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魔物

次の日の朝。

アリスの先導の元、浩平達はアリスの故郷である『シルフィード』と呼ばれる街を目指していた。

浩平はアリスの隣を歩いており、『シルフィード』に向かう目的を聴こうとしていた。


「アリス、昨日の話の続きだが、お前の故郷に向かいたかった理由を聞いてもいいか? お前が自分を危険に晒しても戻ろうとしている理由を」

「そういう約束でしたね」


浩平の声かけにアリスは頷くと、少し表情を暗くする。


「戻りたいと言ったのは、あそこにもう一人『忌み子』と呼ばれる子がいるからです。その子は私より年下でして、同じ忌み子として助け合ってたんです」


そこまでアリスが言うと、浩平は理解したのか、「なるほど」と呟いて頷く。

アリスが自分の身を危険に晒してまで故郷に向かう理由……。

それは共に忌み子として暮らしていた子が心配で、あわよくば連れ出そうとしていると言うことだ。


「つまり、アリスはその子を助けたくて、自分の故郷へ行くことを提案したんだな?」

「ハイ。私にとっては唯一の仲間で、大切な家族みたいなものでしたから。奴隷として行くことになった時もあの子が心配だったんです」


アリスはその子のことを思い出してか、今はどうしているのかと不安そうな表情を浮かべる。

それを聞いた浩平は顎に手を当て、少し考え事をする。

考え事というのは『シルフィード』についた後に行動だ。

『シルフィード』が一体、どれほどの規模の街なのかはわからないが、麻耶を探すこととその子を助け出す算段を両方考えなければならない。

いや、それだけではない。

浩平がその街に言った場合、どういった扱いを受けるかだ。

『人間』と言う種族が存在しないこの世界では、浩平は未知の何かとして見えるだろう。

最悪、迫害すべき対象なのでは? となっても困る。

後に訪れる人間たちに迷惑がかかるからだ。

まぁ、そこまで考える義理もないのだが、もし自分のせいでそうなったのなら、気分が悪いと言うものだ。

他の種族たちの接し方……そこにも注意を払う必要がある。

そこまで考えてから、浩平はメンドくさくなったのか、頭を軽く掻いてから、考えるのをやめる。


「ハァ……。今考えても仕方ねぇか。とりあえず、向こうについてからするべきことは二つ。麻耶の捜索とその子が無事であるか。もし、無事が確認できれば、連れ出す作戦を立てるだな」

