5-2
目覚めると、部屋の中は薄暗かった。まだ昼間だというのに外に光がなく、雨こそ降ってはいないが、天気は良くないようだ。体が重く、ずっとベッドの上に寝転んでいたい気分だ。
天井を見上げていると、ふと姉さんのことを思い出す。
こうして病気で寝ていると、姉さんは心配そうな顔で僕を見下ろし、僕の頭を撫でると、姉さんのほうが少しホッとしたような表情を見せるのだ。
小さい頃からそうで、それは姉さんが荒れているときでも同じだった。だから僕は、姉さんが親とケンカをしたときなんかは、わざと風邪をひこうとしたこともあった。
僕の目からは涙が零れていた。姉さんがいないことで、ここまで不安になったのは初めてだ。
撫でられた感触を今でも思い出すことができる。
いつも雑な人なのに、僕の頭を撫でる手は絹のタオルみたいに繊細で柔らかかった。姉さんはどんなときでも、僕にだけは優しい。
それは僕が弱いからだ。姉さんはきっと、守らなければ僕が死んでしまうと思ったのだろう。
僕は三人と姉さんを重ねていた。姉さんが連れてきたこともあるけど、不良みたいなことをしているくせに、僕には優しいからだ。
しっかり者の麗と、明るい唯奈、それに優しい紅ちゃん。三人はどこかに姉さんと重なる部分を持っていた。人と関わることが苦手な僕でも、三人と仲良くなれたのは、その要素が大きかったと思う。
だから僕には三人が必要だった。三人とも、必要だったのだ。
紅ちゃんにとって、僕は足かせだったのだろうか。
紅ちゃんだけではない。唯奈や麗にとっても、僕の存在はお荷物だったのかもしれない。
僕らの関係は、僕が子どもだったから成り立っていたことであり、だから今ヒビが生じているのだ。
僕は無気力に立ち上がると、窓から空を見た。
空は雲で覆われて、向こう側がすっかり隠れている。
死んだ人は星になるなんて言うけれど、梅雨の間はほとんど下なんか見えないだろう。雲を隔てることで、姉さんをより遠くに感じる。
もし姉さんがいたら、今どんな風になっていたのだろう。
変わらずに仲が良くて、今でも僕の部屋で賑々しくやっていたのかもしれない。今みたいに、バラバラになることなんてなかったんじゃないだろうか。
僕らにとって、姉さんの存在は大きかった。
視線が無意識のうちに地上へと降りていく。見上げた先に空が無いのなら、見上げる意味なんてない。
地上には一人の女性が立っていた。
その人は僕と一瞬目が合うと、逃げるように立ち去った。僕は急いで一階へと駆け下りるが、下りたところで外に出ようとは思えなかった。
行ってもしょうがない。どうにもならない。僕はそのままダイニングへ向かった。
テーブルの上には、薬と小さな土鍋が置かれていて、中にはおかゆが作ってあった。どうやら僕の昼食のようだ。
時計を見ると、もう昼の二時くらいになっていた。
紅ちゃんが学校へ行っていないことに小さなため息をつくと、僕は土鍋を火にかけた。
あまり食欲はないけれど、食べないと「食後の薬」と大きくメモ書きのある薬が飲めない。普段から母さんに口をすっぱくして言われていることだ。
なんとかおかゆを食べ終わると、僕はまた自分の部屋へと帰った。
ふと携帯電話を見ると、昨晩から千愛莉ちゃんから何通かのメールが入っていた。そういえば、昨日帰ってから一度も確認していなかった。
「今電話しても大丈夫?」
そんな内容のメールがいくつかある。見ていなかったとはいえ悪いことをしてしまった。
しかし、今電話してもまだ学校だと思うので、謝罪のメールだけ送っておいた。
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