8:信頼、その因果
再び、アリクの叫びによって集められた人狼たちに、駆は既視感を感じる。
「おいラウ、ロウはどうした?」
前日、似たようなことを言われていた白髪の人狼の片割れだが、どちらにしろ、することは変わらないようだ。
アリクにそう言われた彼は、辺りをきょろきょろ見回して、
「あれ?兄ちゃんどこだ?」
どうやら、こちらが弟で、あちらが兄のようだが、大差ない。
「お前ら、また寝てたのか。」
アリクがため息をつきながらそう言うと、
「今日は、ちゃんと狩りしてたぜ!もうちょっとで大猪とれそうだったのに、お前に呼ばれてきたんだ」
そう言うラウに、アリクは、また深いため息をつく。それよりも、駆が気になったのは、自分とカンクとレイド、三人でようやく獲った大猪を相手に、一人で大丈夫だろうか、という心配だったが。
「……もういい、放っておけ」
そう言ってアリクは正面を向く。
「今日、みんなに集まってもらったのは、こいつから、みんなに話したいことがあるからだそうだ」
そう言って、駆の方を指し示す。
「おい、話せ」
駆が、アリクからまだ何か言うのかと思って黙っていると、唐突にそう言われる。
「あ、もういいのか?」
そう問いかけると、コクリとうなずくアリク。
「えっと……」
大丈夫、事前に覚悟しただろ。それを言えばいいだけだ。そう自分に促して、深呼吸を一つ。それだけでかけるの思考は、静かになる。焦りを抑えて、冷静に。いつも駆を助けてくれるその特技は、ここでも駆の助けになった。
「この村に来た時に、俺は、記憶を失ってるって言ったけど、あれは嘘だ。俺は、記憶を失ってなんかいないし、元は、人狼ですらない。こことは違う世界から、魔王に呼ばれて召喚されて、それで初めて人狼になった。今は、あんたたちと同じ体をしているが、あんたたちと違って、生物を殺すことに抵抗がないわけじゃない」
そこまで言って、これは信じてもらえないかもな、と駆の中に、あきらめにも似た何かが沸き起こる。人狼ではないと告げて、彼らとは違うと告げて。なぜ、うまいことを言えないのだろうか。普段、人と言い合いをするときはよく回る口が、今この時は、なぜか動いてくれなかった。
そう思って、黙ってしまった駆は、だが、
「まだ言いたいことはあるんだろ?俺と話してる時のお前は、そんなに、悩んでるか?」
アリクにそう言われて前を向く。そう、いかにくだらないことを迷ったところで、急に召喚された世界で、気づかないうちにストレスを感じていたとしても、その程度で止まるほど、お前の心は、柔らかくないだろう?
アリクにそう言われた気がして。
実際、この世界に来る前の駆はそうだった。周りが慣れない環境でも、周りが敵ばかりでも。前を向いていないときなど、ありはしなかったのに。ただ、夢の中の英雄に、、一歩でも近づくことを夢見て。
それが、たかがこの程度で止まってもいいのか。と、そう自分に問いかけの形で、命令した駆は、話そうとして気づいた。
人狼たちの顔に浮かんでるのが、不信感でも、怒りでもない、純粋な期待であることに。
「悩んでた俺が、馬鹿だった、か」
彼らは、元から、駆がこの世界の住人ではないことに気づいていながら、共に過ごしていたのだ。そうでなければ、彼らが、駆に、一つの不信の目も向けていないことに、理由がつかない。
そう考えて駆は、この世界にきて、初めて浮かべるかもしれない、その純粋な笑顔を、浮かべて。
「けど、このおっさんと旅して、あんたたちと一緒に生活してみて、人間も魔族も、根っこは同じだってことが分かった。だから、人間とか獣人を滅ぼしたりしたくはないけど、あんたたちとも一緒にいたい。だから、とりあえず、」
そう、力を貸してもらうよりもまず_________
「友達になってくれないか?」
駆がそう言うと、顔を見合わせた人狼たちは、笑い始めた。
「何だよ、それ!全然かっこつかねえじゃん!」
「なんか抜けてるなあ。人狼の未来大丈夫かしら」
結構腹立たしいことを言われていたりもするが、
「な?こんな奴ら、死んでほしくないだろ?」
そう言うアリクに、駆は
「ああ」
と、一言だけ返した。
人狼たちが、静かになった頃を見計らって、アリクが前に立った。
「魔王様とも話してきたが、そろそろ戦争が近いそうだ。お前ら、もう十分休んだだろ?」
アリクの言葉に呼応するように、雄たけびが上がる。それは、本来は、人すらも獲物にしていた人狼の、本能の叫び。そう、
「これから、俺たちは、魔王軍としての活動を再開する!もう十分逃げただろ?こっからは、真っ向勝負、魔族が、人間と獣人に認められるまで、ノンストップで行くぞ!」
戦闘に身を置く者たちの、叫び声。その、強く、敵対者の心をひるませる叫び声は、駆に、一つの疑問を抱かせた。
ほかの人狼たちが、仕事に戻ってすぐ。駆は、アリクに問いかけた。
「なんであいつらは、あんなにあんたを信用している?」
いくら狩が本分とはいえ、自分と同型の生物を殺すことに、全員が抵抗がないなど、尋常ではない。
「そんなもん、簡単な話だ。戦わなければ死ぬ。抗わなけらば滅ぶ。そんな状況に生まれたこいつらは、戦いいに抵抗なんか、な。そもそも、俺が魔王の傘下に入ることを提案した時には、すでに人口は、十分の一になってたっけな」
驚愕の事実を聞いて、駆は理解した。人狼たちのアリクへの信頼は。隊長へのそれである以上に、いつも最善の手を誰よりも速く、持ってこれる人物への、生きるためには捨てられない信用だ。
「どれだけきつい状況かわかったろ?」
「……ああ」
「明日からとことん鍛えてやる。ついてこいよ」
そう言うとアリクは、誰も待つ者のいない家へと、歩いて行った。




