5.サイレントベア
サイレントベアがおってくる。
僕らは、全速力で逃げる。
どうするかな?
どうやって逃げ切ろう?
まずは、どのような場所に逃げようか。
湖を泳いで向こう岸までわたるか?
いや、それはない。
というよりは、その選択肢はしたらいけない。
熊は凄く泳ぎの得意な動物なのだ。
サイレントベアが熊と似ているからといって、身体機能が一緒とは限らない。
しかしこれは1種の賭けだ!
まだ、賭けに出る時でもないだろう。
なら、森の方に逃げるか。
まぁ、これが一番現実的だろう。
今のままの見晴らしのいい場所ばかりを走っていても一向にサイレントベアからは逃げ切れない。
逆に追い付かれてゲームオーバーである。
なら、逃げる方向はただ1つ。
「ストレルカさん、あっちの森の方に逃げましょう。今のまま走っていてもどうせすぐに追い付かれます。なら、見晴らしの悪い森の方に逃げるのが一番です。」
「それはいいけど……。シズ君の身長ではちょっと無理じゃない?」
「いや、大丈夫ですよ。こう見えても元の世界では、色々と鍛えていたんで。」
色々鍛えていたといっても、動機が不純である。
聖火とともに色々な無茶な行動をするのにはどうしてもなみなみならない体力が必要なのだ。
昔は貧弱だった体も今は多少なりともましになった。
言っちゃ悪いが僕はDOUBLE STARの参謀担当なのだ。
危ない行動などは基本的に聖火に丸投げなのだが……。
聖火が心配な僕は、毎回が如くついて行ってしまう。
そうなると聖火ほどではないが危険な行動が増えてくる。
なら体を鍛えないといけない。
と、言う循環が繰り返されて僕も多少なり鍛えられたのである。
ほら、だからあれだよ。
木登りとかものすごく得意のなったよ。
小4の時には登るものが木ではなく校舎になったり家になったりしていた。
小5のころには数分で校舎を屋上まで駆け上がれるようになった。
フリーランニングというやつである。
ただし、荷物などを持っていたら登れなかったが。
だが聖火は、何かを持っていてものぼれていたなぁ~。
まったく聖火は化け物だぜ。
「いいわ。なら森を抜ける?それとも熊をまいてからまたこの道に戻ってくる?」
「ここの地理に余り詳しくないので何とも言えません。地図とかあります?」
走りながら読むものではないかもしれないが逃げる上では重要だろう。
「あるよ。ちょっと待ってね。」
ストレルカさんは、自分のリュック内から地図を探しだし僕に渡してくれた。
「はい。」
僕は、それを受け取る。
「ありがとうございます。」
地図を見るとそこには見ず知らずの文字で色んな説明が書いてあったが今は無視する。
地図によると森を抜けるには、相当の距離があるように思える。
なら、森を抜けるルートはあまりよろしくない。
だが、このルートだと森を抜けたらずぐに小さな村がある。
一方この道に戻ってくるルートは、まだまだ道が続くだけで一向に町にはつかな。
ただし、この道のルートだと数日かかるかもしれないが大きな町につくようだ。
どちらを選ぶべきか?
