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奴隷 Ⅱ

エルフの少女は笑みを浮かべながら近づいてくる浩平に、警戒していた。

助けてくれたことは感謝している。

だからと言って、それとこれとでは話が別だ。

もしかしたら、あのゾンビウルフを狩る様に依頼されていた冒険者の可能性だってある。

そこに偶然、自分たちがいたから助けたと言うだけ。

先ほどの身のこなしを見る限り、身体能力はそれなりに高い様だ。

獣人族と良い勝負ではないだろうか。


(だけど……彼に獣の耳はない)


あの身のこなしを見た時に獣人族ではないだろうか? と考えたりもしたが、そうなると彼らが持つ獣の耳が彼にはないのだ。

となると、瞳が赤いことから吸血鬼ではないだろうか? とも考えたが、そうなると彼にはコウモリの様な翼も、鋭い牙もないため、違うと判断した。

変わった装備を頭にしていることから、ドワーフとかだろうか? と考えるが、それにしては身長は高いし、ずんぐりむっくりとはしていない。

そうこう考えている間に浩平は三人の前まで来ていた。

それにゴブリンの少女が反応する。


「あ、あの! お兄さん、助けてくれてありがとうございます!」

「ん? あぁ、いや。気にするな。気まぐれだし、何より胸糞ワリィこと聞いた後だったからな。八つ当たり感覚でやってたことだし」


八つ当たりで、あのゾンビウルフを倒せるって……と思うエルフの少女とゴブリンの少年。

それと同時に気付く。

ゴブリンの少女が普通にお辞儀できているのだ。

首輪を見てみると、光は消えており、強制力が終了しているのがわかる。

どういうことだろうかと不思議に思いながらも、二人もお辞儀をする。


「お、俺からもお礼を言います! ありがとうございます!」

「私からもありがとうございました」

「だから、気にするなって言ってんだろ。じゃあ、俺は行くわ。メンドクセェが、ツレを探さねぇといけねぇからな」

「え……?」

「え? 何?」


エルフの少女の呟きが聞こえたのか、浩平はそちらへと視線を向ける。

エルフの少女はてっきり、これを機に自分たちにそのまま奴隷になる様に言ってくるものだと思っていた。

だからこそ、警戒もしていたのだが、普通に立ち去ろうとするこの男に、驚くしかなかった。

『忌み子』や『下等種族』とはいえ、エルフの自分と顔立ちが可愛らしいゴブリンの少女は慰み物として欲しくなるものではないのだろうか?

逆にこういう反応をすると、女としての自信を無くしてしまいそうにもなる。

浩平自身はさっきの呟きに不思議に思いながらも、立ち去ろうとする。


「用がないなら行くからな」


浩平は三人に背を向け、手を振りながら歩いていこうとした時だ。


「そこのお前! 待ちやがれ!」


その場にいた四人は声が聞こえてきた方……森の方へと顔を向けると、先ほどエルフの少女とゴブリンの兄妹を囮にして、逃げ出した奴隷商がこちらへと走ってきていたのだ。

浩平はそれを見て、メンドくさいのが来たと言う感じでため息をつき、エルフの少女とゴブリンの少年は睨みつけ、ゴブリンの少女は兄である少年の後ろに隠れる。

奴隷商は四人の近くまで来ると、肩で息をしながら、浩平を睨みつけてくる。


「お前……! どこの種族か知らないが、よくもエルフである俺を殴りやがって……!」

「ハァ……。そりゃ、お前。あんな話聞いて、ムカつくに決まってんだろうが。テメェ自身が助かるために、コイツ等を囮にしたっていう話を聞けばよ。後、俺の種族なんて見ればわかるだろ? 一番ありふれてる種族なんだからよ」

