3.学校の屋上
外に出ると聖火から睨まれた。
「遅い!」
まぁ、だろうな。
仕方がなかったのだ。
せめるならあの美味しそうなご飯をせめてくれ。
僕は、無実だ。
ただ、ご飯の誘惑に負けてしまっただけである。
「いや~、悪かった。色々と準備するのに手間がかかってしまってよ。準備してたら遅れたわ。」
大丈夫、嘘はいってない。
しかし聖火は、一方にこちらを睨み続けている。
いったい、どうしたと言うのだ。
「雫。ほっぺた。ご飯粒がついてる。」
僕は、あわてて頬をおさえる。
確かにそこには飯粒があった。
「マジですまん。夕飯をまだ食べ終わってなかったんだよ。」
「で、俺が来たから急いで食べて出てきたと。」
全く持ってその通りである。
聖火は理解が早くて助かる。
「なるほど解った。それに、雫の方は色々と準備が忙しかったっぽいな。」
聖火が僕のリュックを見て言う。
「おぉ、わかてくれるのか。そうなんだよ。」
聖火を頭のてっぺんから足の先までみる。
「そういう聖火は、何も用意してきてないな。」
「雫。ちゃんと俺をよく見ろよ。ほら、これ。」
そう言うと、聖火はベルトに結んである巾着を見せてきた。
それが何だというのだ。
「その巾着がどうしたって。」
「おう。よくぞ聞いてくれた。これは俺のコレクションだ。」
聖火は、目をキリッとさせてベルトから巾着をはずした。
そして、僕の方に投げてくる。
僕は、巾着を受け取り巾着の中身を見た。
中身は・・・。
指輪。
いや、リングか。
これしか持っていかない聖火っていったい。
「聖火これっていったい何なの。」
「えっ、リングだけど。」
「いや知ってるよ。リングぐらい見たらわかるよ。僕が聞きたいのは、なんで異世界に飛ばされるかもしれない時に持っていくものがリングだけなんだよ。」
「いや~。だって、必要そうなものは雫が全部持っていくだろ?なら俺は趣味に走ろうかと。」
いやいやいやいや。
趣味に走るなよ、趣味に。
これから行くのは、未知の世界なんだぞ。
何が起こるかわからないんだぞ。
なのに持っていくのがリングだけって、僕と聖火の仲じゃなかったら普通にオコだよ。
いや、オコじゃないかもしれないな。
オコが二階級特進ぐらいするかもしれない。
そのうち、激おこぷんぷん丸になるよ。
でも僕は、冷静にいこう。
そう、僕と聖火の仲じゃないか。
聖火が何も用意しないことぐらいは予想していた。
というより、何か持ってきたこと自体に驚くべきだ。
よし。
落ち着いたぞ。
自分で落ち着いたと思えるくらいに冷静にもなった。
よし。
落ち着いたついでに巾着を返しておく。
「そ、そうだね。聖火が何も用意してこないだろうと思っていた僕は確かに聖火の分まで色々と用意したけど。」
「流石、雫。俺のことわかってる~。」
こいつ、悪びれもせずに。
まぁ、仕方ないさ。
解っていたことさ。
こういう時にこそ冷静にである。
「それにここにあるリング。全部俺の宝物なんだよ。おまえだって知ってるだろ。俺がリングを集めていることぐらい。」
「そりゃ、知っているよ。聖火の誕生日に僕はリングを送ったこともあるからね。」
「そうだろ。そして、ほら。これがお前からもらったリングだ。これも俺の宝物の一つだよ。」
そういうと
「そ、そうだな。」
生返事になってしまった。
ちょっとうれしかったじゃないか。
あげた当時は、作りが悪いだの言っていたのに。
やっぱり聖火は、僕の大切な親友だ。
さっきまでの気持ちは何だったのだろうか。
とりあえず、さっきまでの気持ちは虎にでも食わせておくか。
「まぁ、正直作りはよくないけどな。」
よし。
戦争だ!
戦争をしましょう!
おい、さっきの虎。
虎はどうした!
