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不良JKは弟(ぼく)に逆らえない  作者: 秋月志音
第五章 姉さんの作った場所だから
35/42

6-3

 僕はその家の扉に手をかけた。鍵はかかっていない。静かに中へ進入すると、忍び足で奥へと進んでいく。


 一つだけ明るい部屋があった。中を覗くと、この光がぶら下げられている電球からのものだとわかる。そこには、男達に囲まれて一人の女の人が寝そべっていた。


 紅ちゃんだ。やっぱり、紅ちゃんにとって、この場所は良くなかった。


「手こずらせやがってさぁ」


 紅ちゃんはかなり抵抗したようだ。男達には、さっき見なかった傷が見受けられた。


「いってぇな、くそっ!」


 そう言って、男の一人が寝ている紅ちゃんを蹴った。僕は拳を握り締めた。落ち着かないと。チャンスを窺うんだ。


「やめろ」


 男の一人がそう言った。それが、鼻が折れている関谷という男だった。


「綺麗なほうがいいだろ。顔は絶対殴んなよ」


 決して、止めてくれるわけではない。むしろ一番野蛮に感じる。この男には、紅ちゃんに倒された恨みがあるのだ。


「やっべー、興奮してきた」

「早くしよーぜ。俺、先にしていい?」


 僕は呼吸が荒くなってきてしまう。何か武器はないかと探すが、暗くて見えなかった。


「うるせーよ。俺が一番先だって言ってんだろ」

「なんだよ偉そうに? こいつにぼこぼこにされたくせに」


 関谷は、そう悪態をついた男を蹴り飛ばした。


「なんだよてめー!」

「邪魔すんなよ! 美味しいところだけもってこうとしてんじゃねえよ!」


 どうやら、全く統率の取れていないグループらしく、いとも簡単に内紛が起こってしまっていた。このままなんとか時間が過ぎて、助けがこないだろうか。


「まあまあ、関谷にやらせてやれよ」

「その鼻見てたらかわいそうだしな」


 他の二人の男があざ笑った。関谷は紅ちゃんの顔へと顔を近づけていく。


「くあ、やべー。匂い嗅いでやがる」

「関谷、マジ変態じゃん」

「うるせーな――っ!?」


 紅ちゃんは、顔を近づけた関谷を噛み付こうとした。関谷は間一髪でそれを避け、怒りを露わにして紅ちゃんの腰のほうを力いっぱいに蹴った。紅ちゃんは、痛みによって体を丸めた。


「あぶねーなこいつ! ほらっ! こっちに向くんだよ!!」


 もう限界だった。関谷が紅ちゃんに掴みかかろうとしたときに、僕は部屋へと入っていった。


 男達は一瞬驚いた後、関谷以外の三人は笑い出した。関谷だけは、僕のことを睨みつけていた。


「おめーにはもう用ないんだけど」

「紅ちゃんを離してください」


 過剰に反応したのは、紅ちゃんだった。僕のことを見ると、絶望的な顔になり、ついには涙を流した。


「なんで……」

「おお、こう見ると竹原マジ美人だな」

「やべー、早くやりてー」


 連中の言葉に、僕は目でけん制する。当然、彼らはそんなことで怯んだりはしなかった。


「警察、呼んでますから。すぐに来ます。これは犯罪ですから、みんな捕まりますよ」


 僕は怯えながらも、淡々と脅しをかけた。いつ来るのか、本当に来るのかもわからないそれが、彼らに効果があるのだろうか。


「なんだ? 脅してんのか?」


 関谷が立ち上がり、僕の方へと歩いてきた。僕は、今度は怯えないで関谷のことを睨みつける。


「さっきみたいに震えないんだ。三木本くん」


 もちろん今でも怖い。でも、それよりも紅ちゃんに対してしたことを許せなくて、僕は怒っていた。


「本当にすぐに来ますよ」


 僕はたっぷりの敵意を込めて言った。関谷はそんな僕を見てニヤッと笑う。


「ハジメに、ハジメに何かするのだけはやめて……」


 紅ちゃんの声に、彼らはより楽しそうな笑みを浮かべた。残念ながら、紅ちゃんの懇願は彼らを喜ばせるものだった。


「姫が見てるほうが興奮しそうだよな」

「わかるわー。これはやべーな」


 下品な笑い声が部屋に響く。僕は殴りかかりたい衝動を抑える。僕は自分の弱さを知っているから、怒りに任せて行動することだけはあってはならないことだ。


 一番必要なのは時間を稼ぐこと。情けない話だけれど、僕だけでは紅ちゃんを救うことなどできない。きっと助けは来る。待つしかない。


 不意に後ろから声が聞こえた。僕は期待を込めて振り返った。


「はーい、鍵はちゃんと閉めたからね」


 いつの間にか、一人が玄関へ行っていたようだ。僕は絶望感に打ちひしがれる。


「こんな空き家に、警察はこねーだろ」

「どう考えても、そんな通報は悪戯だと思うよな」


 男達はけらけらと笑う。彼らはバカだ。警戒心の薄いバカだからこそ、こんなことができるのだ。


「電気を消せば、ここに誰か来ることはねーだろ」

「それじゃ、もっと暗くなる頃には裸が見れなくなるじゃん。早く脱がさないとさ」


 もう外は薄暗くなっている。暗くなるごとに、僕の不安は増していく。暗がりに敵だらけ。こんな状況なんて漫画でしか見たことがない。

 相手が時間について焦りだすのが一番まずい。何か言って時間を稼ごうとしても、逆上して返って悪い方向にむかうかもしれない。


 僕は必死に考える。この状況の中で、紅ちゃんを救う方法を。


「で、こいつどうするの?」

「なんなら、一緒にやるか?」

「やっぱりホモかよ」

「そういう意味じゃねえよ」


 もうこいつらの下品な笑い声は聞きたくない。僕は構えた。


「なんだ? こいつ、俺らに殴りかかる気じゃね?」

「やべー、かっこいー」


 僕はその笑い声を切り裂くように、飛びかかった。関谷をすり抜けて、紅ちゃんの脇にいる男達に目もくれず、飛び込んだのは紅ちゃんにだった。

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