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再潜入

前にあげてたのを読み返し、これはないな。と思い、書き直したものです。

大分話は変わっているので、よかったら読んでください。

再び防壁を飛び越えた浩平は建物の屋根に音を立てることなく、素早く着地した後に、裏路地に隠れる様に飛び降りる。

建物の影に隠れながら、表通りの方を少し覗き込む。


「探せ! 東雲様の話では、逃げ出した女と奴隷のドワーフを取り戻すために再び下手人が乗り込んできているハズだ!」

「東雲様と同じ種族の女と奴隷のドワーフを探すことも忘れるな! どこかに隠れているハズだ!」


そういって、忙しなく動くエルフたち―――だけでなく、それ以外の種族も目に入る。


ボロボロの薄着のシャツとスカートや短パンを履いているゴブリンや獣人などと言った、多種多様な種族。

どれもが『隷属の首輪』をつけており、浩平達を探すために動員されているのが伺える。

中には男たちもいるが、一体どこから……と浩平は考えながらも、エルフたちが気になることを言っていた。


逃げ出した女と奴隷のドワーフを探す、と。


『魅了』にかかっていたハズの麻耶とガルディの娘が逃げ出していることに浩平は驚きつつも、それに少し安堵する。

あのまま東雲に連れていかれていたら、何をされるかわかったもんじゃないからだ。

とはいえ、まだ安心するのは早いだろう。


(どうやって『魅了』を解除したのかはわからないが、二人を探さなくちゃならねぇ。麻耶のことだ。俺が再び乗り込んでくるのを理解していて、街中に隠れているハズだ。となると、麻耶の身体能力を考える限り、走り回るのは無理。あの時の『インビシブル』を使って、姿を隠しながら移動しているハズだ)


そうなると、目で探すのは無理だろうと考える。

鼻や耳も良いであろう獣人族もいるのだから、もしかしたらニオイと音も消す魔術も使っている可能性がある。


(音とニオイも消しているんだとすると、頼りにできるのは……気配か。いや、もしくは向こうが俺を見つければ……姿を現すだろうな。麻耶のことだし)


