19話:《殺戮の剱》
それは偶然だった。会長の方を見ていたとき偶然にも視界に入ったのだ。
「ん?」
あれは、――男?どこかで見たことがある。どこで見た。
「あっ!」
俺の声に会長が反応する。
「どうしたの?清二君?」
「会長、あれを」
俺の示した方を見る。そして、驚愕。
「あ、あの男……」
「追いかけましょう!」
俺と会長は、走って男を追いかける。男は、俺たちに気がついたようだ。走りあいになった。
逃げる男を、俺たちが追いかける。角を曲がって、俺たちを撒こうとする。
「クソッ!……チッ!おっ、いいところに」
男は、偶然にもそこに居た子供を人質にした。外道め。
「きゃあ!」
「外道なことを!《緋色の衣》!」
子供を救出しようと、会長がコートを出した。しかし、コートは、ナイフで切られて応戦される。そして、男が、
「《全力解放》!」
フル・バーストをした。
「死ねやぁあああ!」
子供を人質にしながら、会長の《緋色の衣》を滅多刺しにする。そして、一発、会長にあたり、会長を吹き飛ばす。俺の方へ飛んでくる。
――ドンッ!
俺は会長にぶつかり、鞄の中身をぶちまける。
――カラン!
鞄から落ちた指輪が、俺の前に転がってくる。
――聖……!
「クッ!子供を放して欲しければ、俺のことを探すのは止めることだ!」
「手を引けってこと?ふざけないで!」
会長は激昂した。しかし、俺は、冷静になっている。聖のおかげ、か。
「お、お兄ちゃん!助けて」
あの子供。トラックの事故のときの子供だ。あの子、運が悪いな。まったく、女の子なら、女の子らしく、家で遊んでおいた方がいいってか。
「お、お兄ちゃん!」
『お兄ちゃん!』
聖の声と女の子の声が重なって聞こえる。心音が早まる。聖、俺の、大切な……。
――《少年よ、憎いか……》
声が聞こえる。誰だ。
《世界が憎いか、人々が憎いか……》
何を言っている……?
《それとも、妹を救えなかった、自分が『憎い』か?》
心臓が跳ねる。聖を救えなかった、俺が憎い?当たり前だ。
《では、目の前の少女を救う力すらない自分が『憎い』か?》
決まってる。憎いさ!女の子一人救う力すらない、俺が憎いに決まっている。
《なら、『覚醒』の時だ!少年よ!》
右腕が熱い。手の先に何かが生まれている様な感覚。気がついたら、手には、黒い剱。
「え……?清二、君?」
そう、コレが、俺の《古具》。古の《覇》を宿した、伝説の剱。|《殺戮の剱》《デッド・ソード》だ。夜の闇色よりも暗い黒の刀身を持つ剱。
「吹き飛べ……!」
剱から放たれる風が、男を吹き飛ばす。その衝撃で、女の子は解放された。
「《緋色の衣》!」
会長がそこをキャッチする。男が、ナイフを突き出してくる。それを俺は、切り飛ばした。
「な、なんだよ。そりゃ!《全力解放》してる古具を、ど、どうして……」
俺は、剱を奴に突きつける。そして、そこから放たれた風により、男は吹き飛び、壁に頭をぶつけた。
「これで、一件落着、か。会長、コレは警察とかに任せればいいんスか?」
唖然とする会長。当然か。急に目覚めた古具が、《全力解放》の古具を切るなんて真似をしたのだから。
「さ、《殺戮の剱》……。《死古具》の一つが、目覚めた……」
《死古具》?
「と、とりあえず、警察に連絡しましょうか」
そうして、到着した警察に犯人は逮捕。女の子は保護された。一応これで、俺が、古具に関わって初の事件が解決したのだった。




