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プロローグ

あぁ、この状況は一体何なのだろうか?

真っ白な空間の中に、数十人という人間がいる中で、赤と黒のヘッドホンをした青年―――岩崎浩平はそんなことを考えていた。

辺りを見渡す限り、本当に白い空間しか広がっておらず、景色というべきではないだろうが、色があるとするならば、自分自身を含めた数十人の人達くらいだろう。

誰もが困惑や動揺などしているのが見てわかる。

そう、浩平にピッタリと引っ付いている少女も動揺しているのか、何が起こったのかわからないからなのか、辺りをキョロキョロと見渡している。


「……浩平、ここ、どこ?」

「俺に聞かれてもな。気づいたら、ここにいたとしか言いようがない」


少女―――陰陽おんみょう麻耶まやは浩平の服の裾を軽く引っ張りながら聞く。。

二人とも学生服を着ており、見た目的に高校生くらいだろうとわかる。

他の人達は同じ様な高校生くらいの子がいたり、一番年上だろうなと思う人でも、二十代くらいだろうと言う人達ばかりだ。

そして、皆は何が起こっているのかわかり始めたのか、それは恐怖や怒りなどになって、動き出す。


「ど、どこなんだよ、ここ!? なぁ!」

「何なんだよ、コレ! なんなんだよ、ここはよ!」


―――無理もないか。


そんな風に冷静に考える浩平。

人間誰しも、訳が分からないことや理解できないことなどがあれば、恐怖を覚えたり、それを誤魔化すかの様に怒りを覚えたりするものだ。

ただわかることは、ここにいる誰もが、この場所がなんなのかを知らない。

浩平はそれだけ判断すると、自分がここに来る原因となった少し前へと記憶を辿らせようとした時だ。

また服の裾を引っ張られるのを感じて、麻耶の方を見てみると、どこかボーっとしているような目ながらも、喋り出す。


「……ここに来る前の記憶があまりない。周りを見る限り、他も同じ様に見えるけど、浩平は?」

「俺もねぇな。気づいたら、ここにいたって言う感じだからな」

「……私も」


それだけ言うと麻耶は口を閉じ、顎に手を当てる。

その姿は探偵ドラマやアニメの様なもので見る様な推理する様な仕草。

とりあえず、何故こうなっているのかは麻耶に考えてもらおう、と思う浩平。

その時だった。

パチパチ、と控えめの音で聞こえてくる拍手。

浩平や麻耶だけじゃなく、皆が音のした方へと視線を向ける。

そこにいたのは人の形をした真っ黒な何か。

簡単に言うなら、人型の黒のシルエットだろう。

この真っ白な空間とは真逆の色を持つ存在がそこにはいた。

再び理解できないことを目撃したためか、さっきまでの騒ぎが一気に静かになる。

だが、そんなことはお構いなしと言わんばかりに拍手をやめると、両手を大きく広げてみせる。


「ようこそ、いらっしゃいました! 人間の皆さま! 私、神なんてものを勤めさせてもらっています、ロキと申します」

「ロキだと……?」

「……ロキって、北欧神話の?」


浩平と麻耶の脳裏に過ぎったのは、北欧神話と呼ばれる神話に登場する『邪神』ロキの名。

神と名乗る不審者、ということにもできるが、そうなるとこういう白い空間やロキが黒い人型のシルエットはどういうことなのか、説明がつかないことがある。

この白い空間は見た限り、どこかに閉じ込められていると言う感じではないからだ。

ここという場所がそういう場所なのだと言うしかない様な、そんな感じしかない。

浩平は少し思案してから、麻耶を抱き寄せる。

それにピクリと反応する麻耶だが、浩平の真剣そうな顔を見て、何も言わず、静かにしている。

こういう時は浩平に任せるのが一番だと言わんばかりに。

周りが立っているのに対し、浩平は静かに腰を下ろしていき、息をひそめていく。

ロキと名乗る神から自分と麻耶の存在をできるだけ消して、気付かれない様にするように。

ロキはその場にいる人間を確認するように見渡し始める。


「ふむふむ、適当な抽選で選んだけど、それなりにいるねぇ。五十人? いや、六十人? それくらいはいるかな、うん」


ロキは一人でにうんうんと頷く。

シルエットのため、顔はないのに、笑みを浮かべているのが容易に想像できるのは何故だろうか?