「ありふれただぁ……!? お前の様な姿の種族なんざ見たことない!」

「あ……?」


奴隷商から出た言葉に反応する浩平。

例え、他種族が存在するファンタジーとはいえ、人間が数では一番多いはず。

だからこそ、ありふれた種族だと言ったのだが……何かこの世界、少し変わったところがあるのかもしれない。

話を聞こうか、と奴隷商の男を見るも、激怒しているので無理だと判断すると、あそこにいる三人から聞くのが一番だろうと考える。

麻耶を探すために去ろうかとも考えたが、これからを考えると現地人との情報共有はしておきたいものだ。


「チッ、まぁ、いい。今はお前がどこの誰かなんてどうでもいい。俺は残った奴隷三人を売りに行かなきゃならないからな」


奴隷商の男は浩平のコトを無視して、三人の少年少女へと歩いていく。

エルフの少女とゴブリンの少年が強く睨みつけるも、奴隷商の男は余裕の笑みを浮かべる。

そう、首輪がある限り、強制力が働くために反抗などできないのだ。

それをわかっているからこその余裕。

いや、忌み子のエルフと下等種族のゴブリンに襲われたところで対処できると言う余裕の意味もあるのだろう。

奴隷商が近づいてくる度に苦虫を噛み潰したかの様な表情へと変わっていくエルフの少女とゴブリンの少年。

ゴブリンの少女は涙目になりながら、兄である少年の後ろに隠れながら、少し考え事をしている浩平へと視線を向ける。


「お、お兄さん。助けてください! お願いします!」


縋る様な、希望を持ってかの様に、声をあげるゴブリンの少女。

あのゾンビウルフと眷属と化したゾンビたちを一人で一掃できるほどの実力を持つあの人ならと。

その声が聞こえたのか、浩平はゴブリンの少女へと視線を向ける。

二人の視線が交わり、少ししてから、浩平はため息をついてから、頬を人差し指でポリポリと軽く掻く。


「助けを求めたところで、お前らの様な奴らを助ける物好きはいないだろうが! この忌み子と下等種族「やかましい」ぐふぁ!?」


奴隷商がバカにするかの様に大声で言っていると、浩平の拳が顔面にめり込み、殴り飛ばされる。

あの時のゾンビたちと同じ様にまたボールかと疑いたくなるかの様な勢いで。

その状況をエルフの少女とゴブリンの少年は呆然と見ることしかできず、ゴブリンの少女は嬉しそうに目を輝かせながら、浩平に近づく。


「お兄さん! ありがとう!」

「……気にするな。やかましかったから、殴り飛ばしただけだしな。別にテメェ等のためじゃねぇさ」


花が咲いたかの様な満面の笑みを浮かべるゴブリンの少女に微笑みながらそういう浩平。

そして、殴り飛ばされた奴隷商の男は鼻の辺りを手で抑えながら立ち上がり、額に青筋を浮かべながら、浩平を睨みつける。


「貴様……! 一度ならず二度までも……!」

「やかましいもんだから、つい……な?」


浩平はバカにしているかの様な不敵な笑みを浮かべる。

その笑みに完全に怒ったのか、額に浮かび上がっていた青筋は更に太くなり、手を前に出すと円形の陣―――魔術式が展開される。

それを見たエルフの少女は焦る。


「魔術式が展開されてる……! 魔術が来ます! 逃げてください!」

「魔術? 魔法陣かと思ったけど、アレ、魔術式なのか。へぇ、なるほどねぇ」


浩平は言われた通り、逃げ出すわけでもなく、この世界の仕組みを一つを理解したと言わんばかりに、その場で何度か小さく頷いてみせる。

ゴブリンの少年は急いで妹を浩平から引き離す。


「お兄ちゃん! あの人が!」

「だからって、お前も近くにいたら危ない! 離れるんだ!」


ゴブリンの少女はジタバタするが、兄は離す気はないと逆に力を強めて、引っ張っていく。

さっきまでゾンビウルフに怯えていたとは思えないくらいにだ。

浩平は展開されている魔術式へと視線を向ける。


「魔法陣……。いや、魔術式だったな。色が緑から見て、風属性の魔術と考えるべきか? なら、放たれるのは風属性の魔術かな」

「わかったところで遅い! ゾンビウルフはともかく、人のお前ならばコレはひとたまりもあるまい! 『ウインドブラスト』!」


魔術式から放たれたのは圧力が加わった風。

弾丸の様に放たれた風は当たれば、その人の体を粉砕するだろうとわかるほどの言うならば、風の砲弾。

空間を突き抜ける様な音を立てながら、視認不可の風の砲弾が浩平に迫る。

居場所を特定させているものと言えば、それが通ったところの草が左右に分かれて、揺れていることくらいだろうか。

だが、そうだとしても、それは既に風の砲弾が通り過ぎた後。

それもこの世界で一番魔術に長けているエルフが放った魔術である。

他の種族が放ったものよりも一回り威力は大きい。

それが人に直撃すれば、運が良ければ死にはしないが、それでも寝たきりの生活が待っている。

エルフの少女たちはダメだと思い、目を逸らした瞬間だ。


返すわ・・・

『は……?』


その発言に目を逸らしたハズの少女たちはもちろん、放った張本人である奴隷商までもが目が点になる。

次の瞬間、浩平は両手でなにかを掴み、受け止め始める。

それは放たれた風の砲弾であり、浩平はなんと、それを両手で受け止めてみせているのだ。

