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後編

完結ですm(__)m

 くしょん、とくしゃみがして波之介は振り返りました。

 防潮堤の上で日向ぼっこをしていた猫が頭をひとふりすると、後足で首のあたりを盛んに掻きました。

 波之介は釣り人たちがならぶ後ろで、放り投げられた小魚をくわえたまま、虎猫の後ろ姿を見つめました。猫は金色の秋の日ざしに、ふんわりとふくらんで見えました。

 けれどこんなに暖かくておだやかなのは昼の短いあいだだけ。

 島の木々も色づき、港のあちらこちらに乾いた落ち葉が吹きだまっています。

 漁師たちのタオルは額の汗をぬぐうではなく、首もとにしっかり巻かれて冷たい風を防ぐようになりました。手袋での作業が多くなりました。季節は確実に冬に向かっているのです。

 チビ煤と言い争いしてから、すでに一月ほどが経ちました。波之介はぷいっと猫から目線をはずし、魚を飲み込みました。

「あーあ、シケてるよなあ、最近の客の少なさときたら」

 波之介のとなりに、顔見知りのカモメがぼやきながら舞い降りてきました。

「ついこないだまでのお客はどこにいったんだ? フェリーに付いてくだけ、骨おりぞん。パンくずひとつ、ありつけやしない」

 そう言うと、釣り人が放り投げた魚を波ノ介の足元からさらうと、素早く口にくわえて丸のみしました。

「波の字、この頃は鹿呼志あっちに行かないねえ」

 波之介はなにも答えず、もくもくと食事を続けます。かまわずカモメは話をしました。

「ま、いまは行かないほうがいいだろうな」

「……なんでだよ」

 カモメは防潮堤の虎猫にちらりと視線を向けてから声をひそめて言いました。

「たちの悪い風邪が猫どもに広がっているんだ」

 しかめっ面でうつむいていた波之介は、やにわに顔をあげカモメをにらみました。

「体力のない赤ん坊や年寄りから、やられている。つぎつぎ倒れて大変らしい。今日もフェリーに……あの白い服着たひと……なんだっけ?」

「アオイ先生!」

「それそれ。フェリーに乗ってたぜ。ここ最近、しょっちゅう見かける」

 アオイ先生が来るのは、ふつう月に一度です。それが何回も鹿呼志かこしを訪れるということは今までありませんでした。

「ま、猫なんていくらでもいるし。犬も住んでるここと違ってあっちの島は猫だけだからさ」

 カモメは、ぼんやりしている波ノ介の足元から小魚を次々にちょうだいしています。

「カンコーシゲンだとか言われて、ニンゲンにちやほやされてデカイ顔して我がもの顔」

 まあな、と波ノ介はあいまいに答えて海を見ました。

「こんかいの風邪で減ったってすぐ増えるさ。奴らはいちどに五匹も六匹も産むからな。いくら減っても困りゃしない。ぎゃくに減った方が奴らのためだよ。だって冬場の餌の取り合いをしなくてすむだろう」

「たしかにな……」

 波ノ介はうつむきました。せわしなく何度も羽を広げたりたたんだりしています。

「なにか心配か? 猫なんてどいつも同じだろう。じぶん勝手で気ままで、ニャーニャーうるさくて、ニンゲンからエサもらって、だらだら一日すごして終わりな、ナマケモ……」

 波ノ介は、きっとカモメをにらみつけました。

「ああ、おまえからしたら、どいつもこいつも同じナマケモノで自分勝手にみえるだろうさ! でも、きょうだいの世話するヤツだっているってことオレはオレは……」

 波ノ介は、きっと首をあげると、やにわに空へ飛び立ちました。

 翼で風をつかんで一気に海のうえへ。となりの島をめざしました。

 いつもなら、ぞうさもない距離ですが今日は思うように飛べません。向かい風でもないのに、飛んでも飛んでも、チビ煤のいる島がはるか遠くに感じられます。それでも懸命に翼を動かしていると、色づいた鹿呼志の島影がやっと見えてきました。

