強くなるために①
これは、少年と少女が王都へ旅立つ間の物語。
昨日、少年は父親へと強くしてくれと頼んだ。
それを、承知した父親は暗くなるまで1日目から少年を鍛え続けた。
少年は強くなるためには、剣だけじゃ足りないと思い、母親にも頼むことにした。
実際には剣士も魔法を使う。いや、正確には魔法ではなく魔力操作を、だ。
魔力操作をし、魔力を体に纏うことで身体能力を格段に上げる。
その熟練度によって、どれほどの腕か見ることもできる。
そして、少年は家にいる母親に魔法を教えてくれ、と頼んだ。
それを聞いた母親は、頷くことはなかった。
それをみた少年はなぜ?と疑問に思い、聞いてみることにした。
「どうして?何で教えてくれないの?」
それを聞いた母親は、父親から話を聞いているといった。
そして、剣士を目指すなら、そのまま剣士を目指した方がいいと、母親は静かに言った。
これも少年にとっては疑問である。
なぜ、そうなのか?
不思議そうにしている少年に、母親は説明し始めた。
「魔法使いと剣士を両方目指すとなると、並大抵の努力じゃ無理なの。
剣士を目指すなら、剣士を目指した方がいいし、魔法使いを目指すなら、魔法使いを目指したほうがいい。でないと、器用貧乏になってどっちも中途半端になるの。唯一のメリットとしては、あらゆる状況に応じて対応しやすくなる。けれど、それでも弱い魔物で精一杯なのがほとんど。だから、一つに特化した方がいいの。
でも、剣士は身体強化で魔力を扱うから、それをみて決めるわ。才能がないなら、素直に剣士になった方がいいわね。でも、死ぬ気で努力すればどちらもなれるかもしれない」
そう言った母親の顔は真剣だった。
いつもはおっとりしている母親が、あんな顔を見せるなんて。
そう思った少年は強くなるためなら死ぬ気で努力する。そう、何度も心の中で誓った。そう、何度も。
そう思いつつ、どんなことか不安と期待でいっぱいだった。
少年は寝る前に、鍛錬をすると決めていて、今日からそれを行う予定だ。
そのため、父親に借りた木剣を手に持ち、庭に出て行った。
その木剣を構え、静かに上から下に振り下ろす。
それを何度も何度も行い、何回だろうか?100回ほどした時、振り下ろす瞬間、前に移動する動作をつけ始めた。
そして、元に戻る。これを繰り返している。
これは足運びの練習をしている。
父親から、剣技だけだと防げる攻撃には限りがある。
剣で防げない攻撃など、移動して避けたり剣技と組み合わせて上手く捌いたり攻撃したりと、非常に強力な技になるから、と。何度も教えられた。
その教えに習い、やっている。
これを、歩行術と言うそうだが、少年は教えられていないため知らなかった。
この動作をずっと続けている。
1000回を等に超え、真夜中といった時間帯の筈だ。
貴族の子供なら、小さい頃からこういったことを習ってる子供は多いはずだ。だが、たとえどんな努力家だろうが初日から1000回を超える素ぶりをするものはいない。
そして、3000を超えたあたりから少年は素ぶりをやめ、その場にへたり込んだ。
少年は汗だくで、手もパンパンな筈だ。
だが、少年はまだやめなかった。
強くなりたい一心で木剣を振り、無理をしてでも強くなろうと。
そして、少年の脳裏のある言葉が横切った。
「無理をするのはいけない。無理をしすぎると、体を壊してしまうからね」
誰の言葉だろうか。思い出せない。
そう思いながらも、忘れることにした。
自分は今、無理をしないとダメだ。と言い聞かせながら。
少年は理解しているのだ。この世界では、人間は弱いと。
すぐに死ぬと。ならば、死なないために強くなるしかない。
だって、魔物が襲ってこないとも限らない。
戦争に巻き込まれるかもしれない。
事故で死ぬかもしれない。
だから、大切な人をそれから防ぐために強くなる。圧倒的な力を望む。
ーーそれが少年の願い。
日が昇ってきた頃、少年は木剣を持って家に入っていく。
汗だくの体を濡れたタオルで吹き、水を木でできたコップに入れ、飲む。
体を動かした後の水は最高だ。
体がそう思ってるかのように、少し落ち着く。
そうして、静かに少年は眠りについた。
少年はいつもより、遅く起きた。
いつもは日が昇る少し後に起きるのだが、今日は昼過ぎだ。
日が昇るまで剣を振っていたせいだろう。
起きて服を着替え、外に行くと父親が変わらず巻きを割っている。
母親は買い物にでも行ったのか、家にはいなかった。
少年はそれを確認すると、家を出てアリスの家に向かう。
昨日、どうなったのか聞くためだ。
アリスの父親は衛兵の隊長を昔、勤めていた。
今は辞めて農夫でもしている。
衛兵などに関わる仕事をしていたお陰か、盗賊が攻めてきたあとのことを何か知っているかもしれない。
走って行っている途中、村の住人達は昨日のことを話してはいなかった。
話題になりそうなのに、なぜだろう。
何故、みんな話していないのか少年には理解出来なかった。
もう少し大人になれば、理解出来るだろう。
人が死んだ、その意味を。
二分ほど走っているとアリスの家に到着した。
ドアを叩き、「アリスのお父さんいますか!」と呼びかけると、その数秒後には返事が聞こえ、アリスの母親が出てきた。
「どうしたの?」と訊かれると、少年は来た理由を話し始める。
昨日、盗賊が来たがそのあとどうなったか?と。
それを聞いた母親は知らない方がいい。という。
しかし、少年は粘る。
どうしてもしりたいと。
何度か尋ねると、なぜ知りたいのか聞いてくる。
そして、少年はこう言った。
「盗賊たちがどうなったのか気になる。それにもしよければ、盗賊の武器を貰えないかなと思って」
それを聞いた母親は一瞬不思議そうな顔をするも、今度はこう尋ねる。
「盗賊がどうなったかなんて、監獄に行ったさ。それで罪を償うんだよ。あと、なぜ武器が欲しいのかい?
武器なら君のお父さんがいくつか持ってるだろうし、それをもらえばいいのじゃないかい?」
確かに。そう思った少年だけれど、それは出来ないと首を振るう。
「お父さんは確かに武器をいくつか持ってるけれど、仕事に使うから」
それを聞いた母親はなぜ?武器がいるんだ?と。
少年は、強くなりたいから、実戦で使うとき武器がほしい。その時のため。
それを聞いたアリスの母親は納得し、アリスの父親にいってくれるとのこと。
ただ、最後に「無理はしすぎないようにね」との一言を言って、戻って行ったのだった。
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