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不良JKは弟(ぼく)に逆らえない  作者: 秋月志音
第五章 姉さんの作った場所だから
37/42

6-5

「ハジメちゃん!!」


 外に連れて行かれると、そこには数人の黒服の人と、千愛莉ちゃん、それに末松くんが待っていた。


「千愛莉ちゃんも来てたんだ」

「だ、大丈夫? 酷い怪我だよ……」


 顔を殴られた分、僕は酷い有様のようだ。千愛莉ちゃんは駆け寄ってきて、髪や服を優しく払ってくれた。


「……やっぱりあたし、ぶん殴ってくる!」

「いいから。あんたが行ったってしょうがないでしょ」


 麗が僕を、唯奈が紅ちゃんを支えてくれていた。僕はあちこちが腫れているようで、上手く動くことができなかった。紅ちゃんも同じようで、支えられてやっと立っていた。


「それに、真二郎があんなに怒ってたの、久しぶりに見たわよ。普通はこんな相手に人数なんて割かないのに、結構連れてきてるし。真二郎もハジメを気に入ってるから、そりゃもう、最低でも同じ目に合わせてくれるわよ」

「こ、殺したりしない?」

「ふふふ、大丈夫よ」


 麗は笑うと、僕を抱き寄せて頭を撫でた。僕は他の人の目が気になり、すぐに離れた。


「末松くん。ちゃんと連れてきてくれたんだね、ありがとう」


 急に名前を呼ばれた末松くんは、体をびくつかせた。


「お、おう」

「真二郎に話しかけたみたいよ。末松くんだっけ? 感謝するわ」

「え、ど、どーも」


 末松くんは感謝されることに慣れていないような返事をした。


「どうやって入ったの?」

「ああ、あたしが家の鍵の場所を知ってたんだよ。ここ、たまにああいうやつらが集まってんだよ」


 僕の質問を返してくれたのは唯奈だった。溜まり場になっているから、電球だけがあそこに設置されていたわけか。


「まあ最悪、ドアをぶち破ったけどね。ただそうすると警察に通報されてたかもしれないから、鍵があってよかったわ」


 もっと大事になったかもしれない。色んなことが一つ間違えればまずい状況になっていたらしい。


「……ごめん」


 次に口を開いたのは紅ちゃんだった。それは小さな声だったけれど、誰一人聞き逃さなかった。


「……あたしも、ごめん。殴ってごめん」

「……なんのこと?」

「だいぶ昔のこと! ああもう! 早く帰ろう! ここにいたら一発ぶん殴りに行きたくなる!」


 唯奈はそう言って、肩を支えている紅ちゃんを強引に歩かせた。黒服の人たちに一礼してから、僕らもそれについていく。


「で、では僕はこれで!」


 末松くんはびしっと敬礼した。紅ちゃんや麗にビビッているためか動きが固い。僕にとっては恩人なのだから、なんだか申し訳なかった。


「本当にありがとう。末松くん」

「ありがとう」

 紅ちゃんが言うと、末松くんは凄い愛想笑いで返した。


「あんがとー、末松。今度何かおごるからさ」

「末松くん、ありがとーございます」


 みんなで見送ると、末松くんは一礼して去っていった。あんなに礼儀正しい人だっただろうか。いっそのこと、末松くんも真面目な高校生になってほしいものだ。


「なんだ、見た目に寄らずいい奴じゃん」


 こらこら、唯奈が言うな。同じようなタイプのくせに。


「……末松? 末光じゃなかったか?」


 ずっと頭にハテナマークが浮かんでいた紅ちゃんが、僕にそんなことを聞いてきた。


「……そうだったっけ?」


 言われてみればそうかもしれない。しかし、それならなぜ末光くんは何も訂正せず、末松を受け入れていたのだろうか。


 言ってくれればよかったのに。今度、ちゃんと謝ろうと思った。



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