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能力

シルフィードの街道まで来た浩平達の先に弓を構えたエルフの兵士たちが待ち構えていた。

すぐさま足でブレーキをかけ、走るのをストップすると、抱えていた二人と背負っていた一人を降ろす。


「良い判断ですね、賊よ」

「賊とは心外だな。俺はただこいつらを迎えに来ただけの保護者だぜ?」

「ほぉ、『忌み子』や『奴隷』をですか? そんなのを迎えに来るなんて、物好きな保護者なんですね」

「おう、物好きで悪かったな。つっても、連絡行くの早すぎないか? 騒動起こしたとはいえ、一、二分くらいしか経ってないと思うんだが?」

「と言いますと?」

「なんでもう包囲されているのか、不思議でな」

「おや、そこまで見破っていましたか? 賊としては本当に良い眼と勘をお持ちですね」


エルフの隊長だろう者が手を挙げると、建物の屋根の上や浩平達の背後などからエルフたちが姿を現し、弓矢や魔術式を展開したりして、いつでも攻撃ができると言う態勢を取っている。


「攻撃準備は万端だってか?」

「そうですよ。ですから、死にたくなければ、私が指示すること以外の行動はしないでくださいね?」

「なるほどね」


浩平は視線だけで軽く辺りを見渡し、背後は気配だけでどれほどのエルフに囲まれているのか確認する。


―――ざっと、三十はいるか。


そう判断すると、どうしたものかと悩み出す。

この状況、一人なら何とかなるのだが、今は銀髪の少女とガルディの娘、麻耶を引き連れている状態だ。

守りながら戦うとなれば、圧倒的にこちらが不利。

最悪、矢や魔法を全て捌きながら戦うか? と浩平は考えていると、誰かが浩平の背中を指でつつく。

それに反応して、視線だけ後ろに向けると、麻耶がいた。


「何だよ、麻耶? 今、ちょっと考えて」

「……この子たちは私に任せて? 浩平は思いっきりやって大丈夫だから」

「麻耶……」


浩平は軽く息を吐いてから微笑む。


―――今までの麻耶とは違うんだよな。


こっちに来たことによって、魔術の才に目覚めていたのだと思い出した浩平は懐に手を入れる。

その行動に反応した隊長が挙げていた手を前に突き出す。


「放てェ!」


その号令と共に矢と魔術が放たれる。

直後に動いたのは麻耶だ。


「……『プロテクション』」


麻耶と銀髪の少女、ガルディの娘を包むように魔力の壁のドームが生まれる。

少女たちが反応する中、浩平が中に入っていないことに気付く。


「浩平さん! 麻耶さん、浩平さんが!」

「……浩平なら大丈夫」


迫りくる無数の矢や魔術に対して、浩平は懐からスイッチのついた円柱の筒の様な物を取り出す。

スイッチを押すと、左右から銀の鉄棒が飛び出す。

鉄棒へと変わった武器を持ちながら前方の敵目掛けて走り出す。


「迎えに来たと言っておきながら、その仲間を見捨て、更には自身は自爆特攻ですか? バカなのでしょうか?」

「別にアイツ等を見捨てたわけでもねぇし、自爆特攻しているつもりもねぇ。死に急ぐ予定はねぇし、麻耶を信じているからな」


何を馬鹿なことを、と隊長のエルフは考える。

『忌み子』たちがいるところは確かに『プロテクション』で守られてはいるが、アレだけでこの矢と魔術の雨を防ぎきれるハズがない。

男の方は矢しか飛んできていない前方へと駆け出した様だが、矢の雨に飛び込んでいるのには変わりない。

例え、あの鉄棒で防ぎ切ったとしても、コレほどの数を相手に勝てるはずがない。

少なくとも、そう思っていた―――この時までは。


浩平は持っている鉄棒を突き出すと、高速で回転を開始する。

プロペラが高速回転するかの様に回る鉄棒で次々と矢を弾き飛ばしていき、前方の敵との距離を詰めていく。

そして、その間に背後や屋根上から放たれた矢や魔術は麻耶たちがいた場所へと着弾し、爆発を起こす。

浩平はその爆風に背中を押されると同時に思いっきり前に飛び出すことにより、敵との距離を一気に詰める。

爆風を利用した移動方にエルフの隊長は目を見開く。


「なっ……!?」

「少し寝ててもらうぜ!」


鉄棒を振るい、側頭部を殴打する。

