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不良JKは弟(ぼく)に逆らえない  作者: 秋月志音
第一章 松竹梅仲直り大作戦について
5/42

2-2

 家に帰ってからしばらくすると、唯奈がやって来た。唯奈は外にいるとき、眉間にしわを寄せて、少し目を細めるようにしている。普通にしていると結構かわいい系の顔をしているのに、残念なことだ。


「ハジメぇー」


 二階にいる僕と目が合うと、そう呼びかけてきた。インターホンを押せばいいのに。


 唯奈を家に上げ、そのまま居間へと寄っていく。唯奈は姉さんに手を合わせ、数秒間目をつむる。


 いつもこの時間に何を考えてるのだろうか。きっとくだらないことを報告しているのだろう。でも、それは良いことだと思う。


「さっ、さっ、ゲームしよー」


 唯奈はせっせとゲームの準備を始める。しまってあったゲーム機を取り出し、テレビと接続する。そこにゲーム機があったことなんて僕でも知らなかった。


「な、なんでそんなにがっついてるんだよ」

「だって、最近、ハジメの家に来ても何もしねーべ。姐さんに手を合わせて、用がなければすぐに帰るだけだし、ハジメの用って説教するだけだし。あいつら来ない日くらいゆっくり遊びたい!」


 確かに、最近はずっとそんな感じだった。しかし、てっきり僕は姉さんに手を合わせることが、唯奈の用事なのだと思っていた。


 それに、説教ばかりというのは、僕としても寂しい話だった。そういえば、唯奈と話す内容は、普段唯奈がいかに駄目か、ということばかりだった。思えば、少しかわいそうだったかもしれない。


「さっ、さっ」


 唯奈に押されるまま、僕の部屋へと入っていく。


 一人分としては広いこの部屋には、丸い机と座布団という和室らしい装備に加え、それらとアンバランスに見えるベッドが置いてある。


 唯奈が座布団の上に座ると、僕はベッドに腰を下ろした。

 そして押し入れから古いゲームソフトが入っている箱を取り出す。こういうものの場所は唯奈のほうが把握しているらしい。妙な気分だ。


 唯奈は箱の中をを漁り始める。僕の家にあるのは、大体が古いゲーム――ディスクではなくカセット――であり、新しいものが増えることがなく、ずっとラインナップは変わっていなかった。