 いつもの港にはフェリーが停まっています。これといって前と変わったようには感じられません。

 波ノ介は漁協の上を円を描いて何度も飛びました。気をつけてみると、ふだんよりガランとしていました。猫が一匹も見当たりません。

「なんだってんだ」

 陽当たりのよい塀のうえにもいません。枯れ葉のベッドのうえにもいません。波ノ介は銀次さんの家に行きました。

 庭にたむろしている猫は、いつもより数が少ないのです。そして、その中にはチビ煤もそのきょうだいたちも見えないのでした。

 波ノ介は舌打ちして、民家のあいだを縫うように続く細い道をたどって飛びました。もう営業していない商店のシャッターの前に白い色を見かけて、波ノ介は近くの屋根に舞い降りました。

 アオイ先生と銀次さんでした。シャッターのまえにたむろしている猫を一匹一匹抱きあげて、アオイ先生が診察してるようです。

「……このあたりは、落ち着いてきたみたいですね。これ以上広がらないといいんだけど。新型のワクチンが間に合わなかった猫が犠牲に」

 そう言うと、慣れた手つきで猫の顎を固定して薬を飲ませています。そのなかに、チビ煤は見えません。

「チビのきょうだいも、三匹も死んだからな。二匹は貰い手があってほっとしたけど、チビがここ何日か姿を見せない……」

 銀次さんは下唇をかんで眉をしかめました。

「チビは五匹きょうだいの生き残りだったから。チビのときみたいに、生まれた子猫のうえに他の大人猫が上がり込まないように気を付けてたんだけど。それをクリアできたと思ったら、病気になるなんてな……」

 まえにチビ煤が、ぎゅう詰めの箱をとても嫌がっていたことを波ノ介は思いだしていました。

 猫は箱が好きです。寒い時にはなおさら、みんなひと固まりになって暖を取るのです。そのとき、まだろくに動けない生まれたばかりのチビ煤たちは箱の底にいたのでしょう。

「こんな狭い島なのに、見つからない」

 猫は死ぬときには人前から姿を消す……そんな言葉があります。

 波ノ介は思わずあたりを見回しました。

 電線にカラスがとまっていました。その中に、いぜん波ノ介が蹴りを喰らわせてカラスもいました。

「おい!」

 波ノ介は大声を出しました。何事か、とカラスたちの首がいっせいに波ノ介のほうに向きました。

「チビ煤のやつを知らねぇか!? 銀次の家に出入りしていた黒いヤツ、おまえ、おまえならチビ煤を知ってるだろう!!」

 カラスは波ノ介の話にとちゅうから興味を失ったように、あさっての方を見ました。

「猫のことなんか、いちいち覚えてられるかよ。奴ら、狭いところが好きなんだ。おおかた、どこかにもぐりこんでるんだろう」

 ガラガラ声でそっけなく答えると、みんないっせいに飛んでいきました。空がいっしゅん黒く染まり、波ノ介はくちばしをきしらせました。

「ちくしょう」

 波ノ介は羽ばたくと、高いところから島を見渡しました。猫がいそうなところ……猫にご飯をくれる家、今日なら日当たりのいい廃屋の軒下や岩のうえ。もしも、具合が悪くているのなら落ち着いていられるような場所。