「ハイ、それでお願いします。私もできる限り、知恵をお貸ししますので」


そこまで言うとアリスは何か言いたいなのか、少しモジモジし始める。

それを見てなのか、浩平は大体察しが付いた。


「後、その子を連れ出すのなら、名前も考えておかないとな。苗字はアリスと一緒でいいよな?」

「! ありがとうございます、浩平さん」

「別に。名前がなけりゃ、呼ぶ時に俺が困るってだけの話だ」


浩平はそれだけ言うとそっぽを向いてしまい、それにアリスはクスッと笑う。

なんだかんだ言いながら助けてくれる浩平は素直じゃないだけなのだと、この数日で気付いた。

ひねくれていると言うか、なんというかだ。

正直なところもあれば、ああいう風な遠回しな言い方をする時もある。

ちょっと面倒な性格だけど……面白い人だとアリスは認識している。

そして、アリスは後ろからついてきているリオとリリィへと視線を向ける。

手を繋いで、仲睦まじくついてくる二人に先ほど話に出たあの子とそういう風にしている時の光景が重なって見える。


「……無事でいてね」


それだけ呟いて、感じる風の案内の元、『シルフィード』を目指す。

適当に歩き回っていた甲斐があったのか、意外と『シルフィード』に近い場所にいたみたいであり、夜には向こうにつくだろう。

少し歩いたくらいだろうか。

リリィが座り込んでしまい、疲れ切った顔を浮かべている。

疲れてしまうのは仕方ないだろう。

朝起きてからずっと歩いており、それもリリィはまだ幼い。

むしろ、今までよく一緒に歩いてられたものだ。

リリィが座り込んだことに浩平とアリスは反応し、リオとリリィの元へと行く。


「オイ、大丈夫か?」

「ハァ……ハァ……疲れました」


浩平が声をかけると肩で息をしながらも、リリィはそういった。


「なら、少し休憩をしましょう。朝からずっと移動してましたし、太陽の位置を見る限り、今は昼時です。昼食にしましょう」

「そうだな。俺も腹が減ってきたし、賛成だ。リオもそれでいいよな?」

「ハイ、大丈夫です。後、ありがとうございます。リリィのために」

「いいんですよ。私達は仲間なんですから、助け合わないと」


浩平達は近くにあった木の元へと向かい、その木陰へと入って一休みする。

焚火をし始め、そこに木の枝で刺した肉を火の近くに突き刺し、焼き始める。

浩平はその間に罠でも張って、警戒するかと思い、立ち上がった時だ。

浩平の耳に何かが走ってくる音が聞こえ始める。

それもこちらへと向かってきている。

走っている音の感じから察するに四足歩行……つまり、人ではないし、複数聞き取れる。

魔物か、獣か……。

何かがこっちに向かってきているのは明白で、浩平は音のする方へと視線を向ける。

浩平の様子に気付いたアリスは声をかける。


「浩平さん? 一体どうしたんでしょうか?」

「何かがこっちに向かって、走って近づいてきているのが聞こえる。それも複数だ警戒しろ」

「え? 走ってきているのが聞こえるって……私には何も」


聞こえていないのだ。

エルフは森を住処としている分、聴覚や視覚が優れており、獣人ほどではないが、それなりに耳は良い方だ。

だからこそ、エルフの自分でも聞き取れていない音に反応できていない音に気付いている浩平に驚くしかない。

ハッキリ言うと獣人の狼種や兎種などと良い勝負かもしれない。

この数日で、そういった反応を見せたことはちょくちょくあったが、本人から音が聞こえると言ってきたのは初めてだ。

浩平は目を細め、こちらに迫りくる何かを視認しようとする。

アリスも急いで立ち上がり、浩平が見ている方へと視線を向け、姿を確認しようとする。

だが、自分が見える範囲ではその姿は見えず、次は辺りを見渡すも、それらしき姿もない。


「浩平さん、どこにも魔物の姿は「見えた」え?」


浩平は先ほどと変わらない方向を見ており、アリスも再びそっちへと視線を向けるも、やはり姿は視認できない。

その間に浩平は先手必勝か? と考えるが、服に仕込んでいるナイフだって無限ではない。

視認できた感じだと群れで行動しているのは確かだ。

この平原の草にうまく身を隠しながら、こちらへと走ってきているが、浩平からすれば、隠れていようと関係ない。

足元に落ちていた手頃な小石を拾い上げると、それを軽く上に投げてキャッチすると言うのを何度か繰り返してから、不敵な笑みを浮かべる。


「大体二、三キロってとこか……? よし、やるか」

「え?」


そういったと同時に浩平は持っていた小石を投球する。

その瞬間、空間や風をぶち抜いたのではないだろうかという轟音が鳴り響き、小石は一瞬で飛んで行ってしまう。

その数秒遅れて、突風が起きて草が左右にかき分けられる。

そのかき分けられた草の間から見えたのは灰色の毛並みを持つ狼……『グレーウルフ』が額から血を吹き出しながら倒れる姿が見えた。

あり得ない……アリスが思ったのがそれだった。

弓を得意とするエルフでも、その距離を射抜くのは難しい。

そもそも矢が届く範囲でもないものを、浩平は投げると言う行為だけで、威力を落とすことなく『グレーウルフ』へと小石を直撃させたのだ。

銃から放たれた弾丸と言っても……いや、それ以上のスピードを持った小石をだ。

仲間が一体やられたことでグレーウルフは隠れて近づくのをやめ、走るスピードを上げてくる。

浩平はそれに焦ることもなく、小石を蹴り上げ、それをキャッチすると再び投球。

そして、また蹴り上げて投球と、それを二、三回ほど繰り返す。

その度にかき分けられた草から見える小石に撃ち抜かれていくグレーウルフにアリスは口をポカーンと開けて、呆然とするしかなかった。

Eランクの魔物とはいえ、小石だけで一体ずつ確実に仕留めてしまう浩平に驚くしかない。

この数日、投げていた物と言えばナイフなのだから、余計にだ。

だが、アリスは驚きはすぐに消える。

その理由は。


(やはり凄いですね、浩平さんは。神が送るほど強い種族なんですね、『人間』とは)