まず、サイレントベアから逃げ切れる補償がない。
なら、森を突っ切って村の人に対して助けを求めればいいだろう。
「ストレルカさん、森を抜けましょう。ストレルカさんは知ってるでしょうが森を抜けたところに村がありますよね。そこに逃げ込めれば僕たちは助かります。まぁ、逃げ切れることに越したことはありませんがね!」
「わかったわ。森を抜けましょう。」
よし。
これで話はまとまった。
あとはひたすら逃げれば僕たちの勝利だ。
いや、勝ってないけどね。
勝ってないけど僕らの勝利ってこれいかに。
「それとストレルカさん、森を抜けるにはどれくらいの時間がかかりそうですか?」
「そうね。今のペースで行けばだいたい1流くらいかしら?」
1流ってなんだ。
多分こっちの時間の単位だろう。
まずは、1流かをどれくらいか調べなくてはいけない。
「ストレルカさん、1流って何時間ですか。と聞いてもわからないでしょうからこれだけ教えてください。1日って何流ですか?」
「1日は、16流よ。」
と言うことは、地球時間になおすと1流は1時間30分といったところか。
想像よりも少し早いな。
早いことはいいことだけどね。
「わかりました。ありがとうございます。まだサイレントベアとは一定の距離がありますが引き締めていきましょう。」
話は、一段落ついた。
あとは、逃げ切るだけである。
さっきもいった通りサイレントベアとはまだ距離があるも、気を抜いたらすぐに追い付かれてしまう。
全力で走るのも凄く辛いが死ぬのはごめんである。
全速力で走る。
しばらくするとわかってくることがあった。
意外なことにサイレントベアと僕らの間の距離は開いていく一方だということだ。
どうやら走りにくい森を選んで正解のようである。
早く諦めてくれればいいものも。
はや、40分走り続けた。
サイレントベアも、そろそろ諦めてくれてもいいと思うのだが……。
それに40分も走っていると流石につらい。
横を見るとストレルカさんは汗1つ書いていない。
あれっ、ストレルカさんも意外に体が強いのかな?
いや、そもそもストレルカさんが人類なのかわからないし。
だって、あれじゃん。
異世界って色々な種族とかあるって言うじゃん。
まぁ、確信はないんだけど……。
今だ全速力で逃げている最中、ストレルカさんが僕に話をきりだした。
「シズ君。これぐらい距離が離れているとあれを放ってくるかもしれないわ。」
僕は、首をかしげる。
もちろん、走ってはいる。
「あれってなんですか?」
「簡単に言うとサイレントベアの特殊攻撃だよ。しかもその攻撃は威力調整も出来る。」
なるほど、厄介な技な気がする。
これは気をつけてこれまで以上にサイレントベアを監視いとかなくてはならない。
「便利そうな技ですね。だけどなぜ今までしてこなかったんですか。」
「サイレントベアの特殊攻撃は、物質に当たった瞬間に発動する風の刃。物質に当たってからは、常時実体があるんだけど……。最高にタメをすると自分にも被害がくるからじゃないかな?」
なるほど。利にかなってるような気がする。
「ありがとうございます。なら、これからいっそうサイレントベアに気を配らないと。」
「大丈夫だと思うよ。だって、特殊攻撃の時の攻撃のタメをするときには独特な音がでるらしいから。」
すると後ろの方から《ドォォォォォォォォォ》と音か聞こえはじめた。
「そうそう。こんな感じの音!」
ストレルカさんは、イメージ通りの音がなったのでそれを例にあげた。
いや、まで。
おかしい。
こんな音、こんな森奥で聞くような音じゃない。
何が起こっているのかだいたい想像がつく。
さっきストレルカさんが、この特殊攻撃の話を出した時点でフラグが立っていたのだろう。
うん。
よし。
そっと後ろを振り返ってみる。
すると……。
なんと言うことでしょう!
サイレントベアが、立って右腕を振り上げているではありませんか。
しかも、右腕の回りで風が渦を巻いているおまけ付きである。
《レェェェェェェェェェ》
今度は、《レェェェェェェェェェ》という音がなりはじめた。
どうやらストレルカさんも今どのような事態かにきずいたようだ。
「シズ君、あながちもう気づいてるかもしれないけどあれがサイレントベアの特殊攻撃だから。あれに当たったら本当に助からないかも知れない。早くそこの木陰に隠れて。」
《ミィィィィィィィィィ》
また音が変わった。
そして、隠れろとも言われた。
隠れるのなら2人一緒にである。
「なら、ストレルカさんもここに。」
そう言うとストレルカさんは素直に僕のいる木の木陰にやって来た。
「ついでに言っとくと、独特な音っていうのは音階だから。高くなればなるだけ威力が高まるよ。」
「なるほど……。」
《ファァァァァァァァァァァァァァァ》
うん。
やばい。
僕たち大ピンチ。
今ファってことは、4段階強化された風の刃でしょ。
のこ木で耐えれるかな?