「これやろ! これ!」


 唯奈が提示したのは、マス目を動いて爆弾で相手を倒すという対戦ゲームだった。昔よく遊んでいたゲームだ。


 僕はそれを了承した。そういえば、所有者の僕もこのゲームをプレイするのは久しぶりだった。僕らは四人対戦モードで有人二人、CPU二人でゲームを開始した。


「あ……」


 懐かしいゲーム画面に目を奪われ、タイミングを見誤った結果、僕は開始直後に痛恨のミスをする。その場に爆弾を置き、壁と挟まれて自爆してしまったのだ。


「はっはっは!! バカでー! ばーかばーか!」


 久しぶりなんだから仕方ないだろう。ああ腹立つ。唯奈のくせに僕にバカと言うのか。


 人を苛立たせる名人、唯奈は子どもみたいに笑う。いや、本当にまだ子どもなのだ。


「…………」

「あれっ? 無言?」


 そのワンゲームは唯奈の勝ちに終わった。そして次のゲームが始まると、僕は目標を唯奈ただ一人に絞った。


「あっ……ちょっとやめっ! あたしばっか狙わないでよ!」

「唯奈しか敵がいないから」

「ハジメ! 大人げないって!」


 子どもの遊びをしている以上、大人げなど必要ない。僕は執拗に唯奈を狙う。


「あーあ。負ければバカみたいだし、唯奈はやっぱりバカだったんだね。仕方ないね」

「もう! ハジメはもっと優しい人になれよ!」

「僕は優しいよ。ちゃんと唯奈を自分の手で送ってるんだから」

「どんな優しさだよ!」


 そこからは唯奈を全く勝たせず、僕が勝つか、最悪、唯奈を巻き込んで自爆し、CPUに勝たせるというプレイの連続だった。


 体を張ってでも唯奈には勝たせない。バカが負けるゲームならば、唯奈が負けるべきである。僕は根に持つタイプなのだ。


 しばらくそんな感じに遊んでいると、唯奈はふてくされ、大の字で仰向きに倒れこんだ。


「……ハジメ、子どもだ」

「……唯奈もね」


 我に返ると恥ずかしい気持ちになる。ただ、相手が唯奈だからこそこっちも子どもっぽくなってしまう。


 昔から、唯奈は人を怒らせて子どもっぽいケンカを引き起こしてしまう人だった。紅ちゃんや麗と、どれほどリアルファイトに発展したことか。


「あぁん! ハジメは持ち主なんだから上手くて当然じゃん! 手加減してよぉ!」


 ジタバタと駄々をこねる子どもみたいに体を捻る。そのせいで、短いスカートから白いパンツがチラチラと見えて、僕は思わず目を逸らした。


 まったくこの人は、僕のことを男と認識していないんだから。


「ぼ、僕だって久しぶりだったし。てか唯奈が下手くそなだけじゃないか」

「ハンデハンデ! ハジメは足で動かしてよ!」

「無茶言わないでよ……」


 本当に、唯奈は変わっていない。だからホッとするれど、だからイライラするところもある。唯奈といると、すぐに童心に返ってしまうのだ。


 ふいにインターホンが鳴った。唯奈はピョンと飛び起きて、ひっそりと窓から下を見下ろす。まさか紅ちゃんか麗が来たのだろうか。僕も同じように窓から下を覗き込んだ。すると、予想外の人が家の前に立っていた。


「ハジメちゃーん」


 やって来たのは千愛莉ちゃんだった。千愛莉ちゃんが単独で家に訪れるのは初めてのことだった。


 唯奈は安心したのか、憎たらしい顔で僕を見てくる。


「なにぃ? ひょっとしてハジメちゃんの彼女ぉ?」


 ああイライラする。唯奈は人を腹立たせる表情を自由自在にコントロールできるのだ。


 にたぁっと笑いながら、目を見開くその顔は、人によってはすぐに手が出てしまいそうになるだろう。実際、唯奈はしょっちゅう誰かに引っぱたかれていた。


「違うよ。紅ちゃんの子分」


 この言い方は紅ちゃんが否定しそうだけど、千愛莉ちゃん本人が言っていたのでそのまま採用することにした。


 子分が何をするものなのか、そして千愛莉ちゃんがそれをこなしているのか、僕には知ったこっちゃない。


「あん? 紅輝、子分取ってんの?」


 紅ちゃんの子分、と聞いた途端、唯奈は眉間にしわを寄せ、警戒心をあらわにした。僕は後悔する。


 いやしかし、あの緩い感じの女の子にそこまで警戒するか、普通。どう見ても人畜無害なのに。


「じゃ、とりあえず唯奈、帰って」


 会ったら面倒なことになりそうだと思ったので、僕はそう提案してみた。なんの用かはわからないけど、初対面の唯奈がいると千愛莉ちゃんだって困るだろう。


 しかし、僕がそっけなかったからか、唯奈は抵抗する。


「あん? あたしが先にいたべ」


 唯奈はそう言うと、下にいる千愛莉ちゃんを睨みつけた。とうの千愛莉ちゃんは、ポカンとした顔でこちらを見上げている。


 ここで唯奈を邪険にしても、唯奈の千愛莉ちゃんに対してのヘイトが溜まるだけのようだ。とりあえず千愛莉ちゃんの用を訊いてこよう。


「……帰らなくていいけど、千愛莉ちゃんに変なことしたら絶交だからね」

「むう」


 今度は僕を睨みつけ、口をとがらせる。残念ながら、その表情は怖くないし、むしろかわいいものだった。

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