それはロキが纏う胡散臭さから来ているのだろう。

皆は警戒したかの様な感じで後ずさり始めると、ロキがそれに反応する。


「あぁ、待ってください。別に取って食おうっていうわけじゃないんです。むしろ、君たちはとても名誉あることに選ばれたんですよ? 光栄に思わなくちゃ!」

「め、名誉なことって何よ! そんなことよりも、早く家に帰しなさいよ!」


如何にも気が強そうなツリ目の少女が声をあげる。

それに呼応するかの様に周りが「そうだ!」や「家に帰してよ!」など、叫び始める。

浩平は麻耶の方を向くと、それに気付いた麻耶が目を合わせる。


―――間違っても、立ち上がって、抗議するんじゃないぞ?


―――……わかってる。


浩平は「そうか」とだけ呟くと、再び前を見る。

どうやらお互い、アイコンタクトだけで会話を済ませた様だ。

一方でロキは小首を傾げる。


「はて? 戻せと言われましても、貴方達は抽選で選ばれてしまった時点で、向こうでの存在は抹消―――なかったことにされています。そこに戻ったとしても、世界から消えるだけですよ? えぇ、アカシックレコードからは貴方達のことは消えているのですから、当然存在を保てず、消滅するだけの運命なので」

「アカシックレコード……世界の記憶ともいうべきものだが、本当に存在するのかよ」


ロキの言葉に浩平は苦笑を浮かべる。

他もそれを聞いて、黙っているはずがなく、怒声や泣き言などが飛び交う。

だが、ロキは再び両手を広げて見せる。


「落ち着いてくださいよ、皆さん。まだ話の続きがありますし、『抽選に選ばれた』と言ったではありませんか」


きっとろくな事じゃない。

ふと浩平はそう思ってしまった。

北欧神話に伝わるロキと同名……いや、もし本人だとするのなら、きっとろくでもないコトに違いない。

何せ、『邪神』とまで呼ばれるほどになるのだから。

と言っても、ロキが何を言おうと聞く耳を持たないと言わんばかりに声を張り上げる人たち。


「皆さんには新たな世界に行ってほしいのですよ。えぇ、簡単に言うのならそう。『異世界』です」


ロキがそういった瞬間、さっきまでの怒声などが嘘かの様に静まり返す。

それを確認したロキは言葉を続ける。


「つい最近、新しくできた世界がありまして、そこにぜひとも、貴方方人間たちを送りたいと思ったのです。好きでしょ? 夢見てたでしょ? 魔法あり、様々な種族ありのファンタジー世界への転生? いえ、転移ですね。もちろん、丸腰で放り込んだりなどしません。貴方方が思う能力、それを授けます。えぇ、どんな能力もね」

(胡散臭ェ……)

(……怪しい)


ロキは黒いシルエットのため、どんな表情を浮かべているかわからないし、浩平と麻耶は気配を消し、姿勢を低くしているため、そのシルエットさえも見えない。

だが、その笑みは胡散臭い様な、何か企んでる様な笑みを浮かべているに違いないと感じ取っている二人。


「ほ、本当に異世界に転移するのか……!?」

「本当だって言ってるでしょ? 貰う特典は何がいいかも聞いてあげるから、その力を使って、向こうで無双するもよし! 冒険家になるもよし! ハーレムを作るもよし! その世界の覇者になる……は、他の転移者もいるから難しいかな? まぁ、自由にしてもらって、結構だよ! 生き残りたいなら、強めの力を考えるのがおすすめだよ」


そういいだすと、周りはザワザワと騒ぎだす。

相手は神と名乗る怪しい者。

それもロキという神を知らない者など、逆に少ないのではないのだろうか?

邪神とまで呼ばれた神からの提案。

それに戸惑いを見せるのも当然とも言える状況。

それを見たロキはやれやれと首を振ってから、手を叩くと、皆の前に一つのディスプレイが現れる。

そこには『欲しい力を書こう!』という題名が書かれていた。


「コレでどう? 僕ってば、優しいよね。確かに大声であんな能力が欲しい! とか言えないよね~。なら、僕個人しか確認しないコレなら、問題ないんじゃない? あ、もちろんあげられる能力は一つだけだけど、魔法とかの云々かんぬんは僕が特別につけてあげるから、安心してね!」


