4:魔王、その悪戯
再び視界が白に染まる感覚がし、今度は、初めに駆が召喚された部屋とは異なる部屋に移された駆に、そこで待っていた少女が声をかける。
「勇者様、ですね」
「まあ、はい」
「状況は理解されてると思いますが、魔王様が自ら話したいとおっしゃっています。こちらへおいでください」
そう呼んでいる少女に駆は、戦慄を感じながら従う。魔神に己が魔族になったと告げられたからだろうか。今の駆は、さっきまでとは比較にならないほど気配に対して敏感になっている。そのおかげで、その少女の違和感に気付くことが出来た。
だが今は考える時ではない、そう駆は断ずる。魔神と会ったことで召喚による衝撃を抑えることはできた。故にいま必要なのは、流れに身を任せ、さらなる情報と状況を探っていくこと。
「わかりました」
今更ながらに駆は気付いたが、、ここにも先ほどと同じように巨大な魔方陣、この世界には過ぎた物敷かれていた。そのために、自分を呼んでいる女性が自分のほうに近寄れなかったのだろう。
「あれ?あれを召喚した人はどこにいるんですか?」
目の前にいる少女がしたこととは到底思えない。いくら誰にでも扱えるとはいえ、扱えるのは、否、扱える権利があるのは国に仕える信頼のおけるものだろう。目の前の少女には失礼だが、到底彼女がそうだとは思えない。
「それは…魔法の行使で寝込んでしまい、私が魔王の命をうけ、迎えに参上しました」
その情報は嘘だ、と。そう断じた駆は、既に持っていた召喚魔法の情報から、誰にでも扱える、即ち、身分の高いものが行っても何も危険はないと判断した。それはつまり_____。
「わかりました。あと一つ聞かせて下さい。あなたも魔族なんですよね」
今は考える時ではないと、そう判断した駆は質問を切り替える。どうせ後でわかるのだ。
「はい、私は魔人族です」
魔人族それが示すのが魔族そのものなのか、一つの種族かはわからないが、問題ないと判断する。今重要なのは、待っているはずの魔王と話すことだ。
「じゃあ案内お願いします」
「かしこまりました」
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やがて、一つの扉の前に着く
。そこには、今まで一人も見かけておらず、駆がひそかに気にしていた存在がいた。すなわち衛兵である。駆の想像ならば、というより、普通に考えて、「魔王が呼んでいる」という時点で、ここが魔王の本拠地、魔王城であると想像がつく。いくら魔王が実力者とはいえ衛兵が一人もいないことなどありえない。聞きたいことがさらに増えた駆だが、とりあえず放置しておく。普段ならすぐに結論を出す駆が、先程から多くのことを保留したままである。
「勇者様をお連れした」
「ハッ!魔王様がお待ちです!どうぞ!」
突如口調が変わった少女に、あまりに丁寧すぎる衛兵の対応。緊張した彼らは気づかない中、駆だけは開き直っているため気づくことができた。そしてその疑念は、確かに確信に変わっていた。
巨大な扉が開くと、少女が歩き始める。それについていく駆の目には、すでに美しい城の中で、一際美しい椅子に座る男の姿が目に入っている。
案の定、そこまで歩いた少女は、男の前にひざまずく。
「勇者様をお連れしました」
「大義であった。そなたは後ろに控えていよ」
そう言われた少女は、静かに駆の後ろに下がる。チラリと見えたその口元が歪んでいたのは見間違いではないだろう。
「ようこそ我が国へ、勇者様。私は魔龍族のエイリアル・デア・クロスロードだ」
「私は狼人族になった天尾駆です」
ドラグニル。名前から考えると、竜人だろうか。自らの種族だけは魔神から知らされてる駆は、しかし、ほかの種族については全く知らない。
「ほう、では一つ聞かせてくれ。どこまでを魔神から聞いた?」