自分を見つければ、すぐさま駆け寄る様な麻耶だ。

隠れていたとしても、浩平の姿を視認すれば、すぐさま姿を現して近づいてくるだろう。

なら、どうやって探すべきか。


派手に暴れて、わざと自分の位置を知らせるか。

そうなると、福山や東雲にも位置を知らせる羽目になるため、厄介なことになるのは間違いないだろう。


路地裏を駆け抜けながら、探し回るか。

その方がまだ安全ではあるし、麻耶とガルディの娘も姿を透明にしていたとしても、表通りを堂々と歩く様なマネはしないだろうから、会える確率は高いかもしれない。


そうなると、裏路地をコソコソと隠れながら、行くのが賢明だろうと考える。

音はともかく、ニオイは一体どう誤魔化すか、と顎に手を当て、考えた時だ。


「動かないでください」

「ん?」


考えることに夢中になっていたために、後ろから迫る気配に気付かなかった浩平は、背後からかけられた声に反応する。

自身の背中に突きつけられている剣の気配を感じながらも、両手を上に挙げた状態で振り返る。


そこにいたのは蒼い毛並みの髪と尻尾を持つ、狼の耳を持つ少女。

手入れがされていないからか、髪はボサボサだ。


その少女の後ろには筋骨隆々とした、身長が三メートルはあるのではないだろうかという、額から生えた鬼の様な立派な一本の角を持つ大男。


そして、もう一つ気配を感じ取って、浩平は視線を上に向けると、両腕の黒い翼を動かしながら、自分の少し上を飛んで待機している鳥の足と翼を持つ少女が目に入る。


浩平はそれを確認すると、どうしたものか、と考えながらも、狼耳の少女へと目を向ける。


「妙なことをしようとは考えないでください。貴方は今、私や鬼人さん、ハーピーさんに包囲されています」

「包囲……ねぇ」


後ろはがら空きだぜ? と言いたいところだが、後ろに動けば表通りに出ることになる。

そうなると、自然とエルフたちに見つかることになるので、包囲されているのは確かだな、と考える。


あくまで余裕を崩さない浩平に鬼人の男は眉を顰める。


「お主、この状況がどういうことなのか、理解しているのか? ワシ等に追い詰められているのに、何故余裕で居られる?」

「あぁ……。そりゃ、簡単だ。別に追い詰められたとは思ってないからな」


そういった瞬間、狼耳の少女が素早く浩平の首元に剣を突きつける。

妙なことをすれば、すぐに喉を突き刺すぞ、という意味を込めて。


「もう一度言います。妙なことはしないでください。少しでも、変な動きを見せれば……わかりますよね?」

「あぁ、わかってるよ。この剣でブスリ、と喉を突き刺すんだろう? とはいえ、俺も黙って、ハイ、そうですか……と、従うつもりはねぇんだよなぁ」


浩平はニヤッと聞こえそうな、何か企んでますと言わんばかりの笑みを浮かべる。

それに反応して、狼耳の少女は浩平を睨みつける。


「妙な行動は」

「仕込みってのは気付かれない様にするもんだぜ。なぁ?」

「ッ!?」


浩平がそういった瞬間、狼耳の少女は自身の体に何かが巻き付いていく感覚を覚える。

だが、感じた時はもう既に時遅し。


少女の体は見えない細い丈夫な糸に絡めとられており、動けない状態になっていた。


「い、いつの間に……!?」

「ここに潜伏した時から張り巡らせておいたのさ。辺りをよく見てみろよ」


そういわれ、狼耳の少女は目だけを動かして、辺りを確認する。

よく見てみると、金属製の杭の様な物が家の壁や地面に深々と突き刺さっており、先端に糸が括り付けられていて、その先が全て自分へと向いているのがわかる。

そのことに驚きながらも、少しでも動こうと、体を動かそうとする。


「無理矢理動こうとするのはおススメしないぜ。少しでも動けば、糸が体に食い込んで、怪我することになるだろうからな。それでも動こうとすれば……怪我するだけじゃ、済まなくなるぜ」


