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【連載中止】サクリファイスの剣  作者: 天野 星屑
前篇:英雄の帰還
9/14

7:勇者、その価値

意味不明かもしれませんが、これはこの話の大事なとこなのでお許し下さい

駆が狼人族の集落に住み始めておよそ一週間。すなわち、



「遅えぞ、駆!北に追い込めない!」


「お前も働けカンク!そっちも詰めが甘いのだよ、それでは抜けられてしまう!」


「……次から次へと、忙しいなこりゃ…!」


若い人狼たち。それでも幼少から鍛えられた狩人たちに混ざって狩りを始めて、およそ一週間である。基礎体力ができる前から彼らの狩りにつき合わされ。もとい、参加させてもらい、様々なことを学んだこの一週間。けれど、まだ何も学んでいないに等しい。そう駆に理解させるに十分なだけの時間が過ぎた。制限時間が存在する人狼の状態をほとんど使用せずになお、狩人として、山を、森を駆け回る彼らに、駆は、ついていくのすら必死で。時には、獲物の行先を制限するための障害すらこなせず。それが、科学の発展していない世界の過酷さなのだろうが、そんな駆の、心の救いが一つ、そしてストレスが一つ。


前者は、狩りに行かされる前に、アリクから告げられた、

『とりあえず、一週間でいい。それでわかれ』という言葉だった。リミットが定められていたがゆえに、何とか、毎日頑張れた。後者は、最初は暖かく、けれど、次第に冷たくなる、人狼たちの視線、よそよそしくなる態度だった。明確に敬遠されているわけではないが、日に日に増すその違和感に、だが駆も、その理由は分かっていた。当然だ。記憶がないはずの駆が、明るく話し、時に記憶に従って動いている。人が、記憶を失ったなら、確実にできないであろう気遣いや、人狼たちの思い出話に、ついつい相槌を打ってしまったり。それは、人の機微に聡い人狼たちにとっては、記憶があると証明するには、十分だった。故に、記憶があることを隠していて、更に人狼としての生き方を知らない駆に、無邪気な子供たち以外は、積極的には、関わろうとしなくなった。そんな事実が駆には嫌だったし、どうにかしたかった。



「危ねえな駆。もうちょいで逃げられるとこだったぜ」


「なんとか狩れたからいいではないか」

そういうカンクとレイドは、駆を警戒してない数少ない人物だった.

駆自らは聞いてないが、村人の言葉から、なぜ彼らには警戒されないのか、わかる。自分と同様に警戒されている彼らの、その、外れ物としての感覚なのだろう。片や独特の思考で、片やその剽軽な性格で、狩りのメンバーが減る中、駆と共に狩りを続けた二人は、互いに大きな信頼を抱いてるようで、駆には羨ましかった。みんなから警戒されている今の駆には届くはずもない場所。そんな二人とも、今日が最後の狩りになるだろうが、いつも通りやろう。そう決めていた駆は、いつも通りに答える。


「悪い悪い。まだ足が着いてこなくてさ。お前ら速すぎ」


「そりゃお前が貧弱だからだろう」


「それでは何のアドバイスにもなっていないのだよ。それより早く運ぶぞ」



そう言って今日の獲物、2メートル超えの大猪の足を木の棒に縛っていく二人。まだ縛り方もわからない駆は、見て学ぶしかない。そんな彼らの優秀さも、周りから浮く理由の一つだろう。


村への道中も、三人、明るく話しながら歩く。駆にとっては速いが、それでも、狩りとは比べ物にならないほど遅い。


「じゃ、俺アリクに呼ばれてるから」


そう言って振り向いた駆に、事前から知っていた二人は、いつも通りに返す。


「おう、達者でな」


「それでは爺臭いのだよ。駆、元気にやれよ」


最後まで明るい会話を見せてくれた二人に、感謝の念を抱きながら、駆は、アリクのもとに向かった。



アリクは若いながらも、魔王軍における人狼の部隊の隊長である。今は人狼の部隊そのものが、軍としての活動を停止しているが。


故に、村では、年少のものも年を取ったものも彼を信頼しているし、彼の指示に従う。本人は望んでいないが、村長と同格に認められている。本人が望んでいない理由は、普段の言動の割に真面目らしいアリクらしく、有事の際の指揮系統が混乱する。ということらしい。その本音が、リーダーなんてやってられるか、というものなのは、周知の事実である。


そんなアリクも、村人の好意を無駄にはできないようで、村人の作った家も受け取っている。一人で住むには巨大すぎる家を。その家は、そのほとんどが、まだ森に出るのは危険すぎる子供たちの遊び場として使われている。そこに呼び出された駆は、保育園の様相を呈しているその場に、懐かしいものを感じながら、子供たちと遊んでいた。たいてい、そんな暇なときは、人は何かしら考え事をしてしまう。授業の合間に考え事をしていて先生の話を聞いてなかったり、指示を聞き逃したり。そんな経験が誰しもあるだろう。今の駆も、その例外ではなく、考え事をしていた。どうすれば、人狼たちの仲間になれるのか、仲間として認められるのか。


 答えは簡単。というか一つしかない。嘘をついていることを吐いてしまえばいいのだ。だが、その行為はアリクに禁止されているし、もし話したところで、かえって怪しまれかねない。魔族ではなく、この世界のものですらない存在をなぜ信じられるのか。その当事者である駆ですらたやすく理解できる。そんな悩みが、駆の心の中にあった。



