表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載中止】サクリファイスの剣  作者: 天野 星屑
前篇:英雄の帰還
3/14

1:召喚、そして召喚

「はあっ!?」


突如その姿を大きく変えた世界に、天尾駆(あまおかける)は驚きの叫びをあげた。常人なら、叫んだ後は呆然としたり、あまりのショックに気を失ってしまうだろう。しかし、そんな場面で駆は、思考を放棄しない。それが、駆が自らに課した誓いの一つだ。誓いといっても法的にも思考、身体面においてもなんの拘束力も持たない。ましてや、元いた世界には無かった魔法などは論外だ。しかし、例え拘束力がなかろうと、駆にとって、自らに誓った誓いというのは、大きな意味を持つ。自分を騙して感情を押し殺し、他人の意に反することをしない。そんな人間が存在するのと同様に、自分に最も正直で、自分の欲望に忠実になってしまう者もいる。駆はそちら側の人間であるし、自分でそれを自覚している。そんな人間にとって、自分に誓った誓いを自ら破るというのは、耐え難いことだと感じるだろう。


 だから駆は、こんな状況でも、冷静に焦るという、本来なら起きにくいはずの感情を抱くことができたのだろう。冷静に焦るとは、ただ焦ることでも、ただ冷静になることでもない。焦るというその感情は、人間の思考力を活発化させるのと同時に、その思考を空回りさせる。そこで冷静になることで、その活性化した思考力をそのまま活用することで、全力で状況整理を行うという、不測の事態に対処するのに最も効果的な方法であるといえる。



「俺は天尾駆。17歳で、私立天星学園の、二年三組の生徒だった。たぶん記憶は消えてない、よな?」

考えうる限りのことを思い出してみたが、おそらく記憶は消えてないはずだ。もし、記憶が丸ごとない箇所があるとしたら、記憶が消えたことを把握できないが、それはどうしようもない。ただ、召喚直前のことが、記憶にないのは、明らかに記憶が消えているとわかるが。なぜ召喚直前、と状況が分かったのか。それが、いま最も駆の頭を悩ましていることだ。現代日本の、英雄に憧れる少年ならおそらくかなりの者が知っているであろうその光景。そのうち何割かはそれに憧れを抱き、しかし叶わないと知り諦める。そんな存在が、駆に現状を示すとともに、駆の頭を悩ませる(悩ませるというのはわからないというより、今後について心配させるという意味でだ)。


 いわゆる、魔方陣である。初めは輝いていたそれも、今では輝きを失っている。


「さっきまで光っていたということは、まさか召喚されたのは俺一人、か?」


もしそうだとしたら、かなり心細い。たとえ仲が良くないものでも、こんな状況では、知り合いが近くにいてほしい。そう思うのは仕方ないことだろう。


 そこで駆は気持ちを切り替える。いつまでも寂しがっていても意味がない。初めて考えるのをやめ、周りを見渡すと、あるのは一面の石の壁と、重厚そうな扉だけだ。駆の知っている展開ならばここから、偉い人が現れる、もしくはいきなり殺し合いとかだろうか。駆にとって最も嫌なパターンとして、洗脳魔法をかけられる、というパターンもある。もしかしたら、異世界サバイバル開始という可能性もあるが、そういう場合はたいてい、魔方陣など存在しない、あるいは、部屋など存在しない場所に放り出されるだろう。それに、たとえ今からサバイバルになるとして、そんなことを心配していてはキリがない。想定しても対処できない最悪の事態は想定するだけ無駄だ。


「にしても有り難くない。状況が全くつかめないな」


駆がそこまで考えたとき、魔方陣が再び鳴動し始める。魔法が分からない駆にも緊迫感を感じさせるほどの高密度の魔力が溢れ出す。そこで駆の意識は唐突に途絶えた。



_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _




「やあ少年、僕の姿が見えるかい?」

次に目を覚ました時、駆の耳に響いたのはそんな言葉。駆が目を開けると、白い玉座に座った少女が視界に入ってきた。十人に聞けば百回美しいという言葉が聞けるであろうその姿に、駆の目はしばしくぎ付けになる。


「そんなにこの姿が気に入ったかい?」


その少女が放った言葉で駆の硬直は解かれた。何者かわからない存在の前で無防備になったのが気になったが、そんな考えもすぐに捨てる。今の駆の胸中を一言で表すと

「もうどうにでもなれ」となる。


もちろん、危険が迫れば最低限の抵抗ができるように心構えはしている。が、この全く分からない状況下で、考え続けることは、もはや役に立たないと判断した。今必要なのは、判断材料となる情報だ。


「僕と今の君とは初めましてだね」


「あ、ああ」

余りに自然に話かけてくるその少女に、駆も戸惑いながら答えてしまう。


まだ動揺したままの駆を見てクスリ、と笑った少女はそのまま話を続ける。


「僕は君に伝えたいことがあってここに呼んだんだ。でも君も何か聞きたいことがあるみたいだし、ここは情報交換ということにしよう。僕も気になることができた」



「…わかった」

駆がうなずいたのは、ひとえに情報がほしかったからだ。それに、その少女が邪悪な存在に見えない、ということもある。ならば、今のわらどころか空気にすらすがりたい駆が少女の提案を受け入れたのは当然と言っていいだろう。



「じゃあ、君からいいよ」


その少女がそう言うと、駆は遠慮なく質問した。


____「あなたは何ですか」と。

前作と違い、三人称で書いています。何か不自然な点があったら、どんどんコメントお願いします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