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不良JKは弟(ぼく)に逆らえない  作者: 秋月志音
第一章 松竹梅仲直り大作戦について
7/42

2-4

「正座」


 立っている僕の前には、二人が正座して並んでいた。千愛莉ちゃんが正座する必要は全くないのだけれど、特につっこまなかった。


「これは何?」

「……タバコ」

「吸ってるの?」

「いや、あの……友達にあげたり……」


 中を見ると、四、五本は減っているようだった。空いた隙間に百円ライターが入れられている。

 汗を流し、本気で焦っている唯奈の隣で、同じように千愛莉ちゃんは焦ったような表情をしている。


「じゃあ吸ってないの?」

「…………」


 唯奈は無言で俯きながら、指を一本立てた。一本だけ吸った、という意味だろうか。


 一本、ということは、唯奈は特別タバコを好んだわけではないのだろう。僕は少しホッとした。


「ふうん、吸っちゃったんだ。タバコって何歳から吸っていいの?」

「……一八?」

「ハタチ」


 絶対分かっててごまかそうとしただろう。そもそも、唯奈はまだ一八でもないし。歳が近いほど罪が軽くなるなんてことない。


「なんで吸おうと思ったの?」

「ちょ、ちょっと、周りが吸ってて……私も吸おうかと……」


 唯奈の、舐められないように、ってバカみたいな考えが生んだ衝動だろうか。背伸びしてしまうことがより自身を幼く見せていることに気づいていないのだろうか。


 徹底的に叱ってやらなければならない。


「これ持ってるのを見つかるとどうなるだろうね? あと、一七歳がこれを吸っちゃうのは法律的にどうだろうね?」

「あ、あたしまだ一六……」

「知ってるよ、誕生日は六月一九日。高校二年って意味で言ったの」

「正解っす……」

「もうちょっとですねー」


 千愛莉ちゃんの空気を読まない一言が明るく響く。唯奈の視線は僕と千愛莉ちゃんを行き来した。


「警察のお世話になるようなことをしたら関わるのをやめよう。僕はそう言ってたよね」

「……お世話になってないじゃん! セーフ!」

「あ?」

「いえ。なんでもないっす」


 唯奈は明るくしてごまかそうとしている。千愛莉ちゃんがいるから、そうしたら許してもらえると思ったのだろう。


 しかし、いくら千愛莉ちゃんの前であっても、ここは僕も簡単には引けない。


「体にも悪いよね。未成年者の喫煙って大人よりも少量でニコチン中毒になるんだって。がん発生率も未成年から吸ってる人のほうが確実に高い。まあ、大人になってから吸うのなら別にいいよ。それは個人の自由だから。でも唯奈はまだ一六歳だよね。ただ周りが吸っているからって理由だけで法律違反で体にも悪いタバコを吸うってバカなことだと思わないの? まあ唯奈は生まれてこの方ずっとバカなのかも知れないけど周りを悲しませるバカにはなっちゃいけないってバカでもわかるでしょ? 大体いつも唯奈は――」


 唯奈はそわそわとしながら僕と目を合わせない。千愛莉ちゃんと目が合ったのか、「助けて」なんて呟いていた。


「話はちゃんとこっちを見て聞く!」

「はいっ!」


 唯奈が返事だけが良いのは、きっといろんな人に叱られ慣れているからだろう。僕も唯奈に対して何度説教したことか。


「いつもバカなことして――」

「そんなにバカバカ言われたら、もっとバカになっちゃうよ……」


 僕の説教は続く。唯奈からは泣き言がこぼれているけれど、知ったこっちゃない。


「で、どうするの? このタバコ」


 僕は唯奈の前にストンと投げ捨てた。唯奈はビックリしたのか体を震わせた。


「と、友達にあげる」

「あ? その友達は何歳だよ?」

「え? あの……親にあげる」

「おじさんとおばさんに、タバコ吸ってたってことを堂々と言うの?」

「えっと……捨てます」


 やっと捨てると言ったので、僕も表情を緩める。ああ、まだ言わなければならないことがあった。


「どうやって買ったの?」

「あの……友達が親のタスポ持ってて……。それで買いました」


 まったく、親のタスポ持ってくる子も子だけど、盗られてる親も親だ。ひょっとするとその人は親公認で吸っているのかもしれない。せっかく子どもにタバコを買わせないために導入したシステムなのに、そんなことがあっていいものか。


「なんて世の中だ!」

「大きく出た!?」


 僕は苛立ちを日本にぶつける。絶対に子どもがタバコに手を出さないというシステムになってほしいと、心から願った。


「その友達との付き合いはやめなさい」

「……そ、それは嫌。良い奴だし」


 ここははっきりと拒否する。譲れないところなのだろうか。唯奈の長所は人懐っこさであり、それ故、唯奈は顔が広い。その広い友人関係を、メリハリを付けながらもしっかりと保っているのは、唯奈の人柄の賜物だろう。そこを強く言うことはできない。僕はため息をついた。


「……じゃあ、絶対唯奈はこれからタバコを吸わないって誓える?」

「誓う」


 やっと目が合うと、唯奈ははっきりと肯定してくれた。


「美味しいと思わなかったし、高いし。別にいらない」

「…………」


 今のは聞かなかったことにしよう。唯奈は強い意志でタバコと決別したのだ。そういうことにしておこう。


「できればその人のタバコも止めてあげてね。違法なんだから。そして、もし今度唯奈がタバコを持ってたら、もううちの敷居をまたがせないからね」

「うん……」


 以上で僕の説教は終了である。終わったことが分かると、唯奈は大きく息を吐いた。


「なんかハジメちゃんって生活指導の先生みたいだね」


 多分、生活指導の先生はここまで優しくないだろう。でも、きっと僕が言うほうが効果がある。そう思っての説教なのだ。


「もうゲームしていいよ」

「うん……」


 まだちょっとしょんぼりしながら、唯奈はコントローラーを手に取った。それは、本当に子どものような仕草だった。

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