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【連載中止】サクリファイスの剣  作者: 天野 星屑
前篇:英雄の帰還
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0:歪んだ世界

 この、世界は、どこか歪で、誰も気が付くことができないほど、曲がっている。



 人々は、安寧を、繁栄を、存続を求める。

 故に 戦う。自分たちとは違う者たちと。

 故に奪い合う。自分だけの繁栄を手に入れるため。

 故に傷付けられる。奪ったものは奪われ、傷付けたものは傷付けられるのが世界の道理だから。

 故に気づかない。自分たちの進む道が、その求める安寧を、繁栄を、存続を妨げる最たるものだと。



 憎しみは憎しみを呼び、悪意は悪意を呼ぶ。その悪の感情の渦と同様に、善なる感情の渦も存在する。笑顔が笑顔を呼び、思いやりが親愛の情を呼ぶ。二つの相反する存在。その存在が、境目すら曖昧に並び立つのは、どこの世界も同じ。


 人々は今日も、矛盾と、真実と、虚偽の境で、歪み続けながらバランスを保ったこの世界で生き続ける。

 その不自然さに気が付かないまま。




 しかし、その不自然さに違和感を抱いたものがいたらどうだろう。

 一人だったなら、世界に飲み込まれ、違和感を忘れてしまうかもしれない。

 理由がわからなければ、自らその違和感を忘れようとするだろう。

 正す方法が見つからなければ、どうすることもできはしない。



でも、仮に、万が一、その全てを満たすことが出来た、或いは満たそうとした存在があったなら?

一人ではなく、目的も定まり、世界をただす道筋を見つけたものがいたなら?


 確実にその歪みは正されるだろう。いや、歪みを正す、というのは正しくないかもしれない。何が真っ直ぐで、何が曲がっているのか。それは誰にも決めれないし、わからない。全てを知るはずの神ですら、もはや、どうなっているのかわからない。当事者であるにもかかわらず。


 当事者がどうにも出来ないのなら?


当事者に不可能なら、何も知らない他人を頼ればよい。ただそれだけの話。




『延世予言』   ヤレー・マナラによる古書翻訳より一部抜粋


 世界の始まりには『何か』がいた


 ある日その『何か』は三柱の神を作り、姿を消した


 生まれ落ちた神々は、おのれの力を試すため、『命』という概念を持つ存在を生み出した


 こうして、人間と獣人と亜人が生まれた


 そこで初めて神々は名を得た


 『仁神』『獣人』『魔神』


 それぞれの作った一族の名を自ら取り入れた


 時は経ち、神々の間に些細ないさかい起きた


 人であれば小さなそれも、神々であれば世界に及ぼす影響は巨大


 その余波から『亜神(できそこない)』が生まれた


 神々の争いから生まれたそれは、人類の暗い感情のみを取り込み、世界は荒らされた


 すべてを知る神々はただ見守るばかり


 『亜神』は争いを起こすためにすべて試した


 種族、宗教、欲望  あらゆるものを利用した


 その成果の一部が森人族や人狼族、匠族である


 世界はやがて些細ないさかいから生まれた果てのない悪意にのまれ、消えるだろう


 神々はそれだけを告げると、人類の前からその姿を消した


 世界は滅びるその時まで、破滅への道を歩み続ける


人間国ヤヌスール 禁書庫危険思想の棚より



_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _



とある王城の一室や、大聖堂の地下には、巨大な魔方陣が存在する。その世界に住まう誰もが、姿を消した神でさえ有り得ないと言うほどの高密度の魔力が練りこまれたそれは、かつて神の上にあった何者かの残した奇蹟。その奇蹟は世界を超える。


だが、真に恐ろしいのはそこではない、と魔法に長けたものならいうであろう。世界を渡る魔法そのものは理論的に開発され、この魔方陣と照らし合わすことで、その有用性も証明されている。技術的には決して有り得ないものではないのだ、何者かの残した奇蹟は。

真に畏れるべきは、そこに付随する効果である。


 第一にその安全性があげられよう。例え魔法が発動する前に、何らかの超人類的存在がその魔法を妨害(仮に出来たとしてだが)しても、その反動がこの世に残ることはない。本来なら街など軽く消し飛ばすであろう反動は、世界と世界の狭間[奈落]へと放出され、消滅する。


 第二に、魔法の対象であった者に対する能力付与。様々な生存能力、戦闘能力など、その対象になったものには、英雄たるに相応しい力が与えられる。通常の存在ならば、他者に与えることはもちろん、自ら手にすることすらできないほどの圧倒的な力。例えそこに、現存する神の介在があったとしても、生物を英雄に仕立て上げる効果は、この世界の人類にとって、大きな意味を持つ。


 そして第三に、この魔法の最も畏れるべき点は、誰でも扱えるということ。一定以上、そう魔法を用いて戦うものならだれでも扱うことが出来る。もちろんより上位の者が行えばそれだけ大きな効果が見込まれるが、誰でも使えるというのは大きい。それが神を超えた何者かの残した奇蹟。


 人類がその領域にたどり着くには、幾度の生と死が必要だろうか。元より、人類の中で真の意味で二度以上死んだ者は、ほとんどいない。まして、十回以上死んだ者など、一人しかいない。



 そんな奇蹟の名は[召喚魔法]。

召喚される[勇者]に希望を抱く者の前に、自らの意思で行動する存在を召喚する。そんな矛盾に満ちた魔法は、今日もこの世界で動き続ける。世界の崩壊するその時まで。

 

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