それを聞いて、狼耳の少女は歯を食いしばりながらも、動くのをやめる。


「そうそう、そのまま大人しくしてりゃ、大丈夫だから。というわけで、俺はコレで」

「ワシ等が」

「逃がすわけないじゃん!」


狼耳の少女の後ろに控えていた鬼人の男が前に出てきて、低空飛行していたハーピーの少女が浩平目掛けて降下してくる。

浩平は素早く周りへと目を配らせて、状況を確認。

どうするべきか、素早く判断した浩平はすぐさま行動に出る。


鬼人の男が浩平目掛けて拳を振り下ろしてくるが、浩平は跳躍することによって回避し、鬼人の拳は地面に叩きつけられ、大きなひび割れを作り出しす。

浩平はそのまま自身へと降下してきていたハーピーの少女の元まで跳んでいく。


ハーピーの少女はまさか、自分目掛けてジャンプしてくるとは思っていなかった様で、すぐさま急ブレーキをかけて、停止しようとするが、遅い。

浩平は羽毛で包まれた彼女の腕を掴み、自身へと引き寄せて、首に腕を回して拘束。

そのまま地面へと落下して、着地し、服の袖から飛び出してきたナイフを一本手に取ると、ハーピーの少女の首元に突きつける。


「ひっ……!」

「動くな。動けば、コイツを殺す」


その瞬間、鬼人の男は動きを止める。

人質を取る、というのはあまり使いたくない手段ではあったが、今は合理性を求めるべきだ。

それに自分が嫌われ者になるのは慣れている。

浩平は少しずつ後ろに下がりながら、鬼人の男を見てから、狼耳の少女へと視線を移して……驚愕で目を見開く。


狼耳の少女が歯を食いしばりながら、無理矢理動こうとしており、糸が体に食い込み、血が噴き出している。

ピアノ線の様な糸だ。

あのまま動けば、バラバラになってもおかしくはない。


「待て、そこのお前。変に動こうとするな。四肢がバラバラになるぞ」

「関係……ありません……! 仲間の危険に……自分の命惜しさにジッとしておくなんて……! できません……!」

「嬢ちゃん……」


狼耳の少女の言葉に鬼人の男は反応し、すぐさま彼女の元へと向かう。

鬼人の力を持ってして、家や地面に深々と突き刺さっている杭を引き抜くつもりなのだろう。


浩平自身、普通の人間ではあり得ない腕力を持ってして、金属製の杭を地面や家の壁に投げて、深々と突き刺したのだ。


「ぼ、ボクもこんな脅しで屈するつもりはないよ……! どの道、お前を捕まえることが出来なきゃ、ご主人に死ぬよりも辛い目に遭わされるんだ……!」

「……そうか」


この世界の奴隷に対する人権がどんなものなのかは、アリスやリオン達から、ある程度は聞いていた。

いくら実力が自身の主人より上だったとしても、『隷属の首輪』がある限り、必ず逆らえない。


浩平は彼女の震える様な声を聞いて、冷めた様な、それでいて悲しそうな声で呟いた。

そこまでして奴隷を脅し、無駄死にさせるようなことを強いることに怒りを覚える。

それと同時に自身がやっていることが馬鹿げてきて、浩平はハーピーの少女の拘束を解除し、背中をそっと押してやる。


「え?」

「行け。よくよく思えば、別に人質を取らなくても、お前等を振り切ることなんてどうってことないっていうのを忘れていたわ」

「だ、だからって……解放するの? ボク、ハーピーだよ? あわよくば、連れて行こうなんて思わないの?」

「なんでだ?」


そういってから、浩平は少し考え始める。

彼女の種族は『ハーピー』だと言っていた。

『ハーピー』と言えば、元の世界では女性の人間の顔と体を持ち、鳥の様な翼と足を持つ存在だったハズだ。

となると、導き出される答えは一つ。


女性しかいない種族であり、下等種族と呼ばれているのかはわからないが、忌み子として奴隷にされている彼女たちの種族は慰み者によくされていると言うことだ。


彼女の発言から、『ハーピー』の種族は見た目麗しい女性が多いのだろう。

それに彼女の恰好も恰好だ。

翼が邪魔だからか、普通の服が着れないのだろう、胸を隠す様な形の布を巻いているだけの状態だ。

