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 帰宅 1

 のんびり更新 不定期です。

 



 

 

 城下町の大通り。いつもは騒がしい町並みは、静かだった。行きかう人々で賑わいを見せている街の面影はなく、深いどん底に落ちるような気分で沈んでいた。


 馬車は今日は通らない日として認定され、歩行者天国と化している大通りですら、動きはない。中央をあけて、端の道を歩る人々。それは顔を隠すように人々は中央の道を見ないでいた。


 中央の道に。ある一行の集団が歩いている。歩行者天国という日であるにもかかわらず、一行の後ろに馬車が続く。


 それは王国が参加者達を運んできた馬車。客人を歓迎する為に使ったものは、客人を追い出すかのように着いてきていた。

 

 この馬車だけ、特別に大通りを通ることを許可されている。その為、許可証たる紙を馬車の側面にはりつけていた。


 そんな出口へ向かって移動する一行を妨げるものはなく、思うが侭に突き進んでいた。



 魔物の軍団と一人の人間。人間が一番先頭、背後を守るように人型の猪の魔物、オークが位置していた。その後ろに並ぶ小さな魔物たち。がくがくと震えながら、オークの後についていく。


 その小さな魔物たちはまともではなく、どこか一部分を欠損したものたちであった。腕、耳、どれかが損失していた紛い物の集団。ゴブリン5匹とコボルと2匹。また小さな魔物たちの後ろには巨大で黒い体毛の牛が歩いていた。


 そして最後尾に馬車。リザードマンが手綱を握り、馬達ははむかうことなく大人しくしていた。それどころか恍惚の表情で、時々リザードマンのほうへ振り返っていた。


 これらは、彼を運ぶ為に使われた馬車。リザードマンが命を懸けて救った馬達である。狼という危険生物から身を挺して守りきり、命を守ってくれた存在に馬は逆らうことはしなかった。人間から訓練された馬は、どのように馬車を動かせばいいかわかっている。リザードマンは手綱の操作を知らないが、勝手に馬が進んでくれるから持つだけでよかった。


 それにリザードマンが声をあげれば、馬はそれに従う。余計な手の動作より、口を動かせばよい。楽であった。



 彼と愉快な魔物たち。王国は、他にもいらない魔物をもっているが彼に渡すのが途中で怖くなり、数を減らしたのだ。本来ならば、20匹はいた。だが彼に授けたのはゴブリンとコボルとをあわせて7匹だった。傷物の魔物。与える魔物の数を減らしたことによる一方的な王国の約束反語。彼に傷物といえど魔物を渡すぐらいならと、代わりに授けられたのが馬車だった。


 彼が使った馬車を誰も使いたがらない。魔物は不浄という考えの王国とそれを心酔させ、悪魔のような知性を持つ彼。宗教のような教えは、彼が人間であろうと魔物と同等という扱いを生み出した。後に使いたくないという忌避もついでに生まれた。


 結果捨てる代わりに、押し付けよう。そんな考えで彼に贈与された。彼からすれば万々歳。魔物たちからも荷物が載せられる。王国も馬車も与えれて、面子が保てる。全てがよい結果となり、これらはもたらされた。魔物たちも彼も荷物を手で持たなくていいという喜びによって有難く頂戴することにしたのだ。



 馬車の中にはある程度の資材が入っていた。大通りに出る前に、店で購入し詰め込んだ荷物たち。食料と水。布、木の板。食器、調理道具。などといった旅で必要な最低限のものをそろえたのだ。ついでにリザードマンとオークの武器を新調もさせた。


 買った時、新しい装備に目をぴかぴか輝かせた二匹。怖い顔であろうと喜んでいる二匹を見て、彼も感染したように喜びを見せた。二匹が新しい装備に注意している間、牛さんは彼を独占していたから文句はない。皆万々歳の結果で終わる。


 喜びによってぴょんぴょんはねて続くオークと御主のリザードマン。


 その二匹とは違い、小さな魔物たちは怯えていた。何をされるのかびくびくするのと、周りにいる人間達への嫌悪感。後ろにいる強大な魔物、牛さんへの恐怖。そして一番先頭を歩く人間への歪な感情。


