ローレライの火種 19
ソラと彼は出会えていない。出会える場面にしようとしても、どこかでばれてしまう。接触しようとしても、どこかに逃げてしまう。だからか彼とソラが出会ったことは一度もない。彼との一対一での対面を望んでいるが、実現していない。
だから彼は使った。
呼び出しという手口をだ。
会えなくても会える手段。
権力に関与する気はないが、出会えないのだから先生としての立場を使う。学園での他国の教育者。立場があやふやで、ローレライの貴族よりは価値が低い。しかしながら表立って価値が低いと断定するには、その他国が大国すぎる。また学園の防衛戦力を掌握し、貴族の子供の秘密を握り、アーティクティカの後押し。ローランド王子を泣かし、カルミアと話し合った。
学園の生徒たちの団結力は形すらない。力を合わせて悪だくみより、力を合わせることへの恐怖が勝る。その傷はそう簡単には癒えないことだ。
たかが平民のやることだろうか。
たかが他国の平民のやることであろうか。
そんなわけがない。ふつうはためらうし、ためらわずとも貴族相手に個人の平民が挑むことすら無謀。それを成し遂げて、結果だけを残したのだ。アーティクティカに雇われて、アーティクティカへの野望を阻止した。短期間かつ効率的に。
だから彼のことを只の平民と思うものなど、この学園にはいなくなった。もともと少なくなった、彼への侮り。それは完全に尽きた。
だから彼は廊下を歩む。後ろに両手を組み、堂々とした振る舞いでだ。微妙に視線を下に向けて顔を見ないようにしているのが残念である。しかしその視線のうつむき加減は誤差でしかなく、気づける常人もいないだろう。それよりも彼個人の独特の強みが表にあるのか、彼個人がいることばかりに気を生徒たちは奪われていた。
その通りがかる生徒たちに、少しでも見知った顔があれば声をかけた。
彼が会えなくても、会う手段。呼び出しなど別に本人に直接言う必要はない。
「・・・こんにちは・・・」
挨拶を返せば、突然声をかけられたことに体を大きく跳ねて応じる生徒たち。彼を前に無視する度胸の高いものはいない。声をかけた彼が足を止めれば、廊下を歩く生徒たちも足を止める。貴族でも平民でも彼に対して、腫物を扱う以上に危険物を扱うかの如く、慎重さがあった。
「・・・おねがいがあるんです・・・協力してくれませんか?・・・簡単なことです・・・誰でもできる・・・お礼もいたします・・・お金はさすがに渡せませんが・・・お菓子をあげます・・・口に合うかはわかりませんが、・・・こちらでは食べれない限定品ぐらいの価値はあるかと思います」
拒否させないように一息に近いもので勢いよく話しかける。会話能力の乏しい彼はつなげて話してしまう。相手の応答を混ぜ込んでの会話は苦手だ。一度自分の言いたいことを告げてから、相手の会話を聞くロールプレイ方式の会話が得意だった。
彼の勢いに逆らえないのか、ただ生徒が聞くだけだ。
彼は自分の手作りのお菓子をお礼とし、勝手にお願いを始めたのだ。むろん、彼自身、自分の手作りのお菓子をお礼にするなど恥ずかしくてたまらない。おいしくないことを彼は知っているし、食えるだけのレベルの低いものだということもしっている。しかしながら、時折彼が調理室でお菓子を作れば、においにつられて生徒たちが顔を見せることがある。その生徒たちが彼の顔を見た際、ぎょっとした顔で逃げようとするのを呼び止め、試食させた。
そして、おいしそうな表情を見せたのを視認した。演技かどうかはともかく。彼に気を使った偽りのおいしさ演出でもないことは確認した。
適当に試食コーナーを作り、それを少し放置したら空になっていたこともある。
だからこれは使える手であることを理解した。
おいしいかはしらない。しかし見たことのない文化のお菓子は正直、気になるのだろう。彼だって外国のお菓子は気になった。この世界のお菓子がうまいかどうかはともかく、食べたことがある。触感がそもそも苦いし、歯がかけそうになるぐらいに硬い。子供などには不服だろう。せんべいよりも固いクッキーもどきなど、さすがの彼でも食べたいとは思わなかった。
