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怪物の進撃 13

怪物の進撃14、15ぐらいでいけたらいいなと思っています。


 レギアクレスタは彼が手配した。狐顔の男が四日間かけたうちの一日で大体事足りた。難しいことなどはない。町の勢力の5割が狐顔の男に支配されかけたときに、彼が話し合いの場を設けたのだ。


 ハリングルッズに内緒で勝手に進めたのだ。ハリングルッズのリコンレスタ支部は人員が限られている。貴重な人員を狐顔の男の監視と拠点の防衛のみで精一杯。余りある実力と手が空いたものは彼のみだった。



 だから彼は呼びつけた。滞在する宿に直接、レギアクレスタの代表が来いと一方的に要求した。その要求を伝える伝達員は宿の職員だ。その宿の職員は初めは拒否したものの、彼からの無言の圧力に耐えきれない。だから渋々職員がレギアクレスタの拠点まで行かされたのだ。その際、職員だけだと危ないという点でリザードマンを護衛として貸し、ついでに手間賃を与えた。それなりの金額を与えた。



 金の高さに職員が目がくらみそうにもなっていた。されど金額の高さが伝達としての危険性がいかなるものかを勝手に予測した。彼としては、気持ち程度であろうと、金は金。大金は大金。よこしまな思いを抱く以上に、生命の危機を感じる出来事と勝手に勘違いさせた。



 彼としては自分が動けないという理屈をしっていただけのことだ。監視できる人員はいなくても、監視されている可能性。狐顔の男も掌握したばっかりで監視に向いた人員を作れてはいない。その予測であっても監視されている可能性。


 だから第三者を持ち込みたかった。それだけだった。リザードマンを護衛として貸す以上、伝達役の職員の安全は最優先させている。彼自身の危機と同じぐらい大切なことだった。



 彼は基本、自分からまきこむ相手に被害をもたらさない努力をする。そのため、戦闘力も高いリザードマンを貸しただけ。本来ならばこの町、いやこの世界でリザードマンの静から離れたいとは思わない。オークの華からも離れたいとは思わない。


 その彼が他人に魔物を貸す。


 牛さんを狐顔の男に貸した。


 信用ができないから牛さんを監視役に。人を殺さない制限をかけた以上、極力平和的に支配するための力。何かあったときの保険として貸した。


 彼的に牛さんを貸す場合というのは相手が信用できないときだ。狐顔の男に貸したのが初めてであろうと、貸す以上無事に返してもらいたい。また約束が守られるかも心配。また貸した魔物に危害を与えられるかもしれない。その害悪も圧倒的種族差で跳ね除け、監視役も牛さんならこなせる。牛さんがこなせないのであれば他の魔物はこなせない。



 ただ闇雲に彼は魔物を貸しているだけではないのだ。



 



 護衛としてリザードマンと共に伝達に行く職員を見送り。宿には職員に余計なことをさせた料金を払おうともした。されど拒否された。彼からの金を受け取る危険。金を受け取らないことへの恩。



 金で済むことは金で済ませたほうが楽。世界の常識の一つ。



 金で済むことは一番安いという事実はどこにいってもかわらない。危険なこと、汚いこと、やりたくないことを誰かに金を払いやらせる。ただでは人は動かない。だけど金を払えば人は動く。その貨幣の流れの常識を宿は知っており、拒否したのだ。




 金ではなく安全をと言われ、彼は承諾。



 その数時間後、レギアクレスタのトップとその護衛。伝達役の職員とリザードマンの護衛。その両方が同時に宿に来た。それを機に、彼は歓迎するかのように両手を広げた。


「・・・ようこそ、この町で最も」




 彼は言葉に出さず、口の形だけで言った。



 滅びそうな方達と。






 そしてレギアクレスタは彼の口パクを理解し、そのうえで話し合いに乗った。伝達役の職員の震え具合とリザードマンの警戒の無さ具合から、害意はないと知っている。そのうえで彼は事実という挑発をしたのだ。


