表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載中止】サクリファイスの剣  作者: 天野 星屑
前篇:英雄の帰還
8/14

間章:継ぐ者、その目的

また夢を見た。何度も何度も、見てきたその夢を。


それは、何度も生きた一人の英雄の物語。何度も何度も、様々な方法で世界を変えてきた、男の物語。幼いころは、ただ不思議な夢と、そう思っていた。やがて、その男が、何度も記憶を継いでいると。そう気づいたのはいつだったか。


手段を変え、方法を変え、戦い方を変え、立場を変え、けれど世界に必ず何かの変化をもたらしていった。


時には、人と魔が争う世界で魔の頂を落とし人を繁栄させ。


時には、異世界から召喚せれた勇者として、国と国の戦争を治め。


時には、未来を生きる魔法師として、世界を変え。


時には、人ならぬ者として人間を滅ぼし。


時には、巻き込まれ奪われた世界で、それでも生きることを愛し。


時には、生きてきた知恵で自らの領地を繁栄させ。


そんな、多くの偉業を成し遂げてきた男は、けれど、次第にその笑顔を失っていった。何かを救うためには何かを滅ぼさねばならず。何かを貫き通すためには、何かを否定せねばならず。


初めは、強敵との戦いの、人を救うことに、楽しみを見出していた男も、やがて、意味はあれど望まず。望まずとも強制される。そんな戦いを繰り返すうちに、戦いを楽しむことを忘れていた。そうしなければ、戦えなかっただろう。何度となく生き、時には人を超えた長命種として生きた彼でも、彼だからこそ、どうにかしたかった。


なにも殺さず、何も傷つけず、それでも掴み取れる。そんなゴールを取りたかったのだ。


今夜駆は、最後の夢を見た。何度も何度も見続けたその夢の、たどり着いた果てを。


『ここで終わりだって、わかってんのに、楽しみたかったなあ』


病に伏した床の上で、何千、何万年ぶりに流された男の、その涙は、夢を超えて、駆の心を揺らした。


駆にとって彼は、物語の登場人物とは比べ物にならないほどの、英雄だった。だから最後は笑ってほしかった。記憶が潰えると知っても、それでも笑えるような、そんな生を生きてほしかった。


彼が何を目指したのか。




そう例えば、ある世界に、二人の男女がいたとしよう。そのうちの一人、少女に神が一言。


『君が死ななければ世界が滅ぶ』と。


神にそう告げられた少女は、悩み、涙して考え、選んだ。


あまたの命が、愛しい人が生きるこの世界を、守りたい、と。

悲壮な覚悟を抱き、自らの叶ええぬ未来に涙して、それでも少女は、神の前で、死を、選んだ。


が、その少女を殺そうとした神の前に、一人の男が立った。

それは、少女が死んでまで守りたいと思った、最たる存在で。


『僕が彼女のために死のう』と。少女と同様に、最愛の人を守りたいと願った者だった。


『死ぬのが怖くないのか?』と。神が問いかけると、彼は一言。


『自分より彼女を救いたい』と。

こうして、男は死に、少女は、死んだ男の分まで生きる、と。そう決心したところで、大抵の物語は終わる。人間の優しさを示す素晴らしい物語だろう。


そんな、生き延びた(みごろしにした)少女と、犠牲になった(死に逃げした)男に、彼はこう言いたかったのだ。


「何で、そうまでして世界を救いたかったんだ?」と。


少女の代わりに死んだ男は、少女とともに生きる道を失い。代わりに生き残った少女は、大切な人を失い。世界が救われたところで、二人にとっては、最悪の結果になってしまったわけだ。


では、何が間違いだったのか。世界を救おうとした少女と、最愛の人の代わりに死んだ男。その行動は、なぜ最悪の結果を生んだのか。簡単な話だ。


その選択肢が間違えていたのだ。選ばなければいけなかったのは、『誰が死ぬか』などでは無く、『共に生きるかともに死ぬか』のどちらかだったのだ。そうすれば、共に生きて、世界の終りを迎えても。ともに死んで、世界を救っても。二人が分かたれることはなかったのだ。


彼が目指したのは、そんな、一人の犠牲も出さない、世界も少女も男も、みんなで生き残れる、そんなゴールだったのだ。そして、ついぞ成し得なかった。


それでも駆は、彼に、英雄に笑って欲しかった。だから、もし自分が彼と同じ立場にたてたなら、運よくそうなったなら、必ず、彼と同じゴールを目指して、彼が笑えるような世界を創る、と。そう決めたのだ。


彼は、もう消えたのだろう。だがそれでも、彼の記憶を継いだものが、もし再び生まれて生きるときに、今度こそ笑えるような世界を創る、と。


十中八九無理だろう。可能性は限りなくゼロだろう。それでもやるしかないのだ。駆が、英雄が心の底から笑える世界は、ないというのなら、創って見せるしかないのだ。


だから駆は、この世界で、一人も、魔族も人間も獣人も殺さない。


それが、ルールのないこの世界で、駆が、自らに課したルール。

何が答えかわからない世界で、自分で決めたルールだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