「え?魔神と会ったことを知ってるんですか?」
そう聞いた駆に、魔王はわかりやすく答える。
「魔神がそう告げた」と。
「え?」
さらに理解できないというように声を上げる駆に、魔王は、その地位には見合わないほど丁寧に答える。
「我らが貴殿を召喚したのは事実。しかし、その途中に、魔神より信託があったのだ。他の勇者とは違い、特殊な力を持った貴殿を『借りる』とな。その際に、我らからの条件として、貴殿が魔族を嫌悪していたり、帰りたいと望むようなら、貴殿をもとの世界に返すとも言われてな。故に、貴殿は我らに協力してくれるとふんでいるのだが、相違ないか?」
確かに駆は『帰りたい』とはひとこともいっていない。元の世界には確かに、楽しいことがたくさんあった。駆にとっては、ゲームやスポーツ、アニメに読書だろうか。即ち、戦争の劣化版と異世界の模造品と、主人公のいる物語。そのすべては、たとえこの世界に来たところで、阻まれることのない、むしろ更なる高みに上ることの出来るもの。この世界をゲームやアニメと一緒にしてはいけないが、それでも似通ったものであるのは事実。
「まあそうです」
「それでは、貴殿が、魔神から聞いたことを教えてくれないか。まさかあの魔神が、貴殿の能力だけで済ませるわけがないだろう」
「そうですね、もちろん俺の能力は聞きましたし、他には、この世界の情勢を少しと、どこにどれぐらいの勇者がいるのか、ですね」
それを伝えるのは問題ないと判断した。むしろ、これから一緒に戦っていかなければならないのだ。情報は共有したい。そのためには信用してほしいが。
「どこにどれほどの勇者がいるか、か。それを魔神から引き出せたのなら、大きな利益だ。本来、それを秘匿する国もあるからな」
結局最後まで、己を魔王と呼ばずに、駆に話していたおとこは、しかし、
「教えてもいいですけど、本物の魔王と話させてください。俺の情報を受けたいなら、今召喚されたばかりのこの俺を、信用するぐらいやってみろ」
最後に口調を変えた駆の、その眼差しは、もはや平和な国から来た人間のそれではなく、
「ッ!?」
確かな感情の昂ぶりをもって、人狼のそれへと変わっていた。
その刺すような眼差しに、魔王を名乗らなかったものは、もはや隠そうとしなかった。
「なぜわかった?」
「あんたは一度も魔王を名乗ってない。いくら魔王のふりをしても、魔王の配下である以上は魔王を詐称は出来ない。あとは本物の魔王を見すぎだ。そんなに視線を向けては気づかれる。それとこれは魔神にもいったが、あんた気配隠す気ないのか?そんな危ない気配だしてるやつ、絶対やばいやつに決まってるだろ」
なあ?と駆は、自分をこの部屋へと、この世界へと導いた少女、魔王を見た。
「……ふん、合格なのじゃ。代われエイリアル」
「はっ、陛下」
先ほどまで玉座に座っていた男と少女が入れ替わり、男は玉座の後ろに控える。それは確かに王者の風格で、駆に自分の感は間違っていなかったと改めて確信させ、自分の態度を後悔させた。
「すまぬな勇者、ちと試させてもらった。そなたどれほどの器かをな」
「ちなみに、あんたの評価はどれほどか聞いてもいいか?」
「合格じゃな。機転もきくし、自分の感情をあらわにもしている。あと少しじゃがな」
「何?」
駆がそう問うと、更に少女の言葉が変わる。
「私の本来の話し方はこっちだ」
「……ほんとに。演技の上手な魔王様だ」
「お前のさっきの口調もな。あれを聞いて、お前を切れ者だと思えるやつが何人いる?」
素の口調になった途端、饒舌になる二人。互いに演じていたため、何か共感できるとこがあるのだろう。周りの近衛兵も唖然としている。
「それで、魔王様。あんたの口から、この世界になぜおれを呼んだのか。教えてくれよ」