「お兄ちゃん、変な顔してどうしたの~?」


そう問う男の子に、駆は、少し顔に出ていたかな、と優しく微笑んで答える。


「どうもしないよ」


かくも鋭いのは子供ゆえか。男の子は、


「嘘だ~。お兄ちゃん、嘘ついてる時のラーナと同じ顔しているよ?」


「ラ、ラーナ、嘘なんかついてないもん!」

例えに出された少女が、慌てて抗議しているが、男の子は、駆との会話に真剣になっている。


「嘘はついちゃいけないんだよ。お母さんが、大人は鋭いから嘘ついたら、すぐにわかっちゃうから、って言ってたよ。嘘ついたら、しんようできないよ、って」


そう子どもの感性で、駆を諭そうとする男の子に。しかしそれは、子供のそれとは思えないほど、的を射ていた。


嘘をついたら人に信用されない。それは当然だ。

怪しいから信用されない。それは、当然だろうか?

例え、怪しくても、それでも信じれるのが、人という、心を持った種族ではないだろうか。


それを、駆は、すっかり失念していた。


「そうだね」


そう駆が言うと、男の子は、にこっと子供らしく笑って、走って行った。心配させたかな、と。そう思った駆は、やがてやってきたアリクに。


「何でこんなに遅いんだ?」と。相談しようとしていたことは置いておいて、文句を言った。当初の予定では、昼すぐに。そういう話だったが、当のアリクは、日も陰るころになってようやく、やってきた。そう、怒りを込めて言った駆に、だがアリクは、


「ちゃんと来たな」

と。まるで気にしていないような返事を返す。


「あ?」


だいぶ怒りがたまってきている駆だったが、続くアリクの言葉で、我に返る。


「覚悟はできたか?」


覚悟。アリクはそう言った。彼は待っていたのだ。駆が、その正体を明かす決心をするのを。



「何か、すげえ踊らされた気がするんだが」


ポツリと駆が言うと、アリクは対照的にニヤリ、と。


「そうだよ。それがいるんだよ。」


「え?」


疑問の声を上げる駆にアリクは。


「どいつもこいつも勘違いしてるが、召喚者の価値は、神の加護なんて言うチートなんかじゃない。その、異世界から来たっていう、存在そのものだよ。そんなやつが、自分たちのために戦うから、みんな勇気が出るし、何かが変わる」


そこまで言い切って、再度駆の目を見て。


「お前は、そのほとんど力を与えられていない状況で、それでも、世界を変えると。気張ってやれ。俺も手伝うからよ。不屈の大和魂、お前も持ってると信じてるぜ?」


これが本来の口調なのだろう。そう思えるほどに、力の入った言葉だったが。


そんなことより(・・・・・・・)。“大和魂”。アリクはそう言った。すなわちそれは、このアリクもまた、


「あんた、やっぱり召喚者だったんだな。けどいいのか?そんなに俺を信用して。世界をよりよくするとは限らないぞ?」


照れくささを隠すように、そうか茶化す駆に笑って。


「正しさなんざ、誰にも決められんさ。けどな、少なくとも、初見で魔族を恐れなかったお前のそれは、俺の仲間に、悪いようにはならないだろ。それとお前、俺はもう一個の方だ。だから、お前の代わりはしてやれねえんだよ」



さも楽しそうにそう言うアリクは、召喚者ではないもう一個(・・・・)。すなわち、転生者だろう。途中参加組の駆と違って、二十数年。ずっと人狼をやっている(えんじている)のだ。年季が違うのもうなずける。



そんなアリクに、駆はニヤリと、自ら笑って。


「分かった。俺は、この世界を、俺の望む、皆で生きれるようなそんな世界に、変える。あんたにも手伝ってほしいが、まだ、俺の準備ができてない。だから、俺が強くなるまで待ってくれ」


志を示すのに、力がいるのは自明だから。その方法を、力を見つけるのに時間がかかるのは当然だろう。同時に駆は、こう思う。その道の途中で、何かを力ずくでかえることはしたくない、と。

元の世界では、すべてが力で決まっていた。そしてその変革のすべてが、何故か駆には、違和感を抱いているように思えたから。


過去では、ひたすら武力と策略の戦いに明け暮れ。近代では、科学の混じった武力。ルールで武力を封じられてからは、数の力で物事の流れを変えてしまう。そんな中で、人々の心に訴えかけるキレイ事は、なかなかいい方法だとは思ったが。それでも、その結果心動かされた人々の、数の暴力には違いなかった。あの、ルールの歪みきった世界では、いまさら、いい方向に収まるはずがないが、この、まだ歪み切っていな世界ならば。


そう、何故か、本来起こりえないはず(・・・・・・・・)の思考が起こったのにも気づかないまま、駆は考え続ける。



力によって変えられてほしくないなら。人々の、心が、自ずとそちらを向く。そんな道を見つけたい。例えその道が、力によって生まれたものだったとしても、それを見た、感じた人々が、自ら変わっていけるような道を。もし、その道が力ずくでしかできないのなら、その業を背負うのが、自らだと定めて。



その、かつて誰も見たことのないほど輝く駆の顔を見たアリクに


「楽しみにしてるぜ」

と。

そう言わせるほど、駆の顔からは、時代が、積み重ねられたような何かが、浮き上がっていた。

力ずく?力づく?



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