 とくに先頭の人間が恐ろしい。牛さんを手なずけていた姿、また自分より大きなオークとリザードマンを支配し、自分達を甚振ってきた同種族である人間。大嫌いで、意地悪な騎士が怯えている姿を見れば、自然と彼が危険であり、強大であることは理解した。


 オーク、リザードマン、牛さん。この3匹は彼に心酔している。自信をささげ、敬意をはらっている。それも強者に謙ってきた底辺たちはわかっていた。見れば、わかる。彼だけを守るように、動くオーク。馬車を操りながらも、注意は自分達に向けている。また後ろを歩く強大な牛。はむかってくれば、即座に殺すつもりなのだろう。


 厳重であった。

 過保護ともいう。


 手をだしても、歯が立たない。自然環境でも、王城でも、強者に成すがまま奪われてきた自身の行方。


 生殺与奪の権利は、騎士から彼へ。主人が変わったが、人間という点において変わりはない。


 半ばあきらめに近いものが小さな魔物たちにあった。暗くどんよりと震えるチビ魔物たち。それよりも暗い印象の人間が先頭を歩くものだから、初めて彼に従う魔物たちはびくびくとするしかなかった。


 それはともかく。

 魔物たちを仲間にするテイマー。

 

 よくある姿。王国の首都である城下町では、探さなくても見かけるものだった。だからこそ、別に気にすることはないはずなのだ。


 王国政府からの直々の命令文書。


 彼という人間が現れたら道を譲れ、目をあわすな、近寄るな、何かがあれば報告をしろといった内容の通告書が出回った。危険人物として、犯罪者ではないが、犯罪者に近い悪魔。冒険者ギルドから、広場にある掲示板まで、あちらこちらに回った書類。王からの命令でもあるが、政府が緊急に行った他に例を見ない対応は、民衆ですら彼に対して察しさせた。


 だから誰もいわない。彼が中央で堂々と歩こうが、目をそらし、距離を離す。何もないように祈りながら、彼が通り過ぎるのを待った。


 民衆は何もいわない。口を開かない。話した声が、彼に聞こえて目をつけられたくはなかった。気に食わないということで殺されるかもしれない。そんな危機感を抱かせた結果、街は静まりかえってしまっていた。


「.....」


 彼の沈黙と町の沈黙。


 ただ現れた静寂な間は、街の活気に満ち溢れていた姿を押し殺す。


 やがて、彼は城門へつく。門番も彼を見かければ、すぐに門を開く。何も言うことはない。彼の顔は書類にしっかりと書かれている。よくわかりやすいようにと油絵で特徴を何から何まで書かれていた。これらのことは、王国でも類を見ない扱い、最悪犯罪者、ランクSの扱いと同じだった。


 彼は何もしていない。だが、凶悪であり、最大級の犯罪者予備軍として扱うことにしたのだ。捕まることはないけれど、対応は犯罪者に向ける警戒。


 門番が彼を通るように手で指し示す。それに首肯し、通り抜ける彼と一行。背後につながる魔物たち。オーク、リザードマンは堂々としているが、ゴブリンとコボルトはがたがた震えて続いていく。その小さな魔物たちが逸れないように、また暴れだしても鎮圧できるようにと最後尾を歩く牛さん。


 門番は小さな魔物たちが震える意味は知っている。彼による闇をまとうかの不気味さが誰であろうと不安にさせるのだと。


 魔物は大嫌いだが、少しだけ同情もする。人間は我侭だ。立場が違い、哀れだと見下した存在には、どこまでも感傷的だった。

 

 彼も我侭だし、門番も我侭。


 門番と彼。両方が残酷で、自分の道を歩くだけで精一杯。


 違うのは、立場のみ。理解できないほどの深い溝は、お互いを隔てるほどにわけていた。理解するための交流。橋を架けることはできないだろうし、することもない。


 関心を持ちたくない。だから両者とも機械的に挨拶のみを交わすのみだった。


 彼と一行は門の先である平原に出た。門の内側には脅威となる存在は消え、大きく開いた門は再び閉じられた。


 一瞬息を潜めた間。

 

