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再会

浩平が『シルフィード』に潜入してから数時間は経っただろうか。

陽は傾き、暗くなり出した街近くの森で野宿の準備を進めるアリス達。

未だに戻ってこない浩平を心配しながらも、アリスは調理を進めていく。

ガルディはというと、丈夫そうな木の枝を集め、アリスが持っていた加工された魔物の革を使って、簡易的なテントを作っている。

そこはさすがドワーフというべきか、テントがあるだけでも助かると言うものだ。

グレイには周囲を警戒してもらい、リオとリリィで焚火に使う薪を一生懸命拾い集めている。

グレイに関しては、浩平がいなくなって、少しでもしたら襲ってくるのではないだろうか? と警戒していたが、浩平の命令を忠実に守っているので、心配する必要はないだろうとアリス達は判断した。

作っているスープの味見をして、完成だと頷いてから、少しため息を吐き、『シルフィード』へと視線を向ける。


「……大丈夫でしょうか、浩平さんは」

「心配なのはわかるが、ワシ等が騒いだとこでどうしようもないのは確かだろ? アリスちゃんよ」

「ガルディさん」


二つ、男女で分かれるために用意したテントを張り終えたガルディが心配そうにしているアリスに話しかける。

ガルディは焚火の前に座り込むと、『シルフィード』へと視線を向ける。


「きっと無事に情報を持って帰ってきてくれるとな。それまでワシ等は信じて、ここで待つしかない。いつ戻ってくるかわからなくてもな」

「そう……ですね。浩平さんは強い人ですから、きっと大丈夫ですよね。それに私達にはあの人の元以外行く宛てがないですから、待つしかないですよね」

「ガハハ! そういうことだ!」


そうだ、今は信じて待つしかないのだ。

彼が、浩平が無事に街から戻ってくるのを、ただ信じて待つしか。

アリスはできた料理を浩平作の木の器によそい、リオ達を呼ぶのだった。





「うっ……?」


浩平は短い唸り声をあげて、重い瞼をゆっくりと開き、起き上がる。

頭に手を当て、少しの吐き気を覚える。


「あぁ……気持ちワリィ。いきなり攻撃を仕掛けてくるってのはねぇんじゃないか。たくっ……んで、ここはどこだ? 牢屋か?」


浩平が辺りを見渡すと、目に入るのは石造りの壁に鉄格子の窓と重そうな鉄の扉。

どれほど眠っていたのだろうか、外は夜になっており、唯一の明かりは鉄格子の窓から差し込む月明りのみ。


「たくっ……夜目は効く方だが、明かりは欲しいもんだな」


メンドくさそうに頭を掻きながらも、辺りを再び見渡す。

明かりになりそうなものは特に見受けられず、深いため息を吐く。


「ハァ……。明かりになるもんがないって、どういうことだよ。それはちょっと酷いじゃねぇか……って言いたいとこだが、牢屋は都合がいい。麻耶が捕まってるらしいしな……あの野郎に存在がバレてなきゃだが」


恐らく、あの男が目的としているのは『ハーレム』だろう。

男なら誰しも一度は夢見るであろうことで、異世界に来たとなればなおさらだろう。

麻耶は長い付き合いである浩平から見ても、美人だと言える。

綺麗、というよりは可愛らしい顔立ちをした童顔だ。

あの男の耳にでも入っていたら、きっと連れ出されている可能性もあるだろう。

それにアリスが探していたエルフの子もどうなっているか心配である。

もしかしたら、あの男に捕まっている可能性があるからだ。

ガルディの娘もあの男の元にいるとのことだ。

ある程度の情報を頭の中で整理すると、笑みを浮かべる。


「まずは麻耶の救出を最優先だな。まぁ、まだ牢屋にいるのなら、だけど。後はこの牢屋がどこにあるか次第で、アリスの仲間とガルディの娘を連れ出すことだな。連れ出した後は……うん、逃げあるのみだな」


