1話
そこは、死体や血が散乱する平野であった。日は出て明るく、その酷い有様は鮮明に見える。
そして、その平野にたった一人。
身体中が血で汚れ、自身の血か相手の血かわからないほど赤黒く染まった青年がポツンと立っていた。
青年は両手に持っている血が全くついていない白銀の剣と漆黒の剣を鞘に収め、そこに佇む。
その現場は、周りには何メートルもある猪の様な化け物、緑色の肌に醜い顔をした人型の化け物。
その為諸々、人間ではないものたちの死体が転がっていた。
腕が吹き飛び、足が無い死体。頭だけの死体。四肢が無く、胴体だけの死体など、酷い有様だ。
だが、その平野には青年以外居ないようだ。
その青年は、白銀に輝く髪を真っ赤に染め、ただただ平野に立っていた。
これ以上、何かあるわけでもなく。
どれぐらい時間が経っただろうか。外はまだ、明るい。
何秒、もしくは何分かもしれないし、何時間かもしれない。
何日にも、何年にも感じる時間。
そして、どれほど時間が経ったかわからないが、遂に青年が後ろを振り返った。
何か言うわけでもなく、これもただ佇んでいるだけ。
しかし、その数分後、確かに青年はその血濡れた体で、その血濡れた地面を踏みしめ歩いた。
その青年が歩いていく先には、大きな、大きな、何十メートルもの高さがある壁が見える。
ーー街だ。
その町に向かって青年は歩く。
守りたかった人達に会うために。
自分が成し遂げたことを、誇らしく。
大切な人に、会いに行くため。
この物語は、少年が英雄と言われるまでに育ち、大切なものを守るため強くなる話。
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とある村に、一人の少年がいた。
歳は10歳ほどと、幼いながらも両親の手伝いをしている。
父親は冒険者と言われる仕事をしている。
冒険者とは魔物と言われる化物の討伐、護衛、調査、店の手伝いから何でも金さえ払えばしてくれる。
言わば何でも屋。
そして母親も元は冒険者だ。
だが、父親と結婚し、少年を産んだ時引退してしまった。
その少年は今、父親が外で薪割りをして、割った巻きを少年が纏めている。
父は週に数回、依頼で家に帰らないが基本的に外で薪割り。
森に入っては、猪や鳥、鹿などの動物などを狩ってきている。
その姿をよく少年は見ている。
少年は昔、父親が魔物と戦う姿を目に焼き付けた。
家のすぐ横に森があり魔物が来た時父が苦戦する様子もなく、一瞬で倒したことに憧れを抱いたのだ。
これは別に珍しいことでも何でもなく。
親がこういう仕事を持ってた場合、憧れる者はそう、少なくはない。
だが。
ある日まで、少年もみんなと同じように思っていたが。
その、ある日を境にその憧れは無くなっていた。
初めてのことだった。
盗賊が来たのは。
この村は爵位が低い男爵とはいえ、貴族が治める領地だ。
そのため、冒険者が依頼を受けたり、登録したりする冒険者ギルドもあるし、衛兵もそれなりにいる。
そのため、盗賊たちは決して標的をこの村にはしなかった。
しかし、何故か盗賊はこの村を標的のしたのだ。
それを知った少年は、すぐに幼馴染の場所に向かう。
大切な幼馴染の家へ。
少年は幼馴染の家へ向かうと、すぐにいるか確認した。
幼馴染の母親が少年の方に来て、少年が大丈夫か聞くと大丈夫だと。
少年はホッと胸を撫で下ろす。
少年は今、思っただろう。
これほど心配し、安心したことはないと。
母親がその幼馴染、アリスを呼びに行き、すぐにその少女、アリスが来た。
その金髪は眩しく、少女のその綺麗な青い瞳は美しく。
そして、誰もが見惚れるほどの美しい。
だが、そんなことどうでもいいとばかりに少年は少女に抱きつく。