最悪の場合は、高いドの8段階強化されている風の刃だ。
流石にそれは耐えられまい。
早いうちに放ってくれればいいが……。
すると音が止まった。
「シズ君、くるよ!」
ストレルカさんから、急に声をかけられた。
僕は、身構えていない。
身体に空振が伝わってくる。
しまった。
思考の方に気をとられ過ぎて現状把握していなかった。
改めて、サイレントベアのいる方向を見てみる。
ここまではとどいていない。
だが、サイレントベアから直線距離にし12メートル位までの木が鋭利な刃物で切られたかのような切断面で倒れている。
本当に死ぬかもしれない。
それを実感した。
これを見てしまうと、逃げ切れるかどうがわからなくなってきた。
サイレントベアは、既に平になり走りやすくなった12メートルを積めてきている。
これって絶体絶命ってやつですか。
元々僕らとサイレントベアにあった距離は約30メートル。
だが今は、18メートルしかない。
4段階のタメ攻撃で12メートルということは1段階3メートルという計算になる。
と言うことは、6段階のタメ攻撃を放ってきたところで今までの僕らの努力が水の泡になってしまう。
と言うより、6段階タメ攻撃を放たれ距離を詰められたらゲームオーバーだ。
対策をしようにもする案が、思い付かない。
とりあえず今は、まだ逃げるべきた。
そう判断した僕は、ストレルカさんにまた逃げるよう促した。
「ストレルカさん、早く行きましょう。追い付かれてしまう。」
「うっ……。うんっ……。」
ストレルカさんも納得してくれた。
余り、肯定的ではなかったが…。
サイレントベアは、また右腕を振り上げていた。
またかよ。
できれば軽いのを放ってほしいものだ。
もっとも無理なのだろうが。
《ドォォォォォォォォォ》
1段階、これは知ってた。
《レェェェェェェェェェ》
2段階、まあ仕方がない。
《ミィィィィィィィィィ》
3段階、まだ……。
《ファァァァァァァァァァァァァァァ》
4段階、これでやっとさっきのと同じ威力の攻撃になった。
《ソォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ》
5段階、お願いだからここで放ってくれ。
《ラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ》
6段階、確実にアウトだ。
ゲームオーバーかもしれない。
《シィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ》
7段階、これで確実にアウトだ。
《ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ》
8段階、MAXパワーかよ。
オーバーキルである。
これは、ストレルカさんにいうべきだ。
「ストレルカさん、MAXパワーで特殊攻撃がきます。」
「まったく、途中までは本当に逃げられるかなとも思っていたのにな~。」
優しい顔でストレルカさんがこちらを見てきた。
これは、どういった意味なのだろうか?
この笑顔の意味を数分後に知ることになる。
ストレルカさんは、自分が持っているリュックをあけて何かを取り出した。
短剣であった。
いや、違うな。
あれは、多分コピスという武器だろう。
たしか、昔のエジプトで使われていた武器だったはずである。
ストレルカさんは、走るのを止めて振り向く。
そして、コピスを鞘から抜く。
「シズ君、ごめんね。やっぱり戦わなくちゃ無理みたい。だから、早く逃げてね。私が変わってあげられんのは一回だけだから。」
その一言を言い終わったか言い終わらなかったか、わからないくらいのその瞬間にサイレントベアの特殊攻撃が飛んでくる。
ストレルカさんは、コピスを構える。
カーン!!
ストレルカさんは、コピスで攻撃を防いだ。
わかったことは、ストレルカさんがいた所に境界線が引かれたかごとく木が倒れている所と倒れていない所に別れている。
そこから解るのはストレルカさんが一人で受けた衝撃が凄いことになっているということだ。
その証拠に、ストレルカさんは今のを防いだだけで後ろに吹き飛ばされて倒れている。
意識も失っているようだ。
持っている剣は、明後日の方向に飛んでいった。
この場で僕がとる行動はなんだ。
ストレルカさんを助けることだ。
となると、サイレントベアを、倒さなくてはならない。
「本当に、僕が倒せるのかな?」
この一言が妙に静な森に響いた。
次回 いよいよ、雫がサイレントベアと戦う!!