別に文明が劣っているからお菓子が違うという気はない。このローレライの歩みはお菓子ではなく、非常食や保存食などといったものに趣がおかれているだけだ。味わうタイプの出来立てを楽しむというものは成熟しきっていないだけのことだった。
だからお礼として利用。むろん、そんな人の手作りのお礼など正直ありがた迷惑だと思われる。だから最初に一枚手渡した。クッキー。今回のは精神安定薬をいれず、甘みを高めるために焼き加減に注意した程度のもの。それを試食させてから、お礼として活用できるか確認。その後協力を承認させた。
協力内容。
ソラと思わしき人に呼び出しを伝えろという指示。
一人ではない。数人ではない。出会った全員の生徒だ。
彼が弱みを握った相手、弱みを握っていない相手。誰かもかかわらず、話しかけて彼は一方的に要求。相手が貴族である場合は、彼も配慮してお願いした。ここで逃げないのは、逃げた時点で終わるからだ。彼の立場の不安定さが、貴族相手であれば逃げる可能性が少しある。その事実が流されてしまうのが厄介。だからお願いの話はした。貴族も結局了承した。お菓子を食べなかったものはいない。拒否できない相手である彼。その彼が渡したクッキーに香り。食べた味わい、口元に広がった甘味と苦み。甘みを引き立たせた苦味が、時折癖になる。その独特の味わい。独特の人間が独特のお菓子を作る。
貴族は彼のもたらした恐怖と、お菓子というアンバランスさで了承。平民もおなじ。ただし平民の場合はアーティクティカが背後にいる彼というもので協力が全面的ではあった。
だが彼がお願いした相手は、全員拒否をしなかった。全員が協力を約束。その全員がソラに対し、呼び出しの連絡を届けてくれたことだろう。教育者という立場を利用し、生徒の恐れを利用した手段。そのお願いは、出会った時でいいという条件である。だが、誰もがソラを探し、一言伝えてくれただろう。彼には秘密を探る手口がある。過去を再現する能力がある。
その秘密を探る手口で、伝えたかどうか調べれば、協力したかどうかがばれてしまう。だからみんな協力した。危険な相手の敵意を買うよりは協力したほうが安心。その人間意識を彼はむろん知っている。知っていてやった。彼の好きな手口じゃないが、やらなければもっと大きな被害が出る。
そういった手口で彼はソラを呼び出した。一人の伝言じゃ逃げられる。でもたくさんの人間から言われた伝言を無視するものはいない。数の力を利用したうえで個人を呼び出す手口。
場所は、ベラドンナの教室。
彼は教卓で立っている。教卓の上にはハーブティーが湯気を挙げ、香りが呼吸とともに体の中を侵略してくる。穏やかな自然の香りを前に、彼は決意を高ぶらせた。
この教室には彼以外いない。でももうじき来訪者が訪れる。逃げ道はふさいだ。一人ならともかくたくさんの生徒の伝言を前ににげられるものか。裏でこそこそ逃げて、策略を企む人間が。ひとを巻き込んでの策を企むものは人の協力が必要不可欠。だから伝言をつげた者たちの顔をつぶさないために訪れる。
彼は確信していた。
教卓に投げ出した両手を見つめた。苦労すらしらず、傷つくことすらも知らない綺麗な両手。この両手が刻んだものなど何物もない。今までの出来事だって彼は、誰かの力を借りた。これからも借りる。自分の力だけで頼りないのであれば、誰かを利用する。
無能な怠け者である彼は、無能な働き者として更なる価値を下げなくてはいけない。その価値を極力さげないために、有能な誰かの力を常に欲した。彼は一人で生きられない。人間もそうであるが、彼は常にそう。
がらがらと音がなる。その音に視線は向けない。彼の視線は常にまっすぐだ。教卓を前にし、その視線はベラドンナと隣の席を見ていた。
「・・・よくきてくれました。ソラさん。・・・どうぞ自分の席へ」
そう発言してから、彼はソラを見た。入ったときのソラの顔。容姿など子供が青年になりかけよりも、子供が青年の立場を偽っているという印象。幼さが強すぎて彼は言葉を失いかけた。だが、言葉は失わずに済ませた。
第一印象がそれならば。
第二の印象は。
どこかであった感覚。