 狐顔の男の勢力を拡大させた原因は彼。狐顔の男が外に出ている原因も彼。レギアクレスタが滅びかけている原因も彼。


 全ての元凶と全ての危機感の根源が彼である。



 それをレギアクレスタは知ったうえで宿に来た。代表はいるが特定は不可能。数多くの戦士たちに周囲を守られ、彼の視線から届かない戦士の壁。されど声だけは届くゆえに視界での認識はあきらめた。声だけで事実を認識させた。レギアクレスタ側の言葉が彼の挨拶によって牽制され、なおかつ彼の要求がつきつけられていったのだ。



 拒否すれば会談はなし。そのまま狐顔の男に飲み込まれるだけという事実を言い放った後で淡々と告げていった。事実を、このままの未来を。レギアクレスタの未来も勢力もどうなるかという事実を述べただけ。相手が色々、彼のせいだといったところで無視。一方的に突きつけていき、事実を伝えただけの彼に屈服。


 組織の存命。補償。ハリングルッズを上司として認めるかわり、レギアクレスタの存続を認める。また勢力も拡大はさせない。されど衰退もさせない。このままでいることを認める条件を彼が告げた。



 飲まなければ、さようならという脅し。一度切りの話し合いとも伝え。


 相手が全部飲んだ。



 そして彼は言ったのだ。



「・・・レギアクレスタを壊滅させようとあの人たちは来ます。大通りを通ってくると思います」


 なぜなら彼は大通り以外の建造物は中途半端に残させたからだ。牛さんに壊していい建物と、壊してはいけない建物の区別を命令したわけじゃない。彼は壊してはいけない建物に、あえて張り込み臭いをつけた。外側の壁に彼の手形を適当に押していった。牛さんは彼第一主義者であるからこそ、彼の手形と臭いに気付くはず。



 そうした彼の一日によって壊していい建物と壊してはいけない建物の区別がされた。大通りを通る以外、廃墟の少ないところはない。廃墟が多いところに伏兵ではないが、金を適当に落としてもおいた。この町の更なる不良たちが集まることを期待しての行動だ。




 全て彼の企みだった。稚拙で杜撰な子供のような遊び。世にいる軍師たちや、知識者たちが見れば子供の遊び以下と否定する試み。それを彼は恥ずかしげもなくやり遂げた。赤のインクの手形は何もしらないものたちは血だと勘違いするだろうと思った。



 

 彼の企みの二つ目。彼が出てくるタイミング。



 レギアクレスタとハリングルッズを出すタイミング。あの大通りで出した二組織もどうしたらいいか悩んだ結果の作戦だった。案内役の女性が言った。裏切るのは統一直前か統一した直後と。レギアクレスタ側からかは、統一して安定してから、統一する前でも安定してからといったもの。彼の予測は統一し勝てる力を得てからの裏切り。


 狂人は常人や賢人たちの考えを斜め上で行く。



 勝てなくても裏切る可能性を彼は信じた。人々にレギアクレスタ打倒といい、実際はハリングルッズか裏切るために邪魔な障害物の排除をしようとしたのではないかと予測した。



 同時に彼は思う。



 レギアクレスタを打倒する前は裏切れない。


 勝てるかもしれない。負けるかもしれないといった不安も混ぜ込みの中で動く狂人ではないとも思っていた。



 その二つを掛けて割る。



 そして稚拙な策が生まれたのだ。


 6割を支配した時点で、こちらから手を出すというもの。裏切られるのではなく、裏切る前に蓋をするという作戦に出たのだ。また6割も出てきたら増長する人々は出てくるかもしれない。その増長を後押しするため、宿の職員たちに金を払い、人々の集団に溶け込ませた。狐顔の男が率先して動く以上、後ろに人々がついてくる。だから後ろの集団の中でレギアクレスタ打倒したほうがいいという声を上げさせた。



 集団圧力。


 数が数だけに小さな一つの声でも広がりにくい。でも一つ広がれば大きな輪となって力になる。狐顔の男の力でもあり、削ぐ力でもある。彼は前の世界の集団パニックといった情報をもとに適当に作戦を形成した。集団内の一人が精神的に起こした悲劇が周りに連鎖していくといった現象。それを発動するまでひたすらに仕掛けた。人々の中の数人が流した情報に食いついた時点で職員は撤退させている。