そして、少年を慰めるように少女は言う。
「大丈夫だよ」と。
それにもっと安心したのか、少年は少女から離れ、「またね」と言い、帰っていく。
だが、外では衛兵が村の門がある方向に走っていくのを、少年は何度も見た。
少年の家は門の近くにあり、アリスに家からそれもほど離れていない。
そして、少年は必ず門の近くを見るわけで。
その門の近くで、母親らしき女性が泣き崩れていた。
その母親の腕には、10歳から13歳ほどの少女が抱きかかえられている。
その少女が、少年には大切な幼馴染、アリスに見え、その母親らしき女性がアリスの母親と重なって見えた。
その時、少年は決意した。
アリスを守ろうと。
もし、そこにいたのがアリスの場合、抱かれてたのはアリスだったかもしれない。
大切な人を守るため、少年は強くなることを決意する。
アリスが、大切な人がああならないために。
少年は決して、善人でも、物語に出てくる勇者でも、英雄でも。
特別な力がある人間でもなかった。
ただ、あるとすればそれは、大切な人を守るためだけに、戦う意思。
その為なら、大切な人や幼馴染を守るためなら、誰であろうと犠牲にするし、知らない人など以ての外だろう。
そう、少年は決して英雄でも勇者でもなかった。
しかし、彼は、幼馴染の英雄であり、勇者であった。
早速、家に帰り少年は冒険者である父に頼んだ。
「強くしてくれ」と。
父親は尋ねた。
「何故?」と。
少年は答える。
門の近くで、少女が死んでいたことを。
母親が泣いていたことを。
もし、それが大切な人なら嫌だから。
そうなるのが嫌だから、強くなって守りたいと。
それは少年であって、まだ10歳の少年が考えるようなことではない。
しかし、少年は変わっていた。
珍しい白銀に輝く髪。
黄緑色の瞳。
その姿は奇妙な目で、同年代の子供達に見られていた。
だが、そのなか、唯一アリスだけが声をかけてくれたのだ。
友達になってくれたのだ。
そんな大切な友達を。大切な幼馴染を守るために、強くなると少年は決意したのだ。
その言葉を聞いた父親は「わかった」と返事をし、家の中に入っていった。
しかし、すぐ戻ってきた。
だが、その手には木剣が二本、握られていた。
そして、父親は言った。
「俺は、魔法とかしらねぇし、使えねぇ。それは母さんの分野だ。だが、俺は剣でこれまで戦ってきた。
だから、その俺の全てを教えよう」
不器用ながらも教えてくれる父親に感謝しながら、木剣を手に取り、少年は父親へと駆け出した。
明るかった外は、すっかり日が暮れ、オレンジ色に空は染まっている。
そして、青年は地面に倒れ伏していた。
父親は全く疲れた様子もなく、木剣二本を片づけようと、少年が持っていた木剣を手に取り、家の中に入って言った。
父親の教えはただ一つ。
実戦で鍛える、だ。
だが、木剣を持ったことがなかった少年がいきなり実戦とは危険だ。
そんなこと、そこらにいる子供でもわかる。
だから、父親は言った。
「俺がいない時、足運びの練習と素振りをしてろ。仕事が終わって時間が空いた時、稽古をつけてやる」
そう言って、家の中に入って言った。
それを、母親が聞き、少年に魔法を教えることになったそうだ。
少年は毎日、母親から魔法を教えてもらい、時間がある場合父親に稽古をつけてもらう。
どっちか、もしくはどっちも終わったあとは夜遅くまで、魔法の練習と素ぶり、足運びの練習を何時間もした。
その生活から6年。
少年はすっかり大人っぽくなり、アリスも美しい少女へとなっていた。
そして、16歳はもう、大人だ。
その16歳になった日から一週間、少年と少女は王都へ向かうため、準備をしていた。
冒険者として生活していくため。
もっと強くなるため。
何話かに分けて、投稿します。