 波ノ介はんどもなんども、空からチビ煤の姿を探しました。けれど小さく黒い体は影と見分けがつきにくくて、見つけづらいのです。

「ちくしょう、チビ煤ー、どこにいるんだ、返事をしろ!」

 波ノ介は叫びました。カモメが陸地で大声で鳴くなんて、珍しいことです。カラスや小鳥の視線が波ノ介に集まります。

 すると、一羽のスズメが波ノ介のそばへ飛んできました。

「なんだよ、うるせえって苦情なら受け付けねぇぜ」

 スズメは黒い豆粒のような目をぱちくりさせて、おそるおそる声をかけてきました。

「その猫かどうか分からないけど、昨日から稲荷神社の(ほこら)に黒猫がいるのを見ましたよ」

「稲荷って、あの草ぼうぼうのところの方か」

 勢いこんだ波ノ介の声に、スズメはただうなずきました。

「ありがとよ」

 礼を言うと、波ノ介は今は手入れをする人がいなくなった稲荷を目指しました。そこは銀次さんの家のすぐ裏手です。白銀色のススキの穂に埋まるように、朽ちかけた赤い鳥居と耳の欠けた狐の石像があります。鳥居から何かが歩いたようにわずかに草が踏み倒されていました。そして黒いかたまりが、屋根の抜けたお社の下にありました。

「チビ煤!」

 波ノ介は、チビ煤を見つけました。チビ煤のしっぽがぴくんと動きました。

「お、おじさん?」

「ああ、波ノ介だ。どうしたんだよ、銀次のやつが心配していたぞ」

 重たげに首をあげたチビ煤の顔を見て波ノ介の体は思わず後ずさりました。

 チビ煤の目は腫れあがり、目やにだらけになっていました。ひどい鼻づまりで声は弱よわしく、かすれています。

「どうしよう、マリとミルとテンがしんじゃった……」

 チビ煤のお腹は、はげしく上下しています。息をするのも苦しげです。

「ぼく、守るって……みんなを守るんだって」

「病気はおまえがどうにかしようたって、ムリだ。どうにもできねえ。おまえのせいじゃない」

 チビ煤は、むずがるように首をふりました。

「ちゃんとアオイ先生にチュウシャしてもらえばよかったんだ。でも、あれイタイから、赤ちゃんたちとかくれてたんだ」

 ワクチンの注射をチビ煤たちは受けなかったようなのです。

「おじさんが、おしえてくれていたのに。アオイ先生はぼくたちのために、してくれてるって」

 ぼくがいけないんだ、とチビ煤は泣きました。

「もういい、いまアオイ先生を呼んでくるからな」

 波ノ介は再び空へと舞い戻りました。港のフェリーは間もなく午後の便が出発します。急がなければなりません。波ノ介は目を凝らしてアオイ先生と銀次さんを探しました。二人はもう港の入り口の漁協のあたりまで来ています。

「どうすりゃいいんだよ! ヒトの言葉なんてしゃべれやしない」

 でも、チビ煤をあのままにしておけません。ぐあああっと叫ぶと、波ノ介は銀次さんの頭をかすめて二人前に降りたちました。

「えええ、なんだ!?」

 銀次さんはとっさに頭に手をやって波ノ介を見ました。

 波ノ介の心臓はドキドキして今にもはれつしそうです。銀次さんが悪い人でないと分かっていますが、カモメがもつ、ニンゲン全体への怖さの本能は抜けないのです。もしも、いきなり鉄砲で打たれたら、もしもいきなり弓矢で打ち抜かれたら……。

 アオイ先生のバッグだけしか持っていない銀次さんにさえ、そう思ってしまうのです。

 けれど、ここでアオイ先生を返すわけにはいきません。波ノ介はぷるぷると羽をふるわせながら広げると、喉をそらせてまた叫びました。

「……おまえ、もしかしていつもチビといたカモメか?」

 腰をかがめて銀次さんが真剣な目つきで波ノ介を見ました。その視線に波ノ介はゾワゾワと皮ふがひきつるように感じましたが、ひっしで我慢しました。

 波ノ介はその場で何度か飛び跳ねて見せました。そしていちど舞いあがると、稲荷の方まで飛びまた戻ってきました。そして同じ動作を繰り返しました。

「アオイ先生、おれ、バカかもしれない。こいつがチビのいどころを教えようとしてるんじゃないかって思ってる」

 まさかね、と言って銀次さんは腰を伸ばしました。波ノ介は、銀次さんの目をひたと見つめました。もう喉がふさがれたかおもうほど、息苦しく感じます。それでも、銀次さんから目をそらしませんでした。