 仕込みだ。



 広がってしまえば抑えられない。脅しを狐顔の男が駆けようとも集団としての力は一人でかなわない。また狐顔の男が描いた未来である以上、人々が共通意識を持つのは好都合。勢力が拡大したうえでの人々の増長だと信じた狐顔の男。決して増長だけでなく、彼の意志が入り込んでいる。




 そうして大体の行動は特定された。大きな輪、人々の熱意は激しく、冷めやすい。熱した鉄は早めに叩かなければいけない。ならば熱をもった人々を、覚ます前にレギアクレスタ討伐に行かせた。人々の熱意が数の想いが狐顔の男の裏切る指標となる。



 多ければ多いほど早めに動く。多ければ多いほど目的を達成させて、裏切る。狂人とはそういうものだと彼は信じた。自分ではなく、相手を信じた。








 そして全てが上手くいった。





 これが事前の計画である。簡単な軌道修正とともにこの場面は作られた。案内役の女性の裏切るタイミングの話。レギアクレスタの裏切るタイミングの話。彼が思う裏切るタイミングの話。



 彼一人でできたものではない。されど彼はこの場面においてだけは自分だけのものと偽る。





 自分の心を偽って、自分だけのものであると宣言していた。



「・・・一度は思いませんでしたか?・・・思い通りすぎて、簡単だなって・・・つまらないなぁって・・・・貴方だけの考えじゃありません・・・僕も同じことを考えていましたから・・・良かったです」



 小馬鹿にするように彼は言い、続ける。


「・・・貴方が思ったこと。・・・僕は貴方に対し思っているんです・・・だからよかったです・・・簡単で」




 彼は挑発している。狐顔の男がこの町で起こした出来事、そのすべてに退屈さを見せている。そう狂人なら思うと信じた。だから信じたうえで、彼は考えを述べている。一度ギリアクレスタを追放運動を見逃した理由、拷問されても退屈じゃないから平気。その考えの人間が退屈さに呆れないわけがない。



 出来事全てに呆れた狐顔の男。その男に対し、同じことを思っているといった挑発。その発言を理解できないほど、狐顔の男は馬鹿ではない。顔をぴくぴくと痙攣させ、憤怒の表情を必死に笑顔で消そうとしている。



 レギアクレスタ、ハリングルッズ。



 そして彼。




 左右には町を代表する二つの組織。正面には彼という障害物。彼を倒せるかどうか。廃墟を倒壊させてきた牛さんがいて、魔物二匹がいる。その後に怪物という彼がいる。



 人々は知っている。怪物は強い。狐顔の男ですら知っている。怪物は恐ろしい。




「・・・貴方の負けです」



 彼は狐顔の男を見つめ。



「・・・でもどうせ、あきらめない」



 意志の強さを狐顔の男から感じている。必死に脳を回転させ、事態を打開するための策を得ようと考える様子。賢人が己を信じた、必死の抵抗。



 だからか彼は歩み寄る。両手を広げ、歓迎するかのようにして歩み寄る。堂々とし、背筋は伸ばした。顔をあげ、視線は狐顔の男ひとつ。背後には魔物二匹が追従する気配。



 恐れることはない。


 怖がることはない。



 いまだに、静と華の防衛を潜り抜け、彼に危害を与えられた存在はいない。


「・・・僕は今から貴方に対し、会話をします。・・・傷つかないでください・・・大したことはありません・・・抵抗はしてもいいです・・・その権利は貴方にある」



 先陣を切る狐顔の男。周りに人々がいるが彼の歩みを妨害する様子はない。この町は強者こそ正しい。弱者は強者を引きずり落とすもの。



 彼という弱者が狐顔の男という強者を引きずり落としただけのこと。



 狐顔の男の正面までたつ。二匹の護衛の気配は強い。金属音が小さくすることから、二匹は己の武器に手をかけて警戒していることもわかる。オークの華が、リザードマンの静が、牛さんがいるのに、彼に被害が当たるわけがないのだ。




 狐顔の肩口にのせるかのような体制まで肉薄していた。



 狐顔の男の耳元に口元を近づけ。





「なんて退屈な時間でしょう。ここまで思い通りになったのは貴方が初めてだ」




 囁いた。彼なりの嫌味。彼は人に嫌味を言いたくない。その性格である以上、かなり精神的にきついものだ。されど黙らずつづけた。狐顔の男が硬直し、彼の嫌味にさえ震える仕草すらある。