鈍い音が響いたと同時にエルフの隊長は吹き飛ばされ、家の壁に激突して倒れ伏す。


「隊長……!?」

「そっちが先に手を出したんだ。俺は女だろうと容赦はしねぇぞ?」

「ッ!」


刃物か何かと聞きたくなるような鋭い目つきで睨みつけられ、エルフたちは息をのんで少し後退する。


背後と屋根上にいたエルフの部隊たちは麻耶たちがいる場所へと目を向けている。

魔術が直撃し、爆発したことによって煙が上がっている。

いくら防御魔術の一つ『プロテクション』を張っていようと、これだけの攻撃を防ぎ切れるハズがない。

女達は殺さぬようにという伝令が来ていたが、何故『忌み子』や『奴隷』を生かさなければならないのか? と思っていた。

領主の同族もいたのだろうが、『忌み子』や『奴隷』を庇う時点で、『神』や『精霊』に背く者たち。

殺してしまったところで、『浄化』したと言うことなのだから、咎められることもないだろう。とエルフたちは笑みを浮かべる。

残りは男だけだと、そちらへと視線を向けた瞬間だ。


「……隙だらけ。少し気絶してもらう。『スパーク』」

「え?」


エルフの聴覚によって、聞こえてきた小さな声に反応した瞬間、煙の中から電撃が飛び出してきた。

その電撃は後方、屋根上にいたエルフたちへと襲い掛かり、油断していたエルフたちはかわす暇もなく、電撃が直撃。

少し強い電撃によって意識が刈り取られ、エルフたちはその場に倒れこんでいく。

その光景に浩平と対峙しているエルフの部隊たちは驚き、煙の方へと視線を向ける。

煙が晴れると、そこには無傷の麻耶たち三人がいたのだ。

銀髪の少女とガルディの娘も、自分たちが無傷なのが未だに不思議なのか、ポカーンと呆けている。


「バカな!? アレだけの魔術と矢を防げる『プロテクション』など……!?」

「次はお前らが隙だらけだぜ」

「え?」


直後に響いた複数の殴打される音。

一瞬の出来事にエルフ兵たちは何が起こったのか理解できず、そのまま意識を手放して倒れ伏す。

一瞬の隙に棒振るった張本人―――浩平は再びボタンを押すと飛び出していた鉄棒が筒の中へと収納される。

筒を懐にしまいながら、麻耶たちの方へと歩き出す。


「まさか攻撃魔術まで覚えてるとはな」

「……エルフの本だけに魔術に関することは凄く多かったから。覚えた」

「ホント覚えてできるなら、誰も苦労しねぇんだけどな」


それもエルフたちの反応を見る限り、『プロテクション』はあり得ない強度を誇っていたのもわかる。

記憶した、というだけでそこまでできるものなのだろうか、と浩平は考えてしまう。


―――いや、今はこんなことを考えている時じゃねぇか。


兵士たちを退けたのならば、急いでこの場から逃げ出さなければならない。

早く街の外に出て、アリス達と合流しなければならない。

浩平は銀髪の少女とガルディの娘へと視線を向ける。


「ここからなら、少し走れるか?」

「え……? あ、は、ハイ! 大丈夫です」

「あ……。お、オイラも大丈夫だ!」


麻耶の魔術に驚いたままだった二人は浩平の声により現実へと引き戻されたのか、少しどもりながらも返事をする。


「……私は無理。背負って」

「だろうと思ったよ」


そんな中、麻耶は意見を聞いてほしいと主張するかの様に挙手しながら言う。

ある程度予想できていたからか、軽いため息をつきながらも、麻耶に背中を向けて屈む。

「ほらよ」と浩平が声を上げる前に麻耶はその背に飛び乗り、腕を浩平の首元に回す。

浩平はやれやれと言う感じで立ち上がりながら、エルフの少女とガルディの娘を見る。


「それじゃ、今から走るからよ。遅れるなよ?」

「大丈夫! あんちゃんほど速くはないけど、走るのとスタミナには自信があるんだ!」

「わ、私も走るのは得意なので、大丈夫です!」

「そうかい。それじゃ、行くぞ」


浩平が先行する様に走り出し、二人は遅れないためにすぐさま後を追う様に走り出す。

二人が突き放されない様にするためか、走る速度は三人を抱えていた時よりも遅い。

だとしても、人一人背負って動ける速度ではない。

エルフの少女は走りながら、浩平へと視線を向ける。


あのとき、浩平が言った『人間』と言う種族。