ソラの顔はどこかぎこちなく、視線をわずかにそらされている。同時に彼も少しばかりそらしかけた。だが、どこかで見たような記憶があり、どこかで知っている既知間が生まれた。それも身近な存在にいるような気配。その存在は子供で人間でなく魔物。
だからありえないと頭で否定した。
でも、視線をそらせなかった。
ソラが彼の指示によって自分の席へ移動。椅子をずらし、座り込んだ。視線は交わるかと思えば、交わらない。ソラのほうが彼に対し視線をそらすからだ。それで彼も助かっているためか指摘しない。見知った相手のような気配。
「・・・楽しいですか?・・・企みは?・・・うまくいきましたか?・・・君の考えは」
彼の第一声がそれだった。いつもの彼よりは性急に始めた物事の会話。淡々としつつも、それよりも彼の興味が上回っていた。底辺でありながら彼は話をつづけた。いつもならば独特の間をあけて、相手の反応を待つ。
それがなかった。
「・・・どうせうまくいかなかった。・・・ええ、わかっています・・・そういう風にしました・・・君が企んだことを・・すべて失敗するようにしました・・・少し考えれば誰でもできること・・・でも誰もしないこと・・・人の前提条件の中で行われた計画だったんでしょう・・・上の立場に人は逆らえない・・・でも普段の強者が場所によって弱者になった場合・・・その場合どうなるか・・・わかりますか?・・・君の思い描いた結末になるんです・・・先を見れる大人であれば、絶対に手をだせなくても、子供であれば話は別・・・」
彼はただ言うのだ。
「・・・教えてください・・・君はここからどう立ち上がります?・・・不可能なんです・・・君の人間の価値を見下したやりかたでは・・・決して。・・・人間は君が思うより・・・複雑でしたたかなんです。・・・単純なやり方なんて・・・少し大人が混じれば変わってしまうもの・・・子供のやり方が通じる相手なんて・・・そのやり方を知らない世代間が違う大人に対してしか通じない・・」
世代間、つまり時代。現代科学を知る若者と知ってはいるが触れていない年配との文化の違い。考えの違い。現代科学を触れていても、結局軽く触るだけで、根強く触るものには話が通じない。価値観の違いともいう。努力すべきと思う考えと効率を求めた結果の無駄な努力という考え。通じあえるわけもない。
通じ合う気がないのだ。
だから、通じる。策略としては通じる。被害をもたらさないふれあいで通じなくても、被害をもたらすやり口であれば通じてしまう。詐欺が特にそうだ。手口そのものは単純とわかりつつも、それを思うのは常に時代に応じてきた人々だからこそのもの。
時代が違えば、そのわかりやすい手口は、新規に見えてしまう。だからだまされる。
「・・・君のやり方なんて・・・たまたま策略を立ててうまくいった奴の発想なんです。・・・うまくいっただけで・・・失敗をあまり知らない運のよい正直さそのもの。・・・失敗をしてきた者に通じる手口じゃない・・・」
彼は否定する。基本的相手の価値観を認める彼であるが、それでも否定する。相手のためではない。自分のためだ。
成功だけする者はいない。失敗だけする者はいない。気づかないだけで成功があって、失敗とそれぞれ積み重ねているだけだ。失敗だけ記憶に残っているだけで、絶対に成功はしている。
同時に成功だけしか記憶に残らず、失敗を忘れてしまう人がいる。ギャンブルなんてその特有だ。勝ったときの記憶だけが強く残り、負けた記憶はすぐに忘れてしまう。のめりこんだマイナスの世界は、拡大しつづけ、勝てない勝負に挑み続ける。穴の開いた財布を持ち続けるような考えだ。
彼は残念ながら失敗の積み重ねのほうが多い。だからその事実を否定するために、彼が持った真実そのものを否定したい。
「・・・まだやります・・・ただ・・・君の手口は素晴らしいと思います・・・権力者同士の不倫を・・・正規の婚約者相手を敵とした物語・・・きっと僕がいなければ成功してました」