少し押され気味ではあるが、浩平はまだ余裕なのか、不敵な笑みを浮かべる。


「ロケランの弾を掴んで、投げ飛ばしたことがあるんだ。コレも同じだって思えばよ……! できんだろォ!」


大声を発したと同時に投げ返された風の砲弾。

奴隷商の男―――否、この場にいる浩平以外の者達は風の魔術が反射されるでも、打ち消されるでもなく、投げ返したと言うコトに驚きを隠せないでいた。

そのために避ける判断が遅れてしまい、風の砲弾は奴隷商の男に直撃し、上空へと吹き飛ばされる。


「ガッ……!?」


何が起きたのかわからなかった。

自身が持つ魔術の中で最大の威力を誇る魔術を放ったハズなのに、それをあろうことか、素手で掴まれ、投げ返されたのだ。

何が起こったのか、理解できていなかった。

風を素手で掴むと言う無茶苦茶で、おかしなことをされたと言うことしか理解できず、そのまま地面へと倒れ、体中から痛みを感じながらも、そのまま意識を手放した。


浩平はというと、てのひらの革が擦り剝け、血が出ているのを確認しながらも、ポケットに手を突っ込んで気にしないことにする。


―――どうせ、すぐに治る。


そんなことを思いながらも、エルフの少女たちへと近づく。


「これで静かになったな」

「「……」」


そういう浩平を未だに驚愕と呆然が混ざった様な複雑な表情をしながら見ているエルフの少女とゴブリンの少年。

ゴブリンの少女は先ほどの凄いことを見たからか、その目から尊敬を含む視線を浩平へと送っている。

そんな三人を見て、浩平はどうしたものか、と思う。


「あのよ、ワリィんだけど、お望み通りにした礼に聞きたいことがあるんだが」

「……え? あ、ハイ。な、なんでしょうか?」


エルフの少女はその一言で現実に戻ってきて、反応する。

別に自分が頼んだわけではないが、奴隷として売られるのを嫌がっていたのだから、礼として答えなくてはと反応したのだ。

それにゴブリンの少年は戻ってくるまでには時間がかかりそうだし、ゴブリンの少女では恐らく、難しい問いには答えられないだろう。

浩平が何かを聴こうとした時、ゴブリンの少女が浩平のズボンの裾を引っ張る。

引っ張られた本人とエルフの少女はゴブリンの少女に反応して、顔をそちらへと向ける。


「どうした?」

「あ、あの。この首輪、外してもらうことってできますか!」


流石にそれは無理だ。

エルフの少女はその問いにすぐさま、その考えが過ぎった。

鋼で頑丈に作られた『隷属の首輪』は簡単に壊すことができる代物ではない。

更にそこに魔術を付与することで更に頑丈に、そして、特定の魔術式じゃないと外れない様にできている。

いくら凄いことばかりをやってのけて見せた彼でも、流石にコレは無理だろう。


「いいぞ」


ただ一言、それだけ言うとゴブリンの少女の身長に合わせるかの様にしゃがみ込み、首輪を掴むと、左右へと引っ張り、力を入れ始める。


「ふぬぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……!」

「む、無理です! 『隷属の首輪』は例え鬼人族の力でも壊せないほどに頑丈に作られていて」


無茶なことだと説明している途中に聞こえてきたのはバキンッ! と金属を壊したかの様な音。

それにえ? と反応したエルフの少女の目には驚くべき光景が写っていた。

先ほどまで無理だと言っていたはずの『隷属の首輪』はゴブリンの少女の首から外れており、浩平の手には真っ二つに割れた『隷属の首輪』があった。

再び起きた信じられない光景に口をポカーンと開けたまま、呆けてしまうエルフの少女。

そんなエルフの少女を余所に喜ぶゴブリンの少女。


「外れた……! やった、外れたよ! お兄さん、お兄ちゃんの分もお願い! エルフのお姉ちゃんの分も!」

「……仕方ねぇな」


メンドくさそうにため息を吐くが、やれやれと言う感じで笑みを浮かべている浩平。

先ほどゴブリンの少女にやった様に二人の首輪も壊し、それをとりあえず、ポケットに入れておく。

ゴブリンの少年は首輪を壊してもらったと同時に意識が現実へと戻ってきた……が、首輪を破壊してみせた浩平を見て、また意識がどこかへ行きかけたが、妹から「首輪が外れたね、お兄ちゃん!」と声をかけられて、それだけは防がれた。

エルフの少女とゴブリンの少年はあり得ない出来事に驚きながらも、視線を恐る恐る浩平へと向ける。

本人は大きな欠伸をしながら、こちらの反応が正常に戻るのを待っているのが伺える。

何者なのか、という恐怖の念もあるが、湧いてきたのはもう一つ、純粋に知りたいと言う気持ち。

何者で、見たこともない容姿をしている彼は一体何なのか。

だからこそ、エルフの少女は口を開く。


「すみません。あのよろしければ、名前と種族名を聞いても?」


それを聞かれた浩平はようやく話が出来そうだと言う感じで頷いてみせる。


「俺の名前は岩崎浩平。あ、岩崎が姓で、浩平が名前な。で、種族は……どこにでもいる、ただの『人間』だよ」

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