちを分かったような口を聞くとは何様だ!獅子龍様が望まれるのは暴力の体現だ! 暴力こそがこの世界で最も尊く信仰されるべきものだ! 弱者に生まれ弱者に育てられたお前のような小人には決して……」


「終わってる!終わってるよお前ら!こんな何の意味も無いことで……楽しんでる奴も!下向いて見ないふりしてる奴も!」


「セン!もうそれ以上は……」


「そうか。どうやら死にたいらしいな」


 冷たい表情でゴイがこちらに歩いてくる。

 それでもなおセンは叫び続ける。


「戦え!戦えよ!ずっとそうやって生きていくつもりか!?奴らの機嫌を気にして!いつ死ぬかビクビクしながら!理不尽に奪われて……それで生きてるって言えるのかよ!なあ!」


 直後にゴイの拳がセンの顔面に直撃する。

 センの鼻は歪み後頭部を強く地面に叩きつけられる。その後も腹、腕、足と弄ぶように蹴りを受け、身体中が痣だらけになる。

 他部族の者たちは気まずそうに視線を逸らすか死んだように生気のない目で一点を見つめるばかりだ。


「もう十分だ!それ以上はセンが死んでしまう!」


「こいつは我らの神聖な儀式を侮辱した。死以外にはこれを償うことはできない」


「約束した筈だ!協力すれば見逃してくれるって!」


「ああ、役割を果たせばお前は返してやろう。だがこいつは生かす価値のないゴミだ」


 そう言うとゴイは仲間から投げ渡された槍を振り上げた。


「やめーー」


 ヲチがゴイを止めようと立ち上がった瞬間だった。


 ーーブアアアッ!!!!!!!!!!


 凄まじい音と共に強風が吹き荒れ地面から大きな振動が伝わってくる。

 辺りは土煙が舞い何が起きたかよく分からない。

 だが正面の土煙に目を凝らすと何か大きな、とてつもなく大きな影が揺れていた。


 それが何なのかヲチには暫く分からなかった。

 しかし、いつの間にか頭を垂れ(ひざまず)き僅かに震えているゴイと徐々に晴れていく視界にその影の正体に気付き始める。


 そしてその答えに至った瞬間、身体が震え全身から冷や汗が吹き出していた。

 ゆっくりと上空を見上げると、その正体の全貌を視界におさめることができ、状況を理解するためか無意識的にヲチは口走っていた。


「暴虐の獅子龍……」


「アスカゴウラ……」


 ヲチの言葉を引き継いだように呟いたオオトリノは人格破綻者が見せる純粋無垢でどこか不気味な笑顔で目を輝かせていた。

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