正直、揉めるのも面倒なので、連れ出した後は逃げの一択のみである。

ただ逃げたとして、どこまでも追ってくると言うのなら面倒な話ではあるが。

その時はその時で撃退を試みるしかないだろう、と考える。


「とりあえず、脱出するか」


浩平は軽く背伸びをしてから、扉へと近づくと、重厚な鉄の扉を蹴り一発で蹴り破ってみせる。

鉄の扉は大きなへこみを作って、大きな音を立てて壁へとめり込む。


「何事だ!」


その音に反応したのだろう見張りが確認しにやってくる。

見張りは浩平がいた牢屋へとやってくると、その場に浩平の姿はなく、蹴り破られた鉄の扉があるだけ。


「なっ!? 扉が!?」


見張りの女性はそれに驚き、急いで牢屋へと近づき、手に持っていたランタンで中を確認しようとした時だ。

彼女の背後に誰かが降り立ち、その気配に反応して振り返ろうとした瞬間、首元に手刀を叩き込まれる。

意識を刈り取られた女性はその場に倒れこみ、それを行った張本人―――浩平はふぅ、と一息つく。

あの時、見張りが来る前に浩平は素早く天井へと飛び上がり、そこに隠れていたのだ。

幸い、通路が左程広くないために両手両足を伸ばせば、壁に届いたのと明かりが松明しかないために、天井までは完全に照らせなかったために隠れられたのだ。

監視の女性が起きないとも限らないため、ロープがないだろうかと探しに行くと、監視員の部屋らしきものを発見する。

そこには浩平が身に着けていた、アリス作のフードマントがある。


「ここにあってよかったっていうべきか?」


フードマントを手に取り、再び羽織ると、鍵がテーブルに置かれているのに気付く。


「鍵をここに置いておくなんて不用心だな。まぁ、俺からすればありがたいが」


ロープは見つけられなかったが、鍵は見つかったのでよしとしようと考える。

後はどこに麻耶が閉じ込められているかであるが、コレばかりは一つ一つ確かめていくしかなさそうだ。

浩平はメンドくさいな、とため息を吐きつつも、一番近い扉から確かめていくかと思った時だ。


【……そこは違う】

「……え?」


いきなり聞こえてきた声に驚き、周囲を見渡し始める。

だが、浩平以外姿は見えず、誰もいない。

気のせいか? と考えると、再びその扉を調べようとした時だ。


【……三つ目の扉、私はそこにいる】

「麻耶、なのか?」


よく聞けば、聞き覚えのある声ではある。

だが、一体これはどういうことなのだろうか?

不思議に思いながらも、麻耶の声ならと信じて、浩平は三つ目の扉へと足を向ける。

部屋の前まで来ると、鍵を一本一本順番に差し込んでいく。

そして、五、六本目くらいだろうか。

鍵が回転し、部屋の鍵が開く音が聞こえる。

ゆっくりと扉を開くと、そこにあるのは大量の本。

その中心には見覚えのある白髪の少女―――麻耶が本を読みながら座っている。


「……浩平、待ってたよ。見つけてくれるのを」


麻耶は本を閉じて、顔をゆっくりと上げて、浩平へと微笑みかける。

その姿を見てか、安堵した様な息を吐いて、浩平も麻耶に微笑みかける。


「たくっ、俺は一生懸命探してたのに、お前はゆっくり読書かよ。しかも、牢屋でよ」

「……仕方ない。こっちに来て、すぐにエルフに捕まった。仮でここに入れられてただけで、少し経てば釈放はされるかもと聞かされていた。だけど、忘れられたのか、このまま数日が経った。幸い、捕まった時にそれまで本を読んでおきたいと言ったら、たくさん用意してくれたから、暇にはならなかった」