そう、その手口を知る彼がいなければ結局成功していた。ベラドンナはソラを疑い、だから彼を呼びつけた。彼は自分が呼ばれた理由など知らない。しかし狐顔の男の有能さをしればおまけとしてみられてもおかしくはない。リザといった有能な人間の知り合いと思えば、有能と思われても仕方がない。
拒否はしなかった。
話を聞けば簡単に予測できた内容だったからだ。歴史書を読めばわかる出来事。賢者は過去に学び、愚者は経験から学ぶ。彼は経験主義者であるが、今回の場合は過去から学んだ。ただ過去の似たような経験からなるものだから、結局彼は愚者だ。
人間関係の恋愛事情。
個人同士であれば、恋人同士のいざこざで終わる。しかし権力者同士の恋愛事情は、その勢力全体を動かす大きな争いの種。
彼は知っていた。過去の記憶から、本から。物語から。いやなほどに読み込んだ定番のストーリ。それを再現しようとしていたのだ。わかりやすくて鼻で笑いたくもなる。この世界に書物はありふれていないし、口によって伝わった伝説や物語が定番だ。
年配と若者の積み重ねた記憶。若者は出来上がった経験の記憶を知識として学べるが、年配は自分の経験からしか学べない。別に年配が愚者とかいうものでもない。そういう出来事の決め事なのだ。時代が違えば基準が違う。世界の決め方も、物事の判断しようも違うのだ。それを時代だからといって切り捨ててしまうことこそ理不尽だ。情報が得られる世代と情報を得にくい世代。その差はいまだ重くのしかかる。
だから若者も年配も相いれない。
時代が世界をわかつのだ。
彼の物言いなどは常に淡々としていた。結局のところ義務的なものでしかない。彼にとってソラは通過点でしかなかった。今、問題としているのはこの先の話だ。
人形の仮面をかぶり、彼は先を言う。ソラはうつむいたまま何もいえなかった。反論はあるのかもしれない。言い分があるのかもしれない。しかし全部叩き潰した。この世界においてのなれない物語チックな策略は、慣れた彼の手によって阻止された。
未知を人は既知としたがる。でも既知を未知の発想ともしたがるのが人だ。
当たり前のことを、いわれれば確かにそうだと新しく考えてしまうこと。正しいことを正しく言われれば、素直に納得し、それの発想が珍しいとばかりに称賛する。
知らないことは知らない。できないことはできない。難しいのだから難しい。
言葉遊びそのものであるが、それを知っている世代と知らない世代では感じ取り方が違う。飽きたという人がいても最初は新鮮に感じたはずだ。それでいい。人はそういうものだからだ。
彼がしたいこと。
「・・・君は・・・負けました・・・同じ手では挽回できないほどに・・・きっと考えているんでしょう。・・・似たような手で勝てないか…負けを勝利で幕を引けないか・・・一発逆転的な発想を・・・一生懸命考えているんじゃないですか?・・・ギャンブルで負けが続いて、余裕があっても負けたままじゃいられなく勝負して全財産を失う人と同じです。・・・負けを取り返したい気持ちが、勝てない予測を上回った結果の暴走なんて・・・意味がないです」
ソラは何も言えない。彼が言った通り、前提条件すら叩き潰されて先回りされた発言によって叩かれているのだ。
「・・・負けは負けです・・・一発逆転を望んで・・成功した人なんてこの世には数少ないです・・・成功しただけの人間が・・・たまたま失敗した中での逆転劇はそうそうない・・・君は引けますか?・・・今のやり方で・・・。負けた中で勝てるものなんて、あんまりないんです・・・」
ギャンブルの元本と一緒。元本が無事な状態の利益が上回った時の損害。元本が被害を受けたときの損害が大きい場合。精神的余裕もそうであるが、数字的なデータを見ても勝敗は違う。前者は逆転の兆しはあれど、後者は結局負けが続く。負けた損害を取り戻そうとして、元本以上にマイナスを噴出する。同じ手口、同じ手段では勝ちにくいというのに、必ずこだわって勝負して負ける。
それが人間の心理。勝った時のマイナスであれば引き上げられても、負けた時のマイナスは認められない。その心理をついたのがギャンブルだ。
勝負も策略も同じこと。
「・・・ソラさん・・・」
