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今日は家の前に二人の女性が立っていた。一人はきりっとした美人で、もう一人はふわっとした女の子だった。凸凹コンビと言った感じで、見た目の印象も良い。僕は二階の窓から二人を確認すると、インターホンが鳴る前に一階へと向かった。
「いらっしゃい」
「うん。おじゃまします」
「おじゃましまーす」
二人を家に上げると、まずは居間のほうへ向かう。そして、二人揃って姉さんに向かって手を合わせてくれる。
いつも思うことだけれど、手を合わせてるときの紅ちゃんはどこか辛そうに見える。まだ姉さんを想ってくれているのか、あるいは後ろめたいことがあるのか、その両方か。
二人を僕の部屋まで上げると、お茶と茶請けにもらい物の八つ橋まで提供した。随分扱いが違う気がするが、そんなものなのだ。
「一昨日は唯奈、昨日は麗が来たよ。今日は紅ちゃん」
このきりっとした美人が、不良三人娘の一人、竹原紅輝だった。引き締まっていてスタイルが良く、短めの髪もあってか少し中性的に見える。三人の中で最も常識がありそうに見えて、最も厄介な人だ。
「そうか」
「へぇー、私、二人とも会ってみたいなぁー。紅輝さんの親友なんですよね?」
このふわっとした女の子、佐久間千愛莉は決してヤンキーなどではなく、普通の女の子であり、善良な一般市民だった。
髪を二つに分けて、背もかなり低く、僕と同い年には見えないくらいに幼く見える。とても良い子なのだけど、少し空気を読めない人であり、少しおバカさんであり、凄く天然な人だ。
「昔、な」
「紅輝さんのお友達のことは知っておきたいです! 子分一号として!」
「子分は取ってないつもりだけど……」
千愛莉ちゃんは以前、男に絡まれていた時に紅ちゃんによって助けられたらしく、それ以来、よく懐いている。
最近はうちに来る時も一緒だ。千愛莉ちゃんの明るさは、紅ちゃんを柔らかくしているように見える。あまり人と関わろうとしない紅ちゃんに、千愛莉ちゃんはありがたい存在だった。
紅ちゃんはクールで口数が少ない。それは昔からで、姉さん達といるときでもいつも静かだった。
僕にとって良いお姉さんなのだけれど、僕は紅ちゃんのだらしなさやボケっとしたところも知っている。素の紅ちゃんはかなりのほほんとした人だった。
しかし、昔は獰猛なところがあって、口が出ない分、手が出てしまう人だった。
見た目はそれほど強そうには見えないけど、元々格闘技をしていたからか、紅ちゃんは強かった。力より技というタイプで、相手の攻撃を避けながら、急所に当てるということをしているらしい。今は大丈夫なのだけれど、昔は危険人物だったようだ。
唯奈の威嚇とも、麗の虎の威でもなく、紅ちゃんは本当に強い。そんな強い紅ちゃんだからこそ、一番心配な姉だった。
「二人とも悪そうに見えるけど良い人だよ。バカな唯奈と偉そうな麗。紅ちゃんと三人合わせて、僕の姉さんには松竹梅トリオとか言われてた。松坂、竹原、梅木だから」
「へぇ~」
紅ちゃんを無視して、僕は千愛莉ちゃんに説明した。千愛莉ちゃんは何でも凄く楽しいものみたいに反応してくれる。
「早く仲直りしてもらいたいものだけどね」
僕が言うと、紅ちゃんは両手でお茶を手に持って口元へと近づけたまま静止した。無理やり用事を作ったみたいな動きだった。
「どうしてケンカしてるの?」
都合のいい質問をしてくれる千愛莉ちゃん。紅ちゃんはギョッとした顔をして千愛莉ちゃんを睨んだ。
「三人とも、不安定な時期があってね。不幸なことも重なって、紅ちゃんが麗に怪我させたんだ。そこから三人は決裂」
「怪我?」
千愛莉ちゃんの質問に、僕は少し言い淀んでしまう。これを言って、千愛莉ちゃんが紅ちゃんを怖がるかも知れない、と。
「怪我自体は大したことじゃなかったんだ、すぐに回復したし。でも、関係は回復しなかった。そして、三人が不安定だったのは……僕の姉さんがきっかけ」
「ハジメ」
紅ちゃんが不安そうな顔で僕を見ていた。しかし、僕はそれを無視した。
「三人とも、僕に対しては昔のまま。でも、三人は今お互いを避けあっている。姉さんが原因で三人がこうなってるんなら、僕が何とかしないといけない。だから僕が三人の仲を取り持ちたい。そう思ってるよ」
いつの間にか、千愛莉ちゃんはポカンとした顔でこちらを見ていた。それは、千愛莉ちゃんに言っていたはずの言葉が、僕の独白に変わっていたからだろう。
姉さんがいなくなってから数年たった今、僕は怒っていたのだ。