「……もしかしたら、ってことあるかも知れません。さっきこのカモメが飛んでいった方に猫がいそうな場所がありませんか?」

「何にも……草ぼうぼうの空き地しか」

 そう言ってから、銀次さんには思い当たったのでしょう。いかにも猫が好きそうなお社があることを。

「確かめてくる!」

 銀次さんはバッグをアオイ先生に渡すと、稲荷の方角へといっさんに駆けだしました。

 そのうえを波ノ介が飛んでいきます。銀次さんがススキをかき分けて鳥居をくぐるとすぐにチビ煤を見つけました。

「チビ!」

 銀次さんは服が汚れるのもかまわず、チビ煤を抱きあげると港へと来た時よりも早く走りました。

「アオイ先生、チビが」

 切れぎれの息で、銀次さんが腕の中のチビ煤をアオイ先生に見せました。

「ああ、チビちゃん! なんて顔……熱もひどいわ。このままフェリーで三鹿の病院に連れて行きます」

 アオイ先生はバッグから細い注射器を取りだすと、チビに針をさして薬を注射しました。

「チビちゃん、預かります」

 バスタオルをバッグから探し出したアオイ先生は、銀次さんからチビを受け取りタオルでくるみました。

 ぐったりと目をつぶっているチビ煤を、波ノ介は船を陸につなぐボラードにとまって見ていました。

「助かりますか?」

 アオイ先生はむずかしい顔つきでうつむきました。

「たいへんだと思います……衰弱が激しいです……でも、助けたいです」

 がんばります、と小さな声でつけくわえました。銀次さんはアオイ先生の両肩に手を乗せました。

「退院したら、うちの中で飼うよ。うちの猫にする」

 アオイ先生が、きゅっと唇を真横に引き結びました。そして銀次さんをまっすぐに見て言いました。

「退院が決まったら、迎えに来てください」

 そう言うと、アオイ先生は見る間に目のあたりを赤くしました。

「ああ、もちろんだ!」

 反射的に答えた銀次さんは、今さらアオイ先生との距離に気づいたように手を離しました。

「え?」

「迎えに、来て……ください。チビちゃんと、わたし、を」

 銀次さんは首に巻いていたタオルをほどくと、顔をゴシゴシとこすりました。勢いよくこすったせいもあるのでしょうが、銀次さんの顔も赤くなっていきました。

「おれの船、小さいし乗り心地も……」

「かまわないです。小さな船、す、好きです」

 二人は見つめ合ってそのまま動かなくなりました。船の出港の時間が迫っているはずです。このままではフェリーに乗り遅れてしまいます。

「いいかげんにしろ!!」

 グゲゲゲゲー、としびれを切らした波ノ介が叫ぶと二人はやっと我に返ったようでした。

「い、急がないと」

 走りだしたアオイ先生の後ろを、銀次さんがバッグをつかんで走ります。出港ギリギリでアオイ先生は船に乗りました。

「かならず、迎えに行くから」

 銀次さんの言葉に、アオイ先生は頬を染めてうなずきました。フェリーは鹿呼志かこしの港を離れて外海へと走りだしました。船に手を振り続ける銀次さんに心の中でお礼を言うと、波ノ介はフェリーにつき従って飛んでいきました。