彼は教卓を離れた。両手を後ろに回し、ただ歩み寄るのだ。ソラのもとへ。ゆったりと足音を消し、存在も気配も消した。ただ幽霊のように静かに歩み寄る。
気づけばソラの隣に立っていた。
気づけば、ソラの机に肘をつけ、視線を合わせるように体制を低くしていた。
視線は交わらない。ソラが逃げるように視線をそらしている。
「・・・人を思い通りになれると思いましたか?・・・思い上がるな・・・子供の分際で・・・世界を知った気になるな。・・・人は決して他人の思い通りにはなってくれない・・・最初はなっていても・・・そのうち勝手な独自のなり方で自分本位でうごきます・・・外部から人を呼んででも・・・必ず」
強い言葉を使っても口調は変わらず人形そのもの。表情も人形そのもの。
もはや彼の目にはソラは移っていても、思考はソラから外れている。
彼の過去の再現。
現代におけるこの先。
権力を持った人間の恋愛におけるこの先。きっと事情がちがく、前提が違くても、今の隙を見逃すものはいない。過去の経験にはないが、過去の学んだ知識から先は読める。
ソラは失敗した。
でも風穴は開けた。
「・・・君は余計なことをした・・・僕も余計なことをした・・・君の計画を先回りした僕のやり方・・・でも少し遅かったみたいです・・・人は隙をみたら動いちゃうんです・・・自分の本位にしたがってね・・・これは僕と君の責任です」
彼は膝をつけたまま、ソラを見つめた。ソラは彼から視線をそらし無言のままだ。極力避けたいのか、逃げたいのか、視線も会話も避けているようだ。
彼は気づいているが、気づかないふりをした。
「・・・君の手のひらの制御を超え、人は暴れだします・・・僕が止めたからこその被害・・・止めなくても君の制御を離れています・・・外部の僕が来ただけで止められる幼稚な策略。この学園における最善のやり口も・・・はたから見れば遊びの範疇。・・・僕は被害を少なくし、君はその先をつなげられなくなった・・・でも、広げた傷口は勝手にひどくなっていきます・・・君のせいです・・・君が予想していたことよりも勝手に暴走します・・・」
彼は一息ついた。
そう、これは彼なりのやさしさ。
教育。
「・・・君の後ろに誰がいるのかは知らない・・・でも・・・わかることがひとつ・・・他人を甘く見た結果がきっと訪れます・・・すぐに・・・・・背後にいるもの・・もしくは君に予想がつきますか?・・・アーティクティカとカルミア様の争い。ローランド様との争いだけを想定していた君に・・・」
彼はそうして離れた。膝を挙げ、肘をあげ立たせた体をもって、先ほどの定位置へ向かっていく
また教卓のほうへ進んでいく。
その歩みの中で。
「・・・人の考えを他人がわかるわけがない・・・目先の人間関係の先だけしか見えないものと・・・それらにつながった人間関係の重さ・・・きっと大きな嵐がきます」
彼のなかでの決定事項。彼のなかでの確信事項。そういったものを彼は味わった。彼はかかわっていないが、でも味わった誰かを身近で見てきた。
権力が違うだけだ。
立場が違うだけで、いているだけで針地獄のような環境はいつだっておきるのだ。
彼は言いたいことを言い、教卓に乗せたハーブティーを一気飲み。カップを手にもって、廊下へ出て行った。彼は言いたいことだけ言えれば満足だった。もはやソラでは通じないほどに事態は悪化している。
彼の経験通りにならば。
そして、この場は解散となった。
後日。
アーティクティカに敵対した貴族の領地。およびカルミアの実家の領地。アーティクティカを除く領地にて反乱が勃発した。その反乱がおきなかった領地は貧乏過ぎて学園にいけなかった貴族と別の学校へいった貴族の領地のみ。あとは学園に向かった貴族の領地すべてに反乱がおきた。
同日、同時刻。
決められた仕事のように、ローレライ全体で反乱が生まれ。
少しの貴族の実家が崩壊した。誰かが指揮したのかはわからないが、誰かが中心になっているのは事実。学園にいない貴族だけが対象で、アーティクティカに敵対した貴族の実家だけが反乱の対象であること。アーティクティカにとって都合の良すぎる出来事
その事実をもって、アーティクティカに疑惑の目がもたれた。