笑顔で言っているのだろうと予想がつくくらいの声色。

それを聞いた面々は一人、また一人と書き込み始める。

そのディスプレイはもちろん、浩平と麻耶の前に出現している。


「怪しいから要らん」


のだが、浩平は怪しいからということでディスプレイを握り潰した。

それを見ていた麻耶もディスプレイを自分から押しのける。


「……浩平がそういうなら、きっと怪しい。私もいらない」

「なら、潰しとくか」


麻耶の元に出現したディスプレイも浩平が握り潰し、二人のディスプレイは粉の様な粒子となって消滅する。

というよりも、普通に潰せるものなのだろうかという疑問が湧いてくるが、二人は特に気にしていない様だ。


「……なるほどねぇ」

「ん?」


耳を澄まさなければ聞き取れないほど小さく呟かれた声がした方へと視線を向ける。

そこにはディスプレイを見ながら、笑みを浮かべている少し変わった男。

変わっていると言うのは左半分が黒、右半分が白という変わった髪色をしているからだ。

服装までモノクロとしか言いようがないほどにだ。

何がなるほどなのか、浩平が気にしていると、手を叩く音が聞こえてきた。


「皆、書き終わったみたいだね。それでは軽く確認を……と言いたいところだけど、もう確認は済ませちゃってるんで、その能力を与えるね」


ロキが指をパチン! と鳴らすと、浩平と麻耶以外の体が淡い光に包まれる。

どうやら、能力を与えていると言う証拠の様だ。

その光が消えると、ロキから楽しそうに笑う声が聞こえてくる。


「これで完了だよ。君たちが思い描いた通りの能力かはわからないけど、少なくとも、向こうにはない力ばかり書かれていたからね。君たちが向こうに行ったら、その世界はどう変わっていくのか楽しみだ」


ロキはそれだけ言うと、再び指をパチンと鳴らす。

その瞬間、皆は足元から少しずつ消え始める。


「な、なにこれ!?」

「消えていって……!?」

「大丈夫大丈夫、転移が始まってるだけだから。もちろん、皆どこに転移するかはランダムだよ。まぁ、偶然同じところに飛ばされたっていう可能性もあるからもしれないけど、そんなのサイコロを六回振って、同じ目が六回出るくらい、可能性は低いけどね!」

「……!」


それを聞いた麻耶が反応し、浩平の服の袖を強く掴む。

浩平は麻耶の方を見ると、麻耶は首を横に振ってみせる。

嫌だ、離れたくない、傍にいて。

目がそう訴えかけてきているのがわかる。

だが、こればかりはどうしようもないと浩平はため息を吐く。

この白い空間からの退去は腰より上まで来ている。

一気にやらない辺り、こういう風に消えていく様を楽しんでいるのかもしれない。


「……浩平」

「泣きそうな声でいうな。こればっかりは俺にもどうしようもねぇよ。偶然を祈るしかねぇだろ? まぁ、俺の体質考えると低そうだけど、大丈夫だと思うぜ。多分な」

「……浩平がそういうなら」


そういう間に顔のところまで退去が始まっていた。

浩平は笑みを浮かべると、ただ一言。


「面倒なことに巻き込まれたような気がするけど……。麻耶、また後でな?」

「……うん、また後で」


それだけ言い残し、その場にいた人間は全員退去―――転移した。

それを確認したロキは笑い出す。


「クフフ、本当にどうなるか楽しみだよ。『人間がいない世界』に君たちという『人間』を送り込んだらどうなるのかな? 皆、僕の名前を聞いて警戒しながらも、欲望には忠実に欲しい力を書き込んでたしね。ホント、人間ってバカっていうか、僕ら神にとってはちょうどいい遊び道具……アレ? 少ない?」


ロキは人間たちが書き込んだディスプレイを見ながら疑問を覚える。

二つ、少ないのだ。

この空間に呼んだ人間の数は実はあらかじめに把握していた。

自分自身が適当に選んだとはいえ、人数は決めていたのだから、確かなハズだ。

だが、自分が呼んだ数と書き込まれた力の数が一致していない。


「僕が見落とした? この空間内で? 余程影が薄いのか、それとも……」


そこまで呟くが、ロキはまぁ、いいや、と考えることを放棄する。

能力を貰わなかった人間二人など、あの世界では真っ先に死ぬだろう。

そんな死ぬ奴のことなど、気にする必要もないと。

ロキはそう思考を変えると、ディスプレイを見る。


「さぁ、君たちがどう『化ける』のか、楽しみだよ」


それだけ呟くと、ロキもその空間から消え、それと同時に白い空間も消滅するのだった。

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