「退屈で、退屈で、まるで暇な時間を過ごしているみたいだ」




 彼はつづける。囁きながら言うのだ。底辺は底辺ではない。彼は弱者であっても、ここでは強者である。狐顔の男は動けない。二匹の魔物が必死の形相でにらみつけて、警戒している。その二匹の前で隙だらけの彼を力づくで排除できたりしない。



「お、お兄さんさ。俺はまだ」



 ただ、震えながらも必死に訴えかけるような発言。



「・・・諦めるなんて許さない。・・・今は僕の勝ち・・・今は僕の言う通りにしなさい。・・・その代わりといってはなんですが、あとで相手をしてあげましょう・・・」


 彼は決して否定しない。狐顔の男の譲れない線を守りつつ、自分の意見を突きつける。嘲笑うのでなく、健闘を祈るかのような態度を彼は持っていた。狐顔の男は決してあきらめない。そこを否定しても第二の戦いが起きるだけ。ならば彼の方から歩み寄り、それを利用する。



 彼は顔を耳から離す。狐顔の男から一歩下がるように離れる瞬間。




「…できないなら、僕にとって貴方は無価値だ」



 そう狐顔の男にだけ聞こえるようにつぶやいた。



 彼は狐画顔の男の正面に添えて言う。目をそらさず、彼という害悪に視線をそらしそうになる狂人。それすらも肯定した。



 彼は問う。


「・・・複数の組織による統一を認めますか?」



「認めない」


 狐顔の男が否定する。




「・・・複数の組織、その一つレギアクレスタの協力関係を妥協できますか?」



「だ、妥協できない」





 狐顔の男は諦めが悪い。彼の問いに対しても、簡単にあきらめがつかない。



 されど否定する言葉に元気がなくなっていくのも事実。



 彼は無表情でありながらも強者としての風格を持つ。それこそ状況の把握、狐顔の男の人間性の把握までいたるところにおいて、腹が立つところがない。挑発も嫌味もあるが、そこに汚さがない。割り切った感覚の発言だとすら感じる。




 割り切れる人間は、どんなことにも割り切っていく。



 だから否定する言葉にも元気がなくなる。



 狐顔の男は彼を認めていた。知性の怪物といわれる異名の高さを納得しているのだ。そんな納得できた、認めた相手からの失望が怖いのだ。狂人であり、裏切りも楽しければいい。その狂人が、裏切る前に裏切られるのが怖いと思う強さなのだ。



 無価値になるのが怖い。されど狐顔の男としての個性が諦めるのを許さない。





「・・・それでいい」



 彼は否定しなかった。




「は?」



 呆気にとられる狐顔の男。心が読めない相手の彼の発言に初めて戸惑う感情を見せたのだ。演技の戸惑いは何度もあっても、ここまで拍子抜けするものはなかった。人生初めての経験がこの場で起こされた。




「・・・それが貴方の強さでしょう。貴方は有能だ。優秀だ。・・・複数組織によるリコンレスタ統一。貴方が妥協しなくても構わない。認めなくても、この場で宣言します」



 彼は大きく息を吸う。


 もはや人々は。



 もはや残党は。


 

 もはやレギアクレスタは。



 もはやハリングルッズは。



 逆らうタイミングを失った。



「ギリアクレスタ、ミディアレスタ、フォリアロレスタ、メリアクレスタ、それとレギアクレスタ」





「最大勢力としてギリアクレスタ、その下に格残党の皆様のいた組織を位置づけます。またレギアクレスタはギリアクレスタの同盟として強制的に指名します。またギリアクレスタ、レギアクレスタ両組織は、ハリングルッズの下位組織として従うこと」





 勝手に彼は決めた。



 もはや狐顔の男にとっては、否定できない。いくら心を読み、人々を導いたとしても、遥か上の強者が現れては意味がない。強者だったからこそ、従っていただけだ。その上の強者には歯向かう気力すらわかない。