聞いたことはない種族だが、東雲と言う男も、福山と言う筋骨隆々の女も、そして麻耶も同族だと言っていた。

新種族なのかはわからないが、浩平や麻耶を見る限り、凄い種族なんだと少女は感じ取っていた。

そんな人たちが自分たちの知り合いに頼まれたから助けに来たと思うと嬉しくて、何よりも、この先の未来が明るく思えてきて、心強かった。

だからこそ、浩平と麻耶の背中を見ると、自然と笑みが零れてきた。


この人たちと『シルフィードここ』から脱出できれば、きっといいことが待っているんだと信じて。


「もうすぐ壁だな。なら、一旦止まって……ッ! 来る!」


浩平が何かの気配を感じ取り、急ブレーキをかけると共に家の壁へと視線を向け、両手を広げて、受け止める姿勢を取り、麻耶は振り落とされない様に両足を浩平の腰に強く挟み込み、首元に回す腕に力を入れる。


急に止まった浩平を不思議に思いながらも、ガルディの娘とエルフの少女は止まる。

それと同時に浩平が身構えていた方の家の壁が壊れ、中からはタックルの姿勢で突っ込んでくる福山の姿があった。


お互いが激突しあった瞬間、浩平は足に力を入れて受け止める。

力負けしてなるものかと言うかの様に踏み込む力は強くなっていき、地面にめり込んでいく。


「アタシの自慢のタックルを受け止めるなんてね。なかなかやるじゃないかい。やっぱり、アンタ良い男だよ。ますます欲しくなってきたねェ!」

「勝手に言ってろ……!」


浩平は歯を食いしばりながらも、足に力を入れると同時に福山を持ち上げる。


「お……? おぉ……!?」

「ウオラァァァ!」


福山自身持ち上げられたことに驚いており、その間に浩平は投げ飛ばす。

巨漢なことや筋骨隆々なことから、かなりの重量があるハズの福山は空高く投げ飛ばされる。

その光景にエルフの少女もガルディの娘も驚く。

だが、ガルディの娘は目を輝かせながら、浩平を見る。


「スゲェんだな、浩のあんちゃんって! 鬼人みたいな女を軽々投げ飛ばすんだから、驚きだ!」

「まぁ、これくらい軽いもんだよ。さてと、さっさと脱出を」

「させると思っているのですか……!」


後ろから声が聞こえ、一同が振り返ると、そこには青筋を立て、怒りの表情を浮かべた東雲が立っていた。


「もう追いついてきたのか。催眠術が取り柄だから、追ってこないもんかと思っていたが」

「バカにされてやり返さないハズがないでしょう……! それに私がもらったのは催眠術ではないのですよ。私の能力は」


東雲がニヤッと嫌な笑みを浮かべた瞬間だった。


「いつっ!? 麻耶……!?」

「……」


首に痛みを感じ、視線を向けてみると、そこには浩平の首に噛みつく麻耶の姿があった。

その行動に驚きながらも、顎に力が入れられて行っているのに気付き、すぐさま振り解こうとする。

だが、先ほど落とされないためにと強くしがみつく様な姿勢でいたために、振り解けないでいる。


「浩平さん!」


すぐさまエルフの少女は助けようと走り出すが、それを一人の人物が遮る。

その人物に少女は驚く。


「なんで道を塞ぐんですか? ドワーフさん!」

「……だって、東雲様のためだから」

「え?」


道を塞いだのはガルディの娘であり、その発言にエルフの少女は驚く。

先ほどまで自分たちを襲おうとしていた……ましてや、怯えていた相手のことを様付けするだろうか?

そんなことあるハズがないと考えると、エルフの少女はとあることに気付く。

ガルディの娘と麻耶の目がどこか虚ろであること。

そして、瞳の中にハートマークの紋章が浮かび上がっていることだ。


「この……! 麻耶、何してんだよ! オイ!」

「無駄ですよ。彼女たちは私の能力『魅了チャーム』にかかったのです! 最早、私の奴隷と言っても過言では……ん?」


そこまで言って、東雲はエルフの少女がかかっていないことに気付く。

自身の館に連れていく時もそうだった。

魅了チャーム』を使ったにも関わらず、エルフの少女はかかることはなかった。


———『魅了チャーム』が効いていない?


異性を魅了する力だからこそ、効かないと言うことはないハズだ。

エルフの少女が男だと言うのなら話は別だが、あの体型などから男であるハズがない。

ならば、何故効かないのか?

