143話:《第二階層:蒼天洗礼》
ステンドグラスが散る。そして、同時に、小柄な少女が光とともに現れる。《精霊》。そして、その少女を見て、白羅が息を呑む。俺は、全員に言う。
「戦闘態勢を取れよ。油断すんじゃねぇ。死にたくなかったら気を張れ」
皆、俺の尋常じゃない言い方に何かを感じ取ったのか、慌てて各自武器を構える。そんな中白羅は、呆然としていた。
「清二。どう言うこと……。何で」
「白羅、話は後だ」
俺は、白羅を落ち着かせようとする。
「でも、あれは、どう見ても、」
白羅が呟く。
「聖じゃない」
そう、《精霊》の姿は、聖そのものだ。しかし、俺には分かる。あれは、聖ではない。あれは、聖の姿を真似た精霊なのだ。何せ、聖は、今、俺の下層意識に、魂だけの形で存在している。それが、聖が時折、俺に話しかけてこれた理由、らしい。これは、先ほど、この塔に入る前。家から塔へと向かう途中に、聖本人に聞いたものだ。《精霊》関係の話もそのときである。そして、見せられたのだ。《精霊》の力の強さを。
「あれは、聖じゃねぇよ。《精霊》……。正式には、第六典神醒存在。本来の姿は、全てを破壊する《滅びの龍》」
「まさか、あれが、滅びの第六龍人種に宿る内なる龍なの?!」
そう、滅びの第六龍人種とは、ある種の因果の狂律者。因果を狂わせる存在。生まれながらにして、あれを内に宿してしまうと、因果律を滅ぼす存在と化す。つまり、聖が、あれを自らの力として制御できなかったのは、そもそも人間に制御できるものではなかったからだ。
「つまり、ありゃあ、化物だよ。一撃で、世界を滅ぼせる」
「しっかし、腑に落ちないぜ。オレの知る限り《第五楽曲魔境神奏》の方がこれよりもヤバイのが呼び寄せられるはずだぜ」
深紅さんの発言はその通りだ。しかし、俺は、ステンドグラスの破片の下敷きになっている本に目をやる。
「いえ、おそらく、ダリオスは第六しか知らない見たいッスね」
本を見れば分かる。俺の視線に気づいたのか深紅さんも本に気づいた。
「これは《偽典》か」
そう、本来の教典の一部だけのコピーを偽典と言う。まあ、教典の入手は今、非常に難しいだろう。どこにあるのかも分かっていないらしい。
「おっと、悠長に話している場合じゃなさそうだな」
深紅さんが精霊に目を戻す。
「《蒼刻》」
俺は、《蒼天の覇者の剱》を生み出し、《蒼刻》も発動する。
「あれは、普通の攻撃では倒せないよな」
俺は独り言並みに小さな声で呟く。
――そうだよ、お兄ちゃん。あれは、倒せない
聖の声が脳裏に響く。
「しかし、倒せないにしても、どうにかしなくちゃなんねぇよな」
――そうだね。だから、私が来たんだよ
お前が?何しに?
――さあ、力を合わせよう。お兄ちゃんと私で、
どうやって。お前は魂だけじゃないか。
――忘れちゃったの?《蒼刻》は、魂を媒体に、魂の奥底から湧き上がるものだよ。だから、魂だけの私でも、お兄ちゃんの力になれる。私とお兄ちゃんが一つになれる
トクン、トクンと足早な鼓動を感じながら、俺は、下層意識にある聖の魂から《蒼き力》が溢れ出ているのが感じ取れる。
「青葉、君?」
篠宮の驚き雑じりの声は、俺の耳には届かなかった。




