11:勇者、その志
「勇者様、間もなく狼人族の住む地域へと侵入します」
「分かりました。警戒を厳しくしていきましょう。見つかっても、交戦はしないでください。危なくなったら僕が防ぎます」
「了解です」
僕たちは、この世界に勇者として召喚された。僕たちにはこの世界の人たちの感情とか、歴史とかが、本当にどうだったのかは分からない。だからこそ、この世界に僕たちを召喚した人たちが言っていることを信じる。この世界で生きてきた彼らの願いこそが、この世界にとってもっとも良い道になるはずだから。
「皆行くよ」
「わかった。勇気、顔怖いよ?」
「りょーかい。あんま気張り過ぎんなよ」
「そうそう。私たちもいるんだ」
休んでいたみんなが立ち上がる。僕には、僕らには仲間がいる。それだけで負けないとは言わない。でも、それが絶対力になってくれる。
だから大丈夫だ。必ず、この世界を、人々が平和に暮らせる世界に変えてみせる。
「みんな」
「なんだ?」
「なに?」
不思議そうにこちらを振り返る仲間に、決意を込めてつぶやく。
「必ずこの世界を、平和にしよう。」
その言葉に、みんなも答えてくれる。
「ああ」
「はい」
「わかってるさ」
僕たちはやれる。必ず、成し遂げなくてはならない。
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「カケル、もう始まるぞ」
「わかってる。突入のタイミングは任せる」
勇者たちと、化獣から全力で逃げるシンが視界に入る位置で、駆は言う。絶対にはずせない作戦だ。たとえ必要なくとも、最善の作戦を行わなければならない。今の駆の打てる最優の手を。
化獣の叫び声や、走る音が勇者たちのもとに響いている。気付いたであろう勇者たちが、足を止める。
そこに、木々をなぎ倒しながら、シンと、それを追いかける化獣の群れが接近した。
「お前ら、逃げろ!」
シンは、勇者たちに叫びながら、化獣を連れて走る。
「一体…何が…」
「化獣です!我々が防ぎます!勇者様方は下がって下さい!」
「…いえ、僕らもやります」
流石は近衛兵、反応が早い、と駆は頬を釣り上げる。強化魔法によって強化された聴力で音を拾いながら、思う。
この状況なら、当然抗戦するしかない。しかし、それは、相手の戦力を把握できていてこそ成功する作戦であって、今のこの、敵の全容がつかめていない状況では……。
「お前の予想通り、勇者が散開したな」
「したというよりは、させられたという感じだろうがな」
駆と一緒に戦闘を見守っているカンクが話しかけてくる。それに応えながら駆は笑う。
勇者たちは、確かに戦闘能力は一流だろう。しかし、この短い期間では、集団戦闘にはあまり手が回っていないのではないか。そして勇者たちには、戦闘において明確な役割分担があるだろう。例えば、近接組が前で抑える間に、後衛の魔法職が、沈めるようなごく一般的な戦法とか。
そして、勇者たちの見張り役の騎士たちは、勇者たちに、危険な訓練など積ませていないだろう。後衛のそばから敵が出現するような、ほぼ壊滅に等しい状況を。
だからこそ、その状況を作ってやれば、簡単に崩れてくれるはずだ。そうすれば必然、近接先頭になれていない後衛組が危険になる。そこを救い出す、という訳だ。
実際駆の眼には、すでに追いつめられている魔法職の少女が見えている。ほかの勇者たちが救おうとしているが、化獣のあまりの数に、近づくことができないでいる。ヒト型の化獣の持つその武器が、少女の体に当たろうとしたその時__________________
キインッ
それを弾き飛ばすように、武器を構えた一人の男が少女の前に立った。それは、二度目の人生で生きようと決めた人狼、アリクだった。
他の場所で、人狼たちが手を貸し、すべての化獣が駆逐された。一般人に対しては大きな脅威であるそれも、生粋の戦闘魔族と、戦うための力を授けられた人間である勇者の前には、歯が立たなかったようだ。
「アリクに、このまま包囲を維持、と伝えろ。合図を見逃すな」
「了解」
カンクが木から木へと伝いながら消えていくのを見ながら、駆は、ここからが厄介だ、と、一人気を引き締めなおした。
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「あんたら、大丈夫か?」
勇者たちと人狼が共に戦後の処理を行っている場所についた駆は、開口一番勇者に問いかけた。
「こちらは無事だが、貴殿らは、一体……?」