いたらさっきの気持ちを吐き出させるためにボディに一発くらわすのに。
まぁ、いいさ。
解っていた。
解っていたさ。
もう、怒る気すらしないよ。
「じゃあ、時間もないしそろそろ学校に行くか。」
「俺は、雫を待っていたんだがな。」
「それは、言いっこなしってことで。」
そういうと、二人で学校の方に歩いて行った。
因みに徒歩である。
自転車ではない。
僕らは、基本的に夜に出歩くことも多い。
昔は自転車で行動していたのだが、一度夜の二時くらいに警察に捕まったことがある。
あの時は、警察の方にこっぴどく怒られた。
保護者として月光さん(聖火の兄さん)が迎えに来てくれなかったら話がややこしくなっているところだ。
月光さんには感謝である。
「学校についたぞ。」
壁を登り始めながら聖火が言う。
まったく、行動の早い奴である。
僕も後に続く。
僕らは、壁を登るのも得意である。
基本的にスパイ行動などもしているので得意になってしまったという方があっているような気がするが・・・。
学校の侵入に成功する。
「で、どこから屋上に上がる。」
聖火に問いかけてみる。
「そうだな、正攻法でいいだろう。ちゃんと鍵はもってきた。」
そう。
僕らは、学校の鍵を持っている。
しかも持っているのは、マスターキーだ。
仕事の関係上夜の学校に忍び込むことなんて日常茶飯事である。
それと、正攻法以外にも侵入の仕方は二つある。
まず一つ目は、校舎裏にある図書館の中に侵入する。
侵入のしかたは、右から三番目の窓の鍵が壊れているのでそこから入る。
あとは芋づる式に校舎本館の鍵を手に入れるだけである。
二つ目は校舎の三階までよじ登り、三階の女子トイレについている換気扇をはずす。
ここの換気扇だけなぜか簡単に取り外しがきくのかはわからないが、気にすることもないだろう。
まぁ、正攻法が一番楽なんだけどね。
「よしなら、正攻法で行こう。」
聖火が、校舎のドアを開ける。
「お邪魔しま~す。」
「聖火よ。そんなこと言わなくてもいいと思うぞ。」
「いやー、言いたくなる気分なんだって。」
「まぁ、どうでもいいか。ほら、早く上にあがるぞ。」
僕は、階段を上った。
「待ってくれよー。」
聖火は、急いでついてきた。
一階。
二階。
三階。
四階。
四階までたどり着いた。
後は、この階段を上った先の扉を開ければ屋上である。
・
・
・
屋上に上がる扉の前まで来た。
時計を確認すると、23時52分。
意外にもギリギリになってしまったようだ。
「聖火、開けてくれ。」
鍵を持っているのは聖火だ。
聖火に屋上の鍵を開けるように促す。
「わかったぜ~。」
呑気な奴である。
そこがいいところなのだが。
ガチャ
音が聞こえた。
どうやら開いたようだ。
先に聖火が屋上に踏み込む。
「おもしれー!!]
屋上に出た聖火が叫んだ。
いったいどうしたというのか?
僕も聖火の後に続いてでてみる。
「何なんだよこれー!」
「なぁ、すげー面白そうだろ。」
なんと屋上には、幾何学な魔法陣が書いてあった。
「これは、一体?」
すると聖火のポケットが光り始めた。
聖火は気づいてないようなので教える。
「聖火、ポケット。」
「わぁー。ポケットが光ってる。」
聖火が、ポケットの中に手を入れる。
ポケットの中からは、封筒の中に入っていたトランプが出てきた。
どうやらポケットが光っていたわけではなかったらしい。
そう、光っていたのはトランプだ。
「雫、このトランプ光ってるよ。」
「貸してくれる。」
「OK!」
聖火からトランプを借りる。
このトランプが一体何だというのだ。
魔法陣が光りだした。
しかも、トランプと共鳴しているかのごとく。
いったいなんなんだよ。
理解が追い付かない。
冷静になるんだ。
「おいおい。こりゃーすげーじゃねーか。雫もそう思うだろ。」
確かに、すごいとも思うが気持ちに流されたらいけない気がする。
最後に確認が必要かもしれない。
聖火に確認をとることにする。
「聖火、たぶんこの依頼はマジもんだ。きっと、あっちの世界。異世界に行けると思う。おまえはこの世界に悔いはないのか。」
「おぉ、悔いなんてないね。異世界!楽しそうじゃねーか。もちろん、雫!お前も来るよな!」
「もちろん。この世界に悔いはあるかもしれないが異世界には行ってみたい。僕は、聖火についていくよ。」
「そうこなくちゃな。」
「雫、今の時間は?」
時計を見てみる。
今の時刻は、23時58分。
後2分しかない。
「今は、23時58分だよ。」
「そうか、なら依頼を遂行しよう。雫、お前が空にトランプを投げろ。俺はこの状況を楽しむ。」
まったく、最後まで自分勝手なやつめ。
「おぉ。解った。地球の最後の2分間思い切り楽しめ。」
僕は、時計に目をおとす。
23時59分。
あと1分か。
空を仰ぐ。
すると流れ星が見えた。
最後に地球で見るのが流れ星か。
ロマンチックかもな。
となりでは、聖火がギャーギャー騒いでいる。
ピーピー
腕時計のアラームが鳴る。
良し時間か!
僕は、天高くトランプを投げ上げた。
すると、驚くことが起きた。
急にたくさんの流れ星が流れ出した。
東から西に流れる流れ星と南から北に流れる流れ星。
夜空には、流れ星の大きなクロスができる。
これが、依頼にあった《星と星が交差する夜》のことだったのだと理解する。
そして、流れ星がクロスしているのは魔法陣の真上。
つまりは、僕らの真上だ。
魔法陣の光がさらに強くなる。
「聖火、そろそろ扉が開くはずだ。衝撃などがあるかもしれない。気を付けろよ。」
「おうよ。雫もな!じゃ、また向こうで。」
その言葉を聞き終わるか終わらないくらいに僕の意識は闇に落ちた。
やっと次から異世界でのことが書けます。