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不良JKは弟(ぼく)に逆らえない  作者: 秋月志音
第一章 松竹梅仲直り大作戦について
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2-3

「おじゃましまーす」


 千愛莉ちゃんは怖いもの知らずだった。


 唯奈がいることに対し、「会ってみたかったんだー」何て軽く言い放ったのだ。さっきの唯奈の睨みも、千愛莉ちゃんには何ら作用していなかった。


 しかも、僕の家に来たことにも、特に用なんてなかったらしい。


 そんな気軽な感じで男の家に来るものなのだろうか。あるいは、男だと思っていないのか。……後者濃厚だった。


「おう、お前誰だ?」


 部屋に入って早々、腕を組んで仁王立ちしている唯奈は、千愛莉ちゃんを睨みつけながら言った。きっと、そのポーズでずっと待っていたのだろう。人を威嚇する、外にいるときのモードだ。しかし、やっぱり千愛莉ちゃんには効いていない。


「あの! はじめまして! 佐久間千愛莉です。紅輝さんの子分してます」


 千愛莉ちゃんはペコリと頭を下げながら、にっこりと笑顔を見せた。僕も使ったけど、子分って単語は果たして自己紹介に適しているのだろうか。


「おう……」


 さすがの唯奈も少し引いている。千愛莉ちゃんからしたら、紅ちゃんの友達ということで、唯奈の外見の印象は随分緩和されているのだろう。それにしても、ここまで怖がられないのは哀れだ。


 僕は二人を見比べる。身長も同じくらいか唯奈のほうが少し低いくらいか。やっぱり、色んな意味で小者の唯奈に威嚇は無理だということなのだろう。


「紅輝さんのお友達なんですよね? ということは強いんですよね? 憧れます……」


 どうも、千愛莉ちゃんには大きな勘違いがあるようだ。


 ヤンキーがお友達になる際、皆が皆、拳で語り合ったわけではない。こんな弱そうな唯奈が、紅ちゃんとまともにケンカできると思っているのだろうか。


「いや、そう? まあね」


 こらこら、大嘘をつくな。しかも、一気に緊張が解けてるじゃないか。本気の殴り合いのケンカなんかしたことないくせに。ちょっと下から持ち上げるだけでこの緩みよう。唯奈の懐柔は容易かった。


「ハジメ、かわいい子じゃん」

「いい人だね」


 二人は僕のほうを見て言った。唯奈はともかく、千愛莉ちゃんが何を見てそう思ったのか定かではない。


 僕は二人を見て、何か引っかかるものを感じる。

 そうか、同じタイプだから相性が良いんだ。千愛莉ちゃんには悪いけれど、僕は二人に対して「おバカキャラ」という認識を持っている。


 バカとバカという同色は、ケンカすることなく自然と交じり合う。今はまさにその交じり合っている図なのだ。二人は何の根拠もなく同調することができるのだろう。


「ゲームしよー」

「あ、やりまーす」


 一気に微笑ましい光景へと変わっていく。家に集まってゲームをする小学生、という感じの、ほのぼのとしたやり取りが生まれていた。僕は呆れて言葉が出ない。それでいいのか唯奈。


 今度は、さっきのゲームを千愛莉ちゃんがプレイする。単純なゲームなのですぐに理解できたようだ。


「千愛莉ちゃん、本当になんの用もなく来たの?」

「うん。通りかかったから、ハジメちゃんいるかなーって」

「あ」


 唯奈の声を聞いて画面を見ると、千愛莉ちゃんの操作するキャラが、唯奈のキャラををブロックと爆弾で挟んでいた。意外と容赦ない。唯奈の背中には、妙な哀愁を感じる。


「普通、男子の家にそんな感覚で来ないと思うよ」

「え? ああ……」


 何かな? その反応は。そしてまた唯奈のキャラが死んでいる。


「ハジメが女の子に見えるからじゃね?」

「あ?」


 早々とゲーム内から退場した唯奈が、暇を持て余し、失礼なことを言ってきた。せっかく訊かないようにしていたのに。


「……ハジメちゃんってかわいいと思うよ」

「それフォローというより逆効果だからね」


 かわいいを褒め言葉だと思っている千愛莉ちゃんは、悪意なく僕のことを攻撃してくる。僕は何度もこうして千愛莉ちゃんに心を切り刻まれているのだ。悪気がないので文句も言いづらい。


「ほら、親しみを覚えるというか。女の子といるときみたいに安心するというか」

「あ、それわかるべ。ハジメは男感がない」


 唯奈まで乗っかってきた。怒りを露わにしたいところだけど、千愛莉ちゃんがいるのでできなかった。


「あ……」


 そして次のゲームが始まるとまた死んでるし。唯奈、弱すぎる。もし僕がゲームのキャラクターに生まれ変わっても、唯奈の手でだけは絶対に動かされたくない。


「また勝ちましたー」


 千愛莉ちゃんの三戦三勝。唯奈の完敗である。さすがに千愛莉ちゃん相手に負けると、唯奈もさっきみたいに駄々をこねることができず、放心状態になっていた。


「千愛莉ちゃん、上手いね。本当にやったことなかったの?」

「今日が初めてだよ」


 千愛莉ちゃんの言葉に、唯奈は殴られたような衝撃を受けていた。僕としては、さっきの仕返しということで、ざまあみろといったところだ。


「が、ガムを噛もう。頭の回転が良くなるって、テレビで言ってたべ……」


 頭の回転がこのゲームにそこまで必要だろうか。そもそも唯奈の頭の回転が良くなったところで意味があるのか。


「ガムー」


 血迷ったみたいに、唯奈は自分の鞄の中身を床に落としていった。教科書が一切入っていないのは、全部を学校に置いてきているからだろう。


 スカスカの鞄から学校に不要なものが次々に落ちてくる中で、僕はある物を発見した。唯奈もそれに気づいたのか、座り込んですぐさまそれを回収する。


 しかし、僕がそれを無視するわけがない。


「唯奈、今隠したの出して」

「はいっ……?」


 唯奈は引きつったような笑みを浮かべながら、こちらを見ている。しかし、全く目が合わない。


「出して」

「隠してないよ。隠してないよ」


 僕が唯奈に近寄っていくと、唯奈はお尻を床に着けたまま後ずさりしていく。


 またパンツ丸見えだけど、今そんなことはどうでもいい。千愛莉ちゃんは、そんな僕らをボケーッと眺めている。


「そこに隠してるもの!」

「きゃ、キャー! エッチー! チカーン!」


 こんな時だけ男扱いか。僕の部屋で変な声を上げないでもらいたい。


 力ずくで床を覆っている右手を離すと、そこには青い長方形の箱があった。タバコだ。


「…………」

「…………」


 僕と唯奈はその状態で固まっている。僕は怒りというよりも少し悲しい感情のせいで、初めの一声が喉の奥に引っかかった。


「……ほら、不良さんには付き物だから!」


 千愛莉ちゃん、それは全くフォローになっていないよ。僕はため息をついた。

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