アリスは……いや、アリスだけではない。

リオとリリィもこの数日、共に行動する内にそう理解していたのだ。

そもそも、『人間』がそんなことをできるほど優れた種族ではないのだが、『人間』が存在しないこの世界では、そんなことを知る由もない。

そういう風に思っていると、唸り声が聞こえてきて、アリスはそれに反応する。


「グルルルル……!」

「グレーウルフ……!」


気を抜いていた。

浩平の行動に驚いていたのもあるが、浩平がいるから大丈夫だと考えていたアリスは少し気を抜いていた。

だからこそ、仕留めきれなかった最後の一匹が近くまで来ているのに気付けなかった。

アリスは素早く腰につけているコンバットナイフを抜き、身構える。

グレーウルフなら狩りをする際に何度か戦っているから大丈夫だと思いながらも、アリスとグレーウルフの間には緊迫した空間が漂う。

そして、両者が動き出そうとした時だ。


「ほい」

「キャイン!?」

「え……? えぇ!?」


まさかの浩平が横やりを入れて、グレーウルフをチョップ一撃で沈めてしまう。

いや、今までと違って殺してはいない様で、体に力が入らないのか、プルプルと震えている。

一体どういうつもりなのだろうかと思っていると、浩平は鞄から肉を一つ取り出すと、グレーウルフへと近づけ始める


「な、なにをしてるんですか、浩平さん!?」


それに反応したのはリオ。

まさか魔物に食料を与えるとは思っていなかったので、驚きの声をあげたのだ。

それはアリスとリリィも同様であり、驚愕の表情を浮かべている。

そんな反応に対し、浩平はグレーウルフに肉を近づける。


「少し考えがあってな。まぁ、見てろ」

「グル……?」


グレーウルフはいきなり差し出された肉に戸惑い、首を傾げる。

そして、鼻を動かし、少しニオイを嗅いで、毒がないかを確認してから肉を食べ始める。

浩平は肉に食らいつくグレーウルフの頭を優しく撫で始める。


「浩平さん、危ないですよ!」

「リオさん、落ち着いてください。浩平さんは考えがあると言っていました。ここは浩平さんを信じましょう」

「アリスさん……」

「お兄ちゃん、大丈夫だよ。浩平さんならきっと」

「……そうだな、リリィ」


リオは二人に言われて、浩平を信じて見守ることにする。

そして、当の本人たちは撫でられて気持ちいいのか、グレーウルフは気持ちよさそうに受け入れている。

浩平はそれに笑みを浮かべると、撫でるのをやめると、浩平とグレーウルフの目が合う。

再び撫でてあげると嬉しそうに受け入れ、浩平へとすり寄ってくる。

その光景にアリス達は驚いてみていた。

エルフでも、狩りを手伝ってもらうために狼を手懐けたりすることもあるが、浩平が手懐けたのは獣の方ではなく、魔物と数えられるグレーウルフだ。

魔物を手懐けたなど、聞いたこともない。


「クゥーン」

「いやぁ、意外とできるもんだな」


浩平の肩に前足を置き、顔を舐めるグレーウルフ。

それはまるで犬が飼い主に甘えるかの様な感じだ。

そう、浩平自身がやってみようと考えたのは魔物を飼いならせるかどうか。

それを試すためにグレーウルフで実験をしてみたのだ。

狼型の魔物だし、犬を手懐ける様な感覚でいけるのでは? と思って実行したのだ。

実験は成功、後は躾ければ問題ないだろうと浩平は考える。

魔物の分、知能は高いかもしれないから、躾けに苦戦することはないだろうと思うが。


「さてと、それじゃ……そうだな。『グレイ』、これがお前の名前な?」

「ガウッ!」


了解! という感じで吠えて頷いてみせ、それを確認した浩平はそのままアリス達の元へと歩いていく。

アリスとリオは手懐けたとはいえ、グレーウルフに少し警戒する。


「まさか魔物を手懐けてしまうとは思いませんでした。まさか浩平さんの考えがあると言うのはこういうことだったんですか?」

「まぁな。もしかしたらできるんじゃないか? と思って試してみた次第だが……リリィ」

「何ですか、浩平さん?」


呼ばれたリリィは浩平に近づき、可愛らしく小首を傾げる。

すると、浩平はリリィを持ち上げグレーウルフ……グレイの背中へと乗せる。

グレイは魔物なだけあり、通常の狼より一回り大きいためにリリィを乗せることができるのだ。

そしてリリィはグレイの背中に乗せられたことに驚き、少し戸惑いながら浩平を見る。


「えっと、浩平さん。コレは……」

「手懐けようと思った理由はもう一つ。リリィ、お前を乗せるためだよ」


そう、手懐けた理由はもう一つあり、リリィのためでもある。

自分たちについてくるだけでも必死なリリィに、少しでも楽をさしてあげるために魔物を手懐けたのだ。

これなら、自分たちとの長時間の移動も大丈夫なハズだと考えて。


「まさか、馬の代わりにということですか? リリィさんを乗せるために」

「まぁ、そういうことだな。これで少しでも早く『シルフィード』につくだろう?」

「! ハイ」


微笑んでみせる浩平にアリスは笑顔で頷いてみせる。


「さてと、そういうことだから、グレイ。俺の大切な仲間を頼むぜ?」

「ガウッ!」


了承する様に吠えるグレイを見て、浩平は頷くと焼け始めている肉の元へと向かう。

それに反応したアリス達も浩平の後へと続く。


「それじゃ、さっさと食べて、出発するとしようぜ」

「「「ハイ!」」」


アリス達は浩平の言葉に笑顔で頷くのだった。

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