そう問いかける近衛兵に、駆は苦笑を隠せない。一体?も何も__
「あんたら、俺たちに用があってきたんだろ?」
それでも反応を見せない人間たちに、駆は苦笑を隠さずに言う。
「狼人族族長、カケル・アマオだ。俺たちにいったい何の用があってはるばる遊びに来た?勇者様方」
軽い言葉で、この場で最も重たい質問を投げかける駆に、そばで聞いていた人狼たちはざわめきたつ。人間の、勇者の返答によっては、この場で今すぐ戦闘に、だがあるいは_________
「あなたの言うように、僕らは勇者です。マスタークから、あなたたち魔族と同盟を結ぶために来ました」
あるいは、そこまで困らないこともある、と。駆が目指した状況は、ここまでは、まだ、うまく流れている。
「了解した。ここで立ち話もなんだ、そちらさえ良ければ、我々の集落に来ないか?こちらから手出しはしないことを誓おう」
未だ漂う不穏な気配を感じながら、駆は、勇者たちを自らの集落へと招いた。
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「さて、こちらの自己紹介はしたが、そちらの話は聞かせてもらっていないお願いできるか?」
普段の口調をあえて変えて言う駆。空気を改めるためと、もう一つ。未だ包囲したままのアリクたちへの合図だ。それを行った駆は、勇者たちの話に耳を傾ける。
「僕は、大野祐樹といいます。この世界には、日本と呼ばれる異世界の国からやってきました。こっちが一緒に召喚された、星野里佳、清水美月、日向太陽です。そして彼らは、ここまで護衛をしてくれた近衛兵の方々です」
「ふむ。普通ならここで勇者かどうか疑う所から入るべきなんだろうが、それは省略させてもらう。それよりも、さっきの話を聞かせてほしい」
この場に至って疑うのは野暮というものだろう。それに何より、召喚されてから数ヶ月がたったが、外国人ならまだしも、日本人の顔を見間違えはしない。
「分かりました。僕たちが召喚されてから、何度かほかの国の勇者たちと会う機会はあったんですが、何か互いを敬遠しあう空気があって、特に国の方々はかなり仲が悪い様子で、これではいつ戦いになってもおかしくない、という状況になっています。そこで、数年前まで同盟関係にあった貴国と同盟を再び結びたいというつもりで来ました」
なるほど、手を組みやすいから来た、と。しかし、何かが引っかかる。
何故わざわざ、この嫌われている魔族に同盟を組みに来たのか。
「何でわざわざ魔族に同盟を組みに来た?」
それに答えたのは、勇者たちではなく、近衛兵たちだった。
「我々も、魔族と手を組むのは危険に過ぎる、と女王陛下に進言したが、我が国の人間たちは、我々も含めて、多くが魔族に感謝を抱いているのだ。危険だから手を切る、などという真似はできない」
何とも優しい者達だ。滅ぶならみんな一緒だ、と。支配者としては馬鹿だが______
(悪くない)
「そっちの意向はわかったが、俺たちにメリットはあるのか?」
駆がそう言うと、勇者の一人が言い辛そうに答える。
「魔族は、人間と一緒に生きていくことが出来る、という状況を差し上げます」
なるほど、魔族が滅ぼされないためには、人間と生きていくことの可能性を他国にも他種族にも示さなければならず、そうしなければ安全に生きていけない。それを逆手にとっている提案だ。舐めている。
だが___________
「わかってるな」
そういって、納得したように頷く駆に、勇気が声をかける。
「あの、魔王様とかには会わせて頂けるんですか」
「ふむ。魔王様に、か。少し聞くが、我ら人狼の異名は知っているかな?」
自らあえて異名と言って見せた駆に、何かに気付いたように、里佳と呼ばれた少女が声を上げる。
「魔界の門番?」
「その通りだ。陛下との会談などの重要な案件については、我らが受け付ける。了承してくれ」
「わかりました。それとこちらは、アリクという方に渡してください」
見知った、というか関係の深い名前に、駆は、眉を少し動かして答える。
「これは?」
「陛下からの親書です。どうしてもその人に渡してほしい、と」
「……了解した」
それを受け取ってから駆は言う。
「おい、外周の確認を頼む」
それを聞いて人狼たちが駆を残して出ていく。
そして、勇者の方を向く。
「悪いがもう一個だけ聞かせろ」
「はい?」
真剣に、だが飄々と確信を持った目で紡いだ言葉は_______
「そっちの何かしようとしてるやつ、何のつもりだ?」
決戦一歩手前です




