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不良JKは弟(ぼく)に逆らえない  作者: 秋月志音
第五章 姉さんの作った場所だから
36/42

6-4

「な!?」


 男達を尻目に、僕は紅ちゃんに抱きついていた。身を丸めていた紅ちゃんは、僕が覆いかぶさると、体のほとんどがしっかりと隠れていた。


「やっぱりやりたかったんじゃねーか」


 そう言って男たちは笑う。もうそんなことはどうでもよかった。今、僕の手の中に、紅ちゃんがいる。このまま僕が動かなければ、紅ちゃんは何もされることはないのだ。これが唯一の手段だった。


「大丈夫? 紅ちゃん」

「ハジメ! 離れて……」


 紅ちゃんは涙ながらにそう訴えた。僕は首を横に振る。


「ごめんね、紅ちゃん。ずっと姉さんを追いかけていたことに気づかなくて」

「な、なんで……」


 紅ちゃんの声は震えている。僕は真っ直ぐ紅ちゃんを見て、笑えた。


「でももう大丈夫だから。もう紅ちゃんは何もしなくていいんだ。危ないことなんてせずに、ただ普通の女の子として過ごそう。唯奈や麗、それに千愛莉ちゃんと楽しく。僕がちゃんと守るから。今までみんながしてくれたみたいに、今度は僕が守るから」


 姉さんも、唯奈や麗も、そして紅ちゃんも、色んな形で僕を守ってくれた。だから、これからは僕が守るんだ。唯一の男として、姉さんのいた場所を守るんだ。


「ほら、もうどけよ」

「うわ、結構力強いじゃん。すっぽんみてー」


 男達は僕と紅ちゃんを引き離そうとする。僕は、しっかりと紅ちゃんを抱きしめていた。


 触れさせない。触れさせたくない。僕は必死だった。


「っ!? うぁ!!」


 突然、右手の甲に強烈な痛みを感じた。見ると、男の一人が僕の手を火であぶっていた。


「ほらほらー、焦げるぞー」

「やめてやれよ、ハハハッ!」


 僕は、よりいっそう力を込めて、紅ちゃんを抱きしめた。


「おい、何してんだよ。さっさとそいつをどかせ」

「は? なんでお前はそこまで偉そうなんだよ。自分でやれよバカ」


 また関谷と男の一人が口論になると、僕への攻撃は一旦ストップした。しかし、またすぐに、今度は腰のほうを蹴られる。


「いっ!?」


 ――痛い。こんな風に暴力を振るわれたのは初めてのことだ。僕は殴り合いのケンカを今まで一度もしたことがなかった。


「やめろ!!」


 紅ちゃんにも強い振動がきたから心配したのだろう、紅ちゃんは力いっぱいに叫んだ。


「大丈夫だよ。僕は大丈夫だから」


 紅ちゃん、そして自分に言い聞かせるように言った。痛いけど、こうしていれば紅ちゃんには何もされない。そう思うと、少し自分に酔うことができて、痛みも麻痺してくる。


「早くどけって言ってんだろ!!」


 関谷の声が響くと、何度も僕の背中や腰へ痛みが襲う。僕は耐える。僕に攻撃してきているのは関谷だけだった。


「関谷、必死じゃん」

「どんだけやりてーんだよ」


 他の男達のバカにしたような声が響く。ふいに僕は髪の毛をわしづかみにされてしまう。


「おい、なめてんじゃねーぞ。早くどけよ」


 顔だけ起こされると、関谷は敵意をむき出しにして睨みつけてきた。


 怖いけど、そこまでのものじゃない。この男がいかにバカで、愚かだということがわかると、僕はもう怯むことなく睨み返すことができた。


「……どかない」

「――ちっ」


 しっかり目が合ったことが気に入らなかったのだろう。今度は右の頬を殴られた。口の中が切れたのか、血の味がする。それでも、ここを動くわけにはいかないと、また関谷を睨みつけた。


「やめて、もうハジメだけは傷つけないで……」


 僕の手の中から紅ちゃんの声が聞こえる。大丈夫だと言い聞かせるように、その頭を撫でてやる。


 関谷は強く指先に力を入れて僕の腕を握り、僕の体を紅ちゃんから引き離そうとした。蹴られたり、頭を殴られたりもする。痛み自体は麻痺しているから耐えることができる。


 しかし、その分紅ちゃんを抱きしめる力も弱くなってしまいそうになる。だから僕は何かされるたびに紅ちゃんを抱きしめる力を強くする。


「え? 何だよ」

「……おい、関谷、やべーよ」


 その声が聞こえると、僕を攻撃する手が完全にストップした。聞こえた声は、聞き覚えのあるものだった。


「ハジメ!?」

「おい! お前ら何してんだよ!!」


 唯奈と麗だった。僕は安心しつつも、二人も危ないのではないかと、また不安が襲ってくる。しかし、それは杞憂だった。


「おいおいどういうことだ? うちのお嬢様のフィアンセと親友に何してるんだ?」


 声の主は真二郎さんだった。僕は今度こそホッとすると、涙が出そうになる。

 ふいに、部屋が真っ暗になった。男の一人が消したようだ。慌しい音が響くと、また部屋が明るくなった。


「逃げても無駄だ。外にもお前らのことを待ってるやつらはいっぱいいるからな」


 関谷は真二郎さんを見て固まっているようだった。他の三人はもう真二郎さんの足元にいるらしい。


「もう、大丈夫みたいだね」

「……うん」


 紅ちゃんは涙を浮かべている。その顔に、もう一滴の涙が落ちた。それは僕の涙だった。

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