下も空を飛ぶことを考えて、短パンの様である。


アリスの時もそうだが、男と見ると、何故すぐそういう思考に至るのだろうか。

いや、そういうことが普通なのだと、認識しているからかもしれない。


浩平はため息をつきながらも、ナイフを数本取り出し、投擲。

投げられたナイフは狼耳の少女を縛り上げていた糸を切っていき、彼女の体を自由にする。


自身を拘束していたものがいきなり切られたことによって、前方へと力を入れていた体は前へと持っていかれて、地面に顔を強くぶつける形で倒れてしまう。


「へぶっ!?」


可愛らしい悲鳴をあげながらも、痛そうに顔を擦りながら、起き上がる。

そして、すぐさまハッとして、浩平へと視線を向ける。


彼自身はこちらへと背中を向けて、歩いて行っており、どこか余裕さを感じさせる。


「そんじゃあな。仲間を大事にするのは良いことだが、あんまし無理をして、困らせるんじゃないぜ」


麻耶がいたなら、浩平が言うな。というツッコミがあっただろう。

そんな彼の背中を三人は見つめていたが、鬼人の男がすぐさま気付く。


「って、ちょっと待て! あんちゃんをこのまま行かせるわけが……って、もういねぇ!?」


いつの間に姿を消したのか、既にそこに浩平は姿はなかった。

そのことに再び驚きながらも、狼耳の少女が鼻を動かす。


「す、すぐに私がニオイを追います。でないと、もうすぐあの人が」

「あの人が……なにかしら?」


背後から聞こえてきた声に三人はビクッ! と肩を震わせて反応し、ゆっくりと振り返る。

姿を現したのは一人の女性のエルフ。

それもあの時、銀髪のエルフを蔑み、バカにしていた女性、ラナであった。


ラナは優しそうな笑みを浮かべながら近づいてくるが、三人は震えあがっている。

鬼人の大男であるハズの、彼でさえもだ。


ラナはゆっくりと三人へと近づくと、狼耳の少女の顎を手でクイッと持ち上げ、視線を合わせさせる。


「それで、貴方が見つけた変わったニオイの存在はどこかしら?」

「あ、あの……そ、その……」


狼耳の少女の目が泳いでおり、明らかに動揺しているのが伺える。

取り逃してしまった、などと言えるハズもなく。

だからと言って、嘘を吐くわけにも行かず。

少女がどうするべきか、とあれこれ考えていると、鬼人の男が口を開く。


「そ、その存在だが、探していた侵入者で間違いはなかった。だが、取り逃がして」

「はぁ?」


そこまで言った瞬間、彼女の顔が不機嫌そうな表情と雰囲気へと変わる。


三人はその気配にビクッと震えあがる。

少女二人に至っては、涙さえ浮かべ始めている。


「私、貴方達が見つけたっていうから、期待してたんだけど? それなのに取り逃した? ふざけないでくれる?」

「ふ、ふざけてなどいない。相手は思った以上に頭が回る様で、力も」

「そんな言い訳、聞きたくないんだけど?」


魔術式を展開し、その手に風の刃を生成する。

今からこの魔術で、お前たちを切り刻むと言っているかの様に。


「もう一度いうわ。侵入者はどこ?」

「し、侵入者の人は……わ、私達の実力が及ばず……」

「ぼ、ボクが人質にとれてしまって、そ、それで逃がしてしまいました……」


狼耳の少女とハーピーの少女が何とか声を絞り出して答える。

瞬間、三人の足元に風の刃が放たれて、地面を切り裂く。


「「ひっ……!」」

「ぐぅ……!」

「実力が及ばず? 人質に取られて? 知らないわね、そんなの! アンタたちは『忌み子』として、売られた奴隷なのよ? わかる? 嫌われ者なのよ! 生まれた時から、世界から、神から拒絶された存在であり、生きている価値がないアンタたちを、私達が『奴隷』という資源として、使ってあげてるのよ! 良い? アンタたちは『物』なのよ。命なんてあってない様なもの。殺されてでも捕まえる。人質を取られたとしても、そいつが奴隷ならそんな役立たずの物は見捨てて、侵入者を捕まえるのが普通」