 アオイ先生はタラップから座席へと移りました。チビ煤をまるで自分の赤ちゃんのように、大切に大切にひざにかかえて外を見ています。

 波ノ介は、はめ込みの窓ごしにアオイ先生と目が合いました。

「チビ煤ー!!」

 小さなカモメの体から出たとは思えないほどの大きな鳴き声に驚いたのでしょう。アオイ先生が目を丸くしました。

 チビ煤の耳がピクリと動いて、はれたまぶたがわずかに開きました。

「チビ煤、元気になれ、元気になって戻ってこい!」

 アオイ先生が察したのでしょう。チビ煤を窓から外が見えるように持ち上げてくれました。

「おじさん……」

 チビ煤の声はあまりに小さく、声になりませんでした。ただ、口がわずかに動いて赤い舌が見えただけでした。

「オレは、おまえがいないと……おまえがいないと、さびしいんだからな!!」

 チビ煤は開かない目をがんばって開いて波ノ介を見ました。出ない声を出そうとしてもがきました。

 アオイ先生がチビ煤の頭をなでました。

「うん、また鹿呼志かこしに戻ってお友だちと遊ぼうね」

 いつしか波ノ介はフェリーのスピードについていけなくなりました。今日一日で力のかぎり飛んで、力のかぎりさけんだからです。

「待ってるからな……」

 波ノ介は海の波間に翼を休め、去っていくフェリーが点になるまで見送ったのでした。


 それから間もなく雪が降り始めました。

 冷たい風が吹きすさび、フェリーが欠航する日もありました。

 漁師たちは寒い中でも、牡蠣を取り入れる作業をしていました。

 猫たちは、廃屋や島の人が作ってくれた小屋の中で身を寄せ合い寒さに耐えました。

 終わらないように思えた雪の日々が過ぎ去り、島はゆっくりとゆっくりと春に向かっていきました。


 石垣のあちこちに黄色い花が咲き始めました。陽ざしは柔らかく、波をおだやかに照らします。

 茶色に見えた山の木たちが息を吹き返したように緑鮮やかになり始めました。梅のほのかな香りが島の路地に流れます。桜は枝の先まで薄紅色に染めています。鶯の声が山に響きました。

 そうして、路地には寝ころぶ猫たちをちらほら見かけるようになりました。カモメの群れが漁船について飛んでいます。

 漁協の窓には、猫の写真がたくさん貼られています。そのなかに混じって、小さな黒猫とカモメが一緒の写真も……。


 波ノ介は、港のあたりをぐるりと一周しました。青い波がまぶしいほど光って隣の島まで見渡せます。

 そして、視線をおろすと漁協のまえにいつもの姿を見つけます。

 りっぱな黒猫が首に金の鈴をつけて腰を下ろしています。

「よう、チビ煤」

 空の上から声をかけると、ととん、と舞い降りた波ノ介をチビ煤が迎えます。

「おじさん、ぼくもうチビじゃないよ」

 ちりりんと鈴を鳴らしてチビ煤が歩み寄ります。波ノ介と並ぶチビ煤は同じくらいの大きさです。

「けっ、なりばっかり大きくなったって、おまえはいつまでもチビ煤だよ」

 波ノ介の憎まれ口も相変わらずです。チビ煤の背中は上質のビロードのようにつややかに光りました。

「冬になると毎年カゼひきやがって。もういいのかよ」

「去年は引かなかったよ。銀次さんが家から出してくれなかっただけ」

「過保護ってやつだな、銀次のやつ。子どもが生まれたら、背中にしょって漁にでるんじゃないか」

 チビ煤がくすっと笑いました。銀次さんのうちにもうすぐ赤ちゃんが生まれるのです。

「おじさんが銀次さんとアオイ先生の仲を取り持ったんだね。おじさんが叫けんだから、アオイ先生は銀次さんのお嫁さんになったし、ぼくも助かったんだ」

 けっ、と銀次は横を向きました。

「おじさん、ありがとね」

 チビ煤の言葉に波ノ介が空を見あげました。

「礼なんざ、いらねえや。何年もたつんだから、もう蒸し返すなよ」

「えー、ぼくがいないとサビシイって叫んだのは、魂の叫びじゃないの?」

 波ノ介はチビ煤の話半分に飛び立ちました。顔が熱くてしょうがありません。

「ちょっくらフェリーの客を狙ってくる。なんたって、お、オレの叫びは魂の叫びだからな!」

 波ノ介が羽ばたく空は明るく晴れ渡っています。お客さんを乗せたフェリーがもうすぐ港にやってきます。

 きっと、チビ煤と波ノ介、仲の良いふたりの姿を写真に収めてほほ笑む人がたくさんいることでしょう。



 終わり



最後までお付き合いくださった方、ありがとうございますm(__)m


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