同じ人間同士でも、効くのは確かだ。

ならば、あの少女自体に何か秘密があるのではないか。


「まぁ、ですが、効かないのは後で考えればいいこと。今は二人をこちらに魅了できているのです。このまま」


そこまで言った瞬間、二十メートルは離れていたハズの浩平の姿が東雲の目と鼻の先にあった。

いつの間に……!? と驚いている間に麻耶に首元を噛みつかれながらも、浩平は東雲を睨みつける。


「わざわざ能力を教えてくれてありがとうよ。なら、テメェ自体どうにかしちまえば、解けるだろ?」


浩平は拳を作り、東雲の顔目掛けて放つ。


「ひぃっ!?」


視認できないほどの速度で殴られたことを思い出した東雲は情けない声を上げた。


「……させない。『プロテクション』」


だが、その攻撃は東雲に直撃することなく、その間に現れた光の壁によって防がれてしまう。

光の壁―――プロテクションが出てきたことに驚きを隠せない浩平は噛みつくのをやめていた麻耶へと視線を向ける。


「麻耶、お前……!」

「……東雲様を傷つけさせない。例え、浩平でも」

「チッ!」


舌打ちをしながら、距離を取ろうと後ろに跳ぶと同時に麻耶が背中から降りてしまう。


「麻耶!?」


浩平は驚きの声を上げるが、『魅了』にかかっている状態なのだと考えると、当たり前の行動なのかもしれない。

ガルディの娘も道を塞ぐのをやめ、後ろに跳んだ浩平とすれ違う様に東雲の元へと走って行ってしまう。

後退してきた浩平の元にエルフの少女は走って近づき、東雲の元へと行ってしまった麻耶とガルディの娘へと視線を向ける。


「麻耶さん……。ドワーフさん……。どうして」

「『魅了』のせいだろうな。催眠術はその能力からの派生と考えるべきか……ん? お前は何ともないのか?」

「え? あ、そういえば……何ともないです」

(どういうことだ?)


浩平も何故この子には『魅了』が効いていないのか、不思議に思えた。

何か理由があるのだろうが……今、考えるべきことじゃないだろう。


「今は一時撤退だ。お前だけでも、仲間のとこに連れ帰る」

「え? そんな……。麻耶さんとドワーフさんがあの人に!」

「だからって、このままいるとあの巨漢女まで戻ってくる。今は撤退するしかねぇんだよ」

「でも、その間に何かあったら!」

「……わかってる。でも、お前の安全も確保しなきゃならねぇんだ。わかってくれ」

「浩平さん……」


浩平の苦虫を噛み潰したかの様な表情にエルフの少女は言葉を詰まらせる。

苦渋の決断なのだろう。

あの男の傍にほんの数分でも居させれば、襲われてしまうかもしれない。

そんなことはわかり切っていながら、自分の安全を優先してくれている。

自分が強ければ、戦える力があれば、きっと……こんな状況を変えられるのに。

少女は悔しく思えてきて、拳を強く握りしめる。


(私が浩平さんの足を引っ張ってる。私が強かったら)

「行くぞ」


浩平はエルフの少女を抱き上げ、空高くジャンプする。

それは数メートル先にある木の壁を飛び越えられるほどの高さ。


「逃がしませんよ。麻耶さん、でしたね? あの男を叩き落し、連れ去られそうな私の大切なエルフを助けなさい」

「……わかった。『アイス……ッ!」


呪文を唱えようとした瞬間、麻耶は頭を抑える。

目に浮かぶハートマークの紋章が消えて、現れてを繰り返す様に点滅している。

その光景に東雲は反応する。


「どうしましたか? 麻耶さ「……お前の様な奴が私の名前を呼ばないで」なっ……!?」


フラフラしながらも、ガルディの娘の腕を掴んで歩き出す麻耶。

紋章の点滅は強くなっており、麻耶はぼやける視界で苦しそうにしながらも、東雲から距離を取って行く。


「まさか、『魅了チャーム』が解けかけてる? 一体どうして……。いえ、ですが、更にかければ!」

「ッ! 『スモーク』!」


魔術式が麻耶の足元に展開され、そこから煙が出始めて、麻耶とガルディの娘の姿を隠していく。

それに反応した東雲は『魅了チャーム』をかけるべく、麻耶がいるであろう場所目掛けて走り出した瞬間。


「『テレポート』」


それだけ聞こえ、一瞬強い光が発せられたかと思うと、煙は消えていき、煙が晴れた頃には麻耶とガルディの娘の姿はなかった。

その光景に自身の親指の爪を噛み始める。


「アイツ等……! 何故、私の『魅了チャーム』が……! クソォ!」


東雲はその場で地団駄を踏んで叫んだ。

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