71話:Side雷璃
Side雷璃
雷璃は、雷の龍と言う、凶暴な龍が心に巣食うことで、触れたもの全てを壊してしまうと恐れていた。そんな彼女を救ったのは、氷龍を宿した少年。彼は、雷璃が触れても、死ななかった。それだけではない。冷たくも温かく彼女を包んだのだ。矛盾する表現だが、外面上、感情は出さずとも冷たくとも、内面的には、温かく包んだという意味だ。
「何で貴方は、壊れないの?」
彼女は、どういう答えが欲しくて聞いたのかは分からないが、そう言った質問を彼にしたのだ。
「俺か?俺は、死ねない。全てを壊し、全てを再び創り直す」
氷とは無関係の発言だが、それに関しては、触れることはしない。ただ、彼は、死ななかったのだ。それだけ。
「じゃあ、貴方は、どうしてわたしの頭を温かく撫でてくれるの?」
彼は、日課のように、雷璃の頭を撫でていた。
「嫌か?」
「ううん、嫌じゃない。けど……」
「二人、だ。俺には、二人の妹がいる。お前にそっくりなぶっきらぼうな妹ともう一人、明るい妹がな」
そう、彼は、今、逢うことの出来ない妹と彼女の姿を重ねていたのだ。
「そう、何だ。じゃあ、兄さん……、ううん、兄様って呼んでいい?」
雷璃が黒霞に話しかけたのは、それからしばらくしてのことだ。こうして、雷璃、黒霞、氷龍の少年と言う三人が、家族のように集まったのだった。その輪は広がり、いつしか八人と一龍の家族になっていた。
それから数年後、彼女を含めた五人は、異世界への門を開く。