「・・・意見のある人は?」



 彼の言葉に誰も手を上げない。誰も口を開かない。残党たちですら何も言わない。それどころか無くなった組織に下位組織としてであっても再生されるのだから文句はない。町を支配する新組織になじめないから残党を名乗るのだ。前の組織を作っていいのだから歯向かう必要はない。



 勝つことより、生きること。



 それが人々と残党の共通認識。



「・・・では、後日。ハリングルッズ側から連絡を届けます。それまでおとなしくしていてください。あとギリアクレスタには」



 彼は手で狐顔の男を指し示す。



「・・・こちらの方が代表となります。とても優秀な方です。今日、この方に協力した方は今後も協力の方お願いいたします。・・・従っておけば食事と住む場所ぐらいは何とかなるかと思います。また各組織の残党の皆さま、この方の邪魔はしないように・・・したら皆様が想像する不幸が待っているかと思われます」








 こうして杜撰で稚拙な計画は半ば成功させられたのだ。さりとて全てが納得するわけじゃない。狐顔の男がいる。不満を表情に表し、頭を回転させている狂人がいるのだ。






 今いちど彼は狐顔の肩口まで顔をのせるように近づけた。



 口元は狐顔の男の耳元に向け。




「・・・退屈だけで済みそうで良かったですね」


 彼は今度こそ狐顔の男から離れた。一歩、二歩とその場で後退し、くるりと回転するように背中を狐顔の男に見せた。必死に頭を回転させていた狐顔の男を、怒りで埋め尽くさせる。そのための彼の挑発。頭の良い狂人は冷静であると変な考えを考え付く。


 そういうのは感情的にさせた方が楽。


 

 そのうえでの彼の挑発。




 踵を返した彼の背に。




「くたばれ」




 狐顔の男の暴言が飛ぶ。



「・・・暇よりは本当に楽です・・・暇は退屈より地獄だ・・・。貴方が恐れるのは退屈じゃない・・・」




 彼の背が狐顔の男から遠くなる。だが最後に届く彼の言葉は耳に届いていた。




「・・・暇が一番怖いんです」



 そうして姿が消えるまで、彼の背を見送った。その内心には苛立ちがわいている。強い苛立ち。暇が怖いといいつつ、狐顔の男を退屈とまで言った彼。





「絶対に」


 その秘めた決意は言葉には出ない。されど彼の遠くなる背に対し向けた決意である。



 





 力だけで征服などできるわけがない。征服するだけの力は彼にはない。だが、壊滅させるだけの力は彼も持っている。町の人々の今後を考えない破壊ならばできる。牛さんがいればできる。残党たちも華と静であればできる。



 彼がしたくない。



 暴力に訴える力ではなく。




 平和的に訴える力でありたい。暴力の力を誇るとき、相手に攻撃させないための自慢でさえあればいい。








 これが怪物。この場において暴力ではなく、言葉によって支配する。人々は己の意志で動かない。もし己の意志で動く人々であれば、彼は役に立たなかった。



 彼は人々の感情を予測している。



 なぜなら彼も動きたくない人間だからだ。人々は動けないだけで、彼は動きたくない。前の世界において個性と人格と権利を認められた人間だからこその価値観。人を物のように扱うのでなく、大切な仲間として認識された世界だからこその考え。



 動きたくない人と動けない人の意味は違う。されど似たり寄ったりの属性だ。だからこそある程度の理解は持っている。誰かの責任で、自分があるという無意味な理屈。その理屈だけは彼が理解できてしまう理屈。



 理解できるかといって納得はしない。大多数の人と自分は違う。そういう思いが多少あっても、結局誰かからみれば大多数の人と仲間入りしている。だから彼は否定できずに、わかってしまう。



 だから彼は予測できた。



 彼は弱い。彼自身が知っている。でも彼は強い。それは彼自身が知らない。誰かが彼の強さを訴えている。知っている。魔物もリコンレスタの人々も、狐顔の男も。



 誰もが言う。



 彼は強い。




 だが町の出来事はもう一つある。されど大したことじゃない。彼にとっては日常のテンプレである。そのテンプレの一部が多少続くだけの事だ。



 だから難しいことではない。






異世界ものを書く際は、主人公が面倒くさくないのにしたほうがいいです。

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