 そして。


 感情の爆発。


 あとから息をとめたかのように静まり返った街は、大いに吹き返した。盛大に盛り上がりを見せていく。今まで黙っていたのだから、騒ごうと声を荒げ、彼という存在を忘れようとした民衆。


 だが彼という存在はそう遠くもないうちに、聞くことになる。


 嫌といわれても誰かが盛り上げる。狙い済ましたかのようなタイミング。誰かが裏で筋書きを書くかのように、物事は進んでいく。


 


 街道を歩き続けるほど体力はなく、すぐに彼はへばった。激しく息を乱していた。前の世界よりも、育った体力。でも、所詮 アヒルの子はアヒル。白鳥の子は白鳥というように、底辺には底辺なりの見返りしかなかった。


 元も子もなかった。


「...きつい」

 

 体力と共に、吐き出す言葉は重かった。


 自身の弱さを理解しているが、ここまで持たないとは。


 数ヶ月この世界で動いてきた。だが、所詮は森とベルクの街を行き来するだけの体力しか鍛え上げていなかった。そして、ここまでくるのに行き来する以上の距離があった。


 普段以上の行動は、訓練なしには行えない。


 よって、彼は自分の体力のなさを再びかみ締めているのだった。


 彼はふと、背後を振り返る。自分がこうなのだから、それよりも小さな魔物たちはどうなのか気になったのだ。脱落者はいないことは見なくてもわかる。牛さんを信用しているし、リザードマンもいる。オークは彼が駄目になったら、運んでくれる係だ。それは勝手に認定したので、チビ魔物たち監視枠にはいれなかった。


 怪我こそないが、欠損はしている。


 体力がないのではないか、疲れてはいるのではないか。もし弱っていたら、大変だ。そういう言い訳を心の中でして、確認しようとしたのだ。


 駄目そうだったら、それを理由に休息をいれるつもりだった。彼が休みたいだけだが、ついでに周りも巻き込もうとする駄目人間の特徴が少し出ていた。


「ぎゃぎゃ」

 

 振り返ってきた彼の様子に逆に驚くような小さな魔物たち。侮ることができぬ独特の雰囲気がみちている。なぜなら、顔を赤らめて、目を細める姿。睨み付けるかのような冷酷な眼光が自分達を捕らえているからだ。


 かつてベルクの町でやった行為。


 無意識に発動する雰囲気の悪さ。


 

 結果、小さな魔物たちは殺されると、勝手に確信した。だが暴れる様子もない小さな魔物たち。死を覚悟し、どうせなら楽に殺してほしいと抵抗をやめた小さな命。


 そんな決心なんかどうでもよいように物事は進む。


 そして誰一人体力も弱そうにしているものもおらず、前へと向き直った。疲れて休憩したいのに、理由がなく残念そうに彼は正面を見据えた。


 自分だけであった。疲れていたの。


 ギブアップしたいと願うのは。


 ここで、休んだとする。もう考えるまでもなく、恥ずかしい。自分よりも小さなやつに体力で負けるなんて恥ずかしいものの何者でもない。


 魔物のほうが性能という意味では上。だが、彼は以外にもそれを思い出せずにいる。疲労が蓄積し、頭は回っていないのだ。


 あるのは、小さいものには負けたくないという意地。自分がもてない野菜を子供が簡単に持ち上げたときから彼は小さいものコンプレックスになっていた。


 大会で 小さなエルフを泣かせた。


 あれも彼のトラウマになっていた。


 そんな彼の心中とは別に、捕食される気分をもつ弱者たち。ゴブリンやコボルトのほうが彼よりは強い。上には上がいるように、下には下がいる。彼より小さな魔物たちのほうが色んな面で優れている。


 残念ながら、彼よりも弱い奴はいない。この一行だけではなく、この世界でも同じ条件で戦ったらまず負ける。もしかしたらヨボヨボの年寄りと同等の力、農業や蓄膿などで鍛え上げられた年寄りが相手なら絶対勝てない。