「もう黙れ」

「ガッ!?」


見下すかの様に、彼女たちを物のように見ながら叫んでいたラナの顔面に拳がめり込む。

そのまま勢いよく吹き飛ばされ、彼女は家の壁にぶつかるも、勢いは止まることなく、そのまま貫通して、どこまでも吹き飛んで行ってしまう。


そんな見えなくなった彼女の姿に三人は呆然としながらも、狼耳の少女の顔の横すれすれから伸びている腕を見る。

腕を辿り、その先にいる人物———先ほど姿を消したハズの浩平へと視線を向ける。

その表情は眉を顰めて、イライラしている様に伺える。


「たくっ、奴隷には人権もクソもねぇのかよ、マジで。黙って聞いてたが、イライラする」

「え……えっと」



どういったものか、と三人は困惑するが、それは次に聞こえてくる声に打ち破られる。


「何、今の音は!?」

「複数の家に大穴が出来ているわ! え? ラナの顔がへこんでいて、息をしていない!?」

「あぁ、ヤベェ。やっちまった」


隠れていく作戦のハズが、あの発言にムカついて、思わず手を出してしまった。

浩平はすぐさま逃げの体勢に入るが、すぐさま三人へと目を向ける。


「俺は行くからな! じゃあな!」


浩平は一度の跳躍で屋根へと上る。

そうして、その場からすぐさま離脱する様に走り出そうとして。


「待ってください!」

「ん?」


聞こえてきた声に反応して振り返ると、先ほどの三人が自分を追う様に屋根へと上がってきたのだ。


「何? もしかして、俺を捕まえるの?」

「いえ、もうご主人様……エルフは死んでしまった様なので、言うことを聞く理由はありません」

「とはいっても、ワシ等に『隷属の首輪』がある限り、別の奴と契約させられるのは間違いないんだよ」

「だからさ、いっそ契約するのなら、ボク達を助けてくれる貴方がいいなって、思ってさ」

「……ハァ」


何故、そうなるのだろうか。

浩平はため息をつきながらも、三人へと視線を向ける。


「別に助けたつもりはねぇ。アイツの話がムカついたから、殴り飛ばした。ただそれだけだ」

「それはつまり、私達奴隷たちのために怒ってくれる優しい人っていうことですよね?」

「いいや、違うね。俺がイラっと来たから、そうしただけだ」

「いや、だから、それってボク達のために怒ってくれたってことだよね? 素直じゃないな~、ご主人は」

「ご主人になった覚えはねぇ」


このまま逃げ出してしまおうか、と浩平は考える。

もうすぐ下に誰かが来る可能性もあるし、その内屋根にいることがバレる可能性だってある。


そう思っていると、鬼人の男が浩平の肩に腕を回してくる。


「まぁ、そういうなよ、あんちゃん。俺たち、アンタの奴隷になら、なってもいいって思ったんだぜ? ほら、俺ら三人とも、『忌み子』だからよ。こうやって、俺たちに優しくしてくれる奴がいるのが嬉しくてだな」

「そもそも、俺には奴隷はいらない」


鬼人の男を押しのけて、浩平は立ち去ろうとする。

それに狼耳の少女は焦る。


「そ、そんなこと言わずに! 頼まれれば、家事だって、戦闘だって、なんだってしますよ! お、お望みながら、夜の相手も」

「いらねぇって言ってんだろ。後、女がそんなことを簡単に口にするんじゃねぇよ」

「うっそ~。獣人とかの男なら、この話で大体ツレるっていうのに。理性が鋼なのかな? それとも、女性に興味なしで、男の方が」

「それは絶対にねぇ!」


趣味なのか? とハーピーの少女が口を開くよりも先に、浩平はすぐさま否定する。

流石にゲイだと思われるのはよろしくないと思ったのだろう。


狼耳の少女たちは引く様子を見せず、浩平はどうしたものか、と思いながら、視線を下へと向けると、エルフや奴隷たちが自身を探すために走り回っているのが目に入る。

流石にどこから飛んで行ったか、場所の検討がついてきた様だ。


すぐに移動したいところだが、彼女たちは自分たちを隷属してもらえるまでついてくるつもりでいる。

いっその事、ついてくるつもりなら。

浩平はそう考えて、三人に近づく。


「わかったよ。お前等がついてくるのは認めてやる。ただし、奴隷としてじゃない。俺のダチということでだ」

「え?」


そういったと同時に三人の首元からガキン! と金属か何かが壊れる音が響き渡る。

不思議に思い、視線を下に向けると、自分たちの首についていたハズの『隷属の首輪』が消えていた。


その事実に目を白黒させていると、浩平は壊した三つ分の首輪を軽く投げてはキャッチする、という行動を繰り返していた。


「お前たちはもう奴隷じゃねぇんだ。これなら、俺のダチとして、一緒に来てもらうことができるだろ?」

「え……え?」


何が起きたのか。

何故、首輪が壊れているのか。

起こりうるハズのない出来事に三人の頭は情報の処理が追い付かず、ただ呆然としているしかない。


「驚いているところ悪いが、お前たちの首輪は俺が壊させてもらった。俺についてくるつもりなら、『奴隷』はやめてもらわないといけないからな。それとも、『奴隷』のままの方がよかったか?」

