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赤き炎の霊術師  作者: ハチカレー
新学期編
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第1話―プロローグ―

 初めての小説投稿です。第1話はプロローグとなっています。「面白い」「面白くない」などのコメントは歓迎です。誹謗・中傷等のコメントは控えていただけると助かります(すごく凹みやすいです)

 稚拙な部分もあるかもしれませんが、よろしくお願いします!

 空が、真っ黒な煙で覆われていた。眼前にはどこまでも広がる赤い海がある。あるとあらゆるものを燃やし尽くしてしまう海だ。その中心には何か大きな生き物がいる。いや、生き物というより化物だ。そもそも生き物かどうかすら怪しい。


「何……?これ―――」


 誕生日を迎えて1ヶ月を過ぎた少年は呟いた。街の中心部が燃えている。遠くから炎に焼かれていく人々の悲鳴や呻き声、家屋や小さなビルを焼く音が聞こえてきた。友達の家へ遊びに行こうとしていた、まだ8歳になったばかりの少年は自分の家の玄関先にぺたんと座り込んで街の中心部を見つめていた。街が火の海に次々と飲み込まれていく。炎の波がこちらへだんだん迫ってきていることが、少年にも分かった。家の中では母と姉が身支度をする音が聞こえてくる。


「ぼくも、逃げなくちゃ・・・・・・」


 そうは言うものの、立ち上がろうとしてそのままよろけて地べたへ再び座り込んだ。彼は自分の腰が抜けていることに気がついた。あまりにも突然のことで体はいうことを聞かず、言葉が出ない。彼が玄関先にでたのとほぼ同時に、街の中心部で爆発が起こり火の手が上がったのだ。その真ん中にはなにやら黒くて大きい物体が佇んでいた。この分だと小学校も燃えているだろう、と少年は呆然としながら考えた。

 ふと、彼の傍の玄関の扉が勢いよく開いた。少年は思わず顔をそちらに向ける。

「諒、何してるの!あんたも逃げる準備して!ここもじきに燃えるわ!」

 そこにいたのは少年の大好きな姉の姿だった。10歳上の年の離れた姉である。背は彼女の同年代の中でも高く170cmはある。亜麻色のセミロングの髪に宝石のような茶色い瞳で、スタイルも良い、少年の自慢の姉だ。彼女は既に逃げ支度を整えており、傍らには少年のものと思われる避難用の荷物もあった。

 少年は何がなんだかよく分からなかった。いきなり街が燃えだして、母や姉が大慌てで支度をしているということだけは理解できていたが、それでも腰を抜かしたままだった。


「ふぇ――」


 少年が間抜けな声を出して気がつくと、姉に背負われて街の外へと向かっている途中だった。姉は息を弾ませながら弟を背負い、走っている。後ろを振り向くと、火は彼の家のすぐそばまで迫っていた。このときになって初めて、彼は何が起こっていて何故逃げているのかを理解した。


「おうちが――!」

 少年は姉の背中の上で思わず声を上げる。彼の家が燃えてしまうのは時間の問題だった。

「後ろに振り向いちゃだめ!前を見て!」

 姉は少年に対して叱りつけるように叫ぶ。その迫力に少年は少しだけ身を縮ませた。それから、肩にかけていた両手を姉の首の傍で抱きつくように組んで彼女にしがみついた。焦げ臭い匂いの中、彼には姉の甘酸っぱい匂いと背中から暖かさが伝わってきた。大好きな姉がここにいるというだけで、少年は泣きそうになるのを我慢することができた。

 弟を背負う姉と荷物を抱える母の後ろでは、少年の実家にも火の手が回り始めていた。


 かれこれ30分は姉の背中にしがみ付いていただろうか。彼は街の外れに作られた臨時の避難場所に着いていた。街の人たちも避難してきていたが、大やけどを負っている者や膝から下がない者などたくさんの怪我人が出ていた。避難者たちはすぐに別の場所へ避難する準備を整えている。この場所も安全ではないということだろう。

 姉は臨時避難所のから非常食を持って家族のもとへ戻ってきていた。

「ほら、母さんと諒の分だよ」

 そう言って姉は二人に非常食を渡す。少年はさっそく封を開けて非常食を口にした。固形物の非常食でチーズ味からチョコレート味、フルーツ味もある。

 少年が非常食を食べ終わると同時に、凄まじい地響きと避難者のどよめきが起こった。家族の傍で街の様子を見ていた姉の形相が逼迫(ひっぱく)したものに変わる。姉は立ち上がるや否や、避難所の入り口へ駆けていった。

「皆さん!なるべく固まってください!大きな爆発が起こります!私の霊術で守りますから、皆さんはやく!」

 少年らや住民達は戸惑いながらも、姉の下へと集まり身を寄せ合う。その場にいた全員が集まったのを確認すると、彼女は火の海の方へと振り向き跪いた。そして、スカートのポケットから何か長方形の紙のようなものを取り出し、そのまま地面へと叩きつける。

「―我が身をもって、いかなるものからも守る盾を築かん―」

 姉が呪文を唱えると、彼女の足元が光に包まれそのまま背後にいる住民たちを光のドームが覆った。その直後に轟音と共に大爆発が起きる。

「み、みさきお姉ちゃん――!」

 少年が大好きな姉に向かってそう叫ぶと、姉はこちらを振り向いて微笑み何かを呟いた。


―ごめんね。大好きだよ―


 彼女の頬には、一筋の涙が流れていた。


 姉が赤い炎の中へ消え、次の瞬間大きな衝撃が住民たちを襲う。炎と爆風は光の壁に弾かれ、彼らの後ろへと流れていっていた。


―お姉ちゃんが、消えた―

 気がついたときには爆発は収まり、光の壁が住民たちを守っていた。しかし、少年がどこを探しても姉の姿が見つからない。あの爆発に飲み込まれたのだ。彼と母を含めた住民たちを、かつて姉が教えてくれた「霊術」という力で守って消えた―。少年はそのことに気がついたときには溢れんばかりの涙が頬を伝っていた。彼の母はそんな少年を胸元へと抱き寄せる。

 その後、彼は声も涙も枯れるまでひたすら泣き続けていた。再び気がつけば、彼は自衛隊のヘリの中に母と共に乗せられていた。その時には、何もできなかった自分への無力感にとらわれていた。




 秋田県鹿角郡小坂町で起こったこの出来事は後に、「霊的大災害(ゴースト・ハザード)」と呼ばれた。2033年5月13日のことである。生存者はたったの150名のみ。少年の姉が我が身をもって守った者たちだけだった。小坂町は国有化後に廃止され、一切の立ち入りが禁じられた場所となった。


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