 途中で、足を止めた。


「...はーはー」


 必死に呼吸。彼は両膝に両手を乗せて休んでいた。上半身の重みを支えるようにした体制で下を見て、息を吸って吐く。


 これはひどい。



 本気でお荷物じゃないかと確信した。


 役に立たない、お邪魔虫。


 異世界という活躍の場面において、彼はいまだに弱者としての立場を崩せない。社会的にみれば、悪魔やら知性の怪物やら勝手に評価され、個人としては上位の知名度を誇る。


 だがここでは雑魚そのものだった。


 何か鍛えなければ。


 職、もしくは何か特技を覚えなければいけない。


 彼ができることで、一番簡単そうなのを考えた。


 肉体。肉体の弱さを直さなくてはいけない。


 そして肉体が凄い代表みたいなやつは彼の家族にいる。


 オークをちらりとみた。疲れた様子はなく、彼に後ろを見せていた。小さな魔物たちが反逆しても抑えられるように彼に背中を向けていた。その後姿からでもわかる逞しい肉体と鍛え上げられた筋肉。オークが力をこめるたび、表に出ていて強そうだった。


 自分の体を見る。汗でびしょびしょの服で気持ち悪いのと、細い体。極限にまで運動せず、あまり食事もとらない胃の小ささが祟り、ひ弱なインテリキャラにしか見えなかった。しかも本人はそこまで頭が良いわけじゃないので、インテリキャラにもなれない半端物。


 肉体は不可能。


 勉学も不可能。文字読めない。



 なら魔法。文字読めなくても、だれか先生として雇って、簡単な魔法でも覚えようか。



 もし魔法を使えたらとも考える。素敵なことだろう。呪文ひとつで、色々な現象を使えるのだ。炎に水、回復魔法やら色々あれば、将来役に立つだろう。


 だけれども。

 

 魔法が使えると仮定して。

 呪文を唱える自分を第三者視点で見てみた。現代日本人が文化人が、人前で呪文を唱えていたとしたら、どう思うか。この世界の住人は呪文とか当たり前だろうから、何も思わないかもしれない。



 馬鹿馬鹿しいのと。


 恥ずかしい。


 この二つが表にあらわれる。常識人であれば、あるほどそういう当たり前のものが出てくるはずだ。


 学校で、駅前で、街で、色々な催しの中で、呪文みたいなものを唱えるやつがいたとする。そいつを現代日本ではそんな人間を痛々しいと評して、中二秒と枠組みの中に入れこんでくる。



「...」


 そんな枠組みに入れられるぐらいなら、呪文なんか唱えたくなかった。彼は恥ずかしがりやで、目立ちたくない孤独な男。いくらこの世界での魔法が常識でも、彼の常識ではない。よって彼は魔法の道をいくことをあきらめた。


 剣。


 リザードマンを次に見た。もはや、楽しそうに手綱を上から下へ振り上げて遊んでいた。馬に手綱が当たらないようにまで配慮した上下運動。御主が楽しそうなら、馬も歓喜の姿で踊るように歩いていた。


 トカゲであり、剣の鬼。大会で見たリザードマンの剣技を見て、自分に出来るか問いかける。不可能だとすぐに答えがでた。悩むまでもなく。

 

 論外。


 歩くだけで精一杯なのだ。


 やめた。やめた。彼は自身を鍛える考えをすぐにやめた。手に職をつける前に、体力を付けよう。技術よりも魔法よりも、まずは歩く体力。



 幸い、今は暗くなってきたところだ。歩いて、悩むうちに昼間の明るさから夜の暗闇へと天気はシフトチェンジしていた。


「...休憩しよう」


 背中越しに彼は提案した。誰も反対するものはいない。声もあがらず、一行の動きはそこでとまる。絶対彼主義者の3匹が彼の提案を否定するわけもなかった。


 街道を少し、離れたところまで行って陣地をつくる。安全を確保するだけならば、街道で休憩したほうがよい。だが、休憩している最中にここを通る馬車や一行の道を邪魔するわけにも行かない。皆、忙しいのだ。



 常識人なりの配慮の下、少し離れたところで休憩することになったのだった。




 ちなみに小さな魔物たちは、何も言わず流れに従うだけである。



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