「い、いや! そんなことはねぇさ! ただ、急すぎて、一体何が起こっているのか……。っていうか、首輪を壊せるって……。鬼人である俺でさえ無理なのに、一体あんちゃんの力は」

「あぁ、そういう話は後でしてやる。後、お前たち名前ないんだよな? あの時、種族で呼び合ってたし」

「え? そ、そうですけど……」


浩平の言葉に狼耳の少女は頷くと同時に期待を覚えてしまう。

そんなことを聞いてくると言うことはもしかして……と。


「名前がないと、俺が呼ぶ時不便だ。俺でよければ、名前を」

『ぜひ!』

「お、おう」


つけるぞ、と言い切るよりも先に三人が目を輝かせ、嬉しそうに反応する。

下から「いたか!」「いません!」などの声が聞こえてくるが、名前をつけるくらいなら大丈夫だろう。

浩平はまず、狼耳の少女へと視線を向ける。


「じゃあ、まずは獣っ子の方からな。そうだな……お前はリル。『リル・ヴァン』だ」

「リル・ヴァン……ですか! 名前だけでなく、ファミリーネームまで……。ありがとうございます!」


喜ぶ狼耳の少女———リルから視線をハーピーの少女へと向ける。

名前を貰えるのが待ち遠しいのか、ソワソワしている。


「で、ハーピーのお前は『アエロ・ハルイア』だ」

「『アエロ・ハルイア』かぁ! いいね、気に入ったよ! 今日からそう名乗らせてもらうね!」


名前名前、と嬉しそうにつぶやくハーピーの少女———アエロを余所に、最後に鬼人の男へと目を向ける。


「で、最後に鬼人のお前だが、『ゴウエン・ドウジ』っていうのはどうだ?」

「『ゴウエン・ドウジ』か……! いいな! 何故だか知らんが、しっくりくる感じがして、なんかいいなって感じるぜ!」

「おう、そりゃよかった」


まぁ、元の世界で知られている『酒呑童子』や『茨木童子』などを元ネタにしたんだが。

そう思いながらも、男禁制であるハズのこの街に奴隷の男たちがいることに不思議に思う。


「なぁ、後ででいいんだが、なんで男禁制になったこの街で、アンタとか、他の奴隷の男がいるのか教えてもらってもいいか?」

「ん? あぁ、それくらい構わないぜ。それよりも今は……どうする? 暴れるか? 今まで隷属されていたからよ、アイツ等に対して鬱憤は溜まってんだ。暴れるっていうなら、思いっきり暴れるぜ?」


手を鳴らしながら、下にいるエルフたちへと視線を向けるが、浩平は首を横に振る。


「いや、今は俺のダチを探すのが先だ。俺以外に探している奴がいただろ? その二人、俺と俺の仲間のツレなんだよ」

「そうなんですか? 浩平さんがそういうなら、そっちを優先させた方がいいかもしれませんね」

「それなら、ボクが空から探そうか? そうした方が早い気がするけど」

「いや、それもやめとけ。今のお前は『隷属の首輪』をつけてねぇんだ。見つかったら、何されるかわかったもんじゃないからな」

「じゃあ、どうするんですか?」


リルが小首を傾げながら聞くと、浩平は笑みを浮かべる。


「コソコソ隠れながら、探す。以上」


自信満々に言った言葉にリルは苦笑いを浮かべ、アエロは笑い、ゴウエンは暴れたかったな、と不満そうな顔を浮かべるのだった。

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