「いや、忘れられたと言うよりかは……」


恐らく、その後にあの青年が領主になったために、麻耶の話はなかったことになったのだろう。

これ幸いというべきなのかはわからないが、おかげで青年の耳に麻耶のことが入ることはなかったと言うことだろう。

それによくよく思えば、あの時、彼は「ここで同族に出会えるとは」と言っていた。

つまり、浩平がこっちで初めて会った同じ人間だったと言うことだろう。

言っていたことを忘れていたとは、少し情けなくなってくる。

浩平は積み上げられた本を跳躍して飛び越え、麻耶の元へと降り立つと、手を差し伸べる。


「まぁ、もうどうでもいいじゃねぇか。迎えに来たんだ。行こうぜ?」

「……うん、そうだね」


麻耶は差し伸べられた手を取り、ゆっくりと立ち上がる。

浩平が迎えに来てくれたのなら、ここの領主がなんと言おうと出ていくつもりだ。


「それにしても、こんなに本を読ませてくれるとは……。エルフの秘匿とかないのかね? この世界はよ」

「……そういうのはどうかわからないけど、本のおかげで、どんな種族がいるのかも理解できた。それと『人間』がこの世界に存在しないのも」

「なるほどな……。つうか、字読めたのか? 言葉は通じるが、ここ字は違うハズだったけど」

「……大丈夫。見たら解読できたから・・・・・・・・・・

「あ、そうっすか。相変わらずの頭脳で驚きだよ」

「……浩平の不思議な体構造ほどではない」

「ほぼほぼ変わらねぇよ、お前の脳の構造」


麻耶は小首を傾げながら、不思議そうに言うと、浩平はため息をついてしまう。

麻耶は記憶力が良い、どころではない。

どういう脳の構造をしているのか、初めて見る文字や問題など、瞬時に理解し、できる様になってしまうと言う不思議さを持っていた。

更には一度見たことや聞いたことなどは二度と忘れることはないと言うほどの記憶力の持ち主でもある。

元の世界では、その二つが相まって、『神童』などと言われていたりもしていたが。


「まぁ、この世界がどんな世界か説明する手間も省けたとだけ思っておくか。とりあえず、早くこの牢屋から出るぞ。ロープがなかったから、看守は縛れてねぇからな」

「……わかった」


麻耶の頷きを確認した浩平は道を開けるために本を退けようとした時だ。


「……任せて。『フローティング』」


何かの呟きが聞こえた瞬間、麻耶の足元に風の属性を表す緑色の魔術式が展開される。

そよ風が部屋の中に吹き始めると、次々と本が浮かび始め、牢屋の隅へと集められていく。

浩平自身は何が起こっているのか理解できず、目を白黒させている。

そうこうしている内に扉の前にあった本は全て隅に寄せられる。

麻耶は一仕事終えたと言う感じに一息ついてから、浩平に微笑みかける。


「……、道、できたよ。行こう?」

「……いや、ちょっと待て。いや……え?」


浩平は未だに目を白黒させながら、麻耶へと視線を移す。


「なんでお前、魔術使えるんだ? あの邪神から何も力を貰っていないはずだよな?」

「……うん、だって、浩平が嫌な予感がするっていうから。その時のディスプレイだって、浩平が潰したよね?」

「あ、あぁ。そうだよな……そうだったな。え? じゃあ、なんで魔術使えるの?」


あの時、二人は確かにロキから特典を貰わなかった。

それなのに、魔術を行使する麻耶に疑問を覚える。


「……なんでって言われても、できるものはできるから。読んで、理解して、試しにやったらできた。以上」

「えぇ……」


浩平はどう反応すればいいのか、わからなくなった。

実はと言うと、異世界に来たことでロキから特典を貰わなくても魔術くらいは行使できるのではないのか? と思い、アリスから教わろうとしたことがあった。

その時、相談されたアリスの顔は申し訳なさそうな顔をしていたことを今でも覚えている。


『その、すみません。大変言いにくいのですが、浩平さんから魔力を感じなくて……ですから、その』


それを聞いた時、軽く落ち込んでいたりもした。

だからこそ、自分ができないはずの魔術を麻耶が行使しているために、反応に困っているのだ。


「えっと、覚えただけでできたのか?」

「……うん、そう言ってる」

「……元々そういう素質でもあったと考えるべきか?」


元々持っていた才能だと考えると、逆に納得が行く。

苗字が苗字なだけに麻耶は陰陽師の末裔、という噂があったほどだ。

それを考えると、魔術が使える様になっても不思議ではないと思えてくる。

とりあえず、今は気にするべきではないだろうと思い、浩平は歩き出す。

そんな浩平の後に続く様に麻耶は歩き出し、共に牢獄の外へと出る。

麻耶は久々の外のためか、月明りでも少し眩しそうに見上げ、浩平はその間に辺りを見渡す。

少し離れた位置に大きな屋敷が見える。

恐らく、アレが領主の屋敷だと考えるべきだろう。

あそこにはガルディの娘と恐らくだが、アリスの仲間が捕まっているに違いない。

距離もそれほど離れていないため、浩平の足をもってすれば、一、二分で着いてしまうだろう。

ならば、今から潜入をし、目的の二人の救出をするべきだろう。

そのためには、少しの間は麻耶に隠れてもらっておく必要がある。


「麻耶、俺は用事があるから、少しの間隠れて「大丈夫」え?」

「……浩平が考えてることは大体わかるよ? 長い付き合いだから。あそこの屋敷に用があるんだよね?」

「え? あぁ、そうだけど」

「……理由、聞いてもいい?」

「まぁ、いいけどよ」


どうせ、隠し事をするよりかは理由を言って、待ってもらう方がいいだろうと考える。


「あそこに用があるのは、俺の仲間の大事な人たちが連れていかれてるから。んで、これから中に忍び込んで連れ出そうっていう算段だ」

「……何故、忍び込むの? そういう理由があるのなら、正面から堂々と入ればいい」

「いや、俺捕まってた身だぞ? そんなので堂々と行けば、脱獄しました、と言っている様なもんだろうが。それに、そこの領主とは話し合いで決着がつきそうにないんでな」

「……どうして?」


問い詰めてくる麻耶に思わずため息をついてしまう浩平。

今更始まったことではない。

昔からケンカした理由も、メンドくさがっている理由も、何かと問い詰めてきていた。

浩平はメンドくさいな、と思いながらも、口を開く。


やっこさん、俺たちと同じ人間なんだよ。んで、目指しているのが『ハーレム』。こんなのと話をして、通じると思うか? しかも、俺のいきなり催眠かけてきた様な奴だぞ?」

「……そうなんだ。それよりも、今から浩平が連れ出そうとしているのって、もしかして女の子?」

「え? あぁ、そうだな。どっちも女だな」

「……そう」


それを聞いて、少しムッとなる麻耶に、不思議そうに首を傾げる浩平。


「……でも、友達のためなら仕方ない。浩平の友達ということは私の友達でもある」

「いや、仲間だから。友達っていうわけじゃ」

「……仲間も、友達も、私からすれば一緒。だから、助け出すの手伝う」


麻耶は無属性を表す灰色の魔術式を展開する。


「……居場所がわかればいいよね?」

「あぁ、そりゃそうだが……何する気だ?」

「……任せて。探るだけだから。『サーチ』」


魔術を唱えた瞬間、麻耶を中心に目に見えない魔力の膜がドーム状に展開されていく。

ドームは大きく広がっていき、屋敷まで到達すると、麻耶の頭の中に屋敷の間取り、どこに人がいるのかという内容が頭の中へと流れ込んでくる。

麻耶は目を閉じ、その情報を頭の中で整理していく。

特定したい人物が誰かはわからないが、変わった反応が三つ、一部屋に固まっている。

そして、『サーチ』を終えた麻耶はゆっくりと目を開き、手を浩平の前に出す。


「……『マッピング』」


次の瞬間、魔力が浩平と麻耶の前で地図を作り上げていく。

もう驚かないぞ、と呟いた浩平はできていく地図に反応する。


「こりゃ、便利だな。マップを作り出すだけじゃなくて、人員がどこにいるのかも記してくれるなんてよ」

「……そうでしょ? 便利そうだから、覚えたんだ」

「一生懸命って言わない辺り、お前らしいなとは思うが……この色が違う三つはなんだ? 一つは銀色で、一つは赤い。それと対面するかの様にいるのはピンク色で表示されてるが」

「……それは変わった反応の三つ。銀色のはエルフの反応なんだけど、他のエルフたちとは少し違う反応を示した。赤はなんだか、束縛する力を感じたからそうした。で、ピンク色だけど……何か嫌なものを感じたから。イヤらしい気配っていうべき?」

「あぁ、うん。目的の二人がここにいるのはわかったが……まさか、領主様といるとはねぇ。しかも、この部屋……」


麻耶のおかげで日本語で書かれており、その部屋の名前は『領主の寝室』となっている。

浩平はいつになく真剣な表情となり、手の骨を鳴らし始める。


「ちょっとやばい状況かもな。すぐに行かねぇとな。この際、潜入は抜きで」

「……大丈夫、任せて」

「……」


三回目のその任せてを聞いて、もう何も言うまいと思う浩平。

既に麻耶の足元には緑色の魔術式が展開されており、麻耶は役に立てるのが嬉しいのか、